表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/17

#6:手紙

亮平へ


 こうして手紙を書くのも三度目ですね。今年も見事な桜が咲きました。川辺の道を覆いつくしそうな、見事な桜です。

 きのう、私のクラスの生徒たちが卒業しました。笑いながら、泣きながら、桜並木をくぐって巣立っていきました。あの子たちの表情を見ていたら、一年間の苦労がどこかに飛んで行きました。それと、例年通り、『仰げば尊し』に、やられました。

「何度経験しても慣れないことは、弱点だと諦めてしまった方が、次の日にもっと強く、素晴らしくなれる」

 覚えてますか。忘れてませんか。君の言葉です。

 毎年必ずやってくる、卒業式と君の命日は、どうやら私の永遠で最大の弱点みたいです。

 桜並木道を歩くと、最後に手を繋いで歩いた日を思い出します。私がメガホンを手にして映画を作ったら、ちっとも変わらず再現させる自信があります。

 あの日を、あの瞬間を、私は何一つ忘れていませんよ。

 顔に似合わず、ちょっと無骨なてのひら。

 私が誕生日にプレゼントした香水の控えめな匂い。

 細い目。

 お日様できらめいた無精ひげ。

 幸せそうに桜を見上げる横顔。

 取りとめもなく交わした会話の全部。

 君は教えてくれましたね。

 「僕の実家では、山に積もった雪が風で舞って街に降って来る。本当に綺麗なんだ。一度見においでよ」

 風花―かざはな―と言うんですよね。一緒に見上げることはできなかったけれど、君が不思議がった私に一生懸命説明してくれたから、そのときのイメージがちゃんとまぶたの裏に残ってますよ。きっと、こんな景色で、とても綺麗なんでしょうね。

 そうなんです。この手紙を今、桜の  下で書い  ます。面倒くさがりの私がこ  こ をす  んて、  と君は信  いでしょう。だから証拠に、便箋に花びらを挟んでおきます。

 涙が落ちてしまいました。春の風なのに、なんだかとっても冷たいんです。風に舞う花びらが、まるで雪みたいに思えてきます。

 毎年のように、手紙を煙にして送ります。ちゃんと、真っ直ぐ届くように、風の無い日に送りますね。

 手紙を読んだら、返事なんかいらないですから、ちゃんと見ていてください。来年こそは、きっと泣かずに春を迎えますから。


美穂より



追伸


 君のお墓に桜の花びらがついていて、先を越された気がして、いろいろ思い出して、結局泣きました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ