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第二話

 奈子原明乃十五歳。花も恥じらう高校一年生。中学では内気で大人しかったけれど高校で華々しく高校デビュー! ……だったらよかったのだが、高校デビューどころか友達一人作れず、得意の妄想でぼっちな日々をリア充な現実に置き換えて過ごすことが唯一の楽しみである。

 

(よーし、今日のイメトレはばっちり! 今日こそクラスの皆と打ち解ける!)


 ガラッ。

 勢いよく教室の扉を開けて一歩踏み出す。


 挙動不審を抑えるため、目指す自分の机を一点に見据え唇を一文字に結ぶ。半年たっても馴染めない教室に「今日こそは!」と力の入りすぎた手足は左足と左手が同時に前にでる。


「おぉおお、おはよぉ………」


 一生懸命出した第一声はすぐに宙に溶けて消えていく。汗がダラダラ吹き出て、真っ赤になった顔を隠すようにいつものように下を向いてしまう。


(やっぱり爽やかな朝の挨拶なんてできないよー!!)



『明乃、遅刻ギリギリじゃん! 寝坊したの?』

『そうなのー! ママってば起こしてくれないんだもん』


 机にカバンを下ろすと後ろの席の紺ちゃんが明乃の背中をツンツンしながら声をかけてくる。


『ママのせいじゃなくて寝坊助明乃のせいでしょ』

『ひゃあっ!』


 背中の指をツーっと滑らせ紺ちゃんが『ニシシ』と笑う。明乃は真っ赤なほっぺを膨らませ、穏やかな朝を迎えるのであった。



「ふへっ」


 あぁ、やっぱりコレに限る! と泡立つ心を落ち着かせる。


「暗乃また一人で笑ってる」

「こわっ」


 少し離れた席から派手なグループの女の子達の呟きが聞こえてくる。名前とは裏腹に、いつも一人で妄想に励む明乃のあだ名は、物心着いた時から「暗乃」だった。最初にそう呼んだのは一つ年上の従兄弟で、大好きなお兄ちゃんがそう呼ぶなら!と、すんなりと受け入れてしまったため今更なんとも思わない。


(せめて面と向かって悪口言ってもらえたらお話できるのに……)


 はぁ。とため息をついて机に顔を伏せて、周りの雑談に耳を傾け教室の喧騒の一部に溶け込む。


「鬼良古夜美マジムカつかない?」

「わかる! なんかお高くとまってて、この間プリント集めようとおもって肩を叩いたらすごい勢いで払いのけられちゃって……」

「えー、なにそれ! 酷い!」


 一年D組にはクラスから浮いた存在が二人いる。一人はいつも孤独に妄想に耽る明乃。もう一人が今話題に登っている鬼良古夜美である。

 ゆるい天然パーマに赤い顔、容姿成績何をとっても中の下の明乃とは違い、絹のような黒くまっすぐな髪に切れ長の伏せた瞳が印象的な誰が見ても美少女なのが鬼良古夜美だ。


 誰とも馴れ合わず、その美貌に寄ってくる女子も男子も冷たい視線で一瞥し追い払っていたらいつの間にか浮いた存在になっていた古夜美は明乃の憧れの存在だった。影で師匠と崇め奉っている。


「鬼良なんか事故って学校しばらく休んじゃえばいいのに」


 それは言い過ぎじゃないかなーと思っていると、明乃の前の机がガタッと揺れた。

 目の前の席の主である古夜美は、今日も絹のような髪を一つに結び赤い眼鏡がクールな瞳を更に印象的に映している。


「馬鹿ね。人を呪わば穴二つ。何気ない悪口だって立派な呪詛よ」

「え?」


 古夜美がボソッと何か言ったような気がしたが、朝のホームルームの開始を告げるチャイムが鳴り響くと同時に担任が現れたため確かめることはできなかった。


 例え担任が現れなくても、確かめることなんてできなかったと思うが。

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