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異世界ダンジョンウォーズ  作者: watausagi
早くココに会いたい
8/85

魅惑のビンタ

◇◇◇◇◇


——俺の視界のブレが収まる。


自分のダンジョンに帰って来た……と同時に、ドンッと体へ衝撃。


何これデジャブ。


俺の目の前には、ラピスがいた。狩人殿は……いないらしい。約束は守っているようだ。ここは玉座さんの部屋だからな。来てはいけないと、そう言ったから。


「悪いラピス、心配かけたな」

「……まったくだ」


誰のマネをしてるのか分からないが、涙声でそんな事を言われても……


とりあえず頭を撫でる。どうか機嫌を直してくれ。ココの生暖かい視線が痛いんだよ。


「そろそろ離れてくれ……ほーらラピス、今日はお客さんがいるんだぞ」

「ん?」


反応を見るに、気づいていなかったらしい。ラピスは俺を抱きついたまま視線を横に移動して、ようやくココを見つけた。


……おいおい、今度は裸にはするなよ?


「こんにちは、ええっと……ラピスちゃん? ボクはココ。よろしくね」

「……うむ、くるしゅうない」


だから何の真似だよ。

ラピスはいつも何に影響されているのか、甚だ不思議だ。絶対に何の意味か分からず言っただろ。


「は、はは……ラピスちゃんは可愛いね」

「……うむ、くるしゅうない」


ん? 今ココ、ラピスの事を可愛いと言ったか? ラピスを? 可愛い?

まさかココ、忍と同じくロリコン? ラピスの事を、狙っているだと?


「な、何かな王人、なんでボク睨みつけられてるの?」

「へ? いや、睨みつけてなんかないよ。ココもおかしな事を言う。

なあラピス?」

「うむ、苦しゅうなくない」


……


「まあいい、狩人殿が心配しているだろうし、早く下の階へ行こう……とっと、その前に——異世界マップ起動」


音も無く、床一面にダンジョンありきのマップが表示された。前回見た時と変わらないはずなのに、この前は自分でも意識しないくらい焦っていたらしく、こう見ると新たな発見もある。

まあ、変わってしまったのもちゃんとある。


Dの10。


ダンジョンの色は、赤。これはまずい。非常にまずい。美人さんが何か手を加えなければ、戦争は始まらないと思っていたが、この状況だとそれも確かとは言えない。


美人さんが何もしなくても戦争は始まりそうだ。剛だって言っていた。近くに殺人鬼がいるかもしれない。だから、強くならないといけない。事実は違うのだが、周りの解釈によってそんなもの幾らだって変わる。思い込みとは厄介なものだ。


俺の右下はまだいいとして、こうも連続で左上のダンジョンが死んだとなれば……そこから戦いの幕は開けそうだし。そうなるとココも危険。


どうする。このままココをこのダンジョンに暮らさせるか?


……いや、ココも子供じゃない。自分で考える事ができるし、何でかんでも俺に任せっぱなしというのは、ココ自身が許さないだろう。だったら俺は、ココが何も言わない限り何もしない。


「行こうか」

「……うん」

「苦しゅうない」


ココがクスリと笑った。何故か可愛く偉そうな顔をしているラピスの頭を撫でておこう。


〜〜〜〜〜


「く、く、苦しゅうない……!」


ラピスが目の前の事態に驚いている。狩人殿も、目を見開く。今日は昼ご飯作らなくていいと言ったら、とても残念そうな顔をしたのだが、それも今となれば関係ない。


——なんか見た目からして違うもの。


例えるなら俺のは鉛筆の芯。ココはダイヤモンド。ちよっと違うだけで、こうも変わるとなると……頑張ろうという気持ちになった。俺だってこのまま残念な感想を貰うだけの男じゃない。絶対にいつか、美味しいと言わせてやる。


……が、今はそんな野暮や事を考えず、ただ目の前の食事にありつこうとしよう。


「ラピス、食べる時はいただきますだぞ」

「くる……いただきます……!」


苦しゅうないキャラで通すよりも、食べたいという食欲に抗えなかったらしい。

まだ湯気の出る料理を、ハフハフ言いながら食べている。

俺も一口——……何でだろうな。何で炊くだけなの米まで味が変わるんだ。久しぶりのココの料理に泣けてきた。

狩人殿も、目を瞑りながら上を見上げている。目頭が熱くなるって言うんだっけ。


「ど、どうかな……?」

「美味しいに決まってるだろ! あぁ、ココは流石だ。なあラピス?」

「ハフッ……うまうま」

「とても……とてもっ、美味しいと思うです」


満場一致。ココの料理が不味いとか言う奴は、舌がおかしいか嫉妬の類だ。


「世にこんな美味なものがあるなんて、感動ですね。

ラピスを1人おいた時は何事かと思っていましたが、これ程の腕前を持つコックを迎えに行ったのなら、それも仕方ないのかもしれないです」

「は、ははは、褒めすぎだって。

お代わりもあるから、たくさん食べても大丈夫だよ」


少しは残してくれないと困るがな、妹達にあげるんだから。


——そうそう、お気づきだろうか? ラピスはなんとご飯食べれるのだ。排出行為はしないくせに、一体どんな体してるんだよ。

確かに食べれないとは言わなかったかもしれないが……お陰で狩人殿から変な目で見られた。

まあ分かりやすく言えば、ココの料理マジスゲーーーって事なのだ。


「いいお嫁さんになるな」

「……王人」


ジーっと睨みつけられる。全っ然怖くないのだが——むしろ可愛いのだが—嫌われるのも嫌なので素直に謝る事にした。


——食べ過ぎた、というくらい食べた食べた。小学生の頃は腹八分がよく分からなくて、というより無視して最後に苦しい思いをしていたが……まるで子供に戻ったみたいだ。

もう、動きたくない。


「それに……眠くなってきた」


皿を洗おうとするココを見ながら、悪いとは思いつつも眠気に逆らえない。睡魔とはかくも恐ろしいのか。

だが、机に突っ伏しそうになるのを、何とか踏ん張る。作ってくれたにも関わらず、さらに後片付けまで任せてはあわせる顔がない。


……いっそ手をナイフで突き刺すか? シャーペンと同じだ。


眠気を覚ますため、そんな物騒な事を思っていると、ラピスが来た。


「どう……した、ラピス?」

「ラピス、やる」

「皿洗いをか? ……いや、でも」

「頑張るよ」


子供ってのはずるい。純粋な目を向けられるのは、俺が純粋じゃないせいか後ろめたい気持ちになる。


「……分かった。頼んだぞ」

「苦しゅうない」


さいですか。

だったら俺は、仮眠を取らせてもらおう。ココに会えたからか、気が楽になったんだ……少しだけ……少し、だけ…………


〜〜〜〜〜


起きると、昼の3時。約2時間も眠っていたらしい事に驚き、恥ずかしい。右にはラピス、左にはココがいた。

意外にも寝ているのはココで、ラピスは起きていた。机を挟んで狩人殿がいて、こちらを微笑ましく見ている。


「……おはよ、オトーさん」

「ああ、おはよう。悪い、結構寝ちまってたらしい。自分の体調管理も出来ないようじゃ、俺もまだまだみたいだ」

「そんな事、ない。オトーさん頑張ってるから、悪くない」

「……ありがとな」


ラピスの頭を撫でる。今度は首の方もさすり、ラピスはこしょばそうにしたが、笑いながらも止めようとはしない。


「——ラピスとオオトは、本当に仲が良いのですね」

「当たり前だろ。俺はラピスのオトーさんで、ラピスは俺の娘だ。仲が悪いわけがない。良すぎて困っちゃうくらいだ」


狩人殿はいっとき俺たちを眩しそうに見ていたが、次に、苦い顔をして俯く。

何かを思い出させてしまったらしい。


「……私にも、ちゃんと、父と母はいたです。父は狩りがうまく、母は優しい人……ですが、ラピスとオオトのように、仲は良くなかったのですよ。もっと言えば、私が可愛くない娘だったのです」

「十分アンタは可愛いだろ?」

「……ありがとうございますです。しかし、容姿の問題ではなく、心の問題です。私は父と母の愛情を、素直に感じる事はできなかったのですよ。

——でも、ラピスとオオトを見れば見るほど私は、多分……心の底では求めていたんだと思うです。今、とっても羨ましいと、そう思っているんですから」


……何も言わない。何も言えない。ここで狩人殿に何か声をかけたとしても、心のこもっていない言葉は意味ないだろうし、そんな事は狩人殿本人が望んでいないと思うから。


ここで気の利くやつなら、抱きしめたり、はたまた別の方法で慰めの一つでもうまくやれるんだろうな。


生憎だが俺は、コミュニケーション能力が高いとはいえない。

だから何もしない。何もできない。


——と、空気の流れを変えてくれたのは我が娘、ラピスだ。


「これ、何?」

「っ……それ!」


いつの間にか、ラピスの手元には俺がココから貰った回復アイテムが。ちゃんとポケットに入れといたはずなのに、気付かなかった。色んな意味でラピスの将来が不安になったぞ。


「まあいいか。元々ラピスにあげるつもりだったんだよ、それ。

ココがくれたんだけど、赤は俺で青はラピスだ。軽い傷なら治せるから、絶対に……ぜー——ったいに大事にしろよな。

とりあえず……手首にでもつけとくか」


俺は右手首に赤い宝石を、ラピスには左手首に青い宝石をつけてやる。

苦しゅうないとでも言うと思ったが、予想は外れ、ラピスは興味深くそれを見つめるだけ。


「……オトーさんと、一緒?」

「お揃いだな」


ペアルックとでも言おうか。

リアクションが薄かったので心配だったが、ラピスは嬉しくないという訳じゃないらしい。むしろ……こう、あまりに突拍子のないことが起こると逆に冷静になったり、嵐の前の静けさなんて……


色々言ってみたが、ラピスは嬉しすぎて落ち着いたみたいだ。


段々と、ニンマリ口が笑みを浮かべてくる。ハッとしてそれを直すが……やはり、止めることはできなく徐々にニンマリと……


「一緒……一緒、えへへ」


嬉しそうだから、いいとするか。


「ラピス、ちゃんとくっ付けとかないとすぐ外れるぞ……っておい」


俺の忠告を聞かずに、ラピスは身長が40くらいになったドリアード達の方へ向かった。自慢でもするのだろう……大丈夫かな。


「そうだ、狩人殿……お風呂って知ってるか?」

「それはまあ、知らない人はいないです。私の家も、お風呂という立派なものではないですけど、お湯を貯めるための桶がありましたですし」

「実はそのお風呂があるんだけど、どうだ、入るか?」


自室の内装や食事で分かる、貴族並みのクオリティー。そこから導き出される結論は、お風呂もきっと豪華。


「……入るです」


誘惑には勝てなかったか、ふっ、村娘め。露天風呂の魅力に堕ちるがいい。


「夜を楽しみにしてな」

「……何だかエッチいですね」


狩人殿は冗談も言えるという新発見。


——しばらくして、眠りこけたココは目を様す。少し話をした後、ココのダンジョンへ行く事になった。ダンジョンを一緒に作ってほしいとの事。

俺なんてただエリア増やしのバカなのに、一体何を望もうというのか。助けにはならないと言ったのに、どうしてもだとさ。

ラピスもついてくるといったので、狩人殿だけがお留守番で残る事になった。向こうは何も恩を返してない事に不甲斐なさを感じてたみたいだが、今度無理矢理にでも用事を作ってやろうと思う。


「Eの10」


◇◇◇◇◇


ココのダンジョンに来ると、真っ先に出迎えたのはやはりあいつ、キングジュニア。人懐っこい笑みを浮かべて、ココへ抱きついた。見せびらかすように。

何だこいつ。俺に殺……コロコロされたいのか。


「ただいまキングジュニア。初めてのお留守番、良い子にしてた?」

「うん……僕、良い子にしてたよ」


ニパアッとキラキラした笑みは、本当に……気持ち悪い。こいつの性格が、段々と分かってきた気がする。


「キングジュニアは可愛いなぁ。王人もそう思うでしょ?」

「……まあな」


キングジュニアの首をコテンと横に倒す仕草を見て、適当に返事をする。あんまり関わりたくはなかった。

ラピスの「がーん」という声がしたが、後でちゃんと誤解を解いておこう。


「早速だけど王人、手伝ってくれる?」

「そうだな、早く済ませよう」

「キングジュニアとラピスちゃんはここで2人で遊んでてね。

すぐに終わらせるから」


2人を残す、か。

キングジュニアを見ているとあまり気乗りはしないが、すぐに終わらせるというココの言葉を信じて、異論はしない。

最後にラピスを軽く撫でて、俺は玉座へと向かうのだった。


◇◇◇◇◇


頭を、撫でられた。

フワフワ

ポカポカする。

とってもあたたかい。心が、体が、ホットホット。


オトーさんだいすき。


恥ずかしいから、言わない。でも、言いたい。言ったら撫でてくれるのかな。それとも、撫でてくれないのかな。


だけど、どっちでも


オトーさんだいすき。


に、変わりはないのだ。


「ねぇ……」


……変なのに、声をかけられた。

おかしな服を着た、変な人。オトーさんじゃない。それと、オトーさんが変な人を嫌な目で見てたから、これは、嫌なやつなのだ。


むし。


プンッと首を横。

変な人は見ない。


「ラピスちゃんって言うんだよね?」


むし、むし。

変な人とは、かかわりたくない。オトーさんに嫌われるかもしれないから、むし。そんなの嫌だから、むしむし。


こっちを見ようと、変な人が目の前にきたので、またプイッと顔を横にする。


「何で僕と話してくれないの? もしかして、僕の事嫌い?」

「うん」

「っ……」


むし、むし……あれ? と、思った。だって、変な人がしつこいのを止めた。

下を向いて、体がふるえている。

どこか痛いのかな。

それだったら、何とかしたい。痛いのは、ラピスもいやだから。


「そっか……ラピスちゃんは僕の事嫌いなのか」

「うん」


そこは合っているから、うん、でいい。

変な人の、体の震えが止まった。

あれ? と、思った。だって、変な人が、もっと変な人へ変わる。

もう一度その顔をみると、とっても意地悪そうな顔になってた。


「僕も、お前嫌いだぜ」


やっぱり、嫌なやつだった。


「あっち行って」

「何で僕様がお前の言うこと聞かなくちゃならないんだよ。

大体、ここは僕様とココ様のダンジョンなんだ。お前らは余所者。勝手に入ってくんなよな」

「……知らない」

「けっ、ガキンチョめ」

「カッチーン」


ガキンチョなんて、嫌な言葉を使う。そんな事言われても、うれしくない。

嫌な奴。嫌な奴

嫌な奴は嫌な言葉を使う。だいっきらい。早く、オトーさん来ないかな。


「せっかく僕様はココ様と2人っきりで生きてきたんだ。それを、何だよあいつ。いきなりきて、ココ様を……」


またまたカッチーン。


「オトーさんの事、悪く言わないで」

「うるさい。あんな奴、いなくなればいいんだ」

「……知らない」


もう、むしむし。

あんな嫌な奴と、もうしゃべりたくない。オトーさんの悪口を言う奴は、だいっきらいだ。

せっかくポカポカだったのに、ムカムカに変わってくる。フワフワだったのに、ホットホットしてたのに……


もう、むし!


「何だよ面白くねーの……ん?」


嫌な奴が、目の前にきた。

むしをしようかと思ったけど、顔を見てやめた。嫌なよかんがする。嫌なよかんは、あんがい外れない。


「……何」

「よく見りゃ良いもん持ってるじゃん。僕様にくれよ、その青いの」

「っ……バカ」


なんで、嫌なやつにこれをあげないといけない。これは、ラピスに、オトーさんがくれた物。大事にしろって言われたから、嫌なやつにあげたらダメ。


バカ、バカバカ。


嫌な奴は、近づいてきた。


「バカって言う方がバカなんだ。いいからそれくれよ!」

「イヤ!」

「ちっ……たぁ!」

「あっ!」


嫌な奴の手が、ラピスの手につけた宝石に、オトーさんのお揃いに、当たる。

宝石は、紐がちぎれて、バラバラになって、落ちる。取ろうとしたけど、落ちるスピードの方が早かった。取れなかった。


大事が、壊れた。大事にしろって言われたのに、壊した。


——誰が?


嫌な奴が、嫌な奴が……壊した!


「あっ……うぅ、知らねえぞ僕様は! お前がくれないのが悪いんだ!」

「……カ」

「な、何だよ、文句があるなら言ってみろよ!」

「うぅ……バカ!」


バチンッ——と、いい音がした。

嫌なやつのほっぺたを、叩いた。嫌な奴は、こける。ぶざまに地面におちる。鼻から血が出てたけど……


苦しゅうない。


——でも、次の声で、胸がキューっとした。とっても、怖くなった。


「どうしたの!?」

「……」


ココって言う人と、そして……オトーさんが、優しくない顔でやってきた。


全然ポカポカしない。怖い。怒られるのかな。嫌だ。嫌だよぉ……。


何も喋れない。


喋ろうとしても、アウアウって、アウアウって、言葉にならない。


でも、あいつは違った。嫌なやつは、意地悪そうな顔を止めて、泣きながら喋る。私が叩いた時は泣いてなかったのに。あれは嘘だ。

だって、さっき、叩かれて笑ってたのに。


「急に、急にその子がブってきたんだ! 痛い、痛いよー!」

「っ……ち、ちが」


悪いのは、嫌なやつ。

だって、嫌な奴が青いのを……そうだ、それを使えばいいんだ。


「嫌なやつが、私の大事を、壊した!」

「ほ、本当かいキングジュニア?」

「ぶつかっただけなのに、ゴメンって謝ったのに、急にブってきたんだ!」

「そんな……うそ!」


また、ちがう!

謝ってない。ゴメンって、言ってない! 嘘つき! 嫌なやつは、嘘つき!


「……はぁ」


——ビクッと、体がふるえる。

怖い。オトーさんが、怒ってる。嫌だよぉ……違うのに、悪いのは、そいつなのに。


「——悪いなココ、俺のせいだ」


…………なん、で? それも違う。

何で、オトーさんが、謝るの? オトーさん、悪くないのに。オトーさん、何にもしていないのに……!

悪いのはっ、そこの、嫌なやつなのにぃ!


「ラピスは人見知りでさ、ちょっと、まだ早かったらしい。

本当にすまない。確かお前絆創膏持ち歩いてただろ? 自室……だよな。すまないが取ってきてくれ。ゆっくりでいいぞ。ここは、俺がどうにかする」

「う、うん、分かったよ」


………いや。ダメだよ。オトーさん、悪くないのに、何で、ゴメンなさい?

……ゴメンなさいは、ラピスが、良い子じゃなかったから? だから、オトーさんが……

悪いのは、ラピス?


——ココって言う人が見えなくなった時、オトーさんが近づいてきた。


もしかして、やっぱり、ラピスが怒られるのかな。悪い子だったから? めいわく、かけたから?


ゴメンなさい。


いっぱいゴメンなさいするから、だから、嫌わないで。オトーさん、ラピス……きらいは、嫌……!


「分かってるぞラピス」


ポンっと、頭に手を置かれた。

叩いた……んじゃない。オトーさんは、いつもみたいに、優しく、撫でてくれる。


フワフワになってきた。

ポカポカで、ホットホット。


あぁ、あぁ……オトーさん!


胸がキューっとなる。でもこれは、さっきのじゃない。いい感じの、キューっ。


「分かってる……分かってるから、だからもう泣くな」

「ラ、ラピス、悪くない? ラピス、良い子?」

「もちろんだとも。お前は良い子だ。それは

他の誰よりも俺がよく知っている。

——悪い子は、あいつだ」


オトーさんは、キョトンとした嫌なやつを見る。ああ、そうか、オトーさんは嫌なやつに怒ってたんだ。オトーさんは凄いから、分かるんだ。


オトーさんに全く背の届いていない嫌なやつは、見上げる形でオトーさんを見る。


「な、何ですか……ぶっっ!?」


オトーさんはいきなり、嫌なやつの顔を掴む。ギュッて、片手で、ボールを持つみたいに、そして、自分の目のところまで持ち上げた。口が潰れてタコさんみたいになってる。

ちょっと痛そうだけど……


苦しゅうない。


「のぉ、なぉにおううんですあ!」

「黙れよクソガキ。ラピスはな、嘘をつかないんだ。つまり、お前はラピスの手につけた宝石を壊した。そして、謝らなかった。

だがお前は嘘をついたな。ラピスが悪いように騙そうとしたな」

「そ、そんなでたあめあ!」

「おいおい、ちょっと待ってろよ………ほぉ、確認が取れたぜ。やっぱりお前が悪い。罪をなすりつけ騙そうとした、お前がな」


オトーさんに嘘はつけない。

だって、異世界知識さんがいるから。でも、()使った……そっか、オトーさんは聞かなくても、ラピスの事を分かってくれてたんだ……嬉しい。


「俺は今怒ってるんだぞクソガキ。ラピスがな、どれだけ悲しんだと思ってる。いや、苦しんだとおもってる。

あれは、大事な物なんだぞ」

「あんなののどおが!」

「人の大事な物ってのは、他人が価値を決めていいもんじゃねえんだ!

……お前知らないようだから言っておいてやるが、あの宝石、ココの物だったんだぜ?」

「そ、そんなっ……」

「オーケー、少し反省したところで歯ぁ食い縛れ。ガキというところで、一発で我慢してやる」


オトーさんは、右手を顔の方に持っていき……勢いつけて、今度はラピスの時より大きい音が、バッチィィン——とホッペで響く。


「あんっっ!」

「ん?」


ん?


オトーさんが、ビックリして嫌なやつを地面に落とす。それでも嫌なやつはその事を気にしないで、赤く腫れた傷をさすっている。


痛い、じゃないみたい。なんでかな、ちょっと、嬉しそうな気がする。


「お、おいお前まさか……」

「この……まだ、ぜ、全然っ


——そこで、耳を塞がれた。オトーさんに。なんでかは分からないけど、近くにオトーさんがいるから、それは嬉しいから、まあ……いいや。


苦しゅうない。


◇◇◇◇◇


「この……まだ、ぜ、全然っ気持ちよくなんかなかったんだからな!」


な、何を言い出すかと思えばこのクソガキ、まさか……マゾだったとは。

お仕置きでついカッとなってしまい、ガキにやるには僅かにオーバーな力を加えすぎた感もあるビンタ。結果的に、何とも言えない状況となってしまった。


……はぁはぁ若干顔が上気している変態、自分が危ない事を口走った事に気づき、オロオロしている変態をどうしようかと迷っていると、丁度ココが帰ってきた。相変わらずタイミングのいい奴。


「絆創膏持ってきたよ……って、ええ!? キングジュニアのほっぺた、リンゴみたいになってるよ!?」

「ココ様! じ、実はね……」


クソガキが何か言おうとしたので、とっさにココの後ろへ回り、口パクで伝える。


『マゾだって事、ば ら す ぞ』


最後にハートマークでもつきそう。

クソガキは顔を真っ青にさせて、とりあえずこけたとだけ口にして、自室へ戻っていった。いい気味だ。


結局、今考えてみればなんで持ってきたのか分からない絆創膏をブラブラさせて、頭にはてなマークを浮かべたココに、俺は玉座へつれていく。

どうしても確認したい事があったのだ。


「ココもランダムだったのか……」

「性別は男って選んだ後にね」

「それで、まだ確認してないんだっけか、キングジュニアの事」

「見れるなんて思わなかったから……あ、これかな」

「ちょっと貸してくれ」


ココよりも先に俺が見る。さて、キングジュニアとやらを見せてもらおうか。


—————


【個体名称: キングジュニア】


顔の形: 王子顔

目、鼻、口: 幼い

髪型: 王子ヘアー 金

声: 王子声

服装:王子服

身長:149.6

体重:41.0

座高:73.5

口癖:僕様〜

性格:腹黒

性癖:どマゾ

—————


……うん、やっぱりツッコミの多いなぁサポートキャラとは。

ランダムのはずなのに、王子セット漏れなく揃ってんじゃねえか。

性格は割と予想していた。だが、性癖まではな……というか性癖あるんだ。これもランダムだからこそ、だろうなやっぱり。

キングジュニアを見て俺が感じた嫌な感覚は、マゾで腹黒だったてわけか。そりゃあ寒気の一つでもするわな。


「なになに、ボクにも見してくれる?」

「嫌ダメだ。絶対に見るな」

「え、ええ?」


腹黒はいいとして、マゾはな……嫌だ。

それに、キングジュニアも見られたくはないだろう。あいつが、ココを好きだってのはよく分かる。だからこそ俺たちが気に食わなかったんだろうから、ココにはこれを見せなくてもいいかなと思った。


「サポートキャラの内容は絶対に見るなよココ、いいな?」

「えっと、うん」

「よし……まあ、今日のところはこれくらいでいいだろう。

ダンジョンは食堂の施設だけ格上げ。自室は最高。一部天空エリア。自然エリア。

ざっとこんなもんだっけか」

「うん、今日はありがとうね。

——本当に、会えてよかった」


……俺からの返事は、口にしなくてもいいか。代わりに、もはや癖となった頭を撫でるという行為をした。

男にやるのはあれだが、ココはそういうキャラだからよしとしよう。向こうも別段嫌がってるわけじゃないから、やめる理由がない。


……この後、朝昼晩のご飯はココが作り、一緒に食べるという約束に至って、俺とラピスは、自分のダンジョンへ戻った。

とはいっても、もう夜ごはんの時間だからココがついてくるんだが……うーん、どうも締まらない。

まあ、悪いことじゃないからいいか。

◆後書き◆

ビンタはちょっとやりすぎたかなぁ……と。否定的な意見があれば、もしかしたら一部変えるかもしれません。

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