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異世界ダンジョンウォーズ  作者: watausagi
最終章 最後の決戦
66/85

王人、死す!?

◇◇◇◇◇


ゴーレムの上を歩いて、しばらく前に進んでいると、地面が揺れてきた。さっきよりも低い地鳴りは、ひときわ大きなゴーレムが地上に出た証だった。


それはもう、本当に大きい。戦隊物に登場出来るほど大きい。いや、というか実際に中に人が入ってるぞ。コクピットかなんだか知らないが、ご丁寧に頭のその部分だけガラスと同じくらい向こうが見える。人が、見える。


「足を狙え!」


会長の指示により、各々が動き出す。しかし敵も近づけてはくれない。腕をこちらに向けると、まるで銃のように弾を発射した。あの連射力はガトリングだ。弾は……ミスリル。


ーー忍が最初に近づき、泥沼を奴の足元に作り出した。そのまま沈み込むゴーレムかと思いきや、空を飛んだ。あの巨体だからジャンプみたいなものだが。


次に霰が、ゴーレムの着地点に氷を作り、まんまとゴーレムは滑る。今度は自身を支えきれずに、そのまま後方へぶっこけた。


最後に健太が止めだと言わんばかりに、コクピットのすぐ下の部分を雷を纏った剣で破壊しようと……


「ぐへっ!?」


ーーかなりのスピードでこちらにやってきた何者かに、健太は蹴り飛ばされた。可哀想に健太、そのまま地面とキス。


「誰だ!!」


反射的に忍が叫ぶ。だが俺は、そいつが誰れだか知っていた。


……奇抜な格好をしているのだから、忘れようがない。左腕だけの鎧に、右足だけの鎧。そして何より目を引くのは、左側の顔と髪を隠すようにしてつけたカッチョいい(俺の感想です)仮面。今回は青色らしい。


そいつーー白王 帝は、庇うように小宮の前に立ち、高らかに宣言した。


「双方、武器をおろしてくれ!」


ピクリと動いたゴーレムの腕が、ハク君の声を聞いてすっと下がる。俺たちも戦わずに済むのならそれでいいと、一応臨戦態勢を解除した。


ハク君がホッと息をつき、ゴーレムのコクピットが開いて中から人が出てくる。あれが小宮 緋子。


「おい今までどこいたんだよハク! 俺これでもすっげぇ怖かったんだからな!」

「……」

「お、おいハクーー」


目の前で、小宮 緋子がハク君に取り押さえられた。ハク君の鎧が黒に変わり、左腕の部分が鋭い刃物に変わると、小宮 緋子の首に突きつける。


「お、おぉ……ハ……ク?」

「答えろ。お前が初めて俺の家に来た時、出迎えた人間は誰だ」

「えっと……初めて家に来た時!? ちょっと待ってちょっと待って……確か、お前の妹だろ? 妃ちゃんだろ? そんで、そんで……プリン! プリン食べてた!」

「……そうか」


ハクはそう言って、小宮 緋子に武器を振り下ろす。しかしそれは、小宮 緋子の真横を通過しただけだった。


「一応、お前は偽物じゃないみたいだな。と、ひとまず思うしかない」

「ど、どういう事だよハク? 俺が偽物な訳ないだろ。だって、お前がそう言ったじゃねえか」


小宮 緋子は混乱している。俺たちも、いや俺は何となく分かってきたが、やはり混乱している。


「俺は偽物じゃないって、お前が言ったんだろハク? そんで……そうだ! 生徒会倒さなくていいのかよ? 」

「なんだそれは」

「だって! お前の指示通り動いたのに! なんか俺、間違ってたか?」

「……その俺こそ偽物だと、何故疑わなかったんだ」

「えっ……ぁ、でも、偽物じゃないって言ったんじゃん」

「偽物が自分を偽物だと言うはずがないだろ。お前、一体どうした?」


小宮 緋子の焦点は定まらず、俺とハク君を交互に見ていた。どうしていいのか分からずに、でも自分が間違った事をしていたと気づき。


「だってよぉ、だってよ! お前最近ずっと連絡よこしてくれなかったじゃんか! なんの返事もしてくれなかったじゃんか!

もしかして、何かあったんじゃないかって……ずっと心配してたんだからな……」

「それはっ……悪い」

「別に、俺が……そうだ。俺が馬鹿だったんどな。お前がーーいやお前じゃなかったけど急に会いに来て、すっかり調子に乗ってた。まんまと騙されちまってた」


小宮 緋子は素直に俺たちへ謝りに来た。ハク君も原因の一端は俺にあると、一緒に謝った。俺たちもこれは全面的に月姫の仕業だと確信したので、どうこう言うつもりはない。偽物ハク君はとうに姿をくらまし、今回はあいつに嵌められだけだ。


……そうそう、俺がゴーレム軍隊全滅させちゃったからな。ま、あれはただの量産型で、実はまだスペシャルが用意されてるとの事だが。


「でもよハク、何で分かったんだ? 俺が生徒会の皆さんと戦うって」

「馬鹿。お前が俺にチャットしてきたんだろ。それで何かおかしいと思って、急いで来たってわけだ」

「ふーん……じゃあ俺、本当に馬鹿だったんだな。もっとどうにしてれば、こんな事にはならなかったかもしれないのに。

でもよ、まさかハクが偽物だなんて……」


急に、小宮 緋子の言葉が詰まる。


「どうした?」

「いや……でも……そんな」

「だからなんだ」

「……お前は、偽物じゃねえよな?」

「安心しろ。俺は違う」

「でもそれ、偽物も言ってたぜ?」


それを言ってはお終いだ。

でも……確かに。

この白王 帝は、いや小宮 緋子もそうだが、本当に本物なのか? それだけじゃない。忍も健太も、会長も霰も、本当に偽物じゃないとどうやって断言出来よう?


ーーそうだ。あの世界会議だって、あいつら本当に全員が本物だったという確証はあったか? マーガレット姫が一番怪しい。風紀委員が彼女の安全を見張っているとはいえ、1番守りに関して薄いのがあそこではないか。三星の戦乙女だって、つきっきりで彼女の側に居られるはずがないのだから。


……ああ、疑いだしたら止まらない。疑惑の心を持った鬼が、どこの闇にも潜んでる。


ーー空気が張り詰めた一方で、逆にそれを崩す2人の人間がやって来た。


遠くからこちらを向かってくる、1人は知らないが、まさかもう1人は……


「そうだ王人先輩。俺はあの2人と行動を共にしているのですが、その内の1人は知っているのではないですか?」

「ああ、その……ああ」


何も言えない。まさかこんな所で再会するとは思わなかった。


初対面で俺を魔物だと勘違いをし、ちょっと冗談を言えば鵜呑みにしてしまった女性。真っ赤なローブで全身を包んだ、彼女の名前はフォークス。


またの名を、暴力女。



「オオト殿〜!」


遠くながらも聞こえてくる暴力女の声。あいつは誰だと、生徒会の皆様からきつい視線を頂いております。


《感動の再会ですよオオト。こちらも会いたかったと言わんばかりに、前に歩みでましょう》


もう、何でもいいや。


俺は言われた通りに前に出る。


《もっともっと前です》


ああそうですかと、結局は10歩くらい前に出て、俺は暴力女を待った。隣の奴は知らないが、暴力女はこちらに手を振ってくる。


俺も手を振り返したその時、後ろから強い風が吹いた。そしてそれは、暴力女の所まで到達し……フワッと、暴力女のフードがめくれる。手を振っていた彼女に、それを止めるには遅かった。


ーーやはり、狐耳。


ピョコンと生えた狐耳。


狐耳。狐耳。


恥じらいと一緒に、狐耳。



「王人!!」


まさかこんな所でお目にかかると思わなかった俺はーーほんの少しだけ油断していたのかもしれない。

会長の声で初めて、上から空気をきる音がした。慌てて上を向くと、誰かが俺めがけて剣をつきたてようとしていた。


……人は驚きを目の前にして、体が硬直するらしい。まあ俺にそんな事はなく、刀を取り出して敵の攻撃を防ごうとした。


しかし当たらない。


あっ。


ーー刀は折れていた。


そうだった。遅れながら気づき、柄の部分で防ごうととしたが……深手を負っていた腕は言うことを聞かずに、もう敵の攻撃は目の前にまで迫っていた。


……そこで俺は気づく。


ああなんだ、俺もちゃんと驚いていた。緊張して自分の身体状況すら見失っていた。まるでみんなと同じように。まるで、普通みたいに。


昔なら考えられない。少なくとも異世界に来たばかりの頃なら、俺は難なく防げたはずのこの攻撃。

一体いつから俺はこんなになっていた? 一体いつから弱くなっていた?


ーー後悔。


甘えていた。多分、間違っていた。こんなんじゃ霰に、見限られてしまう。


……でも。もう遅い。霰に失望されようがされまいが、俺の頭に、敵の巨大な剣が突き刺さっていた。貫通していた。


俺は、暗闇に包み込まれた。

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