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96.落日

 突然の父殺しの自白に、室内はざわめいた。

 エフネートは、どうだ、と言わんばかりに周囲に目を走らせ、皆の反応を楽しんでいるようだった。

「陛下、俺の父親殺しの件は調べが付いておられたか?」

 フェールが否定すると、エフネートは楽しそうに唇を横に延ばした。「そうだろうな、誰も知らないはずだ。証拠も目撃者もいない。知っているのは俺だけだ」

「なぜ、今そのような話を出す?」

「俺は結局、大嫌いだった父親と同じなのだと気が付いたからだ。自分の滑稽さに笑うしかない」

 妻のアムネが泣きながら訊ねた。

「あなた……わたくしたちは夫婦です。ベリオン様を本当に殺めたのならば、どうしてわたくしにだけでも打ち明けてくださらなかったのですか? わたくしが相談する価値もない頭の悪い女だとお思いでしたか?」

「……そうではない」

「あなたの目は、いつもわたくしを見ていなかった。あなたはジャネリア様を忘れられなかったからベリオン様を殺したのですね?」

 エフネートは泣き続ける妻に、憐みの目を向けた。

「自分が殺した女を簡単に忘れられるはずがないだろう。あのころの俺は少々狂っていた。ジャネリアを殺してしまった後、ずっと気分がすぐれず、苦しい日々を過ごしていた。世間的には心を病んでいたのは父ということになっていたが、本当におかしくなっていたのは俺の方だった。そのうちに、父は、そんな弱い俺ではなく、本当の長男ツェドー・ホミジドにヘロンガル家を継がせると俺を脅して、ふさぎ込んでいた俺を立ち直らせようとした。俺の怒りに火が付いた。必死で何人も殺した俺よりも、一人も殺せなかった気弱なツェドーが跡継ぎだと? ふざけるな! 部屋から去ろうとする父の背後から首に紐をかけて引っ張ってやった。あとは自殺として発見されるように細工したわけだ」

 アムネの泣き声がさらに大きくなったが、エフネートは微笑を浮かべていた。

「父ベリオンが本気で愛していたのは、無理やり別れさせられた末に早死にしたツェドーの母親だけだった。俺や、俺の母はどうでもよかったわけだ。俺は、そんな父と自分は全く同じ種類の生き物なのだと気が付いた。家庭を顧みず、最初に惚れた女の、死の衝撃を引きずりながら生きている。滑稽すぎる生き様だ」

 エフネートは声を出して笑う。


 アムネは涙の顔をあげた。

「あなた……あなたは子どもたちのことも愛していなかったとおっしゃるのですか」

「愛していない、と言えばそれは違う。王家の女性を妻に迎え、嫡男シドがすぐに生まれ、警務総官の地位も得た。誰が見ても文句なしの家庭を持てた。子どもたちの笑顔に、ささやかな幸福感を味わったことは嘘ではない。だが、俺の手は血まみれだ。普通に幸せでいていいはずがない。俺は幸せに溺れないようにおまえと距離を置いて生きてきた。こんな俺と結婚してくれて感謝している。俺が処刑される前に離婚の手続きを取って、これからは自由に生きろ」

 アムネは、「あなたっ」と声を上げると、寝台に飛びつくと、エフネートの腹のあたりに顔を埋めた。エフネートは妻の頭を慰めるようにそっと撫でている。

「あなた……わたくしは死ぬまであなたの妻です。あなたが処刑されるなら共に」

「こんな身勝手な男と一緒に死ぬ必要はない。おまえまで死んだら、子供たちはどうなる? 子供たちのためにも生き続けてくれ」

「わたくしはやっとあなたのことがわかった気がします。こんな状態になって初めて……」

「……すまない」


 アンジェリンはその光景に、自分も目を潤ませてしまった。

 ──エフネート様も、アムネ様も苦しんでおられた……。サイニッスラの虐殺があった時には、シド様はすでにお生まれになっていたはず。幸せな家庭を持っておられたのに、幸せになりきれず……。エフネート様は私が思っているほど悪人ではなかったのかもしれない。私、殺されそうになって本当に怖かったけど、この人は母の亡霊を追い払おうと必死で……。


「叔父上」

 フェールがしんみりしている雰囲気を切った。

「まだ尋問は終わっていない。叔父上の罪は、サイニッスラの虐殺とアンジェリン誘拐だけではない。なぜザンガクムを使ってまで我が父を死に追いやった。ザースの葬儀の日の叔父上の動きはすでにつかんでいる。言い訳はいらぬ。真実だけを教えてほしい」

「ラングレ王に関しては、腰抜けだったからにすぎない」

 泣いていたアムネは、はっ、と顔を上げ、フェールはあからさまに眉をひそめたが、エフネートは気にかけている様子もなく続けた。

「ラングレは自分では何も決められない王だった。この国に優柔不断な王はいらない。ラングレの甘い体制を排し、新しい王国を作るためには、他国の力を利用する必要があった。もちろん、俺はこの国を他国に渡すつもりは最初からなかった。だから、先にドイガー将軍の方にエンテグアの港が襲われるという情報を渡しておいた。港はうまく防衛できたはずだ」

「我が父を腰抜けと言い捨てるとは……。父が無能だったとしても、叔父上のやり方はあまりにも多くの犠牲を伴った。廃貴族たちに新しい国を作ろうと持ちかけて、彼ら全員を勝手に処刑したのも叔父上の指示だと判明している。多くの人が死んだだけで、国は何も新しくなっていない」

「廃貴族どもは放置しておけばゆくゆく邪魔になる存在。数が多すぎる彼らをいつかは掃除しなければならず、葬儀とザンガクムの侵攻を利用しただけのこと。身分がないくせに気位ばかり高い廃貴族どもの数が減り、陛下にとっても損ではなかったと思うが? ヘロンガル家は代々そうして王を支えるために手を汚してきた一族。廃貴族の数を減らせたことは俺の誇りでもある」

「では、叔父上は、自分は裏の仕事を請け負うヘロンガル家の一員として国家を守るための仕事を真面目にこなしてきただけで、何一つ悪くはなく、王殺しも廃貴族の粛清も間違ってはいないと言うのだな?」


 室内に驚きの息が複数もれた。エフネートは具合が悪そうにしており、額ににじみ出てきた脂汗を袖でぬぐっていたが、フェールはかまわず尋問を続けた。

「王殺しのずっと前からも、マニストゥを通してザンガクムに情報を流していたことは認めるか?」

「ザンガクムに情報を渡す振りをして、逆に向こうの情報を盗んでいた。自分からは適当な情報しか流していない。おかげで、ザンガクムが我が国に侵攻したがっていることを早々と知ることができた」

「それも国のためだった、と主張する気か。わかった。では、質問を変えよう。腰抜けの父も私もザースも殺して、その後、どうするつもりだったのか? 自分が国王にでもなるつもりだったのか?」

「それはない」

「ということは、王位はシドに? シドがいなくなったから次男ヴァリーを王にしようと思ったのか?」

 エフネートはそれについてはすぐには答えなかった。

 フェールは声を荒げた。

「答えろ! 叔父上がここまでして夢見ていた国の王は誰になってほしかったのだ」

「陛下のお怒りをさらに高めそうで言いたくなかったが、あえて言うならば、妻のアムネに王になってほしかった。それならば、俺は理不尽な命令に振り回されることもない。力なき者は、結局は上の言うことに従って生きていくしかない。それがどんなに常識はずれで狂った命令だったとしても、従わなかった者には恐ろしい罰が待っている。俺はサイニッスラのことで懲りた。誰からも命令されることのない立場になりたいと常に思っていた」

「それならば、私の王太子時代に、自分が次の王になりたいと言えばよかった。私は好きで王になったわけではなく、王に向いている性格でもないことは叔父上もわかっておられただろうに」

「俺には王家の血は入っていない。王家の血を引くもの全員を殺さない限り、王にはなれない」

 エフネートは付け足した。「もちろん、アムネは兄王に代わって王になろうとは考えもしていない。妻には何の罪もない。妻を裁くのはやめていただきたい」

「あなた、いいえ、夫婦である以上、わたくしも同罪です」 

 アムネはフェールに向かって深く頭を下げた。

「陛下、わたくしは、ここ何年も夫とは離れていて、夫が何をやっているのかは考えたこともなく放置しておりました。それはわたくしの罪。夫が大勢の人を殺しただけでなく、兄を殺す手引きをしたなんて想像もしておらず……。夫がやったことは国家のためではなく、ただの殺人です。殺人者には死の制裁をくだすべきです。わたくしも夫と一緒に処刑してください」


 室内は再び静まり返った。皆、それぞれ思うことがあり、下を向いている。

 書記官たちの裁判記録を記述する音だけが、ガリガリと聞こえていた。


「少し……気分が悪い……」

 エフネートは急に寝台の上に汚物を吐いた。医術師のテイジンが駆け寄り、これ以上の尋問は無理だと告げ、その日の秘密裁判は打ち切られた。



 アンジェリンはムカムカした気持ちを抱えたまま再び担架に乗せられて白花館に戻った。寝台に横になると、待ち構えていたウィレムに飛びつかれ、重い気持ちが少し楽になった。

 すべてを認めたエフネートが無罪になって自由の身になることはまずないだろう。エフネートはおそらく処刑される。アンジェリンがフェールに頼めば刑を軽くできる、ということでもない。

 ──エフネート様って、本当は気の毒な人。そのお父様のベリオン様も、本当に好きな人と結婚できずにずっと苦しんで。アムネ様や、お子様方もかわいそう。そう考えれば、私はとっても幸せ。自分だけが泥棒の娘で不幸の塊だと思っていたことは間違っていたの。

「アン? 具合が悪いのか?」

 寝台まで付き添ってくれたフェールに声をかけられ、アンジェリンは意味もなく泣きたくなる気持ちを振り払い、笑顔を作った。

「問題ありません。ゆっくり休ませてもらいます」

 ──あなたがいるから大丈夫。体の具合は悪くても、心まで折れることはもうないから。

「あの……」

「ん?」

「……いえ、何でもないです」

「いい駄洒落が浮かばなかったか? 駄洒落はもういらぬぞ」

 フェールは笑い顔を見せ、アンジェリンの頬にそっと手を触れてくれた。

「えっと……駄洒落じゃなくて……あの……」

 ──口づけをください……。心が滅入りそうだからちょっと甘えたい。なんて、言えるわけが──

 自分で言いかけた言葉の恥ずかしさでアンジェリンは顔に血が上るのを感じ、あわてて彼から目をそらした。

 フェールは、寝台の上に乗っていたウィレムを抱き上げ、傍にいたロイエンニに渡した。

「さあ、お母様は寝る時間だ。ウィレムはおじい様に遊んでもらえ」

 ウィレムは不満の声を上げたが、外への窓が開け放たれるとそちらに気が移り、すぐに外へ出て行った。


「これで邪魔がいなくなったな」

 フェールは寝台に身をかがめた。

 唇が触れ合った。

 彼は唇を離した後も、やさしくアンジェリンを見おろしている。アンジェリンも愛情をこめて彼を見上げた。

「おまえが欲しかったのはこれではないのか? 私が駄洒落よりも欲しかったのはこの唇だ」

「……私も……です」

「本当は口づけだけでなく、もっともっとおまえが欲しい。だが、体が治るまでは待つから、唇ぐらいは許してくれ。もう一度だけ……」

「……っ」

 押し付けられた唇のやわらかさにおぼれ、心も穏やかな気持ちに変わっていく。


 彼が長い口づけを終えて部屋を去るころには、アンジェリンはすっかり満たされていた。


 ◇



 アンジェリンはエフネートの最初の裁判の日の翌日から体調がすぐれず、初日しか参加できなかった。エフネートの方も高熱が出ていて具合が悪いらしく、秘密裁判は三日でいったん休止となり、エフネートの回復を待つことになった。


 フェールはあいかわらず多忙で、アンジェリン母子と過ごす時間はほとんどとれなかったが、時間を作って白花館に出向いてくれた。


 その日も、フェールは時間を作ってアンジェリンの元に来ていた。

 ウィレムに絵本を読んでやっているアンジェリンの傍で、フェールは遅くなった昼食をとっていた。ありふれた家庭のようで、アンジェリンは彼がわずかな時間でもそこにいてくれることがとてもうれしかった。

 そこへ小姓が連絡にやって来た。


「陛下、医術師のテイジン様より緊急連絡です。エフネート・ヘロンガル様の容態が急変し、非常に危険な状態にあるとのことで、息のあるうちにお会いになるなら今のうちだと……」

 親子の時間を楽しんでいたフェールは顔をしかめた。

「わかった。すぐに様子を見に行く」

 フェールは食事を途中でやめて、急ぎ足で部屋を出て行った。


 残されたアンジェリンは、本館の方へ戻りかけていた小姓を呼び止めた。

「エフネート様のご容態はそんなにお悪いのですか?」

「詳しくはわかりませんが、お怪我で弱った体に肺炎を併発したらしいです。ここ二日ほど意識のない状態が続いておられたことは間違いないです」

「ならば、私も会いに行きます。母に似ている私が呼びかければ、もしかして意識が戻るかもしれません」


 アンジェリンはウィレムをターニャに預けると、ロイエンニに支えられながらエフネートがいる塔の階段をゆっくりと登った。思った以上に体が重く、息苦しく、汗びっしょりになりながら、時間をかけてエフネートがいる部屋にたどり着いた。


 部屋の扉を開けてもらうと、先に室内にいたフェールが驚いて駆け寄ってきた。

「歩いてきたのか! おまえを殺そうとした男のために無茶をするな。今、ちょうど息を引き取ったところだ」

「えっ、もう亡くなられた……」

 アンジェリンが寝台に目をやると、エフネートは目を閉じており、身動き一つしていなかった。胸や喉も上下しておらず……。

 寝台の周りで妻のアムネと子どもたちが声を上げて泣いていた。


 アンジェリンはゆっくりと寝台の傍まで行き、大声にならない程度の音量で声をかけた。

「エフネート様、もうお休みなのですか? 私、あなた様のことを許したわけではないですけど、もっといろいろなお話がしたいです。まだ逝かないでください。私の母がどんな人だったのかも、あなた様がどうやって母と知り合ったのかも、私、何も知らないんですよ。このまま黙ってしまうなんて卑怯です。お戻りください」


「そうさ、リーザ様のおっしゃるとおりだ。卑怯者め、このまま穏やかに死なせてなんかやるもんか!」

 アンジェリンの背後から突然、大声が聞こえたと思ったら、寝台を囲む人々を押しのけて、大男ピツハナンデがエフネートの顔を覗き込んだ。

「こらぁ、起きろよ! おまえ、サイニッスラで俺の親父を殺したんだって? 俺のおやじはニハウラック家の御者を務めていた。親父は政治とは無関係で、殺されなければいけない理由はなかった。俺はおまえに復讐したくて最強の兵士を目指した。この鍛えた体はおまえを殺すためにある。簡単に死にやがるなんて許さない。起きろ、寝たふりすんなよ!」

 ピツハナンデはエフネートの肩をつかんで強く揺さぶった。力の抜けたエフネートの首が揺すられてカクカクと動く。しかし、息を吹き返すことはなかった。

「ピツハナンデ、やめなさい」

 マナリエナに止められて、ピツハナンデはエフネートから離れたが、悔しそうに唸り声をあげた。

 アムネが、ピツハナンデの前に飛び出して床に両手を付いて深く頭を下げた。

「夫があなたの大切なご家族を殺してしまったのですね? 本当に申し訳ありませんでした。幼いころにお身内を亡くされて、辛い思いをなさったことでしょう。あなたの復讐の剣を夫の代わりにこの身で受けます。わたくしを殺しなさい。殺人事件の被害者の家族としての報復ならば、あなたはわたくしを殺しても罪に問われません」

「俺が殺したいのはエフネート・ヘロンガルで、アムネ様じゃない」

 ピツハナンデは剣を振り上げることはなかったが、遺体となったエフネートをずっとにらみ続けていた。


 アンジェリンは、エフネートの穏やかな死に顔と、謝り続けるその妻子の様子を見ているうちに、涙が止まらなくなってしまった。自分がエフネートの妻だったらやはり同じことを言って手を付いたと思う。逆に、自分も被害者として、ピツハナンデもやり場のない怒りも理解できる。さまざまな感情が湧きだし、胸が苦しくなってきた。

 ──エフネート様が亡くなってしまった。エフネート様は平然と人を殺していたわ。ヘロンガル家の御者の人だって、罪もないのに私の目の前で殺されたのよ。アムネ様には気の毒だけれど、これでよかったはず。それでも、なんだかとても悲しい。人はこんなに簡単に死んでしまう。あまりにもあっけなさすぎて……。

 フェールが肩を抱いてくれても涙がぼろぼろ出てきてしまう。

「アン、泣くな。これでおまえに危害を加え、おまえの身内を滅ぼした男は死んだ。安心して暮らせるのだ」

「……」

 アンジェリンは頷くのに精一杯だった。



 政治の中心的存在だった男の突然の逮捕とその死は、多くの関係者に衝撃を与えた。

 彼の意識があった三日間の秘密裁判の間にすべてを明らかにすることはできなかったが、エフネートは、ティアヌ・バイスラー殺害とシャムア教皇との密通に関しては、関与を強く否定したものの、その他のことはほぼ認めていた。すべてはヘロンガル家が担ってきた闇の仕事だったと主張するだけだったという。

 サイニッスラにおける殺人、放火、死体遺棄、ラングレ王殺害関与、ザンガクムとの密通、廃貴族の反乱先導と独断での処刑、アンジェリン誘拐事件などの詳細は一般に公開された。

 ザース王子転落事件において、エフネートが『ザース王子が毒蜘蛛を購入してクレイア王女を自室へ呼び寄せた』というありもしない情報をラングレ王に渡して、王子殺人容疑がかかったクレイアを追求から守ったことも明かされると、世間一般におけるヘロンガル家の評判は完全に地に落ちた。

 エフネートの配下にあった関係者たちも大勢が処分された。アンジェリンを馬で蹴った警務総官はサイニッスラ事件にもかかわっていたことがわかり、死刑が決定し、火あぶりとなって人生を終えた。

 ココルテーゼとその父親であるツェドーは、共に、むち打ち刑の後、半年間の強制労働、その後、国外永久追放の刑に決まった。

 ヘロンガル家の屋敷を含む財はすべて王家に没収され、エフネートの妻アムネとその子供たちは、王位継承権放棄という形で責任をとり、『留学』という名目で一家ごとシャムアに移り住むことになった。彼らはそれ以後、人々の前に姿を現すことはなかった。


 政治の重要職が何人も入れ替わり、王城は一時的に混乱したが、やがて収束に向かった。人々は、前王の妹を妻にした狂気の男の話よりも、若い現国王の結婚という明るい話題の方に目を向けた。闇を取り仕切った一族の名は、そのうちに誰も口にしなくなっていった。


 フェールとアンジェリンの正式な婚礼式は、アンジェリンの怪我の回復を待って半年後に行われることになった。

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