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異世界ダンジョンウォーズ  作者: watausagi
最終章 最後の決戦
70/85

デウス・エクス・マキナって、とってもカッコいい言葉だけど……

◇◇◇◇◇会長


「ほお、私が悪だというのか」

「ああそうだぜ。てめえらダンジョンの主は、さっさと潰しておかねえとやべえらしいからな。それとも何だ、否定するのかよ」

「……いや、否定はしない!」


自分が正義だと言われても、正直首をかしげるし。いっそ悪だと言われた方が、スッキリして何事にも心置きなく行動できるというもの。


正義の味方をするのは多分気持ちのいい事だろうが、自分自身が正義になるのは躊躇いがあるというものだ。


「しかし法王の言う事は絶対な貴様らも、果たして悪でないと言えるのか?」

「あの方は言うまでもなく完璧なんだ! そしてそれは、正義につながる。だから貴様は倒す。ただそれだけ……

話は終わりだぁ。最後に忠告してやるが、改めて名乗ろう。俺はオリオンキラー・スコーピオン。勇者ソードと同等、いやそれ以上の力を持つものだぁあ!」


敵の姿が消える。音や気配こそ消えてはいないが、完全に見えなくなった。私のスキルは視る事が前提であって、こういう見えないスキルに効かないのが1つの欠点だろう。


だから。


私のスキルが効かないのなら、私のスキルを使わないのなら、他のスキルを使えばいい。


「冷獄無火」

「っーー」


自分の周りに、氷の棘を配置。敵の動きが手間で止まる。


……以前私のスキルで、霰のスキルを視た。しかしスキルレベルは残念ながら、5の段階で止めてしまった。理由は……死にかけたから。頭がおかしくなりそうで、狂いそうで、それ以上は無理だったから。

あんなの常人には無理だ。スキルのその経験すら見る事で、最初から存分に力を発揮する事はできるが……スキルの持ち主が強ければ強いほど、つまり使いこなせていればいるほど、あまりの情報量に自殺したくなる。群発頭痛だってもっと良心的だったぞ。


ともかく私は最低でも5までならギリギリ耐え切れる。あとはそこから、どれだけ自力で伸ばす事のできるか、だ。冷獄無火のスキルは特殊だから、特訓してレベル7のラインにまで到達できた。健太の雷魔法は9。剣闘術は10といったところか。


ーー氷の棘に雷を走らせる。


放射状に、雷が放出された。


敵の気配が空に飛び上がったので、氷の棘をそこへ飛ばす。しかし何かの武器で防がれたのか、氷は四方八方にバラけ飛ばされた。


……恐らく時間制限だろう。木の枝に飛び移っていた敵の姿が現れて見えるようになった。


「なるほどなぁ。氷と雷を操るのかてめえ。いいスキル持ってんだなぁ。だがーー俺のスキルも良いんだぜ」


分かっていたことだが、再び敵は消えた。次に本体は姿を消して、見えない所から球が転がってくる。


これは……爆弾。


あくまでも冷静に、霰のスキルで爆弾を凍らせると、後ろからの……今度は先ほどとは比べ物にならない存在の薄さで、敵が迫ってきた。


即席で氷の剣を作り、攻撃を防ぐ。防いだその時に金属音が鳴った。敵の姿が再び見えた時、その正体を知る。


「これは……針」

「ちっ、油断しねえのな」


防がれた途端、敵は後方へ飛び退き、こちらの様子を伺ってきた。

自分の右手の先にある1本の針を、大事そうに撫でながら……


「その針が貴様のスキルなのか」

「はんっ、誰が教えるか」

「スコーピオン……そしてその針、毒でもあるのか。いやそれほどの自信だ。まさか1発食らうだけで致命傷、一撃死の力でもあるのかな」

「は、はははんっ、だれ、だーれが、おし、おしおし教えるかー。ああ全く空が青いぜー。口笛でもしたくなる気分だぜー」

「……」


これはーーこれは実に困る反応だ。普通ならば嘘が下手だと指摘するところだが、余りにも下手すぎて逆に嘘ではないと思ってしまう。

こいつは頭の回る奴で、一撃死だと思い込ませておきながら、本当はもっと他の力があるのかもしれない。


「やはり一撃死か!」

「だからぁ!? 何でそうなるんだー!? この針、ただの針だしー! チクってするただの針だし!」

「……そうか、チクっとする能力か」

「そうそうチクって……え? あ、ああ、そうだぜ。全く、これだけヒントを言ってやっと正解にたどり着くたぁ、ダンジョンの主っていうのは皆頭の中スッカラカンだったりしやがるのか?

どれだけ敵に対して礼儀の正しい俺様でも、これだけサービスしてやるのは久しぶりだぞ。恥ずかしいと思いやがれ能無しめ」

「よし、やはり一撃死だな」

「ふわはぁ!? マジ、てめえ意味わかんねー! 意味わかんねー! チクって言ったろがよぉ! 一撃死ー!? 何ですかそれはー? 」


流石にこれは、決まりだな。


一撃死……一体どこまでが一撃の範疇なのか分からないが、相当恐ろしい。やけに自信満々なのも頷ける。


「貴様のスキルはもう見抜いた。これでおあいこだと言いたいところなのだが……けれど残念だったなスコーピオン。貴様は勘違いをしている」

「勘違い……だと?」

「ああ、結論を言って、その針が私を傷つけることは無いし、貴様が推測した通りに私のスキルは氷と雷ーーではない」

「今更何を誤魔化して……っ」


空から【雷】がおち、敵はギリギリ避ける。その着地点に向かって私はーー


【吠えた】。


喉が裂けんばかりに叫んだ。魔力を乗せた【威圧】は、否応なく恐怖を生み出し、一瞬の硬直状態が生まれる。


続いて【風】の通り道を作り、添えるように右手で撫で上げ、【炎】を出した。炎は敷かれたレールの上を走る新幹線のように、着実に確実に敵にぶつかった。


「ぐあっ!」


むろん、これだけで敵が終わるとは思っていない。終わらせるつもりもない。


【糸】を出す。ワイヤーよりも細く頑丈な糸を、網目状に奴の上へ。そして、【重力魔法】で糸ごと押しつぶす。恐らくサイコロステーキになっただろう。


追い打ちとして【虫】を召喚し、けしかける。【鉤爪】を死体に投げつける。


【直感】で分かったーー奴は死んだ。近づいてみると……死体は、細切れになり、虫によって捕食されている途中だった。

いかにその者が強かろうと、本来はこういうものだ。逆転なんて中々ないし、実際に怪我一つでそれは死に繋がる。


ーープシューー……


「なんだ?」


微かな音だったが、戦闘も終わって静かになったこの場のおかげで聞こえた。そして私は目眩がして、体がぎこちなくて、膝から地面に崩れ落ちる。


そして視界に入ってきた、死体の側に転がっているあの針。一撃死だと思っていた、そう確信したはずの針の先から……よーく見てみると無色透明の気体が排出されていた。


「ふっ、食えない奴め」


一撃死ーーなどではなかった。実際は致死性の毒ガスのような物をバラまく無差別スキルだった訳だ。


私はこいつの狡猾さに少しばかり感嘆して、ほんの少し怠い体を持ち上げる。【毒耐性】のスキルは、苦しみさえ紛らわせれば、治ると同時にまた強い毒を自分に流し込めばいいのでレベルを上げるのが簡単だったのだ。


ーーそれにしても弱い敵だったな。私に刺客を1人など、一体月姫は何を考えているのか……未だ遠くだが、はっきりと見える空中移動要塞ゾディアックの方を見る。


「……ん、何だ……あれは?」


◇◇◇◇◇健太


はっきりと分かる、格の違い。


それでも俺は……


「ぐぉぉお!」

「気合いでどうこうなる力の差じゃないわボケェ! さっさと諦めんか小童めがあ!」


ジジイがいきなり巨大化して、はち切れんばかりの筋肉を惜しみなく見せつけながら、人の手とは思えない強靭な爪で斬りかかってくる。俺は剣で防ぐが、力を受けきれずに毎度毎度吹っ飛んでいる。


……ああ分かってるんだ。力の差が大きすぎるって事くらい、でも……それでも俺は今まで、あいつらに必死について行こうって頑張ってるんた!


「こんなところで負けてちゃ、あいつらに合わせる顔がねえよ!」


剣に雷を流し込ませ、斬る!


「ふんぬっ」


しかし、まただ。俺の剣は奴の肉体に弾かれ、またかすり傷で終わってしまう。俺の魔力量は多くないから、こうも魔法を連発してちゃすぐにガス欠してしまうってのに。


「やはりな小僧。貴様の剣は弱い。弱すぎるぞ。それは、迷いのある証拠だ!」

「ぬわっ!?」


1発まともに食らえば死にそうなパンチが、真横を通過する。足がもつれて転んでも、そこからまた転がり続けなければ、俺はたちまちミンチになっちゃうぜ。


「迷いって、なんの事だよジジイ!」

「ふんっ……殺すのを恐れている目をしている。それは、傷つけるのが怖いと思っている迷いだ。

同情でも誘いおるか? 邪悪めが。貴様のそれは、ただの甘さだわい」

「ぐっ……なら、ならよ……殺すのが正しいっていうのか? 人がこんなにもコミュニケーションを取れるのは、話し合えって事じゃないのかよ!」

「さよう……さすれば戦闘というのも、一種のコミュニケーションと言えるぞ」


おお、なるほど。


って、そうじゃなくて。


「俺は平気で人を殺せねえ。そんな、殺人者みたいにはなりたくねえんだよ」

「……戦って分かる事もある。あのお方の言うほど、貴様は悪ではなかった。例え悪であろうと、貴様は思いやりのある悪だ」


その時、本気の殺気を感じた。


「だから甘えるなよ小僧」


実際には3メートルそこらのはずなのに、目の前のジジイが俺には巨人に見えた。

今までの攻撃とは比べ物にならない重い一撃をくらい、地面に叩きつけらた俺の内臓は、多分どこか壊れてしまったんだろう。血反吐吐いて、苦しさが全然消えねえ。


「殺人者になりたくないだと!? なら貴様、臆病者にでもなっておれ!」

「ゲェっ……」

「あわせる顔など、貴様に元よりないわ! 戦う覚悟のない者が、剣を握るな!!

……おおそうか、貴様のような腑抜けだ。貴様の言う仲間もきっと、同じように腑抜けなのだろう」


何……だと?


「あいつらをっ……悪く言うなよな」

「ふんっ、事実を言ったまでだろうが。どうせ他の奴も、剣を持ってはしゃぐガキンチョ共なのだろう」

「だからぁ!!」


ジジイを蹴飛ばす。当たっていればいいのに、ジジイは後ろへ避けた。俺は重い体をなんとか持ち上げて、立ち上がった。


ーースキルって、科学を超える。リスクに応じた力を、それなりに与えてくれる。


だから原理は分からずとも、今の俺には雷が纏ってある。皮膚が焦げちまうし、身体中がビリビリ痛いけど、普段の何倍も力を出せる。


雷神……なんてのは大袈裟だとして、今の俺はさながらーー雷人。


「覚悟ならあるぜ! 今ここでお前を倒す! 死んでも倒す! そして会長に褒めてもらう!」

「……少しはマシになったの。ならば来い小僧。お前の手に握られたそれは、オモチャでないと証明して見せよ」

「言われなくったって!」


暴走する体を必死に動かして、敵の背後に回る。よし、俺の方が一瞬早い。


背中を斬る。


今まで感じなかった肉を斬る感触が、ダイレクトに伝わってきた。いや、硬さでいうならこれはもう鉄に近いけど。


とにかく、届いた!


時間の問題だ。俺のこれは、自爆技。もって10分。これを越えると体が動かなくなってしまうから。


「その前にジジイ、お前を倒す!」

「殺す覚悟で来い!」


これが経験の違いか。

俺の方がスピードは早いはずなのに、徐々に……少しずつ追いつかれる。俺の無駄な動きを、それを読むジジイの最小限な動きが上回ってくるんだ。


ついに、ジジイも血だらけになりつつあったその時、足払いを避けきれず体が傾く。ジジイのアッパーが迫ってきて、死を覚悟したが……そんな覚悟なんていらねえ。体を回転させてから、ギリギリ剣をぶつける事に成功する。


ジジイの手を斬り落とした。俺は、手のない腕の攻撃で吹っ飛ばされた。


空を飛び、地面を引きずる。


ーー意識が朦朧としていた。


呼吸が苦しい。肺に骨が刺さってんのかもしれない。いや、それとも……肺だけじゃないのかもしれない。


ジジイの鼻息が聞こえた。なんとか目を開けると……ジジイは俺のそばに来て、トドメを刺すかと思いきや立ち去ろうとしやがった。


「待ち……やがれ」


足を掴む。

振り解かれる。


「このっ……」


なおもどこかへ行こうとするジジイ。ダメだ。このままじゃ俺、負けてるみてえだ。


「止まれって、言ってんだよ。そのセンスねえ髪と髭、全部引っこ抜いてやるっつってんだよ」

「貴様、まだ言うか?」

「へへっ……」


まだ負けてない。俺がそう思ってないから、まだ勝てる。


勝負は……ここから……だ


◇◇◇◇◇霰


氷の盾を作る。しかし、その氷が水によって断ち切られ、慌てて自分に斬りかかる水を氷に変える。


ーー互いに譲らない、真剣勝負。


……そう、ピスケスは勘違いしているのかもしれませんね。私はこれまで、ただの1度も冷獄無火を使ってないというのに。


「あの、ピスケスさん」

「なによ、もう降参なの!」

「いえ……そろそろ終わらせてもいいのかと、ほんの少し心配しまして」

「……はあ?」


私の言い方に、彼女は怒ったのか、それを表すように水の刃が飛んできます。


これをただ、冷やすだけでは意味がありませんので、エネルギーごと凍らせる事で、この通り。目の前で氷の塊がゴトリと地面に落ちました。


「私に傷一つつけられてないくせに、調子に乗ってんじゃないわよ」

「あのですね、人を殺すのにそんな傷はたくさんもいらないんですよ?」

「何をーーっ……オエッ」


彼女が口元に手をやり、そのまま倒れました。訳が分からないようで、私の事を必死に睨んできます。


ああ、私も成長しました。このくらいで狼狽える事もありません。副会長に一歩近づいちゃいました。


「少し頭の血を凍らせたのですけど、その様子だとかなり効果的のようですね」

「頭の……血ですってうぉぇ」

「私が少しずつ近づいていた事に、気がつかなかったようですね。既にそこは射程範囲内。私の絶対領域です」


心臓を凍らせても良かったのですが、これも訓練。心を鍛えるために、ピスケスさんには手伝ってもらう事にしたのです。


ああ、やはり少し心が痛みます。私もまだまだ副会長に遠く及びませんね。


「どうです、もう立ち上がれませんか? 手足はちゃんと動きますか?」

「あたま……ち……ばか、な」

「ああそれですか。確かに体内に魔法を行使するのは、普通じゃ無理らしいですね。圧倒的に魔力操作が上回らないと干渉できないとかなんとか。

まあ、今私が使ったのは魔法ではなく、厳密に言うとスキルですから、関係のない話ですねーーって、もう聞こえてませんか」


ふーむ、呆気ないです。これでは副会長に褒めてもらう事すら出来ないのでは?


と、私が危惧していると、空にーー


◇◇◇◇◇王人


始まりは相手から。


キャンサーと名乗った男が、小手調べか本気なのか、シャボン玉のような泡を1つ飛ばしてくる。


こちらからは暴力女……いやもうフォークスと呼ぼう。フォークスが両手を前に突き出して、過剰気味とも言える炎を出すと泡を燃やし尽くした。


「ほぉ……」


ヒュドラが偉そうに。キャンサーも痛くもかゆくもないらしく、未だ余裕の表情。


今度はフォークスから、敵を燃やさんと炎の塊をぶつけるが……ヒュドラの腕から首の長い魔物のような化け物が飛び出し、あろうことか炎を飲み込んだ。


「むっ……私の炎を食べるなんて、どれだけ食いしん坊さんなのだ。

ふふん、しかし勝ち誇るのはいただけないな。惑わされ、ただひたすら道化と成り果てた貴様らは、私が倒すと決めたのだからな!」


1人勝手に盛り上がるフォークスは、1人勝手に敵に突っ込んでいった。


ーーチョイチョイ


と、その様子を不思議に思ったらしい不思議ちゃんが、背中をつついて耳元に囁いてくる。


「彼女に、何したの」


何をしたなんて人聞きの悪い。


「昨日、少しお話をしただけだ」

「お話?」

「ああ……ふたりっきりで」


ジーと睨んでくる不思議ちゃん。


いやいや、本当にお話をしただけだぜ? それはまあ、多少演出過多だった気もするし、こちらの正当性を大幅に過剰修正したが、いやらしい事は何もしていない。そういう雰囲気に持ち込んだのも否定しないが、あんなピンク色の空間の中、キス1つしない俺の純情性をむしろ褒めて欲しいくらいだ。


「それよりも不思議ちゃん、準備は終わったか? 10秒で終わらせるとか脳内でほざいてしまったのに、既に20秒は経っている事実を俺はどうすればいいんだ」

「大丈夫」


不思議ちゃんの手には、委員席(学校で委員長だった者が必然的にリーダとなり、そのリーダが集まった集団)に属する図書委員長から直々に作ってもらった武器が握られてある。


ーー「ディスティニープリンセス」。1本の本命と、その他10本で構成された白光の剣。

不思議ちゃんは今、その他の内の2本を異空間から取り出し……また、剣は再び空間に消えゆく。


しかし、元の異空間に直したのではなく、これは不思議ちゃんの十八番、転移魔法。転移札の場所へと転移させる事の出来るこの能力は……


「ぐぅ!?」

「ばっ、ばぁか……な……」


剣を敵の心臓へと、貫いた。倒れた2人の背中には、隠れるように転移札が張り付いてあった。


タネは簡単だ。俺が転移札の存在を隠して、それを不思議ちゃんが敵の背後にフヨフヨとひっつければ、この通り。


ああ簡単だった。


十二聖者とやらは、確かに強かったのかもしれない。しかし相手のスキルがどうであれど、心臓を貫いてしまえばこちらのもの……


「ーーゴフッ」


ん?


「ゲホッゲホッ……はぁ……ふぅ、勝った気でいたのか……この、愚か者め。我はヒュドラ・スコーピオン。九つの命を持つ、絶対的強者なり……!!」


……ふーん。


「不思議ちゃん」

「ん?」

「ーー殺れ」

「ん」


今度はその他の内、8つの剣が異空間から現れて、さながらベルトコンベヤーのように一定の間隔で消えていく。


自称絶対的強者はというと……


「ぐはっ!」

「なぜ、いきなり後ろから」

「げぼぉっ、どしてっっ」

「ぎゃばっ」

「このっ、この……ブフゥ」

「やめ、ろぐぅぅ!?」

「じゅっ」

「ぬぉぉぉお……あっ」


ちゃんと9回殺したかな?


「念のため」


フォークスはそう言って、キャンサーとヒュドラを骨一つ残らず燃やした。


よし、これで安心だ。


俺たちチームワークの勝利也。


ーーしかし解せん。月姫はこれでどうにかなると思っていたのか? まだまだ戦力はあるというのに、出し惜しみしては元も子も


《上に逃げてください!!》


つっ……


(鼓膜が、いや脳内が破れるぞ)

《いいからっ、ああ……そんな……マズイです王人。こんなの知らない! ありえません!》

(お、おいおい異世界知識さん、略していっちー。何もそんなに慌てることはないだろう)

《慌てることなのですよバカ! 何故もっと早く思い至らなかったのか……どうして空中という利点を捨ててまで降りてきたのか考えるべきだった!

地上が、世界が壊滅します!》


そこから俺は、異世界知識さんの言ったことを思い出す。上に逃げろと言った。世界が壊滅すると言った。


ひとまず上空に行けばいいと判断し、腰から非常用の煙玉を取り出すと、ボタンを押して剣に乗せて思いっきり上に飛ばす。


……かなり上の方に、赤色の煙。


これはもしもの撤退合図。いざとなればこの煙玉を使い、赤色の煙のする方へ逃げろという意味なのだが……意味が通じたことを祈ろう。チャットもコールも使えないみたいで、これ以上はどうする事も出来ない。


あまりにも異世界知識さんがうるさく、これはかなりヤバイ状況なのだと改めて認識し、カオスドラゴンに皆で乗って空を目指した。


ーー途中、ゾディアックの方を見る。円錐型の先から、何か小さい物が飛び出し……重力に従って地上に落ちていく。


今更気づいたことなのだが、ダンジョンの周りに人が1人は集まっていた。学生服を着ているものもおり、あれらは全てダンジョンの主だと推測する。


何故、そのようなことになっているのかは分からないが、再び落下物を見ると、丁度地面に落ちる時だった。


そして。


世界が……壊滅した。


◇◇◇◇◇忍


「あらあら……動けません」

「悪いな。しばらくそうしてくれ」


とりあえず泥沼に埋まってもらう。男なら、百歩譲って殺せたかもしれないが、女だとなぁ……気乗りしないもんなぁ。


「あのぉ、私のスキルって足が要なので、こんな事されると使えないのですけどお?」

「バカかあんた。そういうのは敵にも味方にも黙っているもんだろ」

「……それもそうですねー」


ああ、調子狂う。そうだよ、万歩譲ってこいつじゃなかったら、どうにか出来たのかもしんない。しっかしよぉ、ぜってぇ後味残るタイプだもんこいつ。


めんどくさくって仕方ねえ。


「なあ、一つ聞いていいか?」

「パンツの色以外ならいいですよ〜」

「……乳首の色は」

「ピンク!」

「お前らは何で俺たちを敵だと判断してんだ? あんたなんかそうさ。もっとこう、平和主義って感じだぜ」


副会長の紛い物と違って。


……俺の質問ピンク! おっと、違う違う。俺の質問が難しかったのか、タウラスは首を傾げた。


「んー……難しいですねえ。実は私も、そこのところはよく理解してないんです」

「理解していない? んな馬鹿な。理解していないのに、俺を倒そうって思ってたのか?」

「だって、私たちに、法王様がそう命じたからですもん」


法王……月姫の奴隷か。


「法王様はなんて?」

「世界を綺麗にする為に、あなた達ダンジョンの主という邪悪は、いてはならないという事らしいです。可哀想ですけど」

「世界を綺麗に……」


何やら気になる単語を前に、俺は視界に入ってきた赤の煙の方へ気をとられる。


あれは撤退合図。方向からして副会長ら辺だけど……向こうに行けってか? いやそもそも

煙が高すぎで……高すぎて?


ーーそういえば月姫は、ダンジョンマスターになるのだと。ダンジョンマスターになって優しい世界を作るのだと、そう決心しているらしい。つまりそれは、こんな世界なんていらないという事で……


ーー世界を綺麗に!?


「俺の手に捕まれ!」

「どうしてです?」

「いいから早くしろ!」


タウラスの手を左手で握り、俺は空中に泥を形成する。そして、固める。

右手で掴む。

その泥の重力を、上方向にに力を加える。


「泥さえあれば、何でも出来る!」


誰でも簡単、垂直お空の旅。


出来るだけ早く、地上から離れるように上空へ目指す。


「……どうして」


風に負けるくらい小さな声で、下からタウラスの声がする。


「あなた、気づいたんでしょう? ならどうして、私まで助けるのですか」


理由なんてなかった。


「別に、何もここで死ななくていいって、そう思ったくらいだよ」

「……私よりお馬鹿ですね」


タウラスの声は、不思議と嬉しそうに感じた。俺もこれで問題ないと上を向きーー下から殺気が向けられた。


「私の足を解放するのは、マズかったですね〜」

「なっ、おい待てーー」

「もう遅いです」


タウラスの足が光り、刃のようなものに変わると、振り子のように反動をつけて一気にーー俺は避ける為に思わず、手を離してしまった。


しまった。


そう思っても、もう遅い。空へ浮かぶ手段のない彼女は、重力に従うしかなかった。今更彼女に俺が重力魔法を使うと、今度は自分の分がおろそかになってしまう。


俺と、彼女と。結局俺は狡いから……自分を選んだんだ。


「それでいいです」


スローモーションみたいに感じた。走馬灯を見ているのは彼女のはずなのに、全てが遅く見える。


俺が空に、タウラスは地上に。


「もう、後戻りはできないのです。でも私はきっと、貴方を殺せそうにありませんから……逃げますね」


凄くいい笑顔で。最後まで悔いがないと伝えるように、タウラスの姿は豆粒のようなものになった。

俺の運が良かったことは、タウラスが地上でザクロばりの姿を晒すことなく、その前にまばゆい光で何も見えなくなったところだろうか。


でもこれは救いの光でもなんでもなくて、突風と熱風が遅れてやってくる。


……


世界が、綺麗になったんだ。

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