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橘くんと草間くん。  作者: 柳蓮
7/8

第一話『同室』(6)

「橘くん、教室では助けてくれてありがとう」


寮に戻り、草間は橘にお礼を言った。

きっとまた素っ気ない態度なんだろうと思ったが、助けてもらった事に対し礼を言わないのは気が引ける。

別に自己満足になっても構わないから、草間は橘にお礼を言いたかった。


しかし橘の反応は草間の思ってたのと少し違う。

橘は大きなため息をつき、うつむき気味に頭を掻いた。

そして大きな瞳で真っ直ぐと草間を視界に捕らえる。

その力強い視線に草間は思わず体が強張り、そして目を反らす事が出来なかった。


「はぁぁ、もう我慢できない…」


吐息混じりに聞こえた言葉と熱を帯びた瞳に、心臓がドクンと跳ねる。


ゆっくりと距離を詰められ、伸ばされる腕。

あと数センチと迫って、自分は今、息をしてるのだろうかとわからなくなる程に頭が真っ白になる。

初めて会った時に綺麗だと思った顔が今目の前にある。

そして―――――――――








「って、なんじゃそりやぁぁぁぁぁっ?!」



ある寮の一室にて、草間は吠えた。



(お礼言うだけだろ!俺も彼もノーマル!問題ない!)


さっきから何度こうやって自分に言い聞かせていることだろう。


同室に自分の貞操を奪われるという過ぎた妄想が脳内でビジョン化し、焼きついて離れないのだ。

腐ネタとしては大変美味しいが、それは自分が第三者である事が絶対条件であり、我が身に降りかかるとなれば全くの別物だ。


同室がリアルBLと決まったわけでもないのにそわそわする気持ちはおさまらない。

8畳ー間の部屋の中を行ったり来たりと忙しなく回って落ち着く努力をしてみるが、同室が中々部屋に戻ってこないので、緊張が長引き、不安は広がるばかり。


(なんで帰って来ないんだよ~?!いや、ずっと帰って来ない方が理想だけど、でもそれはそれで気持ちの整理がつかないような…?つか、なんで自分、受け設定だよ?)


自分の妄想にすら凹みたくなった時だった。


ガチャ


「あ!」


待ち人来る。

部屋のドアが開いた瞬間、目と目がはっきりと合ったので思わず声が漏れてしまった。

橘も目があった事で何かあると感じたのだろう。怪訝な顔でこちらを見ている。


「さっ、えっとあのぉ~、きょっ、教室では助けてくれてありがと……ございました…」



(いっ、言えたぁー!)


心の中でガッツポーズする。

邪な妄想もあってか、真っ直ぐな橘の視線に耐え兼ねて、しりすぼみしてつい同級生に対し語尾が敬語になってしまったが。


(大丈夫。80点の出来だ!)


ちゃんとお礼を言えたので、そこだけ評価してよくできましたと自分を褒めた。


(よし!これで終わり!任務は完了!)



草間は妄想が現実になることを恐れて、早々に決着をつけようと自己完結を急ぐ。

しかし、リアルとはなんと残酷な時を刻むのだろう。


「はぁぁ~…」


お礼を言っただけなのに、橘は大きなため息をついて頭を掻き、そして力強さを感じる大きな瞳が草間を見据える。


そして次の瞬間、草間は氷ついた。


「もう我慢出来ない…」


たぶん、一瞬だけど息をするのを忘れたと思う。


(え?ちょっと待て。何この展開?!)


顔がひきつり、冷や汗が頬をつたう。

ただの妄想が現実という3D化を果たして、自分が当事者じゃなければ両手を挙げて嬉々としてこの状況を楽しんだだろうが、生憎と自分の貞操を危機に晒して喜ぶ展開ではない。




(バルコニー出るにも窓開けてる暇なんてないし?!ドアの前にいるからすり抜けるにもなぁ~…一旦ベッドに逃げて…って一番ダメだろ?!そこはッ)



一人問答しながら狼狽する草間の様子にイラついたのか橘は顔をしかめ、不安を更に助長する行動に出た。



ガチャッ



沈黙する八畳一間の部屋にその音はハッキリと鳴った。

聞き間違いじゃなければそれは、部屋の鍵が閉められた音で確かだろう。


ぶわっと全身から冷や汗が吹き出る。


「なっ…なななっ何で鍵閉めるの?!なんの意味がっ?!」


思いがけない事に心の声が口から出てる事など気にもならなかった。

妄想の展開と同じように橘は無言で少しずつ近づいて来る。

一歩近づけば一歩下がり、距離を保とうとしてもここは室内。当然、壁という限界地点がある。


草間の背が限界地点に当たると、保った距離は徐々に詰まり、そして橘のほっそりとした腕が伸ばされる。


「おっ…お願いですからっこれ以上近づかないで下さい!!俺ノーマルですからっ!!」


腕があと数センチと迫ったところで、草間はギュッと目をつぶり、両手を前に突き出して橘を制止するような形の姿勢を取った。


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