奴は黒……しかし俺たち、真っ黒黒。生徒会執行部は……会長は、決して正義ではない。
◇◇◇◇◇
VRDGに来ていた。目的はこの前のこの前、忍としたガンシューティング。あれのスコアを更新する事だ。
べ、別にしゃかりきボーイにボロクソで負けたからというわけじゃない。もうちょっといい成績を狙えたかもと思っているだけで……つまり、自分を超えるのだ。ほんと、全然、悔しかったなんてミジンコほども思ってないさ。
本当は昨日行こうと思ったのに、何か色々あってあやふやになった為中止。今日こそは何があっても行くつもりである。
「目指すは9体だぞ俺」
特に意味はない。9体がいいんだ、9体が。8体じゃあダメなんだ。
「おっ、いいところに来た王人」
「あれ、なんかデジャヴ!」
「こっちに来い」
誘拐だ!
首根っこ掴まれて、裏通りに連れて行かれる。一体誰がこんな——いや、正体は分かってある。この引っ張られ具合、そういえば昨日は何で分からなかったんだと反省。
「会長!」やっと解放してくれた。会長はおれに目もくれず先を歩きだす。「ちょっと、会長」
俺が来ると分かっていたに違いない。チラリと横目で見られ、さっきと、それに昨日と同じセリフ、「こっちに来い」と一言。俺も諦めて、この人についていくことにした。
なんというか、断れないのだ。生徒会長は……別に言わなくてもいいな。
「止まるんだ副会長、あれを見てみろ」
「はいはい今日も明日も見てやりますよ」
手慣れた感じで、建物を陰にしてコッソリと見る。会長が指差したそこは——野次馬がたくさんいた。と思うと、見やすく避けてくれる。会長がスキル、【危機鬼鈴】を発動したおかげだ。対象となる者は、虫の知らせとでも言いたげに、頭へ無意識に感じる危機感の音が鳴ってその場を離れる。これは本来、力のない魔物が食事にありつく為のスキルだ。
……野次馬がいなくなったことにより、会長が見ろと言ったそれを見ることができた。昨日見た1人の男と、それと敵対するように何人かの集団が対面している。どう見ても和気藹々といった感じではない。
「お前がやったんだろ!」
集団の1人が、昨日の男に思いっきり指をさす。ほとんど胸につきそうだった。
「だからなんの話だよ!」
昨日の男が、その集団の視線と感情に反抗するよう、声を荒げる。野次馬が「まさか……」などと呟いていた。
「しらばっくれんな!」
「ああっもう、何なんだよはっきり言えっての!? 俺はっ、知らねえってんだよ! 訳わかんねえって思ってんだよ馬鹿!」
「くっ……」
昨日の男に指を指していた男が、もう我慢できないと手を広げて胸ぐらを掴もうとして、当然のように昨日の男が抵抗した。場には、気まずい沈黙が漂う。
だから、ポツリと呟かれたその小さな言葉でも、俺のところまで聞こえてきた。集団の1人である、気の弱そうな女の子の声。
「じゃ、じゃあ……本当に、さっちゃんを殺してはないん……ですよね?」
しかしそれは、さらに気まずい沈黙を作り上げてしまう結果となった。昨日の男も、は? と間抜けな表情を浮かべる。
……え、ころした?
「何ですかあれは? 会長。俺知りませんけど、まさか……本当に?」
「なんだ副会長、ダンジョンマップもチャットも見ていないのか?今日のチャットはあの件でいっぱいいっぱいだぞ。私も、死んだ人間が誰かまでは分からなかったがな」
これは……察するに、たっちゃん (昨日のもう1人の男だろう)が死んで、あの集団はダンジョンマップからそれを知った。会長はそれも含めチャットから誰かが死んだという漠然な情報を分かった。
俺は、ラピスと遊んでた。
ふむ……俺は悪くない!
「気を引き締めろ副会長。たっちゃんとやらが死んだダンジョンはSの5。そこまでお前と離れていない」
「それはまた……はい、ご忠告どうも」
もう1度、あの集団を見る。気づけばヒートアップ。さらに剣呑な場に変わっている。
「本当に……あいつが……」
「しらばっくれるな! お前が、あいつに恨みを持ってたことは証拠があるんだよ! 昨日この場所でケンカしてたろ!」
「そ、それは……でも……だって!」
「それに、まだあるんだぞ。あいつが死ぬ直前、チャットにこう書き込んであったんだ。
《黒い》ってな。
なあどうなんだよ黒岩!」
「ち、違う! 俺は、そんな……」
あの男の名前は黒岩君だったか。でも黒い? それって……
「黒い靄、じゃねえのか?」野次馬の1人が、俺の考えていた同じことを口にした。「そうだ」「ああね」と周りも同調している。
黒い靄の事は、風紀委員のチームがしっかりきっちり公表してある。
「昨日までの話題は、黒い靄だった」と会長。「実際チャットでは既に、この殺人が黒い靄かもしれない事。今までの殺人もこいつの仕業ではないかと疑っている。……今までのはともかく」ここで会長は一旦俺を見て、また言い争っている彼らを見る。「たっちゃんの死とやらは、本当に黒い靄なのかもしれんな。もしも黒い靄が私かお前を狙っていたとして、私はお前の居場所をパワーティス帝国だと言ってしまったからな。可能性がないとは言えん」
……確かに、会長の意見はごもっとも。しっかし黒い靄の正体が分からない今、確かな事は言えない。
黒岩と集団は黒い靄という意見を尊重して、口喧嘩も終わっていた。
「分かったかよ、俺じゃねえって。……じゃあ、今日はもう気分が悪りぃ。お前らには申し訳ねえが帰るわ。仲間でゲームって気分でもねえし」
「……う、疑って悪かった。少し、俺も混乱してたみたいで」
「いいって別に……そりゃ混乱しねえほうがおかしいや」
黒岩君は気の抜けた顔をすると、手をぱぱっと動かして消えていった。
ーー黒岩が最後に見せたあの表情は、他の誰かにも見た事がある、1度だけ。まだやんちゃだった頃の忍。死を間近に経験した事のある顔だった。
「さて……」会長が俺と向き直った。「これからどうする?」
今回は流石に、お茶には誘われないらしい。尾行がいないって事だ。
だが、これからどうするだと?
ははっ! 会長もおかしな事を言う。やる事といったら決まってあるだろう。というより、他に選択肢がない。
〜〜〜〜〜
『テッテレ〜、6人やっつけたぞ、すっご〜い。これで君は正真正銘、みんなのヒーローだ』
「くそっ!」
まだだ。あともう少しだった。さっきのは初めがいけない。もっと素早く、短縮できたはず。
次こそ……俺は、いける。
「なあ副会長、もう100回はやっているんだが、まだ続けるのか?」
「そんなにやってるわけないでしょ。7時半なのに8時とかいう俺の婆ちゃんと同じ事を言わないでくれ」
気を取り直して。
銃を構える。
狙いを定めて、ボタンを押した。
バンーーッーーッ!
バンーーッーーッ!
銃声が轟く。俺が撃った回数は10回。その内3体は外れた。途中からスピードを重視しすぎたかもしれない。10回も撃てたのは初めてだが、3回も外すのは久しぶりの事だ。
「……もう1回!」
「あのなぁ。7体は十分学生の域を超えているんだぞ。普通アベレージ2だからな?」
会長の呆れた声。なんだかんだ言ってこの人、付き合ってはくれてるんだよな。これは期待に応えなければなるまい。
目指すは9体。
それ以下の功績など、論外!
「……はあ、私はやる事があるから、お前はお前で好きなだけそれをやるといい。
ただし、この後ちょっとばかり働いてもらうから覚悟しておけ」
「了解っ」
バンーーッーッ!
バンーーッーーッーーッ!
『テッテレ〜、8体やっつけた…………だと? ま、まさかこれは……もしやすると貴方は、伝説の……いや、何でもない。何でもないのだ』
くっそ、なおさら9体を目指す気持ちが膨れ上がってしまった。なんなんだその急展開。伝説のなんだよ。
あんまり楽しみだから、たとえ10狙えたとしても順番優先で9で留まるよこんちくしょう。
絶対に、絶対に……
ーーそれからの事は、よく覚えてない。異世界知識さんにより逐次アドバイスを受けながら、機械的に、不必要な動き最適化。機械的というか、機械のように一定で規則的に的を撃ち抜く。
『テッテレ〜、9体やっつけた………ふむ、やはりあなた様がそうであったか。私たち一同、あなた様のお帰りを心からお待ちしておりました。
どうぞ、こちらへ。あのお方も、奥の部屋で待っておりますぞ』
『デンデンデンデンデー、10体やっつけた……なんと、アリシ・アシリア姫!? そんなまさか、間に合わなかったというのか! 10体は多すぎたのか!?』
ーーふ、フハハ、フハハハ! どうだ見たか、これが俺の本気だ!
しゃかりきボーイがなんだ。あんなやつ、ヘコヘコ風紀委員長に尻尾振る本物の犬なんか、俺の敵ではない。そう、敵は己自身。これからも精進しよう……
ひとつ問題なのが、11体を倒した時のアナウンスを早く聞きたくなったことだ。こんな隠し機能を入れるとは、中々ではないか美人さん。見直したぞ。
……さて、やる事やったし、飲料専門店スワローに行ってモモンスペシャルでも飲もうかなと、そう思ったのに。
「待て副会長、仕事だ」
ガシッと、腕を掴まれてしまう。しかも今回は、俺の我儘に付き合わさせてしまったみたいで断りづらい。
実際は俺が頼んだわけでもなく、会長が側にいただけなんだが。
「俺今からやる事あるんで、用があるならさっさと言ってください」
「まあ待て。これが異世界初、生徒会執行部の本格的な働きなんだ。失敗はもちろん許さない」
生徒会執行部の本格的?
あれ、頭に浮かんでくるぞ地球の光景。全てろくな事ではなかった気がする。
「……その働きは?」
「もちろん、黒い靄をとっちめるぞ」
な、なんだって〜!?
って……え、クロイモヤ?
…………
…………
「大きな剣がなんですって?」
「それは多分、クレイモアだ。私が言っているのは黒い靄。
いやぁ、中々に大変な作業だったぞ。副会長のダンジョンの、その近くに追い込むのは。久しぶりにいい汗をかいたかもしれない」
……んー?
「どういう事なんですかね?」
「さっきからか私が、ただボーッと10000回も繰り返されていそうな銃声を聞いていただけに思えるか?
時間を無駄にするのは、結構好きではないんだよ私は。知ってるだろ?」
よーく知っている。
なら、こういう事か? さっきからか会長は、黒い靄を追い詰めていたと。俺の近くにずっといながら、そんな事をしてたのか?
……してたんだな。
「一から説明お願いしますよ」
「ふむ、簡潔に説明するなら、私はコールやチャットを使って、協力者を上手く誘導させながら、黒い靄を追い詰めていた。こう見えても人望はそれなにりあるからな。一応、生徒会連盟の一員だし。手伝ってくれと言ったら、すぐに了解してくれた。
……詳しく言うとだな、まず黒い靄が昨日の男……名前は東郷 聡を殺した犯人だと推測して、副会長を狙っていると推測して、奴の行動ルートを推測する。次に遠距離特化の協力者がまんまと黒い靄を発見。地道に、悟らせない範囲で、向こうもそうとは知らずに副会長のダンジョンの近くへ誘導させた。1度たりとも私が命令しなかった時はないくらい、苦労した……というわけだ。
ここまで言ったんだ。分かっているだろう副会長。生徒会連盟は、人殺しの可能性のある黒い靄を野放しにはできない。至急、私の命令通りの場所に行ってくれ」
なんてこった。相変わらず、滅茶苦茶なお人だ。忘れていたよ会長。あんたはそうだったな。
「俺も死にたくはないんですけどね」
「適任はお前なのだ。もしも黒い靄が本当に殺していたと分かった場合、その理由に納得のいかない場合……向こうを殺すことも構わない。この件は、生徒全員のチャットでも、大多数の者から了承されている。
生徒会執行部がーーもしもの時は殺してでもーー東郷 聡を殺めた張本人を止めるとな。
さもなければこのまま、張本人はより強大になって我々を殺しに来ると教えてあげたら、こちらが驚くくらいの速さでオッケーサインをもらったのだ」
そして会長は、大人ぶった笑みを浮かべる。落ち着く、母性を感じさせるその顔。俺は嫌いじゃなかった。
「殺すとなると、お前以外には霰しかいない。健太は絶対にダメだ。忍はまだいいが、力が足りない。万が一にも死ぬ可能性があるなら、そう簡単には協力させられない」
「会長が行けばどうなんです?」
「私はやる事がある。協力者が、誤って張本人を殺さないようにな。牽制しないと。向こうも一筋縄ではいかないという事だ」
「……俺なら勝てると、俺なら殺してもいいと、そう言ってるんですか?」
ああやはり、嫌いではないその顔。孤独は、誰だって辛いのだ。
「私は、お前を完全に信用している。倒せると、殺しても大丈夫だと、な。
なんだ副会長、それ以外の言葉が必要だったか? お前と私の仲だぞ」
確かに。
俺は、ログアウトをする。この仮想空間から、現実へと戻る。
やる事が出来た。絶対に成し遂げなければならない仕事が。
「行ってきます」
「……明日はデートでもしよう。この前のような尾行がいたからという言い訳でもなく、本当のな」
……こりゃあ、素晴らしい罰ゲーむぅ、コホンッ、素晴らしいご褒美が出来た。
ーーこの時、会長は少しも嘘をついていなかった。だが、もう少し詳しく言ってくれても良かったのにと、後々思う。俺がもう少し気にかけていればと、後々反省する。
黒い靄を殺すのに、大多数が了承した? はぁ、それはつまり、了承していない人間もいるという事だ。了承していない人間、何故か俺の脳内で、犬と委員長キャラの飼い主が浮かんできた。
まあ、この事から起こるいざこざも、結局は無かったんだから良かったけどな。良かった……けどな。
まさか、あんな事が起こるとは。
ーー生徒会執行部を止めなければ。
俺は本気でそう考えた。後々、な。
◆後書き◆
少し、自分でも整理がついてないというか……おかしなところがあったら言ってください。




