狂人の信用と信頼 前編
◇◇◇◇◇
『会わせたい人がいる』
会長から朝早く連絡があったと思ったら、そんな内容。正直に言うと迷った。行ったら何かとても面倒ごとに巻き込まれるという確信があったからだ。
結局は行くことしたが。本当、今すぐにでもUターンをしたいぜ。
ーー呼ばれた場所はVRDG。つまりは仮想空間で落ち合おうというもの。何故会長のダンジョンじゃないのかは分からなかったが、そんな疑問も向こうに行けば解消するだろうと思って、VRDGの飲料専門店スワローを目指す。
「おっ、副会長のご登場だ」
そこにいたのは、会長だけではない。健太も霰も、俺を含めると忍以外の生徒会メンバーが勢ぞろい。
……ただ、知らない人間が1人。
「誰だお前?」
「……ああっ、私ですね。これはこれは挨拶が遅れました。私、羽蘇 月姫といいます。これからよろしくお願いしますね」
これから?
訳が分からない。
説明しろと会長を睨む。彼女は呑気にジュースをストローで可愛らしく飲んでいた。
「ーーぷぅー……月姫は我々の仲間だ。安心しろ。彼女は信用できる」
「信用? 一体どこにーー」
……いや待てよ。
そうだ、彼女は信用できる。俺は月姫の事を信用しているぞ。ああなんだ、疑う方がバカだった。
「すまなかったな月姫。疑って」
「いえいえ、いいんですよ副会長。ちゃんと私の事、信用してくれてるんですよね?」
「ああ、信用している」
俺たちの新しい仲間、月姫と共に、ジュースをたっぷり堪能した会長のダンジョンへと向かう。やはり会議といったら、会長のダンジョンしかないからな。
因みにここにいる人間はもう、月姫に自分のダンジョンの場所を伝えてある。まあ、そんなの何も問題はないがな。まさか、月姫がバラしたりするはずがないし……
「ええ、月姫先輩のはおしえてくれないんっすかー!?」
「ふふっ、別にいいでしょ?」
後ろで健太が叫んだ。俺は会長の隣にいる。少し話したい事があったから。
「会長はどこで月姫とお知り合いに?」
「私じゃない、健太だ。健太がダンジョンで遊んでいると、月姫から喋りかけてきたらしい。どうも生徒会に興味があるようだったからな。
……それがどうかしたか?」
「いえ、特にはーーただ」
少しおかしい気がする。
なんだこのモヤモヤは。なんだこの胸につっかかるイライラの塊は。
どこかに、違和感が潜んでいる。
……そうか、俺が“100パーセント信用している”という事か。血の繋がった妹でさえ、親友のココでさえそんな事になるはずのない俺が、初対面の女に対してこうも信用している事がおかしいんだ。
恐らくスキルを使っているんだろう。多分、絶対に信用させるとかいうスキルを。
ーーまあ、どうでもいい。
たとえ彼女がスキルを使っていようとも、それがどうした? 俺は彼女を100パーセント信用している。それでいいじゃないか。何も問題はない。
まさか彼女が裏切るはずがないし、な。




