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赤い砂  作者: 庭雨
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 佐川さん、新宮さん、そして瀬高さんが同居していた部屋。

 彼女たちはすでに亡くなってしてしまいましたが、部屋の方は床が見えなくなるほど散らかっており、悪い意味で生活感あふれる惨状となっています。そこらじゅうにばら撒かれた、キャップがついていない化粧品と脱ぎっぱなしの洋服。その大半はつい昨晩まで生きていた佐川さんのものだと思われます。

 わたしは差しっぱなしになっているドライヤーのコンセントを抜き、ついでに近くに落ちていた洋服を適当に畳んで重ねました。こう散らかっているといくら探してもきっと何も見つかりません――、と思っていたらさっそく何かを発見。

 シャツの下からメモ帳っぽいものがでてきました。宝石型のシールがやたら洒落ていますね。もしかしたら日記でしょうか。


「……ん?」


 ぱらぱらとページをめくってみると、黒くて細い糸のようなものが数本落ちてきました。詳しく観察してみようと思い拾ってみましたが、すぐにその正体に気づいて、ちょっとした悲鳴を上げ、床に落としてしまいました。

 髪の毛です。 二十センチほどの長さがあるショートヘアーとロングヘアーのちょうど中間。佐川さんは茶色く染めているので彼女のものではないし、長さは聖堂さんのものには余ります。となると……これは新宮さんの日記になるのでしょうか。


 他人の日記を読むのは悪趣味なことですが、この事件に関する重要なことが書かれているかもしれないので、少し中身を拝見させてもらいましょう。

 まずは適当なページから開いてと――


『二月X日

 最近、栞の付き合いが悪い。一緒に渋谷へ行こって誘ったのになぜか断られた。断った理由は曖昧だったし、何かを隠してるっぽい。学校からの帰りも用事があるからと言われて一緒に帰れなかった。怪しい。明日は学校で白状するまで問い詰めてやる』


 新宮さんが他者のように書かれているので、彼女の日記ではないみたいですね。


『二月X日

 栞が彼氏を作ったことをわたしに告白した。栞が嬉しそうだったから、あたしも嬉しいけど……栞と一緒に遊べる時間が減るのは寂しいかな。心から祝うのはちょっと無理っぽい。あーあ、さっさと別れてくれないかな。でもすぐに別れちゃうような、無神経なやつが栞の彼氏なのも嫌だなあ。

 ちなみに今度の春休みに茶道部のみんなと合宿へ行くことになった。一週間も栞を独り占めにできるのが今から楽しみ』


 内容から察するに、これは佐川さんの日記でしょうか。少しページを飛ばして最近の記述を読んでみましょう。


『三月X日

 ひさしぶりに栞と二人っきりになれたけど、あんまり会話が弾まない。彼氏のことを聞いたら恥ずかしそうにもじもじしながら、楽しそうに喋ってくれるけど、それ以外の話題はからっきし。

 栞が楽しそうならそれでいいやと思ったけど、やっぱりあたしも一緒に楽しくないと意味がない気がしてきた。どうすれば昔の栞に戻るのかな。多分、もう戻らないよね。変わっちゃったんだし。栞とずっと一緒にいることなんてもう叶いそうもないし、いくら頑張っても絶対に手に入らないのなら――』


 そこから先は黒く塗りつぶされています。どのようなことが書いてあったのかが気になるところですが、徹底的に隅から隅まで塗られているので、もとの文字の面影すら残っていません。諦めるしかなさそうです。

 さてと次の記述は……新宮さんが亡くなった日のものですか。


『三月X日

 どうしよう。栞が死んだ。他の誰かに栞を奪われるぐらいなら、彼女が死んだほうがましだと思ったこともあったけど、本当にいなくなって自分の愚かさに気づいた。これはそんな馬鹿なことを願ったあたしへの天罰なのかもしれない。あたしを許して、栞。あの時、あたしが気をついていれば、こんなことにはならなかったのに。全部、あの時――』


 続きを示唆させる終わり方ですが、次のページは雪のように真っ白。何も書かれていませんでした。ここで書くのを止めてしまった――いいえ。次のページと最後の記述がなされたページの隙間に、一枚の紙が破り取られた痕跡があります。

 もしかしたら、抜き取られたページがどこかに落ちているかもしれないと考え、周囲をくまなく探してみましたが、見つかった紙切れは使用済みのティッシュだけ。少なくともこの部屋にはなさそうです。

 あの最後の一ページには、自殺する前に処分しておく必要があるようなことでも書いてあったのでしょうか。気になります。一応、残りのページにもさっと目を通しておきましたが、新たな発見はなし。わたしは日記をぱたんと閉じ、それを畳まれた洋服の上に置きました。


 塗りつぶしや破られたページ。いくつかの謎が増えてしまいましたが、おかげでわかったこともあります。

 まずは佐川さんが新宮さんへ抱いていた想いは、表面上だけの偽りに満ちたものではなく、本物の好意だったということ。わたしが読んだページの大半には新宮さんに関する記述がされており、多少の文句はあったとはいえ、そのほとんどが好意に満ちたものであることは明白でした。

 そしてもう一つは、佐川さんが犯人ではないかもしれないということ。日記の中で佐川さんは新宮さんが死んだことを自分に起きた天罰だと書いてありました。もし自らの手で新宮さんを殺めていたのであれば、自身の行為を正当化させたいがために、それは新宮さんへの天罰として書かれているべきではないのでしょうか。

 それに佐川さんが新宮さんに好意を抱いていたという事実がある以上、殺人に及ぶこと自体が矛盾しているような気もします。ソープオペラでは愛しい人をを殺して自分も死ぬ的な展開になるのは珍しくありませんが、これはたかだか中学生女子の親睦。恋愛ドラマの重い愛とは一線を画すものです。


 ですけど、もし佐川さんが突飛の判断で新宮さんを不本意に殺し、そのことを後悔したのであれば、いろいろと辻褄が合ってしまうような気も……。難しいものです。

 何はともあれ、このまま一人で思案を続けてもこれ以上の発展はなさそうです。一旦、自室に戻って幸と相談してみましょう。


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