あたし、貴女といたくて。
校門をくぐった時、強い風が吹いた。
歩みを止めずに、落ちてきた前髪を払いながら下駄箱へと向かおうとした私の肩を誰かが叩いた。
「それ、ティファニー? やるね、大人しそうな顔して」
振り返ると長めの茶髪の先だけコテで緩く巻いたというような髪型の少女が立っていた。私は髪の上から冷たい耳朶を抑え、言い訳がましく言ってみた。
「偏差値50丁度の女子校で大人しい奴なんているの?」
「いねーか」
瞬きした彼女の顔のパーツの中で、何も触られていないのはおそらく睫毛だけで、その細さや長さが何だかいいような気がした。
「ねぇ、そういうのどうやって買うの? 彼氏からのプレ?」
それとも、なんかアブナイバイトでもしてたり?
さぁね、私は手首を摩りながら笑んだ。
それが私と快楽の出会いだった。
ケラはヤリマン。それは私達の学年では周知の事実らしかった。
「今井さんとなんかつるまない方がイイよ、同族だと思われるから」
金太郎飴よろしく似たり寄ったりの格好の彼女らが、私に忠告してみせても私はそんなことどうだって良かった。
ただ彼女が抱かれるときはどんな風なのだろうと、アダルトビデオの撮影のように無骨なカメラを構えて映像に収めてみたいというような欲を抱いた。
私はケラに嘘を吐いているのに。
ケラとは大体ファミレスやゲーセンで一緒に放課後を過ごした。一人だと褪せて見えるそれらが、彼女が側にいるということだけで某テーマパークのように輝いて見え私はずっと高揚した気分でいられた。つまらなそうなポーズをとっていても私の内心は彼女にはお見通しだったようで、イイ顔と顎を指で何度が擦られた。
私はケラに嘘を、吐いているのに。
ケラは男に抱かれている。楽しいからだと、自分の父親くらいのいい歳したおじさんが、娘くらいの歳のあたしのおっぱいべろべろして事後は気まずげに札を投げるのがたまらなく愉快なのだと。憂いを帯びた表情で唇を噛んだ。ケラは楽しいことや気持ちいいことがすきな自分を気持ち悪がっているようだった。
快楽に忠実で、性に奔放で何が悪いのと私が言うと歩美は強いねと言われた。
ごめんね、実は私まだなんだ。まだ清い身体なんだ。何度も言おうと思った。言えなかった。ケラはカマトトぶった女が大嫌いだった。
私のママが暴露た。パパも暴露た。TV番組で私の肩を抱いて、自慢の娘ですなんて言ったんだ。ケラは泣いた。
「家に居られないからっていつもいっぱいお金を置いていくの。それで大丈夫って言い聞かせてる。だから私も形で示すの。年頃の女の子だから、かわいいアクセサリーを買って、ママ、パパありがとうって」
「狡い、狡いよ歩美」
その通りだ。でも私はケラと一緒にいたかった。初めて出来た友達だったから、春を売っているフリをしていた。
ウチが金持ちなのも、ケラの家庭がぐちゃぐちゃなのも私達の所為なんかじゃないのに、私達の前にどうしようもなく大きな壁として立ちはだかっていた。
「ばいばい」
私は泣けなかった。ケラは何も言わなかった。
ケラを胸に抱きたかった。金で彼女が買えるなら、いくらだって払った。でも私はおじさん達のように成り下がりたくなかったし、ラブホテルの一つも知らないのだ。ケラが好きだった。彼女とずっとカラオケや雑貨屋にいたかった。好きだった。
屋上には温い風が吹く。私はフェンスにもたれ掛かって、喪失感に瞼を閉じる。
聞こえるはずのない声がした。
「それ、ティファニー?」
ケラが笑って、私は泣いた。
私はケラの胸に抱かれながら、ケラの子供として生まれ変わりたいと願った。
「私を産んでくれる?」
ケラの快楽の果てに、私は産まれることが出来るだろうか?




