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偏執病  作者: オリンポス
2/7

2.安請け合い

「持ち込みを希望していた田中美麗さんで間違いないかな?」

 僕はパーテイションで仕切られただけの空間に面会者を連れてきた。

「はい、そうです。私の作品をぜひプロの方に評価してもらいたいと思い、ここまで来ました」

 田中さんはそう目を輝かせて身を乗り出した。

 胸元についている入社許可証のバッジが大きく膨らんでいる。


 すごい巨乳だ。眼福眼福。


「うん。では早速拝見しようかな」

「ぜひお願いします!」

 彼女は笑顔で原稿を手渡してくる。

 僕はその表情に既視感を覚えたが、どこで会ったのか忘れていた。


 数枚をぱらぱらとめくってみて気が付いた。

 細かい指摘はあとだ。これはおかしいだろ。

「ちょっとこれ。少女漫画の絵のタッチだけど、熱血系の野球マンガじゃないか」

「そうなんですよ。少女漫画ってこういうの少ないじゃないですか。だから少年マンガならいけるかなと思って持ち込んだんですけど」

 そう彼女は悩ましそうに腕を組む。

 胸のラインが露わになったところで、僕は彼女のことを思い出した。


「それもそうなんだけど……」

 まずは連載会議に通るかどうかが問題だし、上にはなんと言われるかわからない。

 このままヒット作が出せなければ左遷だってあり得る話だろう。だけど、

「面白いな!」

 僕は思わず快哉を叫んでしまった。

「野球部に入部したのはモテたいから。こんな不純な動機にもかかわらず、この主人公は応援したくなる」

「そうですよね」

「しかも女の子が上手に描けてる。女同士の嫉妬も同性だからこそのリアリティが感じられるし」

「ありがとうございます」

「ストーリー性はこれでいいから、このまま3話分描いてくれ。終わったら僕のケータイに電話をくれないか」

 そう自分の名刺に電話番号を書き込んで手渡した。

「ありがとうございます。また連絡しますね」

 焼き肉屋の巨乳なお姉さんは、頭を下げて社内をあとにした。




 僕のケータイに着信音が鳴ったのは次の日の夕方だった。

 ちょうど定時で退社をしようと思った時分である。

「はい、もしもし」

 そうケータイ電話を耳にあてがう。

「山田さん。もう描き終わったんで原稿を取りに来てもらっていいですか?」

「了解。今すぐ行くよ」

 そう電話を切ってタクシーに乗り込む。

 新井はいつも茶色の封筒に原稿を入れて編集部に郵送していたが、先日の一件があったからなのか、僕を仕事場へと呼び出した。

 一体どんなことを言われるんだろう。

 僕は冷や汗を流しながら、暮れていく夕焼けを眺めていた。


「これでどうですか。ご納得いただけました?」

 狭いアパートの一室で、新井は原稿を用意して待っていた。

 アシスタントはいない。

 床にはインクをこぼした痕跡があり。

 仕事机には背景カタログの資料が雑多に積み重ねられていた。


「どれどれ」

 そう原稿をチェックしていく。

 ストーリーに不備はないか、矛盾はないか。

「よし、これでいこう!」

「頼みました。じゃあ俺は寝ます」

 彼はそう言うと、おもむろに布団を敷き始めた。

 よく見ると目の下は黒く、夜通しで描いていたことがうかがえる。

「先日は無責任な発言をして申し訳ない。反省しているよ」

「謝罪とかいいですよ。あなたの性格が変わらなければ意味ないです」

 新井は掛け布団をずっぽりとかぶってしまった。もう話すことはないと言わんばかりに。

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