生徒会長と不思議ちゃん……ハク君は三歩下がって傍観中
◇◇◇◇◇ハク
女とは、よく分からない生き物だ。と俺は常々ひとりの友人から聞かされていたが、いやはやまったくその通りだと認めざるをえない。
俺の目の前には、生徒会長と……あぁ、(名前は忘れたのでこう呼ぼう)不思議ちゃんがいる。
最初はこの2人、どうも険悪なムードだった。俺が1人で黙々と要塞内の機械や本物を騙る偽物を全滅させながら進んでいき、偶々合流した生徒会長。
というより、吹っ飛ばされてきた。
ぴゅーっと。
「ゴボゴホッ……あいつ、今度会ったら許さーーん? おお! お前は確か、白王 帝ではないか。久しぶりだな」
「そういう貴方は……生徒会長」
「ああ、うん。お前も私の名前を覚えてはくれないのだな。分かってたけど。悲しいなぁ誰からも忘れさられる自分の名とは」
生徒会長は唐突に愚痴を言いだした。何だか可哀想なので付き合う事に。意外と面識は地球にいた時からある。今更別行動をとる理由もないので、2人でとりあえず上を目指しながら。
「忍なんか、私を女としても認めないのだぞ。なあ私ってそんなに異性として認識されないのか?」
忍という人のは、また特殊だろう。
「少なくとも俺は、貴方を異性として認識するより、どうしても生徒会長というイメージが先にきます。規律を重んじる生徒会長という役職が男にベタベタするのはあまり一般的ではないですし、仕方のない事では?」
私べつに規律とか重んじてる訳じゃないもん、と生徒会長は幼児化した。
「あー! 私だってモテモテを味わいたいんだぞ!? 何だ霰の奴! 色んな人間から惚れられて。私はただの1人からも告白された事はないのに!」
それは貴方の性格も少なからず関係しているのだと、俺は言わない。
「……一つ、アドバイスをしましょうか生徒会長」
「なにっ、お前は神か!?」
「いえ……貴方は俺を、異性として認識していますか?」
「うむ?」
生徒会長はしきりに唸った後、こちらのプライドをへし折る勢いできっぱりと断言した。
「ないな」
「つまり、そういう事です。俺たちが貴方を異性として認識する前に生徒会長という壁を作ってしまうのは、貴方自身が俺たちを1人の生徒としか見ていないからです。
脈なし。男たちは悟り、貴方に告白する前から振られているようなものなのですよ」
多分。
「あ、ああ、なる……ほどな。最初から私がモテモテになりたいなどと、傲慢な話であったのか」
「ええ。だって貴方は、例え誰から告白されようと等しく断るでしょう」
「あぁ……あ、待てよそんな事はーー!」
生徒会長の言葉を遮るように現れたのは、不思議ちゃんであった。
ぬうっと。どこからともなく。
俺が存在に気づけなかった。本能的に悟る。王人先輩と同様に警戒しなければならない相手……いや、もしかすると、それ以上の…….
「呼ばれてないのにじゃじゃじゃ、じゃーん」
「お前は確か、ワンダーではないか」
そういう名前だったのか。
「王人と共に暮らしているのだろう。な、な、私に聞かせてくれないか。あいつの普段はどんななのだ?」
「教えん」
「……んー?」
ここまでは大丈夫だった。人のプライベートなのだからと、生徒会長も遠慮は知っているのだろうから。
しかしワンダー……(やはり、こちらの方がしっくりくるので)不思議ちゃんの態度に問題があった。
「な、なら奴の恥ずかしい事などないのか? ほれほれ、言ってみても損はないぞ」
「ぶっぶー、ナイショ」
「ほ、ほーぉ……ならば奴の」
「ふっ」
鼻で笑った。
「……なぁワンダー。もしや貴様、私に喧嘩を売っているのではないか?」
「冗談、教える」
「む、そうか」
「うん、王人はね、ダンジョンでね」
ここで不思議ちゃんは、生徒会長の耳に内緒話でもするかのように囁いた。
「呼吸してました〜」
ブチッと、生徒会長からそんな音が聞こえた気がした。よく分からないが、女の戦いはすでに始まっていたらしい。
俺は巻き込まれないように、後ろに下がって他人のフリをする。
「私が嫌いかワンダー」
「好きじゃない。嫌いでもない」
あえて言うなら「大っ嫌い」。むしろ「気にくわない」と、不思議ちゃんは宣戦布告した。
「……私も今、貴様を嫌いになったかもしれんよワンダー」
「私の事は、不思議ちゃんと呼べ」
公式だったのかその呼び名。
「不思議ー? 不思議なのは貴様の思考回路だろうお花畑。大体何故どうして貴様は王人の味方をするんだ。私から言わせてもらえば、気がしれん。
あいつは死んだ友人と死にかけの他人なら、死にかけの他人を気にかけるほど変わった奴だぞ?」
そして死んだ親友と死にかけの友人なら、死んだ親友を気にかける。そんな、曖昧な線引き。
「……オオトの事、そーゆー風に言うんだ。言っちゃうんだ。あーあ、そーなんだ。いいんだ。本当に?」
「な、なんだいきなり」
「オオトに教えてあげよっか……なー」
不思議ちゃんというより今はーー不気味ちゃん。誰か教えてくれ。王人先輩でもいい。俺には分からないんだ。目の前では何が起こっているんだ?
「教える、だと? それ、それは一般的に、チクリと言って嫌われるぞ」
「うん、嫌われるかも。貴方が」
「……王人は奈落の底より深い深い心を持っているから。だからそんな事、絶対に、ないもん」
「あるもん」
誰だこいつら。
「貴様なんて知り合って1年くらいしか経ってないだろう。私なんてなぁ、2年だぞ2年。200パーセントの違いだぞ恐れ入ったか」
「これだから、無知、怖い」
「なに?」
「量より質。空気だけのでっかいゴミ袋より、宝石の入った小さな宝箱の方がいい。だから、私と王人の仲はミスリル。硬く、そして柔軟。
わかった、ゴミ?」
「私をゴミだとっ……笑わせてくれる」
「ふっ、笑止」
2人の犬もくわなさそうな口喧嘩は熾烈を極め、遂に拳と拳で語るときが来たかと危惧したその時、天井から虫が降り注ぐ。
2人の反応は素晴らしく憎たらしく、惚れ惚れするほど極自然に虫の群れをこの世から抹消した。片や格闘技にも近いが、しかし暴力的な近接戦闘で、片や最早暴力としか言いようのない圧倒的魔法で。
俺はただ、死骸の体液に触れぬよう体を横にずらすだけでよかった。
「貴様との不毛な言い争いはひとまず終了だ。全く、どこのどいつだか知らないが、憂さ晴らしに付き合ってもらおう」
「ムカムカ。収まってない」
……頑張れー。
俺はやはり何もせず降り注ぐ体液を避ける。途中、四方八方から繰り出される鉄以上の強度を誇る糸も、細切れとなって地に落ち。地面から湧き出るツタも燃やされ。壁から飛び出す何かも消され。
ざっと数百の戦いを終えた戦場とこの部屋が成り果てた時、やっと本命が現れる。
「付け焼き刃とはいえ、数十を超えるスキルを惜しみなく使ったというのに……やはりこんな世界で信じられるのは己のみ、ですね」
扉からひょっこりと顔を出した月姫。そんな彼女を容赦なく、生徒会長は切り裂いた。
だが月姫は消え。
逆側の扉へと現れる。冷や汗を流してはいるが、無傷だ。
今度は誰の攻撃か……その前に月姫は、自分のスキルを使い終わった。
「白王さん、私は味方でその2人こそ本当の敵です!」
生徒会長と不思議ちゃんが、今度は俺に攻撃を仕掛けてきたので、無言で手をあげる。
何もしない俺に疑問を持ちながら、ギリギリのところで双方武器を下ろしてくれた。危ない危ない。ほんとうに、危ない。一瞬走馬灯を見てしまった。
「……残念だったな」
「嘘っーー!」
「悪いが現実だ」
鎧の形を剣に変えて月姫に斬りかかる。
「くっ、ローディング!」
確実に斬って手応えもあったはずだが、先ほどと似たように月姫の姿は消えた。
不思議ちゃんが杖を動かし、行方をたどる。ポーンと間の抜けた音がして、すぐに突き止めた。
「上」
たった一言で、俺たちは上をめざす。今更疑うはずがないから。
階段を駆け上り、競うように不思議ちゃんと生徒会長が並ぶ。怖いので、少し遅れて後に続いた。
「……不思議よ」
「不思議ちゃん」
「ふ、不思議ちゃん。これで満足か」
「別に、満足ではないけど。でも、分かった。許す」
「何をだ……」
ため息混じり生徒会長は、しかしフッと、笑みを漏らす。そして不思議ちゃんもまた、フッと笑う。
……女というのは、よく分からん。
さっきまでいがみ合っていたかと思えば、一戦くぐり抜けると、目の前で仲良さげに談笑しているではないか。
「なにっ、あいつは寝言を言うのか!」「時々」「ほー……それで」「この前、くたばれピーマンって言った」「くははっ、一体なんの夢を見ているのだ」
まあ、いいか。
「ところでハクよ」
急に話しかけてくる生徒会長。
「さっき、月姫はお前にスキルを使ったはずだが、どうして効かなかったのだ?」
「……さっきの言葉、例え2人が敵だった場合でも、あなた達にとって月姫もまた敵である事に変わりはない」
「つまり?」
「……発言を訂正します。月姫が味方なのとあなた達2人が敵だとして、どうしたって前者をとるにこちらの利点がなかっただけです」
「ああ、寝返った訳なのか」
納得する生徒会長は、「まあ、それでいいならいい」と言って、再び不思議ちゃんとの話に熱をあげる。
……本当の事など言えるか。
例え月姫が味方であろうと、あなた達が味方であろうと、俺は全てーー
◆後書き◆
つまり、前提条件に、生徒会長と不思議ちゃんは敵だととっくに思っているから、ハクには月姫の言葉が通用しなかったのですね。
「私を殺すのは後の方が有利ですよー」
とか言ってれば、月姫は後回しになっていたでしょう。
◇◇◇◇◇
「揺れる夕日の夕方で」
短編です。別作品紹介です。日刊ランキングに載っているアレに影響されて書きました。……こういう紹介って、違反だったっけ?
 




