それぞれの人間
モブ出てきます。
この話は飛ばしても構いません。
◆前書き◆
◇◇◇◇◇
弱い男
◇◇◇◇◇
僕こと夜羽伊織ほど卑怯な人間は、多分そういないと思う。
スキルは【絶対支配】
ただ1人だけ、自分の味方にできる絶対遵守の力。とても便利だと分かっていても、一生使うことはないだろうと思っていた……はずなのに、まだ全然ダンジョンの仕組みもわからない時に、1人の女性から攻められてしまった。
彼女の名前は、ディートリット・ディトリティア。とても強い実力者。なんでも未開の地のモンスターすら打ち倒す力を持つらしい。当然僕が敵うはずもない。
……僕は嘘をつくのが苦手だから、一般人のフリをしても勘の鋭い彼女にダンジョンの主だとバレて、殺されそうになったその時にーー絶対支配を使ってしまった!
それからは散々だった。どうも僕のダンジョンの位置が悪いらしく、毎度毎度相当の実力者が攻めこんでくる毎日。ディトリティアのおかけで戦いは免れてきたが、そろそろ限界だろうと思いダンジョンを離れて平和の場所へ旅をすることに。
……ああ、もちろんディトリティアは嫌がった。彼女はいつも僕を睨みつけ、でも僕に危害を加えることはできないから、ギスギスとした毎日を送る。
もう一つのスキル、【想いの力】がどうも理解できないので、どうしてもディトリティアに頼るしかないのだ。彼女を無理に縛り付ける僕は、自分でもとても卑怯だと思う。
「ねえディトリティアさんーー」
「……」
「いい天気だね」
「……」
「き、昨日のキノコ美味しかったよね」
「……」
「怒ってる、よね?」
「……」
彼女はただ一言。
「最悪の気分だ」
と、でも僕には解放するなんて強い事は出来ない。そもそもその時点でディトリティアから殺されてしまうだろうし。
道中はいつもこんな感じだった。話せと命令すれば話してくれるのだろうけど、僕を守れという命令しか出さないと決めてあるから、これ以上彼女に強要できない。
ーー彼女からしてみれば虫唾が走る思いだろうけど、僕はなんとか仲良くなれないかと自分の身の上話をした。
地球に住んでいた事。
ストーカーされている事。
母からいじめられていた事。
父はいない事。
妹が自殺した事。
彼女はいつも知らんぷりだったけど、ある日ポツリと喋りかけてきた。
「どうしたのだ」
「えっ?」
「だから、お前は悲しいとか、辛いとか思った事はないのか? そんな時にお前は一体、どうやって耐えてきたんだ?」
彼女の心身に迫る勢いに、僕は正直に話してしまった。多分それが、僕の何度目かの失敗。
「耐えきれてなんかいないよ。今でも思い出すと泣いたり、心が苦しくなる時がある。多分僕はずっと、忘れられないんだろうな」
僕の言葉に彼女は顔をしかめたあと、興味を無くしたように黙り込み、塞ぎ込み、寝込んでしまった。残ったのはたき火がパチパチと音を鳴らすだけで……
それからずっと、僕たちは無言の毎日を過ごしていった。それが変わったのはあの日、未開の地からの魔物が襲撃してきたあの日。
どうも僕が方向音痴だったらしく、目指す目的とは別の場所に向かっていたみたい。それも未開の地にまっしぐらだったものだから、こんな事になってしまった。
……ドラゴンに似たあの巨大な姿は、今までとは格の違う敵だと、ディトリティアが震えたのを見て確信した。
「逃げてディトリティア!」
卑怯な僕は、助けてという思いとは裏腹にそう叫べた。いつしか僕は、彼女が好きになっていたのだ。それは吊り橋効果みたいなものかもしれないけど、そして身勝手な感情だけど、それでも自分の命よりは大事に思えた。
ーーでも、忘れていた。
彼女は僕に縛られている。僕を守れという命令には逆らえず、ディトリティアは逃げずに僕の身を守った。
深手を負った。
「……君1人なら、逃げ切れるよね?」
「……」
「これは命令だよ」
「っ……恐らく、逃げ、きれるっっ」
良かった。
罪滅ぼしにもならないかもしれないけど、彼女が助かるのなら、それで良かった。
【絶対支配】を解除。ディトリティアも感覚で気づいたらしい。もう、僕という鎖は消え去った。
これでディトリティアだけは助かる。そう、思っていたのに……
「なん、で。なんでなんだよ!」
僕と魔物の間に、ディトリティアは立ち上がった。逃げるという行為に背き、立ち向かった。
「逃げろ、逃げてくれよぉ!」
ここで気づいた。そうだ、絶対支配だと。解除するのではなく、逃げろと命令すればいい。やり方は簡単だ。手を対象に向けて伸ばしてーー僕の手に、ナイフが突き刺さる。
「ぐうっ!?」
「貴様は少し、黙っていろ!」
とても怖かったです。はい。
……何故か魔物と戦うことに決めたディトリティアだが、戦力差は埋まらなかった。彼女はやはり、アレに勝てはしないのだ。
嫌だった。
ディトリティアが死ぬなんて、耐えられない。僕は弱い。妹すら守れなかった。
けど!
どうして、ディトリティアまで死ぬ必要があるんだ。僕の言う事を嫌々でも聞かされてきた、苦しんできた彼女は、もう楽になってもいいじゃないか。
……守りたい。
守りたい。守りたい。ちっぽけな僕でもそう思えて、何か心の奥が温まりーー
「伊織様〜!!」
ストーカーが、やってきた。
〜〜〜〜〜
ヘタレで卑怯で何のいいところもない僕を、何故か纏は好きだという。本当かどうかはともかく、地球ではそうだったのだから、ストーカーをされていたのだから、もう疑う余地はない。
纏はサッカー部のキャプテン、英雄君率いる女性軍団を引き連れて、見事魔物を追い払った。英雄君に何故ここが分かったのかと聞くと、どうしても纏がここへ連れて来たかったらしい。では、どうして纏がここへ連れて来たかったのか本人に聞くと……
「愛の力、ですわ〜」
ゾッとした。彼女は未だに、異世界でも僕のストーカーなんだと、改めて思い知らされた。
でも、助かったんだ。
それから僕とディトリティアは英雄君の庇護下に入り、行動を共にした。彼はやっぱり凄くて……どうもディトリティアの事が好きらしく、僕もお似合いだと思っていたのに。
それっぽい事をディトリティアに言ったら、殺されそうになった。
「私の思いを貴様が勝手に決めるな。最悪だ。2度とそんな口がきけないよう舌を斬ってやろうか」
怖かったです、はい。
英雄君のダンジョンに入って、久しぶりの安寧を得られたわけだが……毎日人のハーレムっぷりを見せ付けられるのはキツイものがあるし、纏がいるのも大変。
……絶対支配を解いたディトリティアだが、何故かダンジョンには残った。僕はやっぱり、英雄君の事が気になっているんだろうと推測するが(そして落ち込むが)、彼女はただ、暇つぶしとしか言わない。本当にそれだけならいいのにと、僕はもう……常に側にいなくなったディトリティアの事を思って、寂しくなる。
〜〜〜〜〜
「世界会議には、ディーティリッド・ディトリティアさんを連れて行く」
他の女性たちはブーイング。ディトリティア自身も絶対に嫌だと顔をしかめる。
「僕は思うんだ。異世界の人、つまりディーティリッド・ディトリティアさんを連れて行った方が公正だと。
ね、それでいいかな?」
「私の名を呼ぶな。汚らわしい獣めが」
「けだっ……も、の」
ディトリティアはいつもこんな調子だから、ディトリティアに英雄君を取られたと思う女性たちからはハブられている。英雄君もなんとか近づこうとしているのに、素っ気ない態度を取られ落ち込む。
いつも周りから愛されている彼からすれば、何故ディトリティアが自分に媚びないのか不思議でたまらないんじゃないだろうか? そんな悪い考えを思いついてしまう。
〜〜〜〜〜
ある日、なんと、ディトリティアが僕に話しかけてきた。
「気持ち悪いぞあの男」
「男って……英雄君?」
「ああ、生理的に無理なタイプだ」
「そうなんだ」
「……」
話が進まない。まさか、これだけで話しかけてきたのではないだろうに。
僕は当然、彼女に負い目を感じているわけで。実は話しているという事にさえ、辛く感じるものがある。
「なあ、伊織」
「なな、なんですかディトリティアさん」
「……」
「……」
「……ふんっ、やはり何でもない。ただ此度の戦争。どうも他人話ではないから私も参加するが、お前が死ねば清々するだろうなとか、そんな事を考えていたまでだ」
ああ、やっぱり嫌われています僕。
でもディトリティアの言う通り、僕が許されるのは死んでからなのかもしれない。
……全部僕が悪いんだからなぁ。
しょうがないのかなぁ。
◇◇◇◇◇
強い女
◇◇◇◇◇
私、生徒会長は、これまで自由に生きてきた。気にくわないものがあれば、無理にでも止め。やりたい事があれば、すぐに実行する。
後悔はしていない。私の行動で迷惑を被った人間は確かにいるのだろうが、その逆もまた然りで。
……しかし時々、ふと思う事がある。私はいつからこうなったのだろうかと。本当に私は自由なのかと。
考えれば考えるほど頭の中がこんがらがり、私は決戦一週間前に、「信用できず信頼できる」、生徒会副会長を飲料専門店スワローに呼んでいた。ここは私のお気に入りだから。
「話ってなんですか会長」
こいつは決して媚びない。今も心底気だるげに、早く帰りたいと顔に出している。
「まあ聞け。私が地球で生徒会長だった頃、時々こう思うことがあった。
ああ、なんだ、私の人生は作り物みたいだと。決められたセリフを、決められた時間と場所でいうお芝居みたいだと」
自由と思っていた生活は、むしろ縛られていたような気がして。皆の期待に応えるべく、私は私でその理由があるから動いていた気がして。
『生徒会長、もちろん立候補するよな?』
当たり前のように教師から言われた私は、当然のように生徒会長へなった。
嫌々だったわけではない。私以外に立候補がいて、わざわざ譲ろうとも思わなかったはずだ。しかしやはり、そんな自分勝手に動く自分は、台本通りに動いていたんだと思う。
動かずにはいられなかったんだと思う。私らしくないとか。そんな言い訳をして。
「だが……な。お前といる時だけは、私が私で居られるような……いや、私という殻を脱ぎ捨て生きているような、そんな気がした」
どこまでもマイペースだった。そう、この副会長こそ自由に生きていた気がする。
誰が相手でも気にせず、常に周りを意識せずに行動していた。そんな面白い人間を、私はどうしても欲しいと思って、生徒会に入れたんだ。
「ま、そんな気持ちもまた、そうでありたいという願望から生まれた、私の新たなお芝居……作り物みたいな心なのかもしれないがな」
「……別にいいんじゃないんですかね。例えそれが演技だったとしても、心から嬉しかったり楽しかったりしたなら、それは間違ってなんかないと思いますよ」
副会長はこんな時に嘘を言わない。なら今のは、きっと本心なのだろう。
「で、もう俺帰っていいですよね?」
……これも気遣いとかそういう心遣いではなく、本心なのだろう。
私もしこりのようなものは消えていた。こうして命を懸けてまでゾディアックと戦おうとしているのは、生徒会はそうであるべきだという強迫観念からくる意思でもいい。その先の平和を掴み取って、またみんなで笑顔になれればそれが1番なのだから。
「一週間後、もちろん心配はしていないがーー死ぬなよ副会長」
「……」
王人は私の言葉に振り返らなかった。背中を見せて、それ以上の事を語らない。
しかし、微かに聞こえたさっきの声は、私の聞き間違いでないのなら……
ーーアンタこそ
と、まあ、やはり気のせいだったのだろう。普段の王人なら、しっかりとした口調で話すはずだ。ある意味素直なところが、奴の美点なのだからな。
普通では聞こえない声量で。
そんな、まるで逃げるような事を、副会長がするはずがない。
◇◇◇◇◇
悪の正義
◇◇◇◇◇
羽蘇 月姫にとって、最終目標は争いのない平和な国だ。喧嘩一つおきない優しい世界だ。
だからこそダンジョンマスターになると決意して、つまりみんな殺すという訳で。でも、願いを叶える時にみんなを生き返らせるつもりでいるので、罪悪感はない。
「また買ってあげるから〜」
みたいなのと同じ心境なのだ。
さて、そんな月姫だが、今のところ戦力は近衛兵100人。教会に属する12人の手練れ、十二聖者。1人の強者、勇者ソード。これは法王さえ操れば皆イエスマンなので、儲け物だと思っている。
あと【信頼】のスキルで操っているのは、フィギュア作成スキルを持った武田さんと、ひたすら最高品質の回復薬を作成出来る伊瑠夏さん。それに、【信頼】を使わずとも仲間にできた、渡辺 杏。
ざっとこんなものだ。
あとは、本人とスキルの相性がすこぶる良かったのか、それとも四宝との相乗効果か、フィギア作成スキルでどんどん戦力は増えていってる。
もはや軍隊。
彼女は絶対に勝つつもりでいた。
「ぶーたさん、アレは出来てるかな?」
「フッ、ヒヒィヒヒ、安心して月姫ちゃん。全然問題ないよ。細部から全身にかけて、僕の手にかかればーー」
「ああ、いいよいいよ。出来てるなら問題なし。七実ちゃんの言う事を信じるならば、戦いは来週だし……まだまだ時間はあるもんね」
彼女は、絶対に、勝つつもりでいた。
正々堂々を抜きにして。情緒もへったくれもなく、手加減も油断もせずに、常識をかなぐり捨てて勝つつもりでいた。
……もしもアリの巣があって、それを壊さなければいけないとして。
健太という男なら、水を流す。
王人という男なら、水銀を。
だが月姫の場合……核爆弾を。
戦争なんてまどろっこしいのは止めにして、いっそ創り変えると決めた。それこそ蟻んこ1匹残らないように。
ーー全てを零に
◇◇◇◇◇
各国の状況
◇◇◇◇◇
シント法国ーー
パワーティス帝国に取り込まれている。
四宝、賢者の心臓
パワーティス帝国ーー
いつも通り。
四宝、禁忌人形エンドール。
ラブース王国ーー
ゾディアックなるものをどうするか、国の上層部は迷っている途中。マーガレット王女と三星の戦乙女だけが、既に覚悟を決めている。
四宝、既に登場しています。
クルルギ王国ーー
聖女様が、こっそり塔を抜け出して、決戦時の集合場所に向かう予定。
四宝、既に登場しています。感想を言うなら、1番使えません。
〜〜〜〜〜
こちらの戦力
生徒会。委員会。ブラッドデッド。サッカー部。ハク君。三星の戦乙女。
因みに、裏切りそうなのが、この内2つ。




