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短編集 裏シリーズ

◇◇◇◇◇

part3 丁度よかったね!

◇◇◇◇◇


地球にいた頃の話だ。


学校で、名無しが勝手に生徒会へ入って来た時、俺が食べているクッキーを「くれますか?」と聞いてきた。


……ふむ。


とりあえず、否定の意を表に出す。


「馬鹿な」


そして、迷う振りをしてあげる。


「一個だけだぞ」


しばらくして、向こうはまだ物欲しそうな顔をしていたので、何も言わずにクッキーをあげた。


まあ、名無しはこう思っただろう。


うわー、王人先輩マジ優しい。


……と、敢えてその勘違いは正さない。名無しは知らないのだ。


(おいおいこのチョコクッキー、ナッツが入ってやがる死に絶えろ)


何て事を俺が思っていた事に。

シンプルなチョコクッキーを求めていた俺に、ナッツは障害でしか無かった。だから偶々、近くにいた名無しに好都合だとクッキーをあげただけなのだ。


でも、誰も損はしていないんだし、めでたしめでたしだったとな。


◇◇◇◇◇

part4 穏やかじゃないね!

◇◇◇◇◇


地球にいた頃の話だ。


俺の父親は「普通」で。サラリーマンをやっていて。身長は平均だし、体重も平均だし。1年に1度は風邪をひき、5年に1度はインフルエンザにかかる。そんな人間。


だがしかし、だとするならば俺の母親は「普通」ではなく、「異常」で。世界一の大企業の社長? まあそんな感じの事を言っていた気がするし。恐らく日本で、いや全国で1、2を争う大富豪かもしれない。あの人、仕事は旧姓を使ってるし、個人的な理由でその金が家にまで回る事が中々なく、結局は父の稼ぎでやっとの4LDKなんて所に住んでるから周りからは知られてないんだけど。まあ会長あたりは知っていそうだが……と、愚痴が混じってしまった。

つまり俺の母は、身長は誰もが羨む長さで、それに見合った胸の大きさと、完璧なプロモーション。絶対的に強いし。絶対に病気にはかからないし、絶対に死にそうにない。そんな人間……いや、人間? 俺からすれば、人間かどうかを疑うレベルだ。


あれはきっと……と、今になって勘ぐってしまう。「不完全こそ絶対の人間から、ほとんど完璧を生み出してしまった」 あの適当な性格をしている美人さんの失敗作だと、そう思わずにはいられないだろう?


ーーと、少し語ってしまった。俺はファザコンではないが、ほんの少し、地球に水滴を落とした程度でマザコンなのかもしれない。


……どちらにせよ、今は関係ない。父親と母親がどうであろうと、今回の裏話に、さほど関係のない事だ。

そう、関係ないのだ。幾ら親が凄くても、結局母さんは俺よりの思考で、つまりは美人さんの言っていた通り神様よりの思考で……例えあの人に何か出来たとしても、母さんは何もしなかっただろう。


関係ないから。


家族を救ってはくれても、世界は救わない。あの人の輪の中は、家族限定で閉じている。


〜〜〜〜〜


さて、そんなこんなで、オチのない裏話の始まり始まり。

あれは、2、3年前の事だろうか。とんでもないニュースが新聞に載った。


ーー少女自殺。


とんでもないんだ。ニュースで知ってはいても、まさか俺の住む町に、事故のひとつも聞かない町に、少女が自殺。歩いて30分もかからないご近所で人が死んだ。しかも俺と同い年ときたもんだ。


……正直に言って、まず先に可哀想だと思った。少女ではなく親が。次に何で自殺をしたのかと興味がわき、知りたくなった。


だからと言って行動に移したわけではない。おいおい、少女の家に上がり込んで


「すいません。何であなた方の娘さんが自殺をしたのか大変興味がわきました。是非最近の事を教えてください」


なんて言えるわけないし、失礼すぎる。世間的に、あり得ない。

そもそもだ。まず、自殺をするに至った境遇など聞いても、胸糞が悪くなるだけだろう。生物として一番やってはいけない禁忌を犯すくらいだ。多分、相当やばい事なのだと、俺は思い……同時にここまで興味がわいたのは、その少女は本当に自殺だったのか? と疑問を感じたからだ。自殺ではなく、他殺という可能性はないのか、と邪推したわけだ。


「いや自殺さ。完全に疑いの余地なく、仮に絶対なんて呼ばれるものがあれば今使わずいつ使うのかというくらい、これは他殺ではなく自殺。だよ」

「……母さん」


父は残業。俺は晩御飯を食べ終えて、イカの焼いたやつを唐辛子マヨと一緒に母と一緒に食べていた時だった。


ばっさりと。


断言された。


「あ、兄貴、私は今から部屋に入るから……だから、絶対に覗かないでね。入ってきたら、絶好だよ」

「んー、分かった分かった」


兄貴なんて似合わない言葉を使いながら、妹は部屋に入っていく。最後、なんとなくイントネーションが違くないか? と思ったが今は、目の前でムッチムッチとイカを食べる母親に興味が集中している。


「で、何でそんな事を知ってるんだ?」

「おや、私に知らない事があったかな」

「……宇宙の仕組みとか?」

「幼稚園の頃に『うちゅうってすごいな☆キラーン』という題名のもと、夏休みの自由研究にちょうどいいからと解明してある」

「あんたすげえな!?」

「つまらなくてゴミ箱にポイしたがな」

「あんた馬鹿だな!?」


ムッチムッチ。

ムッチムーーーーッチン。


「まあ、冗談は置いといて。

目撃者がいるし、何より私が現場で確かめてきたから絶対だ」

「現場って……」

「もちろん、(私は誰にもバレていないから)そこは完全犯罪だ」

「……」

「結果。あれはどう見ても自殺で、他殺ではない。しかし他殺を直接的な殺害行為のものとするなら、自殺は間接的な犯人がいるわけで……そういった意味ならあれは、あの弱く一途で哀れな被害者は、確かに殺されたと言えるのかもしれん」

「……何を知ってるんだ?」

「おいおい王人。まだ私にこう言わせたいのか。おや、私は知らない事があったかな?」

「何だそのボケた老人みたいな決め台詞は。いや決め台詞がいい感じに決まった台詞ならアンタのそれは全然決まってねえよ。むしろ外れまくりだよ。外れリフだよ」

「……」

「……」


ムッチムッチー

のムッチ。

ムッチチムムムムムッチ!


「で、どこまで調べたんだ?」

「全てさ。プライバシーなんて鼠の糞のように無視して、私は全てを調べたよ」

「へぇ、あんたがそこまでやるなんて珍しいな。よっぽど重要なのか?」

「まあ、お前に関係するかもしれない事だったんだ。これくらい当然さ」

「……」

「……」


ーーと、妹の部屋の扉がバンッと開く。そこには顔を真っ赤にして涙目の妹が、俺のことを睨んでいた。


「ど、どうして入ってきてくれないの!」

「え、えぇ……絶対に入るなみたいな事を言ったんじゃんかよ」

「どう見てもフリだよー!」


床に向かって叫ぶ妹は、中々シュール。おいおい、下の階の人に迷惑をかけるんじゃあないぞ。


「もういい!」


半ば情緒不安定な妹は、頬を膨らませて自分の部屋に戻る。怒った顔はハムスターみたいで可愛いと思ったのは、内緒である。


……ムッチムッチ。


「妹は反抗期みたいだな」

「……複雑な年頃なんだよ。あの子の場合、抱えた問題は厄介だからね」

「そんなに?」

「このままだと法に喧嘩を売る」

「そんなに!?」

「私が変えてやってもいい」

「よく分からんがかっこいいなあ!」

「娘の初恋くらい成就させたいだろ。母親として。母親失格として、その対象が誰であろうと」

「……ん、妹の最近の反抗期は、恋心も含めてこんがらがっちゃってんのか。なるほどねぇ、大変だなあ。っていうか好きな人いたんだ。兄としては複雑な……あれ、あれあれ、ムカついてきたぞ。誰だそいつは。母さん教えてくれ。ひとまずそいつをコロコロしてくる」

「明日の朝刊には、お前が自殺をしたと載ってしまうのか」

「え? いや、俺は死にたくないけど?」

「……」

「……」


ムッチチーン。

唐辛子マヨをつけて、ムッチムッチ。

顎が辛くなってきた。

疲れてきた。


「それで、本題に戻ろうか母さん。少女自殺の件が、なんで俺に関係するかもしれないんだ?」

「少女少女言うが、お前と同い年だぞ。で、その少女には、幼馴染がいてな」

「ああ、好きなのか」

「一途でな。ずっとずっと好きで、本当はこれからも好きで好きで、恐らく幼馴染の方も少女の事を好きで、誰がどう見ても相思相愛で、でもーー」


ーー少女自殺。


「何があったんだ? その関係からしてフラれたショックってわけでも無さそうだし」

「世の中には一般的に屑と呼ばれる人間が、どうしてもいるんだよ。欲にまみれた愚か者が、少なからず。そして偶々、運の悪く、被害者となってしまった少女。屑は少女に、心の傷を負わせた」

「……強姦?」

「いや、これはあくまで私の推測だが、つまりほとんど確実だが、恐らく未遂。それに処女膜はあったらしい」

「おい待てどこからツッコメばよいのやら。まず実の息子に話すには生々しいよ。ってか何で知ってるんだよ」

「死体は調べられるだろ。そして私の情報網は一般家庭のパソコンの中より広い」

「恐ろしい事を言うな」


イカは食べ終えた。全く、噛めば噛むほど味を出すんだから参っちまうぜ。さて、明日はタコの刺身をポン酢で頂くのもいいな。


「元々強い心の持ち主では無かったのだろう。むしろ脆弱で。少女は死ぬ前日、幼馴染にこう言ったのだそうだ。

ごめんなさい、と。

泣きながら。訳のわからない幼馴染に、結局その者は何も知らないまま、次の日最愛の人間を失った事になる」

「ふん……屑は?」

「なんとも思ってないだろう。いや、もったいないと後悔しているのかもしれん。どちらにせよあんな屑。父親の銃を友と呼ぶ他人に見せびらかす程度の愚か者……生まれてくる子供は決められないというが、もしも自分の子供があんなのだと寒気がするな。

その点、私はお前達でよかった」

「……と、ところで母さんよ、結局分からねえな。なんでそれが、俺に関係するんだってところが」

「ああ、そこは気にせずともよい。関係するかもと言ったが、別段知らなくても困らないはずだ……いや、名前くらいはいいか。少女の幼馴染の名前はーー」


◇◇◇◇◇


「ーー本人は何も知らぬまま、図らずとも復讐はかなってしまったんだな」

《そういう事になります》

「……よし、そろそろ起きよう。チャットが凄い事になっているらしいし、いつまでも休んでばかりはいられないな。

まずはそう、ラピスに元気をもらってくる!そこからやっと、俺の1日は始まるんだ」

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