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赤い砂  作者: 庭雨
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「今日は犯人による目立った行動はなかったみたいだな」


 布団に潜り込むと、律子は恒例になりつつある会議を始めます。

 確かに今日は大して気になるような出来事はありませんでした。佐川さんはあいかわらず部屋にこもっていましたし、昼間の間は聖堂さんと奈々さんが行方をくらましていたものの晩御飯までには二人とも無事に帰ってきていましたし、瀬高さんはずっとわたしと一緒にいました。


「一旦、これまでの出来事を振り返ってみるか? 何か新しいひらめきがあるかもしれない」

「え……」


 ちょっと疲れていてとても推理をする気分にはなれません。わたしがあからさまに嫌そうな顔をすると、律子は視線を幸へと移し、質問を彼女に向けます。


「なあ、幸。そうするべきだと思わないか?」

「え? ご、ごめん。ちょっと聞いてなかったよ。何をするべきなの?」


 どうやら幸もお疲れのご様子。心ここにあらずといった感じで、ぼけーっと天井を眺めています。


「はあ……。じゃあ、今夜は早めに寝るか」

「そうですね。わたしもそれがいいと思います」


 精神的な疲れを取れば頭の回転力が上がって、推理しやすくなるはずです。


「おやすみ」

「おやすみなさい」


***


「ううっ……」


 奇妙なうなり声に反応し、思わず目が覚めてしまいました。い、いったいどこから聞こえてくるのでしょうか? 痛みに苦しんでいるかのような掠れたうなり声です。

 布団の中から顔の上半分だけをひょっこりと出し、周囲をきょろきょろと注意深く見回します。どうやら怪しい人物はいないみたいです。となると……、死んでしまった新宮さんの亡霊が出てきたとか……かもしれません。


「うっ……」


 意識がはっきりとしてきて、思ったより近い場所から聞こえていることに気づきました。ですが、この部屋にはぐっすりと眠っている幸と律子しか――


「んんっ……」


 幸のうなり声でした。わたしは布団から出て彼女の様子をうかがうために、隣まで這い寄りました。


「幸さん、大丈夫で……あ!」


 幸の顔は茹でダコのような真っ赤に染まっており、彼女の額からは汗がだくだくと滝のように流れています。おでこにそっと手を添えてみると、明らかに危ない領域に踏み込んだ暖かさでした。


「律子、起きてください!」


 非常事態だというのにのんきに寝ている律子を、激しく前後に揺すります。すると彼女は不快そうに口をゆがめ、眠そうに目をこすりながら体を起こしました。


「どうしたんだ、氷花? まだ起きるには早い――」

「幸が熱を出したみたいなんです!」

「何!」


 律子は形相を変えて飛び上がり、苦しそうに呻いている幸の姿を確認すると、すぐさまに律子はわたしに的確な指令を出します。


「氷花、一階から水とタオルを取ってきてくれ。タオルは冷たい水道水で濡らしておいてくれ」

「はい」


 わたしはどたばたと転びそうになりながらも、急いで階段を駆け下りました。

 リビングに入るとそこには大きなイビキを立てて、ソファの上に寝そべっている奈々さんの姿がありました。きっと聖堂さんと同室であることが気まずくて、こちらで寝ることにしたのでしょう。

 ですが今はそんなことを気にかけている場合ではありません。わたしは奈々さんを無視して、台所の奥へと進みます。

 お皿を拭いていた時に使った古ぼけた白いタオルがどこかにあるはずです。引き出しを片っ端からまさぐり、中身を次々に確認していきます。


「……あった」


 次は飲み水です。クーラーの中に天然水のボトルがいくつか入っていたはず……だったのですが、蓋を開いてみると残っていたのは空気のみ。

 水道水が飲めたらいいのですが、遠い田舎の無人島だけあって、ここではシャワーや手洗いといった最低限の用途にのみ使える低品質な水しか出てきません。まあ、汚染されているわけではないので、飲んでも死ぬことはないでしょうが、病人に飲ませても大丈夫かと問われると、ちょっと疑問です。

 おろおろといつまでも飲み水について悩んでいても仕方がないので、わたしはとりあえずタオルを水道水で濡らし、それだけを持って二階へと戻りました。


「取ってきました」

「ありがとう」


 タオルを受け取ると、律子はそれで幸の顔から汗を拭きとりはじめました。


「あと、水が切れていました。どうしましょう?」

「それなら心配するな。非常用の水が倉庫にたくさんある」

「なんだ、そうだったんですか」


 食糧難がそろそろ深刻になってきてしまったのかと心配していましたが、どうやらまだ大丈夫そうです。


「でしたら、わたしが倉庫に行ってきます。どこにあるんですか?」

「あ、いや……」


 律子はぴくっと眉をひそめ、汗を拭き取る作業に勤しんでいた手を止めました。


「待ってくれ。私が水を取ってくる」

「ですけど、律子は幸を――」

「幸のことは氷花が見ていてくれ」


 あからさまに動揺しています。何故でしょうか?


「律子がどうしても行かなければいけない理由があるんですか?」


 わたしがそう質問すると、律子は何かを言いかけようとして口を開きました。しかし途中で考えを改めたのか、言葉を濁してからごほんと咳払いをし、おろおろと彷徨っていた目線をしっかりわたしの顔へ向けます。


「いや、そうではないんだ。私が行かなければいけない理由というより、氷花が行くべきではない理由が一つある」

「その理由はなんなのですか?」

「それは言えない」


 わたしに見られてはいけないようなものが倉庫の中にあるのでしょうか。かなり気になりますが、今は幸の方が重要ですし、これ以上尋問を続けても埒があかなさそうなので、わたしはしぶしぶと律子の提案を受け入れました。

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