2話 クロスフィールド公爵家
シャルが泣き止むのを待って、自分は片膝をつき、臣下の礼を行う。
「シャルル王女殿下。レン=クロスフィールド、異世界より帰還致しました。」
自分はそう言って、シャルの言葉を待った。
「クロスフィールド公爵。貴方の帰還、嬉しく思います。今、私に置かれている状況については理解していますね。」
「はい。女神イシス様よりお聞きしています。クロスフィールド公爵家の名と家紋にかけて、シャルル殿下をお守り致します。」
「何か策を考えているのでしょうか?」
「何個か考えてありますが、まずはここから離れましょうか。殿下が捕まったままでは、陛下たちが動けないはずです。私の領地に行きましょう。」
「わかりました。クロスフィールド公爵、領地までの案内よろしくお願いします。」
「御意に。」
ここまでのやり取りを終え、改めて周りにいる方に挨拶を行う。
「お久しぶりです。マリーさん。」
シャルの御付きの侍女に挨拶をする。
「レン=クロスフィールド公爵閣下。お久しぶりでございます。」
マリーさんが笑顔で話してくれるのだが、目が笑っていない。
「マリーさん?何か怖いですよ。」
「どっかの馬鹿が、シャル様を放ったらかしにして、命の危機までしたのですよ。怒らないはずがないでしょうが!」
「申し訳ございません。今後ないように致します。」
「当たり前です。今度、このようなことがあればわかっていますよね。いくら閣下でも覚悟していて下さい。」
「はい。了解致しました。」
前にこんなやり取りをしていたのを思い出す。
いつまでもしていたいところだが、そんな時間もない。バレる前に領地に行かないとダメだ。
「シャル、そろそろ行こうか?」
「わかりました。レン様、よろしくお願いします。」
自分たちは、公爵領の屋敷前に転移した。
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公爵家臣下の視点。
私はクロスフィールド公爵代行、エリス=クロスフィールド。レン=クロスフィールドの義妹です。
2年前の戦争で両親を亡くして、路頭に迷っていたところ、お義兄様に拾われました。
最初の頃、お義兄様のことを警戒していましたが、私が話し掛けられても無視をしていたのにも関わらず、何度も話しかけてくれました。そして聖女であるシャルル王女殿下も優しくしてくれました。
そんな日々が続いていくと思っていましたが、お義兄様の公爵襲名披露を終わったあと、私に代行権限を渡し元の世界に戻られました。
あの時は、シャルル王女殿下と朝まで泣き続けていました。
そんな中、私は自分の机の上に手紙が置いてあるのに気づきました。もちろんお義兄様からの手紙です。
『俺の可愛い妹のエリスへ
この手紙を見ているってことは、俺は元の世界に帰った後だろう。シャルやエリスに寂しい思いをさせ申し訳ないと思う。だが俺は絶対に戻って来るから笑顔のままで日々を過ごして欲しい。
ここからは、公爵家当主としての話だ。
エリスも知っての通り、アースティア王国の中で、クロスフィールド公爵家だけは特別だ。
・王命に対してクロスフィールド公爵家は拒否できる
・有事の際にクロスフィールド公爵家の命令が最優先される等、色々ある。
俺が居なくなってから、貴族たちが何かしらしてくるだろう。王国内が荒れるかもしれない。
だからこれだけは、当主として命令する。
王国が有事の際にも、クロスフィールド公爵家は動くな。これだけは絶対遵守とする。
賢いエリスならわかるはずだ。
ではまた会える時を楽しみにしている。
公爵家当主 レン=クロスフィールド 』
手紙はこう終わっていた。
そして半年前にアースティア王国は荒れた。