第10話 そう、それは粗相
1年以上空いてしまいましたが、復帰しました。
少しずつ投稿していこうと思います。
闇を抱えまくった安倍と友達になってしまってから一夜明け、いつものように学校に向かっていた。 少し遅れてしまったため登校班は先に行ってしまったようだ。
今週はあと2日だ。逆にあと2日もあると思うと、うんざりもする。
だが、学校も嫌なことばかりではない。
運動神経がないなりに体育は楽しいし、国語も漢字の書き取りは嫌いだが、教科書の作品を読むのは面白い。
特に注文の多い料理店とかやまなしはなんとなく好きだ。クラムボンの意味はイマイチわからんけど。
まあとにかく悲観的になる必要はないってことだな。今日もなんとかなるだろ。
俺の心には僅かであるが亀裂のような隙が生まれていた。
それを押し広げるような、ちょっとした事件が起こることをこの時は知る由もなかった。
× × ×
「はい、それでは今日の授業はここまでにします。 今日習った曲は再来週テストするのでリコーダーを家に持って帰って練習しておくように。」
今日の4時間目は音楽だった。我々男子にとって最も苦手な科目の一つである。 音楽に造詣のある男子は少ないし 授業自体退屈なので授業中の私語が多くなりがちなのだ。よって怒られるのも男子が多く、俺自身も音楽のある日は憂鬱になる。
なんで音楽の先生ってあんなにヒステリックに怒るの?
なんで音楽の先生ってすぐ担任の先生に言いつけるの?
お陰で音楽の授業中に先生が様子を見に来ちゃうじゃないかよ、担任の先生に見られながらの音楽の授業の怖さは異常。
「それと先程のリコーダーの習熟度チェックでD以下だった者は今からもう一度1人ずつチェックしますので先生の前に並びなさい。合格が出たら帰ってよろしい。」
「えーーっ!」
「マジかよ~」
「だるすぎだろ」
クラスのみんなが不満の声を口々に漏らす。 ちなみに俺はCだったのでなんとか回避したが菊池はD、松山はEだったらしいので当然居残りである。
「いやーめんどくせぇなー、 なんで居残りなんかしなくちゃいけないんだよ、なあ新井?」
音楽教室でも一つ前の席の菊池が振り向きながら言った。
「まあ俺は居残りじゃないけどな。まあ頑張れや。」
「はぁ⁈マジかよ、裏切りやがってー」
「いやいやさっき先生が全員の評価読み上げてただろ。聞いてなかったのかよ」
「他の奴の評価なんていちいち聞いてねーよ、はぁ…俺国語や算数は別に嫌いじゃないけど音楽だけはどうも苦手なんだよなあ~」
菊池は体育は言うまでもなく完璧で国語や算数、理科社会もそれなりにそつなくこなしている。が、やはり俺たちと同じように音楽は苦手のようだ。
「まあ給食当番あるから先教室戻るぞ、お前も早く終わらせてくるんだぞ」
「ちぇっ、わかったよ」
そう言って菊池と別れた。 早く終わらせろと言ったが、音楽の先生のチェックは厳しい。 終わる頃には給食の準備もある程度進んでいるだろう。
今日は2人がいないからさっさと準備しないといけないな、早く教室に戻ろう。
俺は足早に教室に向かった。
× × ×
教室に戻り教科書やらなんやらを片し、給食着を付けていると 相沢と福井さんも教室に戻ってきた。
「あれ、新井 今ここにいるってことは居残りじゃなかったんだね。」
「当たり前だろ、音楽の授業なんか給食に比べたら余裕だろ」
「C評価でギリギリ回避しただけじゃん。」
ぐっ… 知ってて言ったのかよ…こいつなんで人の評価バッチリ把握してんの? そんなに人を馬鹿にしたいの?
「うるせぇな、そういうお前はどうだったんだよ」
こいつの評価を聞きそびれていたので聞いてみた。
「S+だったよ。福井さんはどうだった?」
相沢は隣にいた福井さんに聞いた。
「私はSだったよ。相沢さん、すごいね。」
「そんなことないよー、たまたまだって。女子でもSは少なかったし福井さんも十分すごいよ」
「そうかな、えへへ…」
なんやこいつら… S評価なんて男子にはいなかったぞ…
女子とは採点基準が違うのか? 音楽の先生って女子に甘い気がするなあ…
というかS+とかあるのね、ス○ラトゥーンならすぐSに落ちるな。
「ぼくはA評価だったよ、新井くん」
突然の背後からの声にたじろいた。
「うおっ!なんだ安倍か。急に後ろから声かけるなよ。心臓止まるわ。」
「何を言っているんだい?ぼくはずっとここにいたよ」
いやそっちの方が怖いわ。 もうちょっと自然な流れで話しかけてもらいたいものだ。
「まあいいや。A評価か、やるじゃん」
一応褒めておいた。
「ふふふ…ありがとう新井くん。 男子ではぼくが唯一のAだったのに誰も褒めてくれなかったからさ… 賞賛の声が聞けて何よりだよ…」
め、めんどくせぇ… 別にわざと褒めなかったんじゃなくて誰も音楽の評価なんていちいち気にしてねえだけだろ…
「そうだったんだ… 」
「よ、よかったね…」
女子2人も一応安倍を褒めた。とっても顔が引きつってらっしゃる。
自虐ネタは仲良くない人に言われるとガチっぽく聞こえるからやめようね。
ぼくたちは小学生、明るくいこうよ。
「ありがとうお二人さん。じゃあ、給食を取りに行こうか」
いつもより少しだけ明るい声で安倍は言った。
そして教室を出ていこうとした時、安倍は何か大きなものにぶつかった。
「うわっ!」
安倍は尻餅をついて倒れた。 ぶつかった大きな何かは俺たちに怒鳴った。
「おいお前ら!居残りじゃなかったのになんでまだ教室に居るんだ!早く準備するぞ!」
やっぱり松山だった。
「いやいや、お前居残りだったのに早すぎるだろ、どうやったんだ?」
俺は安倍を助け起こしながら聞いた。
「あぁ?そんなもん1発で終わらせてきたんだよ、A評価でな!」
「マジかよ…」
E評価だったのに1発でA評価にするってどんなトリック使ったんだよ…恐るべし、空腹パワー。
「てかそんなことはどうでもいい! 早く行くぞ、給食が俺を待っている!」
ドスドスドス…と嵐のように走り去って行った。
「大丈夫か安倍?」
「…」
安倍は答えない。
「お、おい」
怪我でもしたのかと心配になってくる。
「あ、安倍?」
「…海か…山だな…」
安倍はボソボソと呟いた後立ち上がり、ゆっくりと歩き出した。
その後に俺と相沢と福井さんが続く。
歩きながら相沢は俺にそっと耳打ちした。
「ねぇ、海か山ってどういう意味?」
「夏休みの計画じゃないかなぁ」
「絶対違うと思うんだけど…」
そういうことにしておこう。それ以上は考えてはいけない気がする。
× × ×
ワゴン車の前に到達。
本日のメニューは 肉じゃが、ツナサラダ、ご飯、いよかんだ。
今日の敵はツナサラダだな…
まずは皿を運ぶか… ワゴン車からゆっくりと皿の入ったカゴを下ろす。
その時、なにやら横で安倍と松山が争っていた。
「おい… 離せ安倍…! この肉じゃがは俺が運ぶんだ…!」
「君こそ離したらどうだ…!基本的に運んだ人がそのメニューの配膳をするからね…! 君が自分の分だけ山盛りにするのは目に見えている…!」
2人で肉じゃがを取り合っていた。 どっちでもいいだろそんなもん…
やれやれといった感じで俺は皿のカゴを持って歩き出した。
しかし次の瞬間空気が一変する。
「うおおおおおお!! 肉じゃがは俺のもんだああああ!」
「うわ、ちょっと待て! あっ!」
「きゃっ!」
ガシャン!
松山と安倍、それに福井さんの声と鉄製のボウルが床に落ちる音が響いた。
振り向くとそこには転倒した福井さん、そして中身が半分以上床に溢れてしまったツナサラダがあった。