表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ダンジョンウォーズ  作者: watausagi
心の要は瓦解する
42/85

生徒会を執行する

◇◇◇◇◇


『そこを200メートル左に……そうだ。荒野みたいな場所だと聞いている』


ぼかし表現使わなくても、ちゃんとここは荒野ですよ会長。崖が近くにあって、ろくな木1つもない。


そして、見えた。向こうから独りで、こちらへ近づいて来る者が。俺も負けじと、ゆっくり前に歩き出す。


『すまない副会長。本当は誰からも見られない洞窟の中などにでもしたかったのだが、流石に視界の悪い場所であの黒い靄は厄介だと判断した』

「全然問題ないですよ……っと、それじゃあこれでコールは終了します。連絡はチャットで。やっこさん、もうすぐ50メートルまで近づいてる」


奴の尾行からして、大雑把に俺も推測したが、声の聞かれる範囲が50メートルそれ以下だと思う。


最後に俺の渾身のジョークを会長に言ってもよかったが、もしかすると戦いになるかもしれないし、空気を読んであげた。遺言がジョークになるかもしれないなて、とんだブラックユーモアだ。ちょっと違うか? まあいい。


……意外と、50メートルっていうのはちかいんだなぁ。気づけば10メートル先には黒いローブ、いや黒い靄で体を覆った人間はすぐそこに。


「止まれ」俺は刀を出した。


向こうは素直に止まってくれた。やりやすくて助かる。


「俺は、生徒会副会長だ。貴様に問う。東郷 聡を殺したか?」

「……ああ」

「何のために、いやまずは顔を見せてもらおう。話はそれからだ」


驚くべき事に、なんとこれも相手は受け入れてくれる。何を考えているのか分からないが、少なくとも顔は分かった。もしもの時のために、すぐさま会長にはチャットで伝えておく。


「お前……確か、大神 龍騎だな」

「だとしたらなんだってんだ、え? 副会長。俺だってあんたの名前は知ってるぞ」

「いや……んぅ、そう、だな」


正直言って、意外だった。

もっと寡黙で冷静な人間かと思っていたが。蓋を開けてみれば、いや靄が晴れてみれば、相手は所謂不良のレッテルを貼られている人間。


「何で俺があいつを殺したかって? 」


俺の思考を遮るように、大神は黒い靄を巧みに動かしながら喋りだす。



「特に理由はねえよ。強いて言うなら、俺は、ダンジョンマスターにならなきゃいけねえ。つまりはそういうこった」

「風紀委員達を襲ったのは?」

「逆に聞くけどよぉ、偶々1番近場にあったから入ったダンジョンのメンバーが、俺には分かってたっていうのか?」

「……俺を狙ってたよな。何でだ?」

「だから、理由はねえって」


はいダウト。

風紀委員のくだりは……まあその通りなのだろう。だか俺を狙った理由が無いなどと、無茶な話だ。


しゃかりきボーイのダンジョンとここまでは、一体どれだけ離れていると思ってるんだ。絶対に俺を狙いに来たとしか思えない。健太を賭けてもいい。


「本当の事を喋ってもらうぞ大神。ダンジョンマスターになると言ったな。つまりお前はこれから、生徒全員を殺す魂胆でいると?」

「ったりめえだ」

「……分かった。それさえ聞ければもういい。大神 龍騎。抵抗さえしなければ、こちらはお前に隷属の首輪をつけて、そうだな……最低限の生活は保障されるぞ」

「お前バカだな。今さっき言ったはずだぜ。俺は、お前ら全員殺すんだ」


大神は、黒い靄を使って挑発してくる。あっちにフラフラ、こっちにフラフラ。


俺も、するべき事は決まった。


こいつが生徒を襲いだした理由。何で……なのかはまだ分からないし、もしかしたら一生分からなくなるのかもしれない。


だが会長は言ったんだ。止めろと。


「これより、生徒会を執行する!」

「やると思ってくれたぜ!」


10メートルなど、異世界にとっては数秒もかからない世界。



俺はすっかり癖となった一刀閃を放ち、様子見。大神は黒い靄を動かして、それをーー会長の言葉を借りるなら吸い込んだ。上半身と下半身がおさらばになる攻撃だったが、もちろん向こうは無傷。


大神がニヤリと笑った気がした。


「俺のスキルは【ブラックホール】! どんなものでも吸い込めるぜ!

副会長、あんたは俺を殺せるか!?」


なるほど、ブラックホールか。


ーーよし、意外と弱く、攻略しやすいスキルでよかった。異世界知識さんも言ってくれている。20ポイントの中では1番使い道の難しいと。場合によっては最強だが、最弱にもなりえる。


「何で律儀にスキルを教えてくれたのか……まあいい。名前さえ分かれば、お前のスキル、既に看破した」


大神は黒い靄を動かす。それは遠心力を使った攻撃のように見えるが、黒い靄は大神に留まったまま。


ならこれは、ブラックホールの吸い込みではなく、吐き出し。


俺は些細な気配と勘を頼りに、刀術スキル最高の攻撃力を誇る技を使った。


「ーー秘技、四面楚歌」


この技はどういったわけか、前方の対象に対し、全方位からの攻撃を繰り出す。俺が回り込んで後ろから刺しているわけでもなく、そういったスキルなのだ。


……そして今回、対象は霧散した。半透明な空気みたいだったが、なんだろう。


「お前のスキルは吸い込み、そして吐き出すことが出来る。さっき何を吐き出したのか教えてくれないか?」

「そんな事も知ってんのか、流石だなぁ副会長。噂だけの事はある。

いいぜ教えてやる。俺が吐き出したのは、さっき忌々しくも遠くから飛んできた攻撃だ。

多分、対象に当たるまでずっと付いてくるんだろうな。しつこかったし。

今はお前が対象となってたから……まあ、ぶっ壊したのは良い判断だったぜ」


まただ。

また、大神は律儀に答えてくれる。こいつは本当に俺を殺しに来たのか?


分からない。殺気はあるようだが……


「副会長よぉ、俺のスキル知ってるって事は、もう弱点まで分かってるって事だよな?」

「ああ、お前のスキル、吸い込む事が出来るのは最大で6つまでだ」


だからあの時、VRDGの時は俺の攻撃が防げなかったんだ。奴も意外だったんだろう。なにせ、会長が片足にかけていたスキルは合計6つ。俺の攻撃はギリギリ防げなかったという事。


……大神は石を拾い、思いっきり黒い靄へ向かって投げた。そして別の場所にある黒い靄から、今度は俺に向かって石が飛んでくる。


首を横にして、危なげなく避けた。


「その通りだぜ!」


しかし、さっきのはフェイク。本命は俺が放った一刀閃。さっき吸い込んだやつを、今解き放った。


奴はあと、どれくらい何を吸い込んでいるのか。会長のスキルを吸い込んだとして、だとするなら近距離には気をつけないといけない。


一刀閃を自分のもう一発で相殺し、奴の殺し方を考える。向こうは言うなれば一時的な完全防御。吸って吐いてを繰り返せば、どんな攻撃も防げる。即死効果がついていても、絶対に当たる特性のついた攻撃も吸い込まれる。


本当にどうすれば……


「ほらほら、ボケっとしてるぞ!」


必然的に俺は逃げの一手。


向こうが吸い込めるのはスキルや攻撃、もしくは応用として感情なんかも吸い込めたりするのだが、相当集中力がいるのらしいので今は関係ない。


隠密を使っても、奴が警戒して黒い靄を展開、俺がそれに触れれば隠密を吸い込まれる。適当に攻撃しても、カウンターよろしく俺は何度も相殺しなければならないし、いやー参った参った。


俺の攻撃で1番ヒット回数の多い九九孔雀を使っても、奴が吸い込むのは1撃1撃ごとの斬撃ではなく、九九孔雀そのもの。この辺りの線引きは不明だが、こうなればもう、こちらは暴力で訴えるしかない。



数の暴力。



「出でよ、サンダーフィッシュ」

「……ああん?」


大神は、俺の背後を見て口をあんぐりと開ける。俺の後ろには、10体の大きな魚が今か今かと待ち構えていた。


奴のスキル、使いようによっちゃ最強だが、それでも個人戦には向いていない。俺の魔物召喚とは相性がすこぶる悪い。つまり、俺にとっちゃ相性が最高。


勝つだけなら、こんなにも簡単な勝負はなかったな。


「出でよ、フェニックス」

「出でよ、カオスドラゴン」


俺は遠距離の攻撃を可能とする魔物を召喚した。フェニックスは小さい炎を、それなりの数で放ってくれる。カオスドラゴンはブレス……というより粒子砲みたいなのを飛ばしてくれる。


パクパク(兄貴、今度こそ俺たち、役に立ってくるよ)


ああ行ってこい弟たちよ! この前は叶う事のなかったお前たちの想いを、あいつにぶつけてくるのだ!


キュルルゥ〜(ご主人様ァ、私の攻撃なんてどうやっても役に立たないのですけど……でもでも、ご主人様がやれとおっしゃるのなら、私、頑張りますから。そこで見ていてください)


任せたぞフェニックスちゃん。大丈夫、お前の炎は役に立つ。


ガルグルル(ご主人、遠慮なくいいのかの?)


やっちゃえぼくのカオスドラゴン〜


「大神、お前はいくつ防ぎきれるかな?」

「……ちっ」

「撃ち方よーい——撃て! サンダーフィッシュも、全軍突撃!」


俺たちの見事なコンビネーションは、決して仲間に危害を加えることはない。フレンドリーファイアなど、必要ないのだよ。


まず、奴は自身の周りに黒い靄をドーム状に覆った。そこへフェニックスの小さな炎が爆撃。よーく見ると黒い靄から吸い込まれた炎が吐き出されてフェニックスの炎にぶつかっているが……あれなら、被弾した数の方が多い。


つぎはサンダーフィッシュが2体を連続に自爆。2体自爆……自爆……10体が終わると、カオスドラゴンのブレスが、ワイヤーが引きちぎるような音を出して、一筋の軌跡を出しながら黒い靄に一直線。


「……やったか?」


誰かが呟き、つぎの瞬間には黒い靄から俺に向かって、一直線にカオスドラゴンのブレスが飛んでくる。

それをカオスドラゴンは手で弾いてくれた。魔力を使ったブレスより、本来カオスドラゴンは近接派。しかも自分のブレス、防げない道理はない。ちょっと火傷しているように見えるが、問題ないらしい。


グルルゥ(大丈夫かご主人?)


「何ともないぞ。助かった」


グワァァ(なんのこれしき)


俺たちの仲間は絆があるのだ。サンダーフィッシュはもう、ここにはいないが……きっと、天国で見守ってくれている。フェニックスとカオスドラゴンは元の場所に戻ってもらった。


ところで大神の姿が見えたぞ。周りの地面はボコボコ。本人は大層ボロボロで、指の1、2本くらいは無いんじゃないかと思う。五体満足なだけマシか。


「くはっ……はぁ。容赦ねえ、いい、攻撃だった。なんだ副会長、俺を殺すか?

いいぜ殺せよ。さあ、どうした! 何突っ立ってんだよ! 」


叫ぶように、それはまるで、独りじゃ何もできない小鳥が母親を求めてピーピー叫んでいるように。

大神は黒い靄を力なく動かして、俺を怒鳴りつける。


「なんだよ、はやく、はやく殺せっつってんだよ! いい加減しないと殺すぞ副会長!

……せめて、殺さないなら、お前がおれのために死んでくれよぉ、なあ!?」


……どうしよう、冷めてきた。

あれかな、覚醒した主人公がやけに冷静沈着な姿になるのは、もしや弱者となった敵に失望してたりするからか?


《王人、ようやく敵の思考が定まってきました。さっきからゴチャゴチャしてて分かりにくいったらありはしませんでしたが……彼はどうやら、貴方に殺される事を望んでいるようです》


異世界知識さんからの報告は、俺の疑問を解決してくれた。だが、もう半分の違和感が拭いきれない。


本当に俺に殺されてほしいだけなのか、それとも、まだ……


俺は鎌をかける。


「お前、そんなに死にたいらしいな」

「は、はぁ!? 」


黒い靄が、ビクリと蠢く。


「んなわけっ、ねえだろうが! 俺は死んだら……俺は……どうすんだよ、俺が死んだらどうなるんだよ!

そうだ、俺はお前らを殺すんだ。もう戻れねえとこまで来たんだ…………殺す。絶対に

お前らを殺してやる。

ダンジョンマスターに、俺はなる!」


黒い靄が霧散した。そして来る……やはり、速い。一瞬で俺のところまで届き、霧のように広がる。


一方大神は一歩も動かずに、その場を全力で殴った。すると、俺の真横から全力の〈パンチの威力〉が飛んでくる。


ただ、それはあくまでも普通の人間の威力。俺は刀術スキルのちょっとした恩恵と、ドリアード達のドーピングにより、難なく防げる。


もう一度大神を見ると、今度は苛立ちをぶつけるように地を踏みつけていた。すると、俺の真上からーーと、やはり防げる。



《もうっ、王人のせいで分からなくなりました! あの男、また訳の分からなこんがらがった感情です。

王人に殺されたいのに……殺されたくない。いや、これは……殺したい? 殺さなければならない。そうしなければ……》


異世界知識さんがブツブツ言っている。


(解析は任せたぞ)

《人使いの荒い……えーっと……だから……これは……つまり》


俺は、大神の所へ向かう。


「くそっ、くそがっ!」


向こうは見えない敵でも倒すようにその場で攻撃。ちゃんとこちらへ届いてはいるのだが、簡単に防げる。


「死ねよ、死んでくれよぉお!」


すると、今度はまともな攻撃が飛んできた。これは……攻撃を防いだ時の俺の拳の威力。いつの間にか吸い込まれていたらしい。面倒だ。

俺はもう、ただ歩くことだけに集中した。


「死ねって、言ってんだぁあ!」


まあそうだよな、向こうは武器としてナイフを持っていた。それを全力で振る。俺は全く防いでないので、まともに肩へくらった。


《王人、前方からの、頭です》


ナイスファインプレー。

俺は最小限の動きで、ゆっくりとギリギリに避ける。髪が数本持って行かれた。


《次は左前からの、心臓ーーだからつまり、ここがこうなってーー次は左足の太もも横からの攻撃ーー殺すのは……妹が……あぁ忙しい!》


後でたっぷり労っておこう。

ギリギリ避けられるおかげで、俺は身体中から血を流しながらも、着実に大神へと近づいていった。


「くそ……くそ」


ついに目と鼻の先。


丁度ーー解析も終了した。断片的な情報から異世界知識さんが整理したものだが……ちゃんも辻褄が合う。


「俺が……死んだら、あいつはぁ……どうなるんだよ、ちくしょうめ」


こいつ、大神は所謂不良のレッテルを貼られている。何故なら態度がデカイのだ。喧嘩っ早いとこもあり、嫌われていた。


しかしそれは、妹の為。父親がいない家族事情を持つ大神は、母親と妹の為にバイトをしていた。時々学校を無断で休んでいたが、そういうことらしい。


態度がデカイのは、か弱い妹を守るという感情が過激に出てしまってるから。守らなきゃという強迫観念にも似た何かが大神 龍騎にはあったのだ。


こいつがダンジョンマスターになろうとしたのは、地球へ戻るという願いを叶えてもらおうと思ったから。地球へ戻って母を助けようと、妹を守ろうと。まずは近くのダンジョンを襲う。その時は反撃をくらい、思わず逃げてしまったが、その後になって逃げる意味を自分でもわからず、今度こそ覚悟を決める。


……こいつが俺を狙ったのは簡単だ。



止めてほしかったから。



そう無意識に思っていた。ただ、死ぬのも怖いから、自分が逃げられないよう完全に殺してくれそうな俺に目をつける。何かおかしいという地球の頃の俺の噂を頼って。


「大神 龍騎、お前も被害者なんだな。同じ妹を持つ同士、もしも俺がお前と同じ立場ならそうしたかもしれん」

「っ……お前、なんで」

「どうだ、お前が望むなら、隷属の首輪をつけてやる。2度と同じ生徒を殺さないよう、牢屋に閉じ込めてやる」


こいつがどんな答えをくれるか、俺は分かってたような気がした。


「……殺してくれ。俺はもう、いやだ」


何が嫌なのか。

牢屋で生活するから?

2度と家族に会えないから?


それとも、全部?


大神 龍騎が、黒い靄を引いていく。



「おかしいんだ俺。死んじゃいけないのに、もう妹に会えないのに……いま、後悔してねえんだよ。おれ、悪い奴だな」

「……ああ、いつか妹に会ったら存分に怒られてこい」

「へへ、お前やっぱ、容赦ねえや」


諦めた笑みを浮かべる大神 龍騎に向かって、俺は刀を鞘に直し、痛みなく命を奪う秘技を使おうとーー


ーードパンッ


人っ子ひとりいない……人っ子ひとりいないはずの荒野に、花火を小さくしたような音が轟く。間違っても剣からこんな音は出せない。


俺が唖然としているなか、目の前で大神 龍騎は、心臓を何かに貫かれて……死んだ。



飛んできたのは、小さい……まるで弾丸。俺は弾丸が飛んできた方向を見ると、崖の上に誰かが佇んで、俺を睨んでいた。逆光のせいか顔がわからない。


「感謝する生徒会副会長。貴方のおかげで、色々と助かった。

それにしてもパワーティス帝国の武器、異世界に来てこれは流石にと持っていたが、存外使える」

「……てめぇ」


何かを汚された。そんな気がした。


大神 龍騎は死を選んだ。最後まで迷っていたが、やはり殺される方を望んでいた。


あいつは俺に頼んだんだ。


『殺してくれ』


そう、頼まれた。


なのにそれを、嘲笑うかのよう、あいつは極自然に大神 龍騎を殺した。


ーーふざけるな。


これは違う。何かが違う。大神 龍騎に待ち受けていた運命はどちらにせよ死だったが、この死は幾らなんでも……違う!


「そこで待ってろよ」

「ふん、いけないな生徒会副会長。そう言って待ってくれるのは犬だけだ。

今日のところはこれで。また会おう」

「お前っ!」


奴の後ろに四角い何かが現れる、それはドアのようだった。奴はドアを潜り抜けて、俺が追いつく前に扉ごと消えていく。


後に残ったのは、死体となった大神 龍騎。そして、哀れで愚かな俺だけだった。


ーーそういえば、と今更ながら気づく。


大神 龍騎は東郷 聡を殺してはいなかった。そんな記憶、大神 龍騎には一切ない。奴は俺が本気で戦ってくれるよう、保険として嘘をついただけ。


……さっきの奴ら、なのか?


◇◇◇◇◇


「すいませんでした!」


俺は会長のダンジョンで、土下座なるものをしている。土下座をしたのは、冷蔵庫の高級プリンを食べて母親から『胃から取り出してやる』と半殺しにされて以来だ。あの時は妹の『止めて! 兄貴、死ぬ!』という言葉のおかげで九死に一生を得た。


ありがとう妹よ。


「おいおい、何だこりゃあ」


床しか見えないが、健太が目を丸くさせていると確信した。


こう見えても、俺は無様な姿を見せるのが大嫌い。人前でゲップでもしようものなら、自殺を試みる自信がある。


そんな俺が、土下座。


あの、土下座を


膝と手と額を、地に擦り付けている。


「緊急会議だって来てみれば、おいおい明日にゃ星の雨でも降るんじゃねえのか? 」

「星の霰かもしれませんね」


健太の言葉に霰が茶々を入れた。


「ですが、確かに不思議です。どうかしたのですか副会長?」

「全て、俺の責任だ」

「は、はぁ……?」


みんなの疑問を、俺の代わりに答えてくれたのは会長だった。


「私が黒い靄討伐を副会長に頼んでいたんだが……うむ、それ自体は成功した。だがここからが問題でな。

最後の最後、トンビにかっ攫われた気持ちで、顔も見えない男に黒い靄を殺された。不確定人物に力が渡ってしまった為、こうして副会長は謝り続けているのだ」


ああその通り。俺が悪い。今回は、俺の油断のせいだった。殺そうと思えばすぐに殺せたんだ。7回同時に即死する威力で攻撃さえすれば、すぐにでも。


それをしなかったのは、驕り。


ーー俺が悪い!


まだ土下座を続ける俺に、会長が「顔をあげろ」と言う。俺は渋々、言われた通りにした。


「副会長、確かに今回の件はお前らしくない失態だった。しかし元はと言えば、そこまでの侵入を許した私のせいだ。離れて周辺の場にいたのに、そいつの気配も気づかなかった。

もしもお前が、責任を取って生徒会執行部を辞めようなどと考えているのなら……それはつまり、私も辞めるという事だ」

「……大丈夫です。辞めるなんて、そんな、全然思ってませんから」

「そうか、ならいいのだ。それより見てみろ。大神 龍騎を殺したと思われる犯人からチャットが全員用に来ているぞ」

「……は?」


そんな馬鹿なと思いつつ、会長が変な嘘をつくはずないと思い直した。


……………

…………

……


「俺が話します」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ