初めてのバトル
◇◇◇◇◇
全く嫌な話だ。せっかくココに会えるというのに、物騒なもんが付きまとう。
例えそいつが友好的だとしても、俺は許さない。ボコボコだ。
……まあ、刀を見える位置に持つ時点で、十中八九敵だろうがな。それも相当の自信家。自身の力を隠そうともしない……バカ、ともとれるが。
——俺の視界のブレが収まる。
ココのダンジョンに来た……と同時に、ドンッと体へ衝撃。
敵、ではない。この感覚には覚えがある。俺の目の前には、ココ本人がいた。
「王人!」
「……ココ」
久しぶりに見るココは、いいものだ。髪はストレートで天使の輪が出来ている。身長は俺の首元。華奢な体格で、時々こいつは性別を間違えたんじゃないかと思っている。
「……久しぶりだね」
「あぁ、久しぶり——と、感動の再会をもう少し味わっていたいもんだが、そうはいかないんだろう?」
「そ、そうだったね、ごめんつい嬉しくて」
うん、俺も嬉しい。
「状況を報告するね。
今このダンジョンは下に6階層まであるんだけど、向こうは今2階。罠は何でか全て避けられている。
武器は刀みたい。ボクのコボルト君が……コボルト君が……」
流石ココだ。俺が今知りたい情報を教えてくれる。聞く限り、そいつは完全に敵だ。
でも……そっか。コボルト君か。
「残念だったなコボルト君」
「うん……みんな良い子だったのに、何で、殺しちゃうんだろう。
吠えたら逃げると思ったんだけど、向こうが殺しちゃった。離れてたのに、何て言うのかな、斬撃を飛ばしたみたい」
遠距離も問題なし、か。嫌な奴だ。コボルト君を殺した時点で情のかけらもない畜生だ。
と、ココがディスプレイを見て何か気づいたらしい。
「あっ、今3階についちゃった。
どうしよう、4階と5階には何もないんだ。6階は自室だし……」
「罠がないなら好都合。俺が4階で待ち伏せしてよう」
「っ……ボクも行くよ!
戦える。王人に任せっきりなんて出来ない! それに、1人じゃ危ないよ!」
「ダメだココ。俺は大丈夫だし、ドンと任せてくれ。
それに……俺はそいつを、多分殺すぞ。お前にそれが出来るか?」
無理だ。
ココは人を殺せない。
「出来るよ!」
……強がっていても、無理なものは無理なんだ。震えた体がその証拠。
それになココ、例え出来たもしても、俺はココに人殺しなんかさせたくない。お前は、お前でいてほしいんだ。
「本当に出来るのか? もしも出来なかったら、それは俺に迷惑をかけることになるんだぞ? 俺を、殺すことになるんだぞ?」
「っ……で、でも」
ココの頭を撫でた。ラピスのせいで、それが癖になったのかもしれない。
サラサラと流れる髪が、とても気持ちい。いつまでもしたくなるような魅力があり——気を引き締める。
「すぐに終わる——出来るなら、ソレで見ないでほしい」
「……うん、分かったよ。でもこれだけは約束して。傷一つ負わないで、勝ってね」
それはなんと、ココも無茶な事を言う。これが俺の初の実践だというのに……だけど、そんなに信用した目を向けられちゃ、断れない。
俺も少しは、カッコつけたい。
「任せろ!」
まあ、腕の一本や二本覚悟しておこう。
俺は名残惜しくココから離れて、階段へ向かう——とっとっと、途中でコケそうになった。何かにつまづいたらしいと思って後ろを振り返ると……
「あ、ごごめんなさい」
なんかいた。
いや、サポートキャラなんだろう。さっきまではココがいて見えなかったし、こいつ自身チビだから気が付かなかった。
どうやら、俺が引っかかったのはこいつの足らしい。
……だが、何かが気になる。この典型的な王子服——肩と膝が妙に膨らんだ服——を着たチビっこを見ていると、足ではない何かに引っかかる……まあいい。
今は、はた迷惑な刀男をどうにかするとしよう。
◇◇◇◇◇
斬る、斬る、斬る。
おっとダンジョンは斬れないらしい。我が愛刀をもってしても壊れないとは、俗に言う破壊不能オブジェクト……か。だが——
斬る、斬る、斬る。
空気を斬る。空間を、運命を、斬り開く。それが我がスキル、【剣術】
先ほどコボルトを斬ったが、やはり我がスキルは無敵。コボルトは真っ二つ、ダンジョンとやらの魔物だったのか光の粒子となって消えていったわ。
……だが、まだ足りない。
我が力はこんなものでは収まらない。剣術だけでは足りぬ。もっと、望む。求む。
その為には、いささか気は引けるが同郷の者を殺すのも止むを得ん。どうか我が力の糧となれ。
斬る、斬る、斬る。
気配でわかるぞ。目の前には、落とし穴。こんなものは通用せぬ。我が力を見くびっているとしか思えないこの所業、ここのダンジョンの主に恨みはなかったが、気が変わった。
絶対に許すまじ。
斬る、斬る、斬る。
遂に次の階へ着いた。ここに罠はないと判断しながら突き進むと、妙な気配が……
「そこかっ、秘技 一刀閃!!」
何もない左の壁に、刀を振り下ろし斬撃を飛ばす。いや、何もないはずの壁に、斬撃を飛ばした。
「うおっ!?」
ふんっ、やはり……ネズミが一匹いたようだ。どうも、真正面から来ないところを見ると狡い奴。
「姿を現さんか卑怯者! さては、我が力を前にして怯えを見せたな!」
———そして、彼奴は現れた。妙な気配が揺らめくそこから、段々と目に見える形で……男、か。
中々に整った容姿をしておる。だが、駄目だな。我が顔は凛々しい。やはり、男はそうでないといかん。
「いやー参った参った。まさか隠密レベル8でも効かないとなると……さてはお前、スキルレベル10あるな?」
「何を言うかと思えば、当たり前ではないか。我がスキルは【刀術 レベル10】! 貴様のような卑怯な技、見破って当たり前!」
「……なーるほどね。自信家でバカだったか」
「な、何をーーー!?
我が刀術をバカにするか!!」
「いやスキルじゃなくて、お前自身をだな……」
「刀術は我が力。それ以外にはいらんと、あの見目麗しいおなごに頼んだくらいだ!
それを貴様は侮辱したな!!」
「それ以外にはとらんって……やっぱお前とんでもないバカなのか……」
「くっ、もう許さん!!」
人をバカ呼ばわりする者は、皆心の汚い奴だ! 此奴は敵。それも、悪党の類。
我が刀のサビにしてくれよう。
「秘技 一刀閃!!」
「っ……馬鹿の一つ覚えめ!」
「まだ言うか! 秘技 一刀閃!」
さすがに距離が離れているのか、中々当たらない。が、それも時間の問題。
我がスキルに死角なし。奴の服を、髪を、確実に斬り裂いていく。そろそろだな……そろそろ、当たる。弱い者イジメは嫌いだが、悪党となれば関係ない!
「秘技……いっっとうせんんん!」
「ぐあっ!」
腕一本を狙ったが、敵もそれなり、我が力を前にしてかすり傷とは中々。
敵にしておくのが勿体無いな。
「次はないぞ」
「はぁ……はぁ……余裕だな刀男」
血の流れる脇腹を手で押さえながら、そんなことを言ってくる。
当たり前ではないか、我が力は、最強なり。
「刀男、お前いいのか? 言っておくが俺はこのダンジョンの主じゃない。まだ、あともう1人いるって事だ。
俺より強いそいつを、俺の戦闘の後で倒せると……本気で思ってはないよな?」
「はっ! 何を言うかと思えば、流石悪党、底がしれる。そんな世迷言誰が信じると思っているのだ。
——つい最近の死亡事件。貴様も知らないわけではあるまい。皆が口に出さずとも、最悪を想定しておる。
絶対なんてものはないのだ。命が失われる危険のあるダンジョンに、友達面して行けるわけがなかろう」
「本当何だけどなぁ……まあいいや」
此奴は、俗に言うファイティングポーズをとった。勝てると思っているのか?
失笑。
笑えず。
「にしても、お前の名前は健道 剛か」
「……何故分かった」
「それはいいよ、俺のスキルだ。
——剛君は1年みたいだな。俺は2年なんだが、よくも人を殺すなんて出来るぜ。まともじゃあない」
「……そんな事分かってるよ……いや、分かっておるとも。
しかし! そんな甘ったるい気持ちじゃ、この先生きていけない!
ここは何処だが、貴様も知っているだろ! ここは誰かが死んだ近く! つまり近くに、殺人者がいるかもしれないのだっ!
強くならないと……駄目なのだっ」
「おいおい——俺のせいかよ?」
「む、何か言ったか?」
「いや、何でも」
変な奴だ。
もしやこれは、心を揺さぶる狡い方法! くっ、危うく騙されるところであった。
此奴はここで殺す。悪党は……悪党は……見逃せない。
「貴様はここで殺す。悪く思うなよ」
「はっ、いいぜ……フェアプレイといこうじゃないか。
今から俺が使うスキルは【隠密 レベル8】
気をつけろよ」
そう言って彼奴の気配が薄まる。これはさっきの、気配の揺らめきと同じ。
見破れない訳がない。
「秘技 一刀閃!」
「ちっ!」
やはり、わかる。貴様の居場所が分かるぞ悪党め。そんな狡い技が、我が前にして通用するはずがない。
——一撃で決める。
刀を上段に構える。
彼奴は、ゆっくりとこちらへ向かってくる。が、まだだ。まだ近寄せて……狙うは即死。
右へ左に揺れる彼奴を、目だけで追ってそして……
「そこだ——秘技 二刀坂」
振り下げ、振り上げる。
その一連の流れを、コンマ1秒にも満たない時間で終わらせる速さ。
彼奴に避けられるはずもなく——そう、避けられるはずがないのに、ないのに……!
一部鋭い空気の揺らめきが、我が顔に一直線に交わった。顔から胸元が、熱い。熱い熱い熱いっっ! 熱いよっ! 何でっっ、どうしてっ、あり得ない!
熱さにともない、痛みがやってきた。よろめき、後ろへ下がる。
「どうっ……して!」
「……教えてやろうか」
彼奴は姿を現した。
しかしそれは先ほどと違い、片手にナイフを持ち、何やら青い物体を身に纏った形で。それは丁度、我が刀が傷をつけたはずの場所。
……そうか、それで防がれたのか。
——刀を鞘に収める。片目が失った今、無闇に斬れないからな。
「俺のスキルはもう一つあってな……魔物召喚。そしてこの青いのは——」
プルンと、青いのが揺れた。
「——スライムなんだよ実は。だが、ただのスライムじゃない。
397回覚醒を終えた、ラピスラだ。能力は極振りしてある……それは、物理無効。まだ無効とまではいかないが、それでも30%は無効出来る」
「……そうか、それで、防がれたのか」
「ああ——戦いの最中、最も油断するときはいつか知っているか?
それは、揺るぎない勝利を確信したときだ」
彼奴は、こちらを指差す。それは傷を指差された気がして、何だか恥ずかしいような、我が未熟さを感じた。
「お前は、俺に勝ちを確信した。そこから余裕へとつながり、本来なら防げたであろう攻撃を無様に……全く、自身の力を過信しすぎだ」
彼奴が近づいてくる。
どうやら、刀を収めたこちらを見て、大丈夫だと判断したらしい。
「お前は俺の親友を怖がらせた。それだけでなく、殺そうともした。
万死に値する」
……まだだ。まだ、まだダメだ。もっと近づけ。もっと……
そう、近づけ!!
「死ね」と、ナイフを振り上げた彼奴が呟いた。だかそれは、こちらのセリフ。
「——秘技 居合斬り」
「何を……っ」
コンマ1秒、コンマ0.01秒、コンマ0.0000001秒、そんな次元の話ではない。時間すら無視した我が秘技、刀を鞘に収めた状態からの秘技、射程が短いのが唯一の短所だが、これをくらって平気な者はいない。
……彼奴はこちらをみて思っただろう。大人しくしたと思ったら、いつの間にか刀を出している……と。
彼奴は、即死だ。
俺の目の前で今——上半身がずり落ちた。別に何とも思ってないけど……思ってないが、悪党の死体など目に毒。見たくないから目を瞑る。
「戦いの最中最も油断する時は、揺るぎない勝利を確信した時……か。
成る程、確かに貴様の言う通りだったな。お前は、勝利を確信したんだろう。
礼を言うぞ悪党。我が力、まだまだ強くなる」
確かこいつは、もう1人いると言っておったな。念のためだ。確認するとしよう。
そう思って歩き出そうとすると、妙な違和感を感じた。本当に微かだが、確かに。
俺は真っ二つに分かれた彼奴を見る。
「……っ、なん、何だよこれは」
人間、じゃない。
泥、そうまるで泥人形。土くれだ。血だった物も肉片だった物も、全てが泥みたいな……これはどういうっ
——トスンっと、胸を軽く押された気がした。何かがおかしい。何かが。
しかし、その何かを確認しようとする前に、意識が遠のく。
……さいご、に聞こえた、あの言葉。
「だから忠告したのによ」
…………分かって、しまった。自分はまけたのだと。負けないために、死にたくないから殺しきたのに、これじゃ、意味がない。
——だけど何でだろう。
……これで……良かったと、思える自分が…………………確かにいたんだ。
——僕は、僕のままで死ねた。
◇◇◇◇◇
後ろから心臓へひと突き。即死だ。即死の筈なんだ……
剛という哀れな男の顔を見ると、泣いていた。なのにどこか、清々しさを感じる。
こいつは確かにココを殺そうとした、だけど、何でだろうな、あんまり……嫌いにはなれない。こいつもまた、被害者なんだろう。
「だからって許せるわけじゃないんだがな……こいラピスラ」
俺はドッペルゲンガーに張り付いた青い塊、ラピスラを呼ぶ。物理無効30%、ここまでは楽に上がってきたが、これ以上、上がるのは更に何十倍も覚醒しなければならない。最強の道は、そう簡単じゃないな。
だが、その物理無効30%でもラピスラは瀕死だ。よろよろと形を崩しながら、こちらへ向かってくる。
「ありがとな、今はゆっくり休んでろ」
ラピスラの下に魔法陣が浮かび上がり、魔法陣が現れる。俺でも書けそうなシンプルなそれは、段々と回転していき……魔法陣が空中に浮き上がったかと思うとラピスラは消えた。
「そしてドッペル君も……ありがとな」
俺が動かしてたんだが、それでもドッペル君は役に立ってくれた。1日ドッペル君とは会えないが、彼がいなければこの戦いには勝てなかっただろう。
——俺はドッペル君の中で、ずっと隠密レベル8を使っていた。これは確か。だってそうだろ。異世界知識さんに基本から応用までじっくりと教わった俺と、基本しか知らないこいつじゃ、俺の隠密レベル10をそう簡単に見破れるわけがない。
スキルを持っていても、本能的に使えるのは基本の最初の方だと、俺は分かった。もちろん時間をかければ違うと思うが、そうじゃないなら……この結果は当然だといえる。
だが、念には念のため。俺は最後だけに、隠密レベル10を使う。
明るい光に照らされていると、暗い闇が分からなくなるからな。レベル8に慣れたこいつは、レベル10に気付かなかったわけだ。
——ナイフを片手で弄んでいると、体へと異変が起こる。全身がなんとも言えない感覚に陥り、満たされる……俺は刀術のスキルが手に入ったんだ。
……はぁ、出来ればこの感覚は味わいたくなかった。俺は、平和に生きたいのにどうして……
過ぎたことを言っても仕方がない。俺の目の前で、ドッペル君が消えていく。
俺はコールで、ココを呼び出した。タイムラグなしで、了承が押されたらしい。すぐに耳元で声がした。
『王人! 大丈夫!?』
「ああ、大丈夫だって言ったろ。かすり傷一つなし、褒めてもらいたいくらいだ」
『うん! うん! 良かった、本当に良かったよっ!』
お、おおう……そんなに嬉しそうな声をきかされちゃこっちが困る。こいつの素直さで、一体何人の年上を落としてきたんだろうか。親友ながら恐ろしい。
「すぐにそっち行くから、絶対にこっちへは来るなよ」
『すぐにだからね!』
「へいへい」
……さて、すぐに行くとは言ったものの、この死体をどうしようか。
ダンジョンの外にまで持っていくことを考えていたが、俺の目の前で剛が消えていく。
あそっか、前回は例外として、今回はココがこのダンジョンの主なんだから……成る程、ダンジョンポイントとして換算された訳だな。スキルレベル10の刀術を持っていた訳だし、期待できそうだ。
ココの為に良い事した気持ちになって、それはただの自己満足だが、鼻歌でもしたい気分。
〜〜〜〜〜
「王人!」
つい最近感じた衝撃。
目の前には、またココがいる。さっきまでは余裕がなかったが、今はもう安全なので、こちらも抱き返す。
アメリカンハグ、だな。
だが長時間これをしていると精神的にキツイので、すぐに止めた。
「ありがとう王人。ボク、本当に……ほんっとうに良かった」
「俺も、ココが相変わらずココで、元気そうで良かった」
今、俺たちは自室にいる。ココは自室にポイントをあまり使ってないというが、それでも女子力(?)溢れる可愛い部屋。
一体俺との差は何なんだろう。模様替えにはココへ頼むとしよう。
「悪いな、遅れちまった。もうちょっと早くにでも来れたら良かったんだが……」
「ううん、信じてたからね。絶対に王人なら来てくれるって」
俺も信じてた。ココなら待っていてくれるって、親友だから分かる。
……そう言いたかったのだが、恥ずかしくなってやめた。でもいいんだ。言わなくても、ココなら分かってくれる。
だって、親友なんだから。
「そうだ、お腹すいてない王人? もうすぐ……ていってもまだ10時くらいだけど、お昼ご飯はボクが作るよ。さっきのお礼も兼ねてね」
な……なん、だと?
こ、ここココの手料理が、食べれれれれる? これは夢か! いや、ユートピア、理想卿。天国、パラダイス。桃源郷。
何でもいい!
俺ら今頃気づいたぞ。ココの料理に、飢えている。
「まだ食材が無いから簡単なものしか作れないんだけどね、それでもいいなら」
「あるぞ! 煮干からマグロまで、何でもあるぞココ!」
「ほ、本当? なら、うんと腕によりをかけて作るよ」
ああ、久しぶりに……ココの料理が食べられる。うん、最高。
たくさん作ってもらって、まだ食糧難でいる妹にも分けてあげようではないか。
《ならば急ぎましょう、ラピスはもう、村娘がなだめていますが、もうそろそろ限界ですよ》
(っ……忘れてた!)
急がないと……って、そうだ。
(さっきはありがとな。お陰で助かった)
《……私は所詮、貴方のスキルですから。言われた事をするまでです》
(でも、だ。助かったよ)
俺がドッペルの中で剛の刀を避けられたのは、異世界知識さんが直前に攻撃ポイントを教えてくれたからだ。
流石に避けきれない部分はあったが、それでも異世界知識さんがいないと、最初の一手すら避けられたのかも怪しい。
《感謝してもしなくても、構いません……が、どういたしまして》
恥じらい、頬をピンク色に染める異世界知識さんを妄想しながら聞きました。実際はいつも通りの口調だが……
「悪いココ、俺は一旦自分のダンジョンへ戻る。食材うんと持ってこないといけないから、何かどうしても必要なものがあったら言ってくれ……あ、いや、ココが来てくれないか? 俺の方が施設も整ってると思うぞ」
「確かにそうだね……うん、そうするよ」
狩人殿には適当な言い訳を考えよう。ココにも事前に話しておかないとな。
「そうだ、王人。キングジュニアも連れて行きたいんだけど、ダメかな?」
そう言いながらココは、椅子へちょこんと座るサポートキャラ、キングジュニアの方を向く。名前に何だか寒気を感じるが、何だろう、ネーミングセンスかな?
「ボクがつけたんだ。丁度王子様っぽい服装をしているでしょ?」
お前がつけたのか!
っていうか、王子様ならなんでプリンスあたりにしない? どうしてキングにこだわった?
「王子様っぽい服装をしているのには同感だが……」
俺もキングジュニアの方を向く。
……やっぱり、何だか嫌だなぁこいつ。別に名前じゃなくて、どうも『物』を見ている気分だ。サポートキャラなんだから、その認識は正しいかもしれないが、キングジュニアはどこか安っぽさを感じる。
正直、好きになれそうにない。
「悪いココ、俺のサポートキャラはランダムで作ったんだが、どうも人見知りでな。
ココまでなら大丈夫だと思うが、2人もとなると……少し不安だ」
もちろん嘘だが。
「そっか、なら仕方ないね」
ごめん、今日はお留守番だよ。
ココがキングジュニアにそう言うと、僕は気にしてませんよと、とーっても可愛らしい声で言う。
何だかなぁ……とーっても気持ち悪い。
どうしてだろう。俺は、どうしてこんなにキングジュニアが嫌いなんだろう。
「……?」
俺の視線に気づいたのか、キングジュニアはコテンと首をかしげる。人差し指を口元に当てながら……
これ以上こいつといるのは嫌になったので、早く部屋から出ることにした。
——上の階へ向かう途中、つまり階段でだが、ココがふと足を止めてポケットの中から取り出したそれを、俺にプレゼントしてくれた。
「はいこれ」
「なんだ……?」
それは、確か前に——異世界へ来る前に——ココが携帯へ付けていた宝石 (もちろん偽物だが)のストラップ。赤い物と青い物がある。
「ボクのスキルは、【飛空魔法】と【クリエイター】。
その2つは、ボクが今の所作れる最高の物なんだ。心で念じると、少しの傷なら回復出来るよ」
何と、それはまた嬉しい物を。効果が高いとはお世辞にも言えなさそうだが、ココがくれたという所に意味はある。
ゲームでいう、【大事な物】のアイテム欄に入れたい所だ。大事にしよう。
「1つは王人のなんだけど、もう1つはサポートキャラにね」
「ありがとなココ、大切にする」
絶対に、ラピスにも言っとかないと。もしも大事にしなかったらお仕置きだ。
「その、狩人さん? の分は用意できなかったけど」
「気にするな。というより、まだ狩人殿を完全に信用しているわけじゃない」
「良かった……でも、その狩人さん? って、燈華ちゃんに似てるね」
妹に? 狩人殿が?
俺の妹は、あんな怖い目つきをするのか。
「最後にですってつけたり、聞く限りは燈華ちゃんと似ている所たくさんあるよ。
王人は気付かなかった?」
「気付かなかったっていうか……意識しなかったというか。俺の前じゃ、妹は語尾にですってつけないしな」
妹と似てる……ね。確かに、考えれば考えるほど妹に似ている、気がしなくもない。
でも、俺はあれだ。狩人殿に似ているのは妹じゃなくて、俺自身と似ている気がする。
大体、妹は裸を見られて冷静でいられる人間じゃない。いつもは大人ぶっていても、ピーマンとか端に寄せる奴だからな。これも健太に言わせれば、可愛いのだろうか。
「ま、狩人殿については任せたぜ。ココは、凄腕の料理人設定。俺は少しばかりのお金持ち設定だ」
「分かった。
……凄腕は言い過ぎだし、少し恥ずかしいけど、頑張るよ」
打ち合わせも済んだ。まだ狩人殿には、ダンジョンだという事を隠すつもりでいる。向こうが何かを打ち明けてくれたら、どうにかしよう。
◆後書き◆
この後の展開については、大雑把にしか決めてないので、ご要望があればご期待に添えるかもしれません。
狩人殿の今後はもう決めてありますが。