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第一話『同室』(5)
「あいつマジムカつくわ」
そう言ったのはさっき教室で草間に絡んだ石場だった。
椅子にドカッと座り、机に肘をかけて背もたれに体を預け、同室の川北に話しかける。
「誰?あの暗い奴?」
「ちげぇよ、橘って奴。正義感かざしてんじゃねっての!何が空気読めだよ!?上から目線かっつーの!?」
「まぁ、見てくれもいいし、自分に自信あっからああいう事出来るんじゃね?でも、あそこで橘が止めなかったら、お前クラスでアウェイだったっしょ」
「だから余計ムカつくんだよ!」
口を尖らす石場に対し、川北はカラカラと無邪気に笑う。
「ははっ、別に恩に着る事もないでしょ。憂さ晴らししたいなら格好の相手もいるし?」
「ああ、あの暗い奴ね。そうだなぁ、見ててイライラするしな」
川北のあくどい表情を見て、石場もにやりと薄ら笑いを浮かべた。
晴れやかな春の門出の日。
昼下がりの寮の一室で談笑する二人が会話の話題に事切れる事はなかった。