第8話 新たなる脅威?
水曜日。
ゆとり教育によって土曜日が完全な休業日となった今、水曜日というのが週の半ばであると考えている人が少なくない。
まだ半分もある、と落胆する人もいればもう半分だけだ、と安堵する人もいるだろう。
だが、俺にとっては水曜日はまだ折り返し地点ですらないのだ。
給食は基本的に月、火、木がご飯が出てくる和食、水、金がパンが出てくる洋食である。
そして水金の洋食の日は、野菜メインのメニューが出てくることが多い。
さらに、コッペパンの亜種であるセサミパンが出てくることもあるので洋食の日は苦戦を強いられることが非常に多くなる。
たまにココアあげパンとかいう素敵な亜種が出てくることもあるが、あれは月に一度出るか出ないかの希少種だ。
さて、本日は良くない方の亜種セサミパンが俺の前に立ちふさがったのである。
× × ×
4時間目の体育が終わり、じっとりとした教室に帰ってきた。
「いやー、今日のドッジは盛り上がったよなー」
「まさかあそこで菊池があんなスーパープレイを見せるとはなー」
先ほどまで体育館で行われていた激闘の熱は未だに冷めず、教室内ではそのことについて盛り上がっていた。
「いやいや、あれはたまたまだよー!運良く当たったボールが上に跳ねたのをキャッチしただけだし」
運動神経のいい菊池は相変わらずの活躍だ。女子からもキャーキャー言われてたのはちょっとだけ羨ましい。
いや、ほんとちょっとだけよ?
「まあでも今日はほんと楽しかったぜ!
な、新井!」
「ん、ああそうだな」
確かに今日はかなりアツい試合展開だったな。 俺は早々に離脱して外野でとりあえずきたボール内野にパスする作業やってただけだけどね。
「でも新井 途中から全然見なかったけど何やってたんだ?トイレか?」
「ははは…」
おいおい、ちゃんと試合終了までいただろうが。 もしかして俺の大活躍見てないの君?俺の幻のシックスマンばりの高速パスがなかったら負けてたんですけど?
「おい、そんなことはどうでもいい!早く給食の準備するぞお前ら!メシだメシ!飯飯飯飯ぃ!」
汗だくになってトドみたいなやつが話しかけてきたと思ったらやっぱり松山だった。 あんなに盛り上がったのにこいつだけは給食のことしか頭にないらしい。
「へーへー、わかったわかった」
女子は別の部屋で着替えるためとりあえず先に準備を進めなくてはならない。
着替え終わった後にさらに給食着を身につける。 汗が染み込みそうでやだな。
松山とかすでに給食着に汗染みができている。 あいつのあととか絶対着たくない。来週の方、御愁傷様です。
「あ、新井くん…」
「お?」
「今週は僕も給食当番だから…いっしょに行かないかい?」
「お、おう…」
細長くてヒョロい体格からか細い声で話しかけてきたのは安倍だ。
あの弾劾裁判以来、学校を休みがちになっており、今週も月曜日と火曜日を休んだ。心なしか、やつれているようにも見える。
「だ、大丈夫か?なんか顔色悪いぞ?」
「ふふふ…君は僕を心配してくれているのかい?まさか、まだ僕の心配をする人が近くにいるなんてね… 非常に喜ばしいことだよ…」
「そ、そうですか」
なんか敬語になった。 こいつマジでやばそうだな…
「それじゃあ行こうか… 僕と同じ床を踏むことは不愉快極まりないかもしれないけど、少しの間だから我慢してくれ…」
「はぁ…」
ちょっと?この人もう手遅れなの?なんかもうすごいドス黒いオーラを感じるんですけど?放っておくと内なるサイコが出てきてとんでもないことになりそうなんですけど?
こんな風にしてしまった女子達を許してはいけない、そしてこんな風にならないためにも、女子には関わらないようにしなくてはいけない(戒め)
こいつと2人で歩くのはすげー気まずいんだが。こいつ何も喋らんし。なんか話しかけてみるか…
「なあ安倍? お前は給食で嫌いなものはないのか?」
とりあえず話題を振ってみた。
「そうだね…給食のメニューは基本的には何でも食べられるよ… 強いて嫌いなものを挙げるとするならば…人間かな…
人間は醜い… たった一度の過ちで人を悪者だと判断し、攻撃の対象にする…本当に醜悪な存在だよ…」
「あー、うん、そうだな」
ちょっとした会話をしようと思って話しかけたのを俺は激しく後悔した。
嫌いなものあるか聞いただけなんだけどなぁ。
「おい新井、安倍、何ボサッとしてやがる!急げ!」
いつものようにまた松山に怒られる。
「ちっ… あの豚野郎め… いつか切り刻んでやる…」
「!?」
怨念のこもった安倍の声が聞こえてきた。えー… 怖いよこの人やだよもう。
もう 一生学校休んで、どうぞ。
女子が着替え終わって帰ってくるまでに俺と菊池と松山と安倍の4人で教室に必要なものを運んでおいた。
やがて女子も帰ってきて 相沢と福井さんも加わり、6人で準備を進めていく。
本日のメニューは セサミパン、ビーフシチュー、鮭のムニエルにもやしのナムルだ。
いつものようにできるだけ少ないものを選別する。今日は割と早めに決断し、それなりのものを獲得することができた。
だが、今日はセサミパンという強敵がいる。 久しぶりにあの技を使う時が来たようだぜ…
今日も技を使う時のシュミレーションを脳内でしながら、準備を進めていったのである。




