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ある公爵令嬢のつぶやき①

すみません。


1話では終わりませんでした<(_ _)>

「マリーニ・ベレングリデ公爵令嬢。

 今日を限りにお前との婚約は破棄させてもらう」


 普段は穏やかな微笑を浮かべるクリステン様。


 その美しいお顔が、苦しそうに歪められていて……透き通るような水色の瞳が、鋭く私を睨みつけているのだ。


 なぜ、どうして、と、混乱と衝撃が私を襲っていた。


 確かに、私たちの婚約は愛情に裏打ちされたものではない。


 私たちの婚約は、国王陛下に長年忠誠を尽くし陛下を支えてきたわが公爵家の勢力を強め、先王の王弟であり今なお絶大な権力と財力を持つカンランメル公爵ブレクハルトとその息子フリードリヒに対抗するべく整えられた政略的なものだ。


 だからこそ、このドンファルク王国を平穏かつ平和に統治するためには“絶対に”、必要な婚約だった。


 そのことは両家はもちろん、クリステン様も十分理解されていた。


 故に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、この婚約が破棄されることはない…。


 クリステン様とヘレナの醜聞が社交界で取り沙汰されるようになり、もちろん心穏やかではいられないまでも、ただその一点だけは変えられないのだと、その思いで私はどうにか自分の気持ちをやり過ごしていた。


 もともとご多忙なクリステン様と会うことすらままならず、時折届く手紙や贈り物に心を慰められてはいたものの、その間隔も次第に遅くなって……それが前兆と言えば前兆であった。


 今夕、この舞踏会でもエスコートをされる予定を突然覆され、忙しいので兄に同行を頼むようにと短い言付だけ送ってこられたクリステン様。


 それでも舞踏会では、クリステン様の正式な婚約者である私の立場を慮ってくれるとただ、信じていた。


 なのに。


 会場に姿を現したクリステン様は、公然と、ユングリング男爵令嬢ヘレナをエスコートしていた。


 ベレングリデ公爵家の顔に泥を塗るようなその行為に怒りを抑えきれない様子の兄とともに、私はクリステン様のもとへと赴いた。


 その私に投げかけられたクリステン様の言葉。


 いつもは音楽と人々の声で煩いくらいなのに。


 その大広間がしん……、と静まり返った。


 それでもまだ私は信じられない気持で、クリステン様に縋るように言葉を投げかけた。


 クリステン様から告げられるのは、身に覚えのない罪。


 嘘だと。


 こんなことをなさるクリステン様ではない。


 いつも……いつも穏やかで。


 王太子として身を律しておられて、感情を荒げることなどなかった人なのに。


 私は動揺のあまり、きちんと身の潔白を晴らすべきなのに、上手く言葉を紡ぎだすことができなかった。


 兄もまた激高のあまり、顔を朱色に染め、クリステン様を威嚇するように低いうなり声をあげていたけれど、騙し討ちのような行為に衝撃を受けた私たち二人には、この事態に上手く対応することができなかったのだ。


(神様どうか……!!

 クリステン様を、もとのお優しいクリステン様に戻して下さいませ!!!)


 祈るようにそう強く願い、胸元できつく手を握り締めた私を冷たく見つめながら、クリステン様がもう一度私に宣告した。


「…二度と!!

 二度と僕の前に顔を見せるな。

 マリーニ・ベレングリデ」


 その言葉に私はくらりと目まいを起こし、そのまま視界は黒く塗りつぶされた。


 そして私が意識を取り戻した時には、思いもよらない方向へと事態が進んでいた。


 クリステン様の行いに対する国王陛下からの謝罪。


 そしてアンドレアス殿下との婚約の申し入れ。


 衝動的に行われたはずのクリステン様の行動を、前もって知っていたかのような滞りのない国王の対応に疑問を持ったのは、それからしばらくしてからのことであった。





 婚約破棄から2週間ほど過ぎたころ。


 クリステン様は混乱など何もなかったかのようにヘレナをともった避暑へと旅立っていて、宮廷では、そんなクリステン様に何らかの処分が下されるだろうという噂が広がっていた。


 それと同時に私とアンドレアス殿下の婚約の噂も広がっていて。


 まだクリステン様との婚約破棄も現実感がなく、アンドレアス様との婚約の申し入れも父に頼んで保留にしてもらっているのに、外堀から婚約が決められているような、そんな息苦しい毎日に私は外出もせず自室に籠る毎日が続いていた。


 そんな時、私が支援しているレスティーナ修道院と付属する孤児院から書簡が届いた。


 以前の援助金の謝礼と、その使用結果を記した書簡、そして新たなる援助のお願い。


 年に2回、定期的に届くそれを、私は視線を落としてはいたが、実際のところぼんやりと眺めていた。


 王都郊外にあるレスティーナ修道院、中でもレスティーナ孤児院は、クリステン様との思い出の深い場所だった。


 私が支援していることを知り、婚約して以来クリステン様も支援に協力してくださり、慰問の際は必ず同行して下さっていたのだ。


 いつもお優しく、常に微笑みを浮かべられていたクリステン様。


 その笑みはクリステン様の、王太子として民を愛する博愛の笑み。


 それは婚約者である私であってしても、特別に誰かに注がれることはない微笑みで。


 もちろんそれは、クリステン様がすべての者を公平に扱うべく意識してされていたことだと思うし、素晴らしい心がけだと思う。


 だけど孤児たちが見せる屈託ない愛情表現に、本当に時折、クリステン様はごく自然に笑みを浮かべられることがあり。


 私は自分には向けられることがない笑みを、さびしい思いで見つめていた。


 そんなつらい思い出のある孤児院を、もう慰問に訪れることはないと思った私だったが、ふと、ある項目に目を止めた。


 ワイン樽の購入?


 なぜ?


 もちろん子供たちがワインといった高級品を飲むはずがない。


 それに購入したのは樽のみでワインは含まれていないようだ。


 空の樽の購入とその配送にかかる費用の計上。


 数も相当数ある。


 これはいったい何のための?


 疑問に思った私は、結局、久しぶりに孤児院に慰問に赴くことにした。


 それは婚約破棄を受けてから初めての外出ということもあり、少々街の人の目や、孤児院の皆の対応を苦慮していた私だが、クリステン様がともにいらっしゃらないということ以外は、すべてがいつもどおりに進んでいた。


 そして私は、修道女でもある孤児院の院長に、不明瞭な支出について問いただした。


「……マリーニさまでは、ござりませんでしたか?」


 意外そうに、院長は答えた。


 上質なワインの醸造地であるザグスの広大なブドウ園とそこに併設するワイン醸造所の、匿名の寄進者。


 院長はそれを私だと思っていたらしい。


 確かにこの修道院は、私が母から引き継いで特別に支援していた修道院だ。


 主たる支援者は私とクリステン様で、支援者の中に高級ワインの醸造所を持つ貴族はそうそういないということもあり、院長は寄進者を私だと思い込んでいたらしい。


「匿名ではございましたが、特に篤くご支援を頂いておりましたマリーニ様だとばかり……」


 院長は恐縮して私に頭を垂れた。


 しかし私には、別のことが気にかかり、そのブドウ園と醸造所の場所を詳しく確認した。


 その場所を聞いた私には……その匿名の寄進者が、クリステン様だと分かった。


 ザグスには、クリステン様が祖母である前スルーブ公爵夫人から相続していたブドウ園と醸造所がある。


 ご生母様がその醸造所のワインをこよなく愛されていたこともあり非常に大切にしていたはずなのに。


 なのにその二つを、クリステン様は()()()()に孤児院に寄進していたという。


 それがどういうことなのか。


 しっかりとその意味を考えなければ。


 私はその時になり、ようやくそう思えた。


 思い起こせば婚約破棄の前から、何かがおかしいと感じていた。


 そう……クリステン様の様子がおかしくなったのは。


 ………ご生母様が亡くなられてから。


 悲しみで気が塞がれているのだと思っていたけれど。


 あの頃から痩せられて、笑顔も消えた。


 それに……ご友人を大切にされるクリステン様が、親しい人たちを遠ざけた。


 調べなければ……。


 そうして決意し帰宅した私を、意外な来客が待ち構えていた。


 私が婚約を留保している、アンドレアス殿下の来訪だった。

続きはえっと。。。


もう少しお待ちください。

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