表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ダンジョンウォーズ  作者: watausagi
心の要は瓦解する
46/85

やっぱイカ焼きかな

◇◇◇◇◇


いつだったか、妹と約束したみんな一緒に海で遊ぼうと……それが今日、果たされる事となった。


ーー青い空と、青い海。美少女多数に。


そして、バカ1人。


「いー……やっほぉお!」


おっと間違えた。クラスに1人はいるようなムードメーカーだ。


健太は海パン姿で海に飛び込む。しかも、飛び込みだ。妹のダンジョンの4階の窓から。正直お亡くなりになってしまうんじゃないかと思ってしまったが、運良く頭から飛び込む事に成功。


ちょっと拍手してしまったじゃないか。


……俺は、あまり肌を露出させたくない。学校の水泳時間なんか大嫌いだった。だから海パンは海パンだが、上に上着を羽織っている。実は女性陣男性陣含め、全ての者より露出度が低いといえよう。


「女々しい」


妹からのキツイ一言。


「なんとでも言え」

「……脱いじゃお?」

「いいって」

「……グイッと」

「何だそのノリ」


どうしてここまで脱がせたがるのか、紺にピンクの線が走るフィットネス水着を着た妹は、とても残念そうにしている。


……手にはカメラを持って。


「副会長!」

「ん?」


おおっ、向こうから霰が走ってくる。霰の格好はまるで……そう、ランニングウェアのような水着。上は黄で下が黒。


さてさて、一体何の用か。


「グイッと!」

「お前もか」


今気づいたが、霰もカメラを持っていた。ううむ、やはり女子というのは思い出作りが好きなんだろうか?


「せ、せせ先輩!」


なんと、次に喋りかけてきたのはひなた。こいつ、驚くべき事に会長と同じくらいある……どこがとは言わないが。


「どうした?」

「……ふ、2人も……ましてや1人は血の繋がっているのに、そ、そういうの……いけないと思います!」

「は?」


この子、前から思っていたが意味分からん。いけないと思います? 君の性的趣味に興味はないんだが。


ーーさて、この3人は同じ1年という事で放っておいて、俺も泳ごうかな。泳ぐというより潜る方が好きだが……上着は着たままで大丈夫だろう。地球では無理だったとしても、今の俺なら。


この日のために、ダンジョンの風呂で水中を歩くスキルを習得したんだ。異世界知識さんによって最適化した練習方法で。他にも色々あるが、それはまたいつか。


「異世界初の海か」


人魚がいるのか、はたまた化け物か。俺は意を決して海の中に飛び込む。果たしてそこはーーうん、何も見えない。


深すぎるだろ!?


やばい、本能的に恐ろしい深さだ。なんだここ、せめて美しいなんて感想を俺に言わせてくれよと。


「……よし、分かったぞ海め。これは俺に対する挑戦状と受け取った」


1度海面に上がり息を吸い飲む。俺が深い海に対して策を考えなかったわけじゃあない。まさかここまでとは思いもしなかったが、それでも……行ってやるさ、海の底まで。


「はぁーーっ!」


まずは自分だけで、息を限界まで吐き出し、2回深呼吸。最後に大きく息を吸って、何も見えない海へ潜る。


1……2……3…………感覚で10メートル以上。まだまだ先は見えません。


ここで登場、スライム達。空気をたくさん保有しているので、スライムボンベと今は呼ぼう。このスライムボンベは、俺がゆったりと10回は呼吸できる。


2メートルくらい海面に戻された頃、俺は完全復活。更に潜り続ける。この動作を永遠と繰り返し、俺は海の底へ潜りーー途中から水を壁蹴りのようにして進んでいった。


太陽の光が完全に閉ざされた所まで来たと俺は思っていたのだが、逆に、今度は海の底へ行けば行くほど明るくなっている。


ーー正体は魚だった。いや、それだけではない。他にも海藻や藻が、泡が、赤や青や……七色に光っている。


不思議だ。なぜ光っているのかはともかく、地球でこんな光景があっただろうか?


(……ん?)


海の底に、大きな貝がいる。よく見るあれ、貝の中に人魚がいるやつ。もしくはその中に潜んでいるかもしれない真珠を求めて、俺は貝に近づいた。


(貝柱の位置を)


異世界知識さんに教えてもらう。そして、刀を出すと、ほとんど同時に突きで貝柱2つを貫く。


ゴボボッという低い音と共に泡が出てきて、中にいたのはーー美人さんだった。


(いや、なんでやねん)

「えへへ」


美人さんは貝で胸を隠し、下半身はまるで魚のよう。俺が求めていた人魚の姿がそこにはあった。



……が、ちげえよ。アンタは確かに綺麗だが、なんか興醒めだよ。裸の女性がいると思ったら姉だったくらいの落ち込みだ。


姉はいないけど。


(くそっ!)

「おっと」


無性にイラついて、刀で美人さんを八つ裂きにしようとしたが、全てを人差し指で防がれる。てめえはスーパ野菜人ですか。


ちっ……他にも海底を探索していたいが、そろそろ上がらなければならない。帰りはゆっくりと戻らなければならないし、その頃にはスライムボンベがちょうど切れると思う。


……俺が海面を目指していると、美人さんは巧みに腰を動かして俺の横に張り付いてくる。こいつ、みんなと合流するらしい。俺の仲間内でアンタを好きなのは男性陣だけなんだがなぁ。


「そんな事ないよ。霰ちゃんは結構、私に感謝してたりするんだから」


霰が?

ってか、心を読むな。


んっ……残りのスライムボンベは10体。やっぱりギリギリって所だったか。


太陽の光も海に流れ込んできた。海の中は好きだが、地上あってこそだ。早くめいいっぱい空気を堪能したいとラストスパートをかけようとしてーーグイッと!


足首に違和感が。


と思ったら、そのまま海底へと引きずり込まれる。「ガぁ……」自分の酸素を無駄に吐き出したしまった。思いもよらないアクシデントだったが、恐怖は感じない。そんな柔に父から育てられてはいない。冷静にスライムボンベで酸素を取り込むと、下を見る。


(クラーケン!?)


クラーケン、かどうかはさておき、タコともイカとも判別できない奇妙な頭に、俺の足首を掴んだ表面が爬虫類のような鱗をした触手を8本揃えて、口と思わしき部分は嘴があり意外にも鋭い。


クラーケンでなかろうと、人魚もいたし化け物もいたというわけだ。


(俺を食べようとしているのか!)

「此処らでは1番遅いから、いい餌だとでも思ったんじゃないかな〜。

あっ、私は手を出さないからよろしく」

(そんな事は分かってーーるっ!?)


ボキッと嫌な音が鳴り、きっと足首が折れた。刀で足を斬り落とそうとして、早すぎる奴の触手が俺の腕を絡めとる。知能も高いらしい。


(このっーーサンダーフィッシュ!)


五体召喚。


パクパク(よくも兄貴を!)

パクパク(ぜってえ許させねえぞ!)

パクパク(プッチンきたぁぁ!)


勇ましいサンダーフィッシュは怒りをエネルギーにクラーケンへ向かうが、努力虚しく向こうの触手によってどこかへ飛んで行ってしまう。


パクパク(兄貴ぃーー!!)


それでもサンダーフィッシュ達はクラーケンへ向かうが、クラーケンは飽きたと言わんばかりにサンダーフィッシュ達を衝突させあう。目の前で爆発したはずなのに、鱗のせいか向こうはビクともしていないどころか、より締め付けが強くなった。


このままじゃ足が使い物にならなくなる。息も、海面まで持つかどうか……



カオスドラゴンは使えないーー左腕も触手にとらえられたーーフェニックスはそのままでは論外ーー左足がーーこうなったら、ドッペルゲンガーだ。


右足も触手の餌食になろうと来た時、俺を真似たドッペルゲンガー(俺)が周りにある全ての触手を斬りつけた。


こいつは足止め。


俺は更にサンダーフィッシュを五体召喚、換装。小型のジェットを背中に取り付けた。次にフェニックスも強化換装。ジェットをより進化させる。


さしずめ〈……〉。うん、咄嗟だから良い名が思いつかない。漢字がいいんだが……何かいい案があるなら採用しよう。採用といっても健太と忍以外にこんな事は言えないなぁ。チャット(感想)でもいいんだが。


と、今はただ、海面に向かうだけ。水の中じゃジリ貧だ。急に浮上するのはよくないと思うんだが、今回ばかりはしょうがない。


青い海に、赤色の炎を混じらせながら、海を飛び抜け久しぶりだと感じる地上へーー少しの間空を堪能し、地面にぶつかる。



「ぐはぁ……はぁ!」

「王人!?」



まさか俺が、ペンギンごっこをしているなんて考えもしないココは、いち早く俺のところへやってくる。


「大丈夫?」

「あ、ああ」


ココも俺と似たような格好だが、こいつの場合ヘソは見えている。犯罪的だ。


「それよりーーくるぞ」

「っ……」


向こうからすれば、ここはバイキング。よりどりみどりのビュッフェ会場。海水に浸して塩味もよし。海水でしゃぶしゃぶもよし。海水で……


「ぎゃぁぁあ!?」と、やはり、真っ先に襲われたのは健太。次に忍。次に会ちょーーうは逃げた。ひなたは逃げ切れず、なんか胸を強調させるエロい縛られ方に。


あいつ、分かってる……!


が、悠長はしていられない。あんなエロい格好だがこのままでは縛られ千切れてしまう。グロ耐性は誰よりもあると自負しているが、率先して見たくはない。


「どっちが食べる側なのか、教えてやるよイカ野郎。今日の昼ごはんはお前に決めた!」


大海の中のイカ、地上を知らず。さっきまでのように上手くいくとは思うなよ。


「ココ、串の用意だ!」

「もう出来てるよ」

「ナイス! 会長達にも!」

「うん、分かった」


真っ先に動いたのは霰。3人を縛り上げた部分の触手だけ器用に凍らし、俺が斬る。ココが飛んで3人を助けてあげて、こっちの戦闘パーティは揃った。


俺も、刀にフェニックス換装。


〈炎刀〉


「九九孔雀!」


最もヒット数の大きい技で、クラーケンを斬り刻んだ。クラーケンのキュィィーンと嫌な叫び声は無視する。


斬り刻んで空中にばら撒かれる足は、ビキニ姿の会長が華麗に串で貫いていく。健太達もせっせと突き刺していた。


ーーキュウゥン!


必死の抵抗か、クラーケンは水の槍を口から出してくる。そんな芸当も出来たのかと、全てを蒸発させながら呑気に思う。


とどめを刺したのは我が妹。手に持つ串をクラーケン目掛けて投げ込み、瞬時に巨大化。クラーケンはボスんっと半径2メートルの穴を体につくると、力なく倒れこみ海に浮かんだ。


いくら生命力が強くとも、支える体がなければどうしようもない。串に刺した足がピクピクさせているのを健太は見ながら、一言。


「はら減ったな」


同時にチャプンと浮かんできた美人さんの「お昼ごはんにしよ〜う!」という意見には、全員が賛成した。


◇◇◇◇◇


香ばしい匂いは、海に来たんだと実感させた。固すぎず柔らかすぎずの噛みごたえも、ちょうどいいと感じる。


「お代わりはまだあるからね」

「はいはいっ! 俺くれ!」

「はい、どうぞ」

「うんみゃぁー!」


見渡せば、自然と美人さんがいる光景に少し腹がたつ。


「ど、どうやって立ってるんですか?」

「んー、バランスボールの上で逆立ちをしながらけんぱっぱする感じかな?」

「す、凄いです」


何感心してんだか。

そこだ、下半身蹴飛ばしてやれ。


……はぁ。


足首も治ったし、もう一度海へ行こうかーー


べチャッ


「うんみゃぁ、ミャ…………うぉぉい、ちよ、王、王人!?」


健太の手に握られたイカ焼きが、俺の服にベッチョリと。


「ま、マジすんませぇえん!べ、弁償しまっすから、どうか命だけはぁ!」


おいおい、なんだその反応は。まるで893にぶつかった反応じゃないか。


「いいって。俺も前を見てなかった」

「……ほんとうに? 怒ってない?」

「だから、いいって」

「……そっか」


すると、健太は何かを考え出した。俺は妙に気になったので異世界知識さんにリアルタイムで聞いてみる。


(……怒ってない、か。てっきり海の底に沈められるかと思ったが、そういえば王人ってどれくらいまで許してくれんだろうな?

気になるぜ〜……マジで気になる。そうか、試せばいいんだよな!)


……ん?


べチャッ


「う、うわー、ごめんよ王人。またぶつけてしまったー」

「……」

「ふ、服がこんなに汚れちゃってー、いや、ほんとうにすまんなー」

「いや、俺も避けれたはずだった」

「そ、そっかー」


ああ、避けれたはずだった。


まさか、友人が怒りゲージを知りたいがためにそんな事するはずがないと、馬鹿なことを思ってしまったからなぁ!


(うっひょー、怖えぇ! 怖かった怖かった。んよしっ、次はもっとアウトな所だな)


べチャッ


「うっひゃあー! いやー、またまたゴメンよ王人! それ、そこ汚れて、まるでお漏らししてるみてえじゃんか! ウンチだウンチ!

まじウケ、っと、すまんなー」

「……なあ、健太」

「お、な、なんだ?」

「……スイカ割り、したくないか?」

「スイカ割り? あー確かに、海といえばスイカ割りだよなぁ」

「……今からそれをやろうと思う。安心しろ。お前は主役だ」

「マジで!?」


ああ、俺は嘘をつかないさ。


スイカ役はてめえだよ。


………………


…………


……


「ーーえいっ」


可愛らしい掛け声をして、前がみえないようにした霰は両手でしっかりと握りしめた棒を振り下ろす。


ドスッ……と。


ああ残念。外れかー。


「ちょ、ちょちょ霰ちゃん? それ、氷の棒痛そう、怖い怖い。俺の頭、潰れちゃう」

「喋るスイカとは、狙いやすそうです」

「っ……っ!」


おいおい、このままじゃ俺の番がなくなっちまいそうだ。


霰に代わってもらって、と。


「許してくれよぉ!!」

「……俺はよ、スイカ割りってあれ、見た目汚いなーと思ってたんだよ。出来るならもっと綺麗なのってな」

「じゃ、じゃあ?」

「刀ってよく斬れるよなぁあ!」

「死ぬぅーー!?」


◇◇◇◇◇


少しはしゃぎ過ぎた海。すっかり疲れてみんなと解散した俺は、自分のダンジョンに戻った。


ワープゲートを出て、いち早く出会ったのは不思議ちゃん。


……しかし


「わたし知らない」

「あ、おい」


何処か行ってしまう。ならばと隣にいたラピスに声をかけるが。


「ラピス、悪くない」


と、要領を得ない答え。


そういえば狩人殿がいないと、2人に聞いてみれば……目を逸らされる。


これはどうした事かと、ディスプレイを表示。狩人殿の居場所はすぐに分かった。自室だ。だが……


ーー知らない人間もいる。


一体俺の留守中に何が起こった?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ