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異世界ダンジョンウォーズ  作者: watausagi
心の要は瓦解する
44/85

蟻んこ駆除 そして、不死鳥 !降臨!

◇◇◇◇◇


「ある〜日」


森の中?


「ヒサラパラセラ」


ん?


「ララバイララバイ」


んん?


「ほら、次は王人だぜ!『い』だからな」


なるほど、しりとりだったか。

明らかに造語だが、なら俺はーー


「芋ようかん」

「おい」


ーー俺たちは昨日の宣言通り、忍のダンジョン近くにある山の頂を目指して、ろくに補導されていない道を歩いていた。

俺は歩くの面倒くさいから、サイレントバードが群れを成して作ってくれる空中ブランコの上で快適に道を進んでいる。隠密でサイレンバードの姿は見せないから、まんま浮いているようにも見える。


霰も空飛ぶ氷の絨毯を作り出して、俺同様歩かずに進んでいた。他のみんながこれに乗ると、霜焼けどころの話でないので、少し残念かな。霰専用だ。


「じゃあ次は、連想ゲームしようぜ」


健太はマジでこのハイキングを楽しんでいる。こいつ遠足で興奮するタイプだ。


「順番は時計回りで俺。会長。忍。霰ちゃん。王人な。

じゃあヘモグロビン」


いきなり難しすぎだろ。


「ふ〜む……ゴミ?」


何故に。


「俺かぁ……健太」

「うぉい!?」

「次は私です……ゴミ?」

「うぇぇ!?」


女性陣はゴミが好きらしい。


「冗談です。では、改めまして、一途」

「なんで!?」


だが、事実だ。健太は会長LOVE。

会長は気づいてないようだが。

それとも気づかないふりなのか。


……どちらもあり得る。


と、次は俺の番だった。


「一途か……なら、俺」

「ええ!?」


みんなから驚かれた。

なんで?

俺が女好きとでも思ったのか?


「意外です。色々な意味で」

「だ、誰か対象がいるのか!?」

「いや、今はいないぞ。もちろん。だが好きなひとができたら、きっと俺はそいつだけを生涯愛する。

ほら、俺って小学生や中学生から恋人がいるような奴見て鼻で笑うタイプだろ?

お前らどうせ別れるだろ、と。

俺自身、お遊びのお試し恋人期間みたいなのが嫌いで、少なくとも高校生になってから恋愛というものを考えようしていたピュアな人間だからな」

「ほ、ほぇ……」

「俺が誰かと付き合うときは、将来を前提に考えた時だけだ」

「お、重いな」

「そうか? まあ、古い考えかだとは思っている。笑いたければ笑え!今まで誰とも付き合ったことはないが、後悔はしていない!」


ビッチは嫌いだ! 憎しみを持つほど嫌悪している。と言っても過言ではないほどに。会長も会計も、そうでない事は知っている。


ーー会長は

『恋愛? 知らん!』

こんな感じだし


ーー霰は

『唯一の神は、副会長でございます』

と、これは過言か。


なんにせよ2人とも、ビッチでないばかりか、異性と付き合えるかどうかも怪しい人間。俺にとってはそちらの方が好感が持てる。


更に言うならば、俺は自分を冷静に分析して、厄介な性格である事も理解している。


俺は会長と霰、どちらかと別段付き合いたいわけでもないが、もしも会長と霰が他の誰かと付き合う事になったりすると、それはもう凄いくらい嫉妬するだろう。


独占欲が強いんだな、きっと。


「……とと、話が脱線しちまったぜ。じゃあ連想ゲーム再開な。

王人ときたら……母親美人!」

「母親美人……私か」

「会長ときたら……カリスマ?」

「カリスマ……副会長です」


それはお前にとってのだけだろ。

というか、また俺か!


「俺は……妹美少女」

「えっ」


なんか引かれた。

いや、妹は可愛いだろ?

シスコン違う。

家族だからという目を抜きに客観的に見て、あれを可愛くないと言ったらおかしい気がする。


「我ら副会長の趣味が、ようやく分かった気がするぜ」

「だから違うって。いや、本当。妹は確かに美少女だが、霰の方が可愛いぞ」

「うっ、やめて下さい副会長。私本気で照れますよ」

「ほら可愛い」

「だ、だから」


友達以上恋人未満の関係が、俺の望むものだ。だから、良い。霰が俺をーー例えそれが歪んだものだとしてもーー好いてくれているのは、正直に言うととても嬉しい。男としても、ひとりの人間としても。


自分がクズなど、側から見れば気色悪いなどと、とうに理解している! でも俺は自分が嫌いじゃない!


それでいい!


「って、また脱線しちまってるぜ。なんで王人の番だけこんな……

よし、再開な。次は妹美少女だから、妹美少女だから……ライトノベルの主人公!」


おいおい。


「ライトノベルの主人公……ハーレムか?」


おいおいおいおい。

さっきからライトノベルの主人公に酷く偏見を持ちすぎだろ。


「ハーレムといえば……お、俺かな」

「忍!? お、お前やっぱり、保護施設とか俺に言ったくせに、心の中ではそんな事を思っていたのか!」

「いやっ、ち、違う! あくまでもほら、第三者の目から見てだな」

「このロリコン!」

「だから違う!」


忍と健太にしか分からない喧騒が始まった。またいつもの雰囲気になりつつある中、フラフラーと霰が飛んでくる。


「忍先輩は、本当にちっちゃい子供が好きなんですか?」

「本人に言わせてもらえば、純粋な人間しか好きになれないんだとさ。性知識すら知らない方が、忍にとっては好印象だ」

「それはまた……なんとも言えません」

「昔は普通に、同年代を……あいつこそ一途だったんだけど」

「そうなんですか?」

「ああ」


同じ病院で生まれ、同じ幼稚園に通い、同じ小学生、同じ中学生までずっと一緒だった忍とそいつは、誰がどう見ても両思いーーだったらしい。


だったらしい、というのは俺も聞いた話だからだ。情報筋が母だから、100パーセント正しいが。


「今は一途じゃないという事ですか?」

「……どうだろうな」


聞いた話じゃもう


「相手の方は、死んでるから」

「……え?」

「これ以上は俺も言えない。もしも知りたいなら、本人から聞くしかないけど。まあ、傷口開かせるのもどうかと思う」

「……ですね」


「おーい2人で何コソコソしてんだ! ほら、次は霰ちゃんの番だぜ!」


健太の声に、慌てて霰は俺から離れる。ヒンヤリとした氷が少し気持ち良かったから、残念だ。


今は山の中腹あたり。


頂上まで、あと4キロ。


富士山より大きいこの山だが、それでも他を見ると遥かに標高の高い山がある。それでは何故俺たちがここを選んだのか?


それは、とある言い伝え。


この不死山には、フェニックスが住んでいると言われているからだ。野生のフェニックス……使役するのもいいかもしれない。


◇◇◇◇◇



ラブース王国には、三星の戦乙女という、国に仕えた相当の実力者がいる。



「あぢぃなぁ……」


名をマーズ。

紅蓮の鎧を身に纏い、同様の色をした大剣を背に負う者。見た目通りの近接戦闘派だ。



「止めてマーズ。もっと暑く感じる」


名をジュピター。

ライトグリーンの鎧を身に纏い、同様の色をしたレイピアを腰に携える者。3人の中では1番の高齢者だ。


……といっても28だが。


因みに既婚者でもある。


「……」


最後はサターン。

灰色のローブを頭まで着込み、同様の色をした杖をローブの内側に隠し持つ者。3人の中では1番幼く、まだ14歳。


「なぁサターン? もうちっとこう、周りを涼しくさせる魔法ないのか?」

「……」


サターンは何も言わない。が、マーズには感じた。さっきまでの暑さが無くなり、どんどん涼しくなるのを。


涼しく……


涼しく……


ーー寒っ!


「ちょっ、何だこれーー」


マーズは余りの冷たさ、その元となるものを上空に発見した。


氷塊。


5メートルも離れていないそこに、巨大な氷の塊が、周りに凍える空気を撒き散らしている。


さらに言えば、次の瞬間。その氷塊はマーズへ飛び付いてきた。


「うぉい!?」


慌てて背中の大剣を取り出し、その氷塊を八当分に斬り分け、直撃を防ぐ。ジュピターの所にも氷の破片が飛んできたが、舞のように美しいレイピアの剣戟により、全てを華麗に防いだ。


「何すんだよ!?」

「……」


マーズの怒鳴り声を無視して、サターンは黙りこくる。


(涼しくなかったのかな……)


そんな事を思っているのだが、マーズからしてみればサターンが喧嘩を売っているようにしか見えない。


こういう時に場の平静を保つのは、いつもジュピターの役目だ。


「マーズ、サターンは氷系魔法使いではないわ。涼しくさせるだけの器用な魔法を使えなかったのじゃないかしら」

「そ、そうなのか?」

「きっとそうよ」

「うーん……そっか。悪いなサターン。怒鳴っちまって」

「……」

「きっとサターンは、全然気にしてないよと思っているわよ」

「へぇ、やっぱいい奴だな!」


何故か今日も、最終的にはサターンの評価が上がる事となったマーズであった。


さてそんな三星の戦乙女は今、ろくに補導されていない道を歩いている。目指すはこの山の頂上。


目的はーー


「でもよぉ、ホントにいるのかフェニックスって? あんなんおとぎ話だろ?」

「そうかもしれないけど、そうじゃないかもしれないでしょ。

絶対にフェニックスを見つける。それが私たちの今の目的よ」

「そうだけどよぉ」


ブンブン大剣を振り回して、元の背に収めるマーズ。ジュピターもカチンッとレイピアを元の位置に直した。


……ここは不死山。


3人は言い伝えを頼りにしていた。


「早くフェニックスを見つけて、羽をもらって、姫様の病気を治さないと」


重い口調で、ジュピターがそう言うと、マーズもサターンも頷く。


ラブース王国には現王様と、息子が2人、娘が2人。その中でも1番下の娘が、今どうする事も出来ない病気にかかっている。


ただ一つだけ、病気を治す方法は書物に記されている、フェニックスの羽を煎じた薬。


「ならとっと急がねえとな。何だっけ、途中に変なもんがあるんだろ?」


マーズは獲物を刈り取る獣の目つきになりながら、まだ見えぬ山の頂きに目をやる。


フェニックスが本当にいるかどうか分からない理由。それは、誰もが頂上へと辿り着けないからである。


「オオクロアリ、だったけ?」


山の中腹その先には、オオクロアリと呼ばれる巨大な虫の巣がある。オオクロアリはまるで門番のように、そこから上へと誰も通さない。


単体としては、そこらの冒険者でも十分討伐できる強さなのだが、恐るべきはその数。圧倒的な数の暴力により、オオクロアリの巣を突破出来るものは三星の戦乙女だけという事で、この3人は来たのだが。


ーードシンッッ


「……なんだぁ?」

「……」

「……」


急に、目の前へ何かが飛んできた。いや……何かというのは正しくない。現に3人は見ていた。

今のは、確かに。どう見ても。


「オオクロアリ!?」


の、死体。


ピクピクと少しだけ体を震わせたが、グッタリと動かなくなった。


この全長6メートルもありそうな化け物……いや虫こそが、オオクロアリだ。


バッと! マーズ達は死体が飛んできた方向を見る。オオクロアリが、まさか1人でに空から降ってくるはずがない。


「誰かいやがんのか!?」

「危ないわね。急ぎましょ!」

「……!」


時々いるのだ。フェニックス欲しさにここまでやってくる自分の命を勘定に含めない馬鹿な命知らずが。


……だが、今回ばかりはそうではないと、この時まだ3人は気づかない。


今上にいるのはフェニックス欲しさではなく、フェニックス見たさであって、馬鹿でもないし命知らずでもない、本物の化け物だという事を。


◇◇◇◇◇


「……フ、フハハハハっ!!」

「おい忍、副会長が壊れたぞ」

「王人は虫嫌いだから」


何を言っているんだ。こ、これが笑わずにはいられるか!


ああ可笑しい。可笑しすぎるぞこの蟻共! 命知らずで自分の命を勘定に含めない馬鹿共め!


ありがとうココよ。この道具を俺に渡しておいてくれて。


「毒ガスパニッシャー!」


やり方は簡単。

巣に放り込みます。

毒の雷が巣の中で暴れます。

時々空中に舞う蟻を見て高笑いします。


「蟻がゴミのようだ!」


毒ガスパニッシャー。作るのは難しかったらしいが、対蟻に使ったのだから許してもらおう。


こんな……こんな巨大生物がいるなんて聞いていない。俺は地球防衛の軍に入ったわけじゃないんだ。EDFじゃないんだ。


せめてアシッドガンを俺に寄越せ!


「おっ、生き残りだぞ忍」

「はいよっ」


何とも愚かな蟻は、何がしたいのか辺りをウロチョロウロチョロ。多分毒で頭がやられたんだろう。


哀れだが、容赦はしない。


忍が蟻の動きを止めて、雷を纏った剣で健太が叩き斬る。


「いっちょ上がり! この技を、ライサンダーと名付ける!」


そんなこんなで、クロアリはすぐに殲滅した。生態系を崩しすぎたのかもしれないが、先を急ごうとすると、こいつらが肉体を壁として盾になるのだ。しょうがないと諦めよう。


……ただ、ひとつ問題がある。


一体誰が予想出来よう?


偶々やってきた不死山に、三星の戦乙女とか何とか言う奴が、お姫様の病気を治しにここまでやってきたなんて。


(教えてくれれば良かったのに)

《聞かれれば答えましたよ。……違いますね。答えられましたよ。

ただ、自分から言うのは存外、体力を消耗するのです。いざという時に私が何も出来ないなどとは嫌でしょう。

もうこの世界に来たばっかりのあの頃ではないのです。本当に危ない時は出来る限りの事はしますので、普段は私を頼らず生きてください。その方が自身の強さの源にもなりますし》

(あー分かった分かった。うん、ちゃんと心に留めておくよ)


異世界知識さんにも、意外と制約というか、それなりのリスクはあったらしい。


……当たり前か。万能なスキルなど存在しない。そんなの分かりきっていた事だった。


とりあえずまあ、略してとりま、虫共を見て呆けたこの3人をどするかだが……


「何じゃこりゃ」

「……まさか、殲滅できた?」

「……」


ほんと、どうしよう。


とりあえずまあ、略してとりま、俺の行動は大体、会長任せだ。


「どうします会長?」

「……任せたぞ」


ああそうだった。俺の行動は、大体副会長任せの会長によるものだった。



「な、なあなあどうやってやったんだこれ!?」 マーズは俺らを見渡しながら。「なあ、教えてくれよ!?」


マーズは純粋に知りたいだけなのだろう。虫を殺し尽くした力を、ただの好奇心で。


だがジュピターは違う。サターンは……よく分からないが、ジュピターだけははっきりと違う。こいつは自分等と同等の力を持つかもしれない俺たち(自分以上と考えていないのは、そのまま自信の表れだ)を、顔には出さずとも警戒している。


そりゃそうだ。


3人で自国を堕とす事のできる戦力を持つ三星の戦乙女と並ぶ人材が、ラブース王国内で埋もれていたとはおかしな考え。なら真っ先に考えるのは、俺等が他国から来た者。それも何らかの理由……今回はフェニックスを狙っているかもしれないという、向こうにとっては都合の悪い事情かもしれない。


ーー俺はどうしようかと説明を迷った。


だが迷っている途中、ジュピターはニコニコ笑顔がピタリと止まり、真顔になる。次はまさか……と俺たち5人を眺めて、いや……と首をふり、でも……と頭を悩ませた。


何のこっちゃ。


「おいおい、どうしたんだジュピター? 具合悪いのか?」


マーズが雰囲気のおかしいジュピターに話しかけるが、ジュピターはそれを無視して俺たちを見据えてくる。


健太の喉がゴクリとなった。


続いてジュピターから飛び出た言葉は、俺の理解不能の単語。


「まさか貴方達は“神隠しの民”でしょうか」


だから何のこっちゃ。


俺は反応に困っていると、グイッと肩を掴まれた。会長に。耳元で話しかけられる。


「副会長、お前は本当にチャットを見ていないのだな?」


そういえば最近、ラピスと夜遊んでて……コホンッ、ダンジョン内の狩人殿と不思議ちゃん達とサポートキャラで交流を深めあっているから、そんな時間はなかった。


今日の朝、久しぶりにダンジョンマップを確認して、白くマーカーされたダンジョンが出来ていた事に気付いたくらいだ。


「いいか、神隠しの民とは、この世界の住人が勝手に決めた事だ。しかし我々は、それを都合良く頂き、そう名乗るようにしている。

元はある生徒が、自分たちが他の世界からやって来たと言い、能力を見せ、その噂に尾鰭も背びれがついて、最後には神の存在どうたらこうたら、神の力がどうたらこうたらで、つまりは我々異世界人を示しているのだ。

自分らは神隠しのの民だと伝え、力が本物だった場合、国の結構良いところまで出世したという人間もいる」

「要は俺らの身分証ってわけですね」

「そんなところだ」


……ふーむ、神隠しの民。どんな意味でそう呼ばれるのかは知らないが、都合良い。


「ーーその通りだ。俺たちは全員、神隠しの民で間違いない」

「やはり……すると、どうしましょうか。我々も実際に目をするのは初めてでして、正直に言えば対応に困っています」

「空気のように扱えば良い」

「……見るに、オオクロアリを全て倒してしまったらしいですが、それでも?」

「……それもそうだな。こちらに敵対する意思はないから、それで勘弁してくれ。一応言っておくが、今回ここへ来たのはお散歩みたいなものだから」

「この山へ……お散歩?」

「へぇーえ!」


よく分からないが、マーズの機嫌が良くなった。いや、なんとなく分かるぞ。こいつはーーア……単純だ。


「いいねぇ! オオクロアリを無傷で全部ぶっ倒してお散歩だって!

やっぱスゲーよ神隠しの民って。うんうん、なあジュピター?」

「そ、そうね」

「……」


マーズは大剣を取り出し、ブンブンとその場で素振りをする。


「いっちょ戦いてえな!」

「遠慮する」


ーーこうして、マーズ とジュピター、それとサターンに合流した俺は、互いに自己紹介した後、頂上へ向かう事となった。


マーズと仲が良くなったのは健太。何を話しているか分からんが、よく2人共笑っている。

サターンと仲が良くなったのは……というより、両脇で娘を見守るような雰囲気になっているのは会長と霰。一応年下だし、サターンとはそんな存在なのだろう。


で、俺はというとジュピターと話していた。別に気が合うという訳でもないが、はぶれた者同士、そうする以外選択肢がなかったともいえる。


「俺は他の神隠しの民を知らないんだが、どんな感じなんだ?」

「私も噂でしか聞いた事はないのよ。でもそうね、大概に共通して言える事は、みんな普通以上の力を持っている事ね。強さに限らず、別分野でも卓越した能力を。

それと、大体優しいというところかしら? 貴方の前でこんな事いうのはなんだけど、話に聞く限り『甘い』とも言えるわ」

「あー、なんとなく分かる」

「貴方もそうなの?」

「いや、多分普通だ」

「つまり、皆が皆同じって訳じゃないという事ね」

「そんなの、どんな生き物にだって言える」

「それもそうね」


時々、異世界らしい植物も見た。他に魔物がいないので肉食植物はいないが、発光する花なんてそれっぽい。光の度合いが強い花ほど、種子? のような物が光につられる虫のように寄ってたかっていた。あの光は、セミでいう鳴き声のようなものかもしれない。


ーーさっき魔物はいないと言ったが、それは地上で空はまた別。見た事はないがプテラノドンのような見た目をした鳥が、群れをなして上空を通り過ぎて行ったのは中々に緊張した。

一糸乱れぬ飛び方に、その鳥が見えなくなるまで見届けた後、ジュピターは言った。


「私たちは姫様の病気を治すために、どうしてもフェニックスの羽が必要なの。果たして本当にいるのか……いたとして羽をくれるのか、それとも強行手段になるのか。

どう思う貴方は?」

「え、俺?」

「神隠しの民の、貴方よ」

「だから何だよって感じだが……んー、大丈夫じゃないか? アンタは少し考えすぎだ。ほら、あそこのマーズって人みたいにーー」


「やっぱ胸は大きいほうがいいよなぁ!」

「マーズさん、いえ、先輩と呼ばせていただきます!」


……


「ーーあれほど、とまではいかないとして、少しくらいバカになってもいいと思うぞ。人生楽しまなきゃ損だって、誰か言ってたきがする。

安心しろって、フェニックスはいるし、羽ももらえる」

「それは、神隠しの民の勘で?」

「まあ、そんなとこだ」

「……信じるわ。これは私の勘だけど、なんとかなる気がするし」


《フェニックスはいませんがね》


「はぁ!?」

「っ……な、何か気に障るような事を言ったかしら?」

「いやっ、んっ! なんでもない。何でもないから、大丈夫だ」


全然大丈夫じゃないけど!


首をかしげるジュピターから離れて、俺は後ろの方にいた忍へ近寄る。


「ん? どうした王人」

「まずい事になった。あいつらの目的は聞こえていたか?」

「確か病気を治すためにフェニックスの羽がいるんだって?」

「……この山、フェニックスいないんだと」

「なっ……」


異世界知識さんが、わざわざ自分から言ってきたのだ。いい判断。この情報はしっかりと活用させてもらう。


「ど、どうするんだよ王人」

「……手はある。伝説の九尾の毛とか、万年生きた亀の甲羅とかじゃなく、フェニックスだったのは運がいい。

やるしかないだろうな……自演を」

「お、おう、頑張れ。何か俺にできる事があったら何でもするぞ」

「じゃあ、俺は今から頂上言って仕込みをしてくる。その間、俺がいない事に怪しまれないようしてくれ」

「ラジャー副会長」


よし、俺は忍に任せて、自分に隠密をかけると全速力で頂上へ向かう。


……姫様の病気を治そうと、あの3人はここまでやってきたのだ。その行為が報われないのは、ここで知らんぷりなのは後味が悪い。


今日は偶然俺がいた。人生、偶には幸運なことがあっていいじゃないか。


ーー犬 王人、今回はひっそりと、生徒会を執行する。


◇◇◇◇◇


忍は王人がいなくなり、真っ先に話しかけたのはジュピターだった。多少強引だったかもしれないが、いい判断だったと言えよう。


何度も「あの……私は既婚者ですから」と言われた理由は分からなかったが、懸命に王人へ意識を向けさせないよう、時には自分の失敗談を混ぜて。


だが、最初に王人がいなくなった事に気付いたのは、マーズ。


「あれー? もう1人の、なんだっけなぁ、鋭い雰囲気の奴がいねえぞ?」

「えっ、ああ王人っすか。あっれぇ? おかしいなアイツどこ行ったんだ?」


ーーまずい。


忍はこんな時になんと言うべきか、まだ考えていなかった。


お花を摘みに?


ーーダメだ。


自分の馬鹿な考えを否定する。何故なら、そんな事を言ってしまえば、もしかしたら自分は殺されるかもしれない。

意外と副会長はプライドが高く、そんな生理現象の為に場を離れたと思われるのは、苦痛に違いないと想像できた。


何か空気を変えないといけない。そして、頼りになるのは自分のスキルだと考えた。



「あっ、マーズさん! 危ない!」


スキル、泥沼。


「うぉっととと!」


間一髪で、マーズは泥沼に入り込まずに済んだ。「お前ありがとな」と言われたが、これこそ自演。忍は苦笑いを返す事しかできない。


しかも、隣のジュピターが「こんな所に沼?」なんて言っているし、仲間の生徒会は自分のスキルを知っているので、怪しげな視線を投げかけられ、苦笑いに加えて冷や汗を流すという、変な格好になってしまった。


ーー早く来てくれよ副会長!


心の中で、忍は叫んだ。


◇◇◇◇◇


「はぁ……はぁ」


疲れた。それはもう、疲れた。帰ってくるのも全速力だったのは辛い。


「はぁ……はぁ」


忍も疲れている。ありがとな。


ーー俺が帰って来た時には、もう頂上間近。ジュピター達は緊張感に包まれて、黙々と足を進めていた。サターンに限っては、元々黙りこくっていたが。


いざ頂上が見えると、みんなの足取りが早くなる。


もうすぐで……


もうすぐで……


あと一歩で火口が見える時に、ボォォと火柱が立つ。みんなの目に希望が見えた。


既に歩くというより走っている。火口の中が見えるその位置まで懸命に走りーーいた。



フェニックス!


キュゥゥウウ!


お伽話に存在する太古の魔物。死ぬ事を知らない不死の力を持ち、その羽は作り用によって傷を癒すも、病を治す薬ともなる。


翼を広げ、紅蓮の火の粉を撒き散らすフェニックスの姿は、とても神々しかった。文献でも、害をなす魔物というよりは、知性を持つ生物、聖獣などと呼ばれる事の方が多い。



生徒会(あれ、見た事あるような……? まあフェニックスだからか)


三星の戦乙女(これがフェニックス! お話の中の生き物が今ここに!)


王人・忍 (ドキドキ)


真っ先に話しかけたのはジュピター。誰よりも近づき、膝を地につけ、明らかに相手を上位者として認めたポーズをとる。


「お目にかかれて光栄です。貴方が……いえ、貴方様が、フェニックスと呼ばれる存在で間違いないでしょうか!」


キュ、キュウウ


「……?」


ここで1つ問題が出る。俺のフェニックスは、喋れない。いや、人語を話せないのだ。


ヤバいヤバい。早速アクシデントだ。


……ええいママよ!


「ジュピター。俺は、神隠しの民。その中でも魔物使いと呼ばれる者。

俺には、あそこにいるフェニックスと言葉を交わせるぞ」

「ああ良かった! どうかお願い。私の言葉を伝えてくれるかしら?」

「任された」


本当は野生の魔物の言葉なんて分からない。しかし、使役した魔物か、召喚した魔物なら別だ。


「フェニックスよ! どうか私の願いを聞いてください。

今、私の親友で最も心優しきお人が、病気を患い、その命を散らそうとしているのです! 病気を治す為には羽が、貴方様の羽がどうしても必要。もちろん、対価が必要とあらば、何でも用意いたします。

お願いです。姫様を助けてください!」


ジュピターは最後にそう締めくくり、俺の方を見る。俺は分かったとでもいいたげに首を縦に振り、フェニックスへとさらに近づいた。


そして、遂に足元までたどり着き、先ほどジュピターがやったように跪く。


キュルッキュウゥ! (そんなっ、ご主人様おやめ下さい! ご主人様が私なんかに頭を下げるなんて!)


フェニックスの俺もビックリする大きな声に、後ろの警戒心が強くなった。


「お、怒っているのか!?」とマーズ。

「ああ姫様……」とジュピター。

「……」いつも通りのサターン。


更にはうちらの生徒会まで、なんか殺気立っていた。忍が今のうちに説明すればいいものを、あっちはあっちでこの状況にハラハラしているらしい。


「もしも副会長が危険に晒されれば、その時は容赦しないぞ」

「ですね」


やめてよ会長!? それに霰まで! 俺のフェニックスちゃんを傷つけたらタダじゃおかないからな!


キュゥ! ……キュルル(早くお立ちになってくださいご主人様ぁ! でないと、私は仕えるべき立場として立つ瀬が……あれ、でも何だか嬉しい気分。

………………………ご、ご主人様、1つ提案があります)


「……あー、コホンッ。あぁ何だフェニックス、様。何でも言ってくれ、ください」


キュルキュル(た、例えばこういうのはどうでしょうか。ご主人様の対話は、私に触れなければならないという演出です)


「……それ必要?」


キュルル(多分、絶対に必要です)


「そ、そうか。ならーー」


俺は、よく分からないままフェニックスの足に触れる。フェニックスの口から溢れる暖かい吐息が、俺を優しく包み込んでいるようだ。


キュゥゥ(もっとこう、ギュッとした方が対話しやすい気がします)


「こうか?」


キュゥゥウウ! (そ、そうです! ああご主人様ぁ……え、えへへ、私いま調子に乗っていますぅ。こんなに近づいたのって、カオスドラゴン君とスライム様以外に私だけかも。みんなに自慢できる)


「……大丈夫か?」


キュルル、キュウ(あっ……こ、コホンッ。さてご主人様。手筈通りに始めましょう)


「お、おう」



手筈通り、手筈通りね。


よし準備オーケー。覚悟は出来ている。


わざと皆にも聞こえるよう、俺は合唱コンクールよりも大きな声を張り上げた。



「なんと! それでは、私どもの願いを聞いてくれるという事ですね!」


キュルル(えぇと……ここで私が空を飛ぶんですね。分かりました)


フェニックスちゃんは羽を折り畳み、次の瞬間には一気に空へ羽ばたいた。決して速いわけではないが、とても大きなエネルギーを感じる。


完全に見えなくなる頃、俺はフェニックスを逆召喚……つまりは元に戻す。


残ったのは暖かい空気と、フェニックスが羽ばたいた時にわざと落とした、3つ4つほどの羽。


本体から抜け落ちてなお熱を発している。優しく拾い上げたが、まるで赤子のようだ。



「ほら、ジュピター」

「あぁ、ありがとう! 本当にありがとう! これで姫様も……」

「治るだろうな。もしかしたら1つくらい余るかもしれない。ああ俺たちはいらないぞ、先に言っておく。

そちらが大事に取っておいたらいい。保存の仕方は知っているか? なるべく空気に触れないようしないと、1日で灰に変わるからな」

「……このご恩は何をして返せばいいのか」

「その事なんだが……1つだけある。

俺たちは自由に生きたいんだ。そっちはあわよくば俺たちを引き込もうとしていただろ?

それを断らさせてもらおう。贅沢言うなら、俺たちにあった事を他の奴に知らせないでくれると助かる。

ロマンチックじゃあないか。

不死鳥フェニックスの(もと)、神隠しの民と三星の戦乙女だけの秘密なんて」


自分らしくない事を言って、ジュピターに笑いかける。向こうはまだ、俺たちに何もしないのはという事で迷っているようだったが、健太が「姫さん治って万々歳だぜ」という言葉を聞いて、何を大事にしなければならないか分かったらしい。


不死鳥の羽を大事そうに専用の袋へ入れた後、微笑み返してくれた。


……既婚者なんだよなぁ。どうでもいいが、どことなく大人の雰囲気を感じる。


〜〜〜〜〜


「そういえばさぁ、あのフェニックスはどこいったんだ?」


登山の後は、下山。頂上からの景色を少しだけ堪能した後、俺たちは山をおりていた。


ふと、呟いたのは健太。


その事だが、もうシナリオは出来てある。


「1度人間に手を貸したんだ。甘い蜜の出どころを知った人間が、この後もゾロゾロと来られちゃたまらない。

もうこの地へ戻ってくる事はないだろうよ。どこか遠く、もしかしたら未開の地に行ったのかもしれないな」


1秒とかからず、今この瞬間にここへ召喚できるんだけどな!


ーーオオクロアリもいないおかげで、帰りはすんなりといった。そんなオオクロアリも、こっちの裏側にある巣にいる生き残りがやってきて、3日後には今日のように群れを作っている事だろう。


いずれ赤蟻も出てきたりして。


そんな事を思っていたが、オオクロアリの巣を超えたという事は、もうすぐ別れの時という事。地上まではまだまだなのだが、道が分かれている。


俺たちは左側。向こうは右だ。


「また語り合いたいぜ!」

「俺もっすよマーズ先輩! 次あったら、ふっくらとした尻についてでも!」

「おぉ、楽しみだなぁそりゃ!」


異性の壁を感じさせない健太とマーズは、気持ちのいい別れを済まさせる。内容は気持ち悪いが。


一方、会長と霰はサターンに覆いかぶさるよう抱き着き、涙を流す寸前まで顔をくしゃくしゃにしている。

サターンの顔は見にくいが、きっと迷惑しているんじゃなかろうか。


俺はというと、やはりジュピター。


「また会いたいな」

「……会わないほうがいいかもしれないぞ。神隠しの民とは、あまり近付きすぎない方がいい」

「それは……どうして?」

「この世界は甘くないって事だ。いずれ……いや、もう綻びは生まれているのかもしれない。

もしかしたら、俺たち。次会った時には殺し合いをしているのかもしれない。

今日のように清々しいお別れが出来たんだ。これっきりがいいと思ってる」


ほんと、そう願う。


ーー会長達はもう、来た道を戻っていこうとしていた。薄情な奴らだ。


「じゃあなジュピター。お別れだ」

「……さようなら」


そう、それが正しい言葉。また会おうではなく、「さようなら」が、俺たちにはピッタリだ。


最後にジュピターは、俺へもう1度お礼を言うと向こうの道へ行く。


俺も、さて帰ろうかなと後ろを振り向いてーー心臓止まるかと思った。ローブをすっぽりと全身に被ったサターンが、目の前にいた。


「な、なんだ?」

「……ありがと」

「うおっ」


しゃ、喋った!


サターンは俺の失礼な態度を気にすることなく、1人で喋る。


「天空羽ばたく大空の向こう、其れ、二度と還る事はない……

ーーこの不死山にいたフェニックスは、文献では何故か死んでいたはずだった。私も、期待していなかった。でもいた。

……私は、魔物の言葉を理解している。何となくだけど、何をしたか分かった」


げっ、つまりそれって、バレてたって事じゃないか。


うわぁ恥ずかしい……サンタさんの格好で娘の前にやってきて、パパと呼ばれた心境だ。


「ありがと」

「……どういたしまして」

「うん……姫様、大事。あの人優しいから、好き。だからありがとう。

これは、感謝の気持ち」


そう言うと、サターンは俺の手を取り、初めて見せる杖を振って何かをする。何かをするというのは、俺が魔法に詳しくないから、何をしているのかわからない。

異世界知識さんに聞こうとも思ったが、本人に聞けばいいと思いなおす。


「何してるんだ?」


しかし、彼女は疑問に答えず、杖を振り終わった後、手の甲にキスをした。


「いや何してるんだ!?」

「ーーたった1度の幸運を貴方に」


それだけ言うと、サターンも向こうの道へ行く。残ったのは俺だけだが、自身の左手をしばらく眺めていた。


まさか幸運って、今の行為じゃないよな?


うーん……まあいっか。毒でもないんだし、俺はみんなのところへ戻っていく。


今日は良い事をした。誰から見ても、褒められるべき行い。


ーー良い事をするって、気持ち良いなー!

◆後書き◆


\\400000文字突破//

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