4 陽本うららは傷に気づく
最近なんだか、性欲がない。いや、ないというわけでもないのだが、ここ二週間ほど、セックスしていなかった。普通じゃん、と思うかもしれないが、私の普通は、少なくとも毎週一回はするという感じなのだ。
原因はわかっているような、わからないような。……うん、やっぱりわからない。
なぜか私は、セックスをするなら――真君がいいなぁ、と思ってしまっているらしく。せっかくお誘いを受けても、気が進まなかった。
「だから言ったでしょ」
現在は昼休み。お弁当も食べ終わり、私は絵美とだらだらとお喋りをしていた。
ドヤ顔の絵美に、私はしかめっ面を返す。
夏休みが終わり、日常が戻ってきた。九月末には文化祭があるので、そろそろ真君と二人きりの時間は過ごせなくなる。文化祭が終われば引退するし、一緒にいられる時間はぐっと減るだろう。
たぶんそれが、真君がいいなぁと思ってしまう要因なのだ。
でもそう思うのと同時に、やだな、とも思ってしまう。セックスしたいのは確かなのだけど、実行に移せば確実に今の関係が壊れる。それが嫌だった。
「うらら。あんた、真君のことかーなーり、好きだよ」
「……そりゃ好きだよ」
「あんたが今言ってるのは後輩に対しての好きでしょ。はー、いい加減認めたほうが楽になると思うんだけどなー。楽になっちゃえよ」
私の眉間の皺を、絵美は指で弾いた。
楽になるわけがない、と思う。……なるわけない。私がもし恋なんてものをするとしたら、きっとそれは、汚い感情だ。ぶつければ彼を傷つけてしまうだろうし、気持ち悪いと思われてしまうにちがいない。
だとすれば、認めるわけにはいかなかった。
「認めたくないとか思ってんなら、そりゃもう認めてんのと同じだからね」
思考を読んだかのような絵美の言葉に、ぴく、と体が不自然に動いてしまう。
「……思ってない」
「はい嘘ー」
ばっさり言い切られた。睨みつけると、絵美は呆れたようにわざとらしくため息をつく。
「まーいいんだけどさぁ。このままでいて困るのはあんただし」
「困らないよ」
「ふーん。……ま、うららのことだし、本気でわかってないんだろうね。そこは真君に頑張ってもらうとしようかなー」
私が真君に恋をしているという考えを改める気はまったくないようだった。
そう誤解させてしまったのは私の言動が原因だろうから、これ以上はもう何も言えない。……絵美には真君のことを話しすぎたかなぁ。
水筒のお茶を口に含み、ゆっくりと飲み込む。それと同時に、スマホが振動する。見てみれば、松下君からのメッセージ。あれ、今日木曜じゃないよな? と一瞬思ったが、セックスのお誘いではなく、『今ちょっと時間いい?』という珍しいものだった。
「お、松下か」
「絵美すごい」
「もっと褒めなさい」
すごいすごい、と適当に言いながら、絵美に断って返信を打つ。なんで絵美が松下君からだとわかったのかはわからないが、別に今は特に興味がなかった。
大丈夫だよ、と送れば、すぐに既読がついた。『話したいことがあるんだけど、今から会いにいってもいい?』『放課後でいいなら放課後がいいけど、今日部活だよね?』続けて送られてきたメッセージに、ちょっと首をかしげる。わざわざ直接会って話したいということなんだろうか。
『それなら今からがいいな』
『わかった。教室いる?』
『うん』
既読はつくが、返信はない。どうやらもうこっちに向かってきているみたいだ。
「なんだって?」
「なんか話したいことあるから今から来るみたい」
「……ふーん。んじゃ、わたしはトイレにでも行ってこようかな。たぶんお邪魔虫だろうし」
どういうこと? と私が困惑している間に、絵美は本当に教室を出ていってしまった。なんなんだ、一体。なんとなくもう一口お茶を飲んで、スマホを弄る。
松下君はすぐにやって来た。入り口から教室を見渡し、私を見つけると笑顔で近づいてくる。
いきなりごめん、なんて謝って。
それから、彼は――。
* * *
部室に行くと、真君がすでにいた。テーブルの上にいくつも写真を広げていて、「あ、こんにちは」と会釈される。……人の、写真?
何それ、と覗き込む私に、真君はへへ、とのん気な顔で笑った。その笑顔を見てちょっとほっとする。よかった。大丈夫だろうとは思ってたけど、何も知らないみたいだ。
「ネットで色々探してきちゃいました。まあこうやって印刷して先輩に見せるくらいなら著作権とか関係ないですし、よければ見てください」
え、あ、うん、と戸惑いながら、テーブルに近づく。
広げられた写真には、どれも人が写っていた。基本的に外国の女性の写真をそろえたらしい。雪の中、狼と眠る少女とか、花を見て幸せそうに微笑む女性とか、ウェディングドレスを着て振り返る女性とか。日本人では出しづらい、幻想的な雰囲気の写真が多かった。一応数枚は日本人の写真もあったのだけど。
綺麗だなぁ、と思ったが、真君が何の意図を持って私にこれを見せたのかがわからない。
「あー、違うなら違うでいいんすけど」
私の疑問をこめた視線に、真君は言いづらそうに切り出す。
「……もしかして先輩、ちっちゃいときお母さんの似顔絵書いて、それ適当に扱われて破れた、とかなかったですか?」
「……え?」
今まで一度も、そんなことを話したことはなかったはずだ。そもそもお母さんの話だって、バイブの件しかしていなかった……と思う。たぶん。無意識に何か話していたかもしれないが、ちゃんと意識して話したのはあれだけだ。
なのに、なぜ。あてずっぽうで言ったにしても、当たりすぎている。ピンポイントで当たるようなことではないのに。
そうだよ、なんでわかったの? と肯定するべきなのか。それとも、しらばっくれるべきなのか。どっちがいいんだろう。私は全然気にしていないことだけど、他人からすれば可哀想だと感じることだろう。真君に可哀想だと思われるのは嫌だった。
だとすれば肯定しないほうがいい、と結論を出したときにはもう、遅すぎたらしい。
「そうだったんですね」
「まあ、うん、そうなんすよー」
真君の口調を真似して茶化してみたが、真君の表情は曇っていく一方だった。私のことなんかで、真君にこんな顔させたくないのになぁ。
「……今までの先輩との話とか思い出したりして、こういうことかなって想像してみたんすよ。まさかマジで当たってるとは思いませんでしたけど」
適当な想像を口にしていただけだったのか。なら私がさっさと否定しておけば済む話だったのだ。失敗したな、と苦笑する。
「もー、どんな想像すればわかっちゃうの?」
「先輩が不自然なくらいに家族の話題避けてたのと、前に一緒に買い物行ったとき、ちっちゃい子が描いたお母さんの似顔絵いっぱい飾ってあったじゃないっすか? あれ、先輩めちゃくちゃ無表情で見てましたからね。怖かったっすよ。あとは人の顔を絶対に描かないっていうのと、この前聞いた話と……あとはまあ、色々です」
「……Really?」
意外とヒントをちりばめていたらしい。前二つに関しては自分でも完全に気づいていなかった。真君は「オゥ、レアリー」と下手糞な英語でうなずく。
……でもそれにしても、そこから推測するのはやっぱり難しいだろう。真君もそれはわかっていたから、まさかマジで当たってるとは思いませんでしたけど、なんて言ったのだ。
「私のことなら何でもわかっちゃうのかなー真君は? 私愛されてるぅ」
「先輩のことなら何でもわかる、とは言えませんけど、何でもわかったらいいな、とは思いますよ」
赤面もせずに、恥ずかしいことをさらりと言う。マ、マジかー。そして愛されてるの方はノーコメントかぁ。
なんか今無性に、真君の寝癖を引っ張りたくなった。引っ張ってもみくちゃにして、何するんすか!? と文句を言われたい。
馬鹿なことを考えている私に、真君は神妙な面持ちで小さく頭を下げた。
「トラウマ抉ってすみませんでした」
「……トラウマ?」
きょとんとすると、真君は怪訝そうな顔をする。
「自覚、ないんすか?」
「え、自覚も何も、大丈夫、気にしてないよ」
「気にしてなきゃ、なんで人の顔描けないんすか」
「描けないんじゃなくて描かないんだよ、綺麗じゃないから」
「これ見ても綺麗じゃないって言えます?」
写真を示され、そのために用意したのか、と納得する。
確かにこの写真の多くは、描いてみたい、と思わせるくらいに綺麗だ。綺麗、だけど。やっぱりなんだか、違うのだ。たぶん私は、これを描こうとしたら筆が止まる。
綺麗だね、と小声で返せば、「描きたいと思いますか?」と更に訊かれる。うなずく私に、真君は「じゃあ描けますか?」と追い討ちをかけた。
……今度は、首を動かすこともできなかった。
「そういうことでしょ。気づいてないほうがよかったのかもしれないですけど、先輩、それトラウマっすよ」
「……トラウマは、大げさに言いすぎじゃないかな」
「そう返すってことは、思い当たる節はあるってことですよね。まあ、結局俺は先輩じゃないんで、絶対そうですよとは言い切れませんけど」
保険のようにそう言って、真君はテーブルの上の写真を一枚一枚重ねていく。すべてをまとめると、彼はそれを無雑作にリュックの中にしまった。
そこでようやく、返事をすることができた。
「……そうかもしれないね」
「はい。だから、すいません。正直に言うと、先輩に描けないものがあるっていうのがやだなって、勝手に思っただけなんすよ」
――それは。
「俺、先輩には、先輩が綺麗だと思うものを全部描いてもらいたいんです」
私にとっては殺し文句だなぁ、と。
そう思った瞬間、今まで経験したことのないくらい体が熱くなった。
「……先輩?」
『うらら。あんた、真君のことかーなーり、好きだよ』
なぜか、昼休みの絵美の言葉がぱっと蘇る。
ない、違う、ありえない、違う違う。
好き、好きなのは確かだし、そこを否定する気は毛頭ない、けど。でもほら、だって、あれ、何が何で何が言いたいんだっけ。
「いや、あの、ごめんね? なんか今めちゃくちゃ混乱してるっていうか、なんか、よくわからなくて、あれ?」
「……いいっすよ、別になんも言わなくて」
「甘やかさないで!!」
意味不明なキレ方をしてしまった。え、はい、とびっくりした真君に申し訳なくなる。
「あー、あれ、またします? 背中合わせるやつ」
甘やかさないでと言ったのに、どうも真君は私を甘やかしたいようだ。本人無自覚なのがムカつく。真君のくせに生意気だ。
だからむっと顔をしかめて、ちょっと違うことをお願いすることにした。
「……今度は正面で」
「は?」
「私はハグを所望します」
無言になる真君。この前は無理だと言っていたのに、やっぱり私がお願いすれば悩んでくれるらしい。そしてたぶん、そのまま折れてくれるんだろう。
「……ど、どうぞ」
予想通り、真君は私の正面に立って腕を広げた。ただし非常に恥ずかしそうにしていたので、そんなに可愛くてどうするの!? とまた意味不明なキレ方をしてしまいそうになった。それにそういうのってうつるんだよ。真君相手にハグくらいで恥ずかしがるとか緊張するとか、私の矜持が許さない。
冷静になろう、私。普段どおりの飄々とした顔でいこうじゃないか。
顔を取り繕うのに時間をかけていたら、「まだっすか!」とやけになったように急かされた。考え直されたらたまらない、と飛び込むようにして真君に抱きつく。
真君はあまり背が高くない。密着すると、ちょうど彼の肩に顎を乗せることができた。癖っ毛がちょっと当たってくすぐったい。
すん、と鼻で息を吸う。
「真君の匂いがする」
「そういうこと言うと突き飛ばしますけどいいっすか」
「だめー。あったかいから、このまま」
「あったかいっていうか暑いでしょ」
そう言いながら、離れようとする気配はない。二人してじっとり汗をかいて、抱き合っている。その状況がなんだか楽しくて笑うと、「耳元で笑わないでくださいマジで」と困った声を出されてしまった。
「あの、ね」
はい、と真君が静かに相槌を打つ。
「私、お母さん大好きなの」
「……そうなんすか?」
「うん。でね、お母さんも私のこと大好きなんだ。毎日ぎゅってして、愛してる、今日も可愛いって言ってくれるし、美味しいご飯作ってくれるし、ほしいものでもほしくないものでも、なんでも買ってくれるの」
それこそ、バイブみたいなものまで。
「それに、私がお母さんの不倫相手に襲われそうになったとき、お母さん、必死に助けてくれて。何回も謝ってくれた。あ、大丈夫、処女喪失はそのときじゃないよ」
顔は見えないけど、たぶん今真君は何とも言えないような表情をしているんだろう。
ぎゅ、と彼の汗ばんだシャツを手で握る。
「……普通じゃないな、っていうのはわかってるの。でも、私は、大好き。お母さんのことも、お父さんのことも。お父さんはね、あんまり家に帰ってこないけど、でも、たまに『ただいま』って笑ってくれて。そしたらその日は、遊園地とか水族館とか、そういうところに連れていってくれるの」
優しく、してくれるのだ。
「だから私は、お母さんとお父さんが大好き」
久しぶりに口に出した言葉は、それでも違和感を覚えなかった。だってこれが、私の本心だから。心から思っていることだから。
絵美に言うと、いつも怒られてしまう。わたしの前でくらい素直になれ! って。それがよく、わからない。私は素直に言っているのだ。私はお母さんとお父さんが大好き。紛れもない事実だ。
「……はい。大好きなんだなって、今のだけでもわかりました」
――だから。
そう、あっさりと。私の気持ちを肯定してくれた真君に、ぽかんとしてしまう。
「あー、なんつーか、色々思うこともないわけじゃないんですけど、まあ、先輩がそう言えるなら、俺はいいと思います。別に、いいと思います、とか俺が言うことじゃないんすけど」
真君は、私がお母さんとそっくりなことを知らない。私が襲われかけたときに謝ったのが、私の顔や体に傷がつくことを恐れてだということを知らない。ずっと昔から、お父さん以外の色んな人とセックスをしていることを知らない。
お母さんとお父さんが離婚していて、お父さんはもう他の女の人と暮らしていることを知らない。子どもが二人いることを知らない。特に制限がかけられているわけではないのに、数年に一度しか会いにこないことを知らない。私に会いにくるのは、私に会いたいのではなくて、私への罪悪感からだと、知らない。
知らないのだ。絵美が全部知っていることを、真君は。言っていないのだから、当然だ。だからたぶん、真君が絵美のように嘘つけ、と言ってこないのは、そのせいなのだろう。
それはわかっていた。
わかっていた、けど。
「……うん、大好きなんだ」
へにゃりと、情けなく笑っている自覚がある。この顔を真君に見られなくてよかった、と安堵する。
認めてもらえた。私の気持ちを、認めてもらえた。それがたまらなく嬉しくて、柄にもなく泣きたくなった。目はじわりとも滲まなかったけど。
「……大好きだから、トラウマになっちゃったんすよね」
「そうだね」
そうか。大好きだから――私は傷ついたのか。傷ついて、当然だったのか。
そんなことにも気づいていなかった。単純なことだったのに。
私はお母さんとお父さんの言動に、傷ついていた。お母さんとお父さんが、大好きだから。今まで気づいてなかったなんて、馬鹿だなぁ。
「ありがとう、真君」
そのお礼に、真君は「はあ」と気の抜けた返事をする。私にとってどんなに嬉しいことを言ってくれたか、わかっていないようだった。
くすくす笑いながら、体を離そうとして。想像以上にがっしり抱きしめられていることに気づいた。
「真君?」
「なんですか?」
「私、力はそんなに強くないから、真君が放してくれないと離れられないなぁ」
ばっとすごい勢いで離れていった真君に、へ、と間抜けな声が漏れる。そこまで慌てられるとちょっとショックなんですけど。
本当はセクハラ紛いのことを言ってシリアスな雰囲気を壊してしまおうと思っていたが、今日は……というか今日もお世話になったことだし、いじめるのはやめておこう。
「そっ、そういえば、先輩告白されたって聞いたんすけど!」
「え」
誤魔化そうとしたのか、真君はそんな話題を持ち出した。うっわぁ、知られてたんだ。
今日の昼休み、松下君は私に好きだと言ってきた。こういうときに限って教室が一瞬静かになっていたりしたものだから、教室にいた人全員があの告白を聞いていた。だからまあ、同学年で噂になるくらいはしょうがないなぁと思っていたのだけど。
まさか下の学年にまでとは……というかなんで噂になるんだ。私、そこまで有名人ってわけでもないんだけど。
「あー、うん、セフレの一人にね?」
「……そうなんすか」
「一番長くセフレでいてくれた子だったから、びっくりしちゃった。全然そういう素振りなくてさ。私のこと好きじゃないと思ってたからセックスしてたんだけど、ひどいことしちゃったなぁ。
まあたぶん、ちょっと勘違いしちゃっただけなんだろうね。私って可愛いし、セックスも上手い、って自分では思ってるし。二年もセフレやってたら、そりゃあ私のこと好きになったような気がしても当然だよねぇ。気づいてももう遅いんだけど……うーん、見通しが甘かった」
そう言った私に、真君は驚いた顔をして、そしてすぐに「はい?」と苛立ち混じりの声を出した。なにやら怒らせてしまった、みたい……?
どの発言が悪かったんだろうか。普段と同じようなことしか言ってない、と思うんだけど。いや、ひどいこと言っている自覚はあるが、それでも普段と変わらない。真君が今までこんなに怒りをあらわにしたことはなかったのに。
「陽本先輩って、そういうことに関しては最低だなって常々思ってましたけど、やっぱほんとに、最低っすね」
「え、わかってたことじゃない……? どうしたの、急に」
「……俺今、先輩のご両親のこと嫌いになりそうです」
すいません、と謝って、真君は美術室の端に置いてあるイーゼルを取りに向かう。話を切り上げて、絵を描き始めるらしい。
……私の両親のことが、嫌いになりそう? 私じゃなくて?
真君が何を言いたいのかよくわからなくて、途方に暮れてただ彼を見つめる。
「……実は俺、たまに絵美先輩と話すんですよ」
「絵美と?」
怒っていたはずの彼は、それでもちゃんと説明してくれるようだ。
「それで、陽本先輩の家庭事情、ちょっと聞いてるっつーか。深い部分までは聞いてないんすけど、まあ、察しちゃえるくらいには聞いてるっていうか」
……まさか絵美が、私のことを誰かに話しているとは思わなかった。
でもそのことにびっくりするよりも。――知っていたうえで、私の気持ちを認めてくれたんだ、と、そっちのほうにびっくりしてしまった。
「すいません」
何に対する謝罪なんだろう。たぶん、色々な気持ちを込めてるんだろうなぁ。そう思うと、なんだか笑えてきてしまった。
何笑ってるんすか、とどことなく拗ねたような雰囲気の真君に、私は笑みを深めた。
「ううん、こっちこそごめんね。……ありがとう」