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異世界ダンジョンウォーズ  作者: watausagi
心の要は瓦解する
54/85

忍 ブチ切れ!

◇◇◇◇◇


ふー……小野木ちゃんは行ったみたいだな。にしても、これからマジどうしよう。今の攻撃は鉄壁のスキルを使って防げたが、あれが向こうの全力だとは思えねえ。だってよ、あんな余裕そうな表情をされたらな……


「ーーちっ、足が汚れちまったぜ」


金髪野郎はそう言うと、足元を指差して、バンっと大きな音がしたと思ったら、指先から何か……まあ鉄みたいな塊を出してやがる。本当に鉄砲みたいだな。


驚いた事に、スキルで撃たれた泥沼が消えてしまった。金髪野郎は鬱陶しげに足を払いながら、いやらしい目つきで俺を見る。



「おまえよぉ、なんでこのクソ泥が消えたのかわかんねえって顔してんなあ。

いいぜ教えてやるよ。

この俺のスキルは、魔力で構成された物質を破壊する事ができる……らしいんだよ。さっきの女の翼も、俺の全力攻撃で破壊した。んで、今のクソ泥もちょーっと力を入れて攻撃しただけで破壊出来たってわけだ」

「へえー、ご丁寧にどうも」

「……分かってんのか本当に? 俺がこうして教えてあげてるのはよお、ハンデって訳さあ! 俺がてめえを殺した後、さっきの女も殺して俺が最強になるんだよぉ!」

「そいつぁ無理だな」


推測するに、鉄壁スキルで奴の攻撃は防げる。向こうに時間を取らせなければ、全力攻撃とやらは食らわなくて済むはずだ。


つまり時間稼ぎ。


スキル【泥沼】


消し飛んだはずの金髪野郎の足元に、再び泥沼が出来る。


「ちっ、しゃらくせえ!!」


金髪野郎はもう一度泥沼にスキルを使うがーー今度は泥沼は消えなかった。いや、確かに消えたが全てではない。

少しだけ残った泥沼を、金髪野郎は不思議そうに見る。


「なんだ、腑に落ちねえって顔してんなお前よ。さっきは消えた泥沼が、なんで消えてないのか分からないって思ってる顔だ」

「ちっ……クソ泥が」

「ハンデとして教えてやるよ。俺の持ってる力に、【スキル半減】がある。お前の力は今、いつもより若干弱いんだよ」

「……だったらよぉ、ちょっーと強く撃てばそれですむじゃねえか!!」


金髪野郎は足元に再度スキルを放つ。今度こそ泥沼は消えた。


……確かに、お前の言う通りだ。だが、そのちょっとがお前の感覚を鈍らせている。いつものコンディションなら出来たことは、少しのアクシデントで崩れ去るんだ。


スキル【泥沼】


俺は繰り返し泥沼を作る。


「クソがっーー意味ねえんだっての!」


きりがないと思ったのか、金髪野郎は先に俺を狙って撃ってきた。しかし力比べでは俺が勝った。鉄壁スキルは、完全に奴を上回ったのだ。


「……ちっ」


金髪野郎はさぞ悔しそうな顔をしているのだろうーーと思っていたら、全然そんな事はなかった。むしろとびっきりの邪悪な笑顔。思わず背筋がゾクリとなった。


「勝ちほこるなよぉクソ泥が。てめえ、忍っつったけな」

「それがどうした」

「クックック……いや、なーんにも。なーんにもないぜ。ただ面白えって思った訳だよ。忍という男は、こんな人間だったのか……と、ちょっと失望してただけだ。

聞いてた話じゃ、世界一カッコよくて、世界一優しいらしいんだけど?」

「なんだそれ」


思わず笑っちまう。俺が、世界一カッコいい? いやいや、優しくもねえよ。ワルだった頃もあるよ。


「誰から聞いたんだそんなホラ話」

「クックック……天国で聞きなバーカ。つまり、もうすぐ会えるって事だ!」


金髪野郎の背中に、幾つもの塊が浮かび上がる。その数は軽く10を超えていた。銃だけに。


「俺がいつ言った? 弾丸の大きさは一定だと! 1度に撃てる数は1つだと!

勘違いするなぁ……指先からの方がやりやすいだけだ。こうすると精度は落ちるが、1度に撃てる数は35!

クックック……さーて、てめえは一体幾つ避けられるかな」


最後に金髪野郎がニィっと笑ったのを合図に、弾丸は一斉に俺へ飛んできた。10発くらいが体に直撃したが、鉄壁スキルで防ぐ。


「ああそうだったな。てめえのスキルはクソ泥に姑息に、その頑固体だったっけか。だったらこいつでいいや」


さっきは数で驚いたが、今度は大きさで驚いた。半径30センチ以上はありそうな弾丸が、奴の頭上に浮かぶ。


……逃げていいよな。これ、流石に小野木ちゃんも遠くに行ってくれたよな。


……逃げる!!


「クックック……面白え鬼ごっこだ!」


後ろから聞こえる金髪野郎の言葉は無視して、木々の間をすり抜けるように遠くへ行く。泥沼の範囲外だから、1度奴に抜けられると、もう泥沼は使えないだろう。


「おら死ねぇえ!」


金髪野郎の声が遠くで聞こえた。後ろを振り向くと、木を吹っ飛ばしながらあの大きすぎる弾丸が。


「ちょっ、待っーー」


鉄壁スキルを使ったが、これはーー防ぎきれない。圧倒的質量差に体ごと吹っ飛ばされ、骨が悲鳴をあげる。


体感的にはすぐ終わり、ギシギシとしなる体を起き上がらせ周りを見ると、なぎ倒された木々でかなりスッキリしていた。そのお陰がかろうじて金髪野郎の姿は見えたが、今度は大きな弾丸が3つ。既に泥沼は抜けたらしい。


何も考えずにとにかく逃げる。奴の視界の外へ、一心不乱に。


「ぐっ……骨折れてるなあこれ」


ドバァッンと右側に大きな弾丸が見えた。ドバァッンと左側に大きな弾丸が見えた。ドバァッンと、後ろから大きな音が聞こえる。


ーー今度は直撃こそしなかったものの、余波で体が軽く吹っ飛ぶ。折れた骨が内臓にでも突き刺さったのか、口から血を吐いた。


「やっべえなぁ……マジで」


このまま死ぬのは……格好悪いよなぁ。小野木ちゃんとか絶対に責任感じそうだし、っていうかあいつ小野木ちゃんの事、女って勘違いしてるよな……バカだよなぁ。


あー痛え。スーパーとかハイパーとかつくくらい超痛え。


「……あーあ」


空が青い。風が涼しい。


ーー顔に熱いものが流れるので手で掬うと、それは血だった。


「うえっ、血かぁ……」


とうやら顔に怪我しちまったらしい。


………………


…………


……


「ああん?」


◇◇◇◇◇


「鬼ごっこから隠れん坊にランクダウンしてどうするんだよ。ほら、そこか!」


倒れた木が吹っ飛ぶ。


「じゃあーーこっちか!」


他の木も、バラバラに。


「くそっ、いるのは分かってるんだぞ!」


金髪野郎は苛立たしげに足元の木を蹴る。あまりにも醜いガキで思わず笑っちまうぜ。


「おらここだよ」

「っ……」


石を投げつけるが、バキンッと粉々に……まあ、分かってたさそのくらい。

金髪野郎との距離は10メートル。泥沼はギリギリ奴に届くが、足元にやるなんて面倒くせえ事はしなくていいな。


「なんだぁ、もう降参か?」

「……降参?」

「なんだちげえのか。いやいや、そんなにボロボロの姿で、こんな近くにいるもんだからよぉ〜、てっきり勘違いしちまったぜ。

ってかなんだ、まさか俺に勝とうとでも思ってんのか? それはてめえ、死ぬ覚悟だよなもちろん?」

「……ピーピーピーピーうるせえな」

「はあ?」


はあ? じゃねえよクソッタレめ!

ああイラつくぜ。なんで俺が逃げなきゃならなかったんだ? コソコソコソコソと逃げ惑うゴキブリみてねえによ! ビクビクビクビク怯えてなきゃならねえんだ!?


おかしいだろ!


それは、違うだろ。


「ーーあのようお前、今の状況を分かってそんな口きいてんのか……」

「うるせえって言ってんだ。聞こえねのかよこの間抜け!」

「なっ……」

「少しは黙ってろよこのタマ無しがあ! ピーピーピーピーひよこみてえに! 分かるか!? てめえはひよこなんだ。スクランブルエッグにもなれなかったクズさ!」

「……お、お前……なんかキャラ変わってねえか? 」

「てめえの態度にプッツンきたんじゃねえのか? いや知らねえよ!! さっさと口閉じて命乞いでもしてろこのカス!」

「……オーケー、分かった分かった。でもよぉ、逆じゃあないのか? 命乞いってのは、一般的に負けてるほうがやるんだよな? 弱者がやる行動なんだろ?

つまりーーてめえだろ!」


金髪クソ野郎は、2発3発撃ってきた。それはこのままいけば俺の腹んところに直撃だったが……ドップリと現れた泥沼によって、楽に防ぐ。

ポトリと、エネルギーを失った弾丸が、泥沼を通ってきたものの、目の前で地面に落ちた。


「ーー俺は気付いたんだ。何もよ、地面にだけ泥沼を作らなくてもいいよなって。いやー固定観念に囚われてたぜ。

そうだよなー、これはスキルなんだもんなぁ。別に泥沼を空中に出現させたって、何ともないよなぁ」

「……だったらよぉ!」


今度はかなり時間をためて、撃ってくる。今度こそ泥沼を貫通できると思っていたとしたら……甘すぎて反吐がでる。ミルメークを直で飲んでんじゃねえのに。


目の前の泥沼は、広く楕円形だったのから、キュッと球形に変わり、金髪クソ野郎の攻撃を弾いた。


「悪いなボンクラ。俺のスキルはあともう一つ、重力操作ってのがあるんだわ」


正直に言って、扱いにくい事このうえないスキル。重力を操るスキルだが、自分に使って「うわはは、まるで月面歩行だ〜」みたいな事は出来ない。

上手くやれば、一瞬だけ軽くして空に飛んだり、よく分からないけど出来そうなんだが……思ったよりも人の体ってのはシンメトリーじゃないからな……難しいったらありゃしねえ。


ーーだけどよ、ある一点。そこだけに重力を集中、言わば引力みたいにすれば、こんなに簡単なものはねえ。



「名付けて泥惑星(マッドプラネット)! いつか言ってみたいもんだわ。泥さえあれば何でもできる、ってよ。

一応お前には感謝するぜ金髪クソ野郎。俺はまた、強くなれた」

「て、てんめえっ俺の髪を、美を! 侮辱しやがったな!! 死に晒せ五臓六腑!」


金髪クソ野郎が体を横にずらす。後ろには、ギュルギュルと回転している弾丸が10発以下はあった。銃だけに。


「おらぁ! 」


まず、第一陣が発射された。そのスピードはさっきよりも断然早い。俺の目が正しいなら、その後ろに潜んでいた第二陣が、まるでニュートンのゆりかごのように(※忍は、正直ニュートンのゆりかごを知りません)エネルギーを伝えたのだろう。


中々のスタートダッシュ。


だけど、俺が前方に作った泥惑星は、最高密度の絶対防御。さらに泥をコーティング。摩擦とか、まあ何か色々な要素で弾丸は軌道を逸らしたりして、俺のところまで辿り着いたのは一つとして無かった。


「はぁーー冷静っていいよな。こう、さっぱりするぜ。王人っていつもこんな目線で色んなもん見てるのか……あー気持ちいい。

って、おいおい、視界にまだゴミが居座ってやがる。胸糞悪い」

「ちっ、調子こいてんのも今の内だクソ泥。やってやるよ全力攻撃。

最大の大きさ! 最速の弾丸! なんか凄い螺旋構造! テンペストをなぁ!」


な、なんか凄い螺旋構造……だと。確かにそいつはやべえかもしれねえ。なんか凄い螺旋構造を舐めてたら、流石に防げねえよ。


……しっかしまあ、こういう時はなんて言ったらいいのかねえ。


「そこはもう、俺の射程範囲内だよ」

「ああん? ……なっ!?」


泥沼を作って作って、奴と同じように言うなら、最大の大きさ! 最大の大きさ! なんか凄い大きさ!


金髪クソ野郎の頭上には、泥の惑星が出来ていた。それも俺が今こうして使っている防御技じゃない、とてつもない質量を持った泥沼。


「名付けて、泥隕石(マッドメテオ)

「くっーーそ泥がぁぁあ!!」


苦し紛れに泥隕石へと弾丸の矛先を変えたが、圧倒的質量差になすすべもなく、プチリーーなんて可愛らしい効果音なはずもなく、トマトの風呂にダイビングした音が聞こえたと思ったら、体の中に……なんかこう、流れ込んできた。きっとこれが、ダンジョンの主を殺して、スキルを奪ったというのだろう。


「ちっ、あんま良い気分じゃねえや」


とにもかくにも、久々に体を動かして、ちょっと疲れたな。それに頑張ったよ俺。ロザリーちゃん、労ってくれるかなぁ。……そんな筈ないか。

多分あれだ、洗濯の愚痴を言われるんだろうな。服を汚すなって怒られるんだろうな。……でも、良い!


◇◇◇◇◇後日談


ココは無事で、まあ忍も無事だった。一件落着かと思いきやあの月姫、とんだ策士だったのだ。


……昨日をもってシント法国は、消滅した。うん、消滅っていうか、シント法国の中枢であるエメルダホット神邸を含む城が、ごっそり消えたのだ。おかげで今頃、シント法国の民は大慌ての大混乱。お隣の国にそんな厄介を抱えられるほど余裕はないし、多分、パワーティス帝国がどうにかする。


ーー空中移動要塞ゾディアック。シント法国の城が消えた理由はそれだ。あの月姫、確かに今後シント法国には立ち寄らないかもしれないが、そんなの元々計画の内だったのだ。


【フィギア作成 スキルレベル10】を持つ仲間がこれまでの異世界生活を犠牲にして、本気と情熱と他にもなんか色々かけて作り上げたこの空中移動要塞ゾディアックは、固定砲台とかステルス機能(これ肝心)がついているお陰で、これ以上の情報は異世界知識さんでも分からなかった。


「じゃあ、空からドカンと人がゴミに?」


昼のミネストローネを堪能しながら、ココが心配そうに訪ねてくる。


「いや、今回は流石に計画を前倒しにしすぎたらしく、当分は大人しいだろうな。それにダンジョンは俺の所みたいに開放しなけりゃ、外からの影響は受けない破壊不能オブジェクトみたいなもんだし。

ま、地道に向こうはダンジョンの主を殺して回るんだろうよ」

「……そっか」

「ああ、だからそんな心配そうな顔をするな。とにかく、お前が無事で良かったよ」

「うん、ありがとう王人。忍くんのお陰だよ。なんだか疲れすぎて動けないらしいから、今からお見舞いに行くんだけど、王人はどう?」

「ん、俺も行かないとな。改めてお礼をしておきたい」


とは言ったものの、忍からは絶対に来るなと言われた。しょうがないのでココがプレゼント機能で、疲労によく効く薬を渡した後、俺たちは束の間の休息を味わうとするのだった。


◇◇◇◇◇おまけ


「うー疲れた……ただいまー」

「おかえりなさい変態ロリマスター。意外と遅かったですね。今まで幼女にでもちょっかいをかけていたんじゃ……って、一体どうしたのですかその格好!?」

「あ、いや、すまん。自分で洗……」

「そんなに怪我して! 早く来てくださいすぐに治療します」

「あれ?」

「なにを突っ立っているのですか。ああ勘違いしないでくださいよ。私がマスターを心配しているのではなく、そんな姿だとここにいる皆さんが、という事です。別に全然、帰りが遅かった事は気にならなかったですし。ええ全く。本当に、これっぽっちも」

「ですよねー……」

「……今日の夜ご飯はクーラー全開の部屋で鍋です。皆さんがお腹の音で大合唱をしながら待っています。その怪我は後で聞くとして、まずは身なりをきちんとしましょう」

「そうだな。悪い、いつも迷惑かけて」

「あ、貴方が私のマスターだからですよ。しょうがなく、です。しょうがなく」


ー第?部 完ー

◆後書き◆


やっふぉー、忍のブチ切れと覚醒という、やっと書きたい話をかけた。


さーて後はは感想でいただいた話と、ほのぼの短編集でっせ!


これからもよろしくお願いします!

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