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異世界ダンジョンウォーズ  作者: watausagi
心の要は瓦解する
40/85

???「言葉は刃物なんだ」

◇◇◇◇◇


VRDGに来ていた。目的はこの前、忍としたガンシューティング。あれのスコアを更新する事だ。


べ、別にしゃかりきボーイにボロクソで負けたからというわけじゃない。もうちょっといい成績を狙えたかもと思っているだけで……つまり、自分を超えるのだ。ほんと、全然、悔しかったなんてミジンコほども思ってないさ。


「目指すは9体だぞ俺」


特に意味はない。9体がいいんだ、9体が。8体じゃあダメなんだ。


「おっ、いいところに来た王人」

「ん? 誰か知らんが、今は忙しいんだ後にしてくれれれっ!?」

「こっちに来い」


誘拐だ!

首根っこ掴まれて、裏通りに連れて行かれる。一体誰がこんな——


「って、か、会長?」やっと解放してくれた。会長はおれに目もくれず先を歩きだす。「ちょっと、会長」


俺が来ると分かっていたに違いない。チラリと横目で見られ、さっきと同じセリフ、「こっちに来い」と一言。俺も諦めて、この人についていくことにした。


なんというか、断れないのだ。生徒会長は妙なカリスマを持っていやがる。


「止まるんだ副会長、あれを見てみろ」

「はいはい分かりましたよ」


建物を陰にしてコッソリと見る。会長が指差したそこは——野次馬がたくさんいた。と思うと、何故か見やすく避けてくれる。会長がスキルでも使ったに違いない。


野次馬がいなくなったことにより、会長が見ろと言ったそれを見ることができた。男と男が胸ぐらを掴み合い、何やら歯をむき出しにして罵り合っていた。


「てめぇが、あの時!」

「だーかぁーら……ちげえって!」


最初から分かっていたことだが、ケンカしている。見た事ない顔だ……1年だな、きっと。


「お前があんとき、もっとうまくやってりゃあ勝てたんだ。絶対。誓って言えるね」

「それを言うならあいつもそうだろ! お前も! 何であそこで前に出るんだ。少しは考えて行動しろよノロマ!

バーチャルポイントがかかってんだよ分かってんのか?」

「なんだとぉ!」

「そっちが!」


これはこれは、なんと醜い事か。何をしてたのかはともかく、あんなに仲間へ負けた責任をなすりつけあってるなんて、絆深き生徒会執行部からすれば欠片たりとも理解できない。


俺が見てる間、さらにエスカレートしていく2人。最終的にはどちらも収まりどころを見つけきれずに、喧嘩別れをする形で帰っていった。


「……ふーむ、どう思う副会長」

「良い状況じゃない事は確かでしょうね。勝負事……よくよく考えれば、地球でもそれが原因で殺人なんか起こっていたわけですし、そこまでいかずとも……やっぱり、良い状況じゃない」


こうしたバーチャルポイント、しいてはダンジョンポイントが関わっていれば尚更。お金よりも大事な命を守ってくれるポイントは、誰だって必要だ。必要なものを欲するためには、どこまでも残酷になれる生き物がいる。


「今後はこういう事も増えるんだろうな」会長が俺の意見に同意した。


少し過敏になりすぎだろうか? まあ、否定はできないよな。たかが喧嘩ひとつ、きっと明日にもなれば仲直りだろう。

他に何も起こらなければ……だが。


「そうだ副会長、知っているか。確かお前のいる国、そこのやんちゃ皇帝が本格的にダンジョンを制覇しだしたらしいぞ。そっちは大丈夫か?」

「うわー、遂に異世界と関わりあおうってのが殺し合いとは……萎えるな。

ああ心配しないでください。俺のダンジョンに来てもよっぽどの事がない限り一階止まりですから」

「ふむ、ならいいが。他の奴らはそんなに自信満々ではないようだぞ。実際怖がって……ほら、何だったか、サッカー部主将のナントカ君の庇護下に入ったものがいる。今や多くのダンジョンはスッカラカンだ」


これはいい事を聞いた。まず、会長がサッカー部主将の名前を覚えていなかった事。これはチャットに書き込めば、たちまちメシウマコールが画面を埋め尽くす。


っと、違うな違う。大事なのは、これ以上サッカー部主将の戦力が増える事だ。数が多いというのはそれだけで恐ろしい。


軍隊アリという生き物を知っているだろうか? 映像で見た時のあのウジャウジャには戦慄したね。何種類もいるようだが、その中には昆虫や爬虫類、そして鳥類までもを主として狩りの対象としている。あのジャガーでさえ逃げ出すほど獰猛らしい。橋なんかも自分達の体で作っちゃうところなんか、生命の神秘を感じる。


まあ、何が言いたいかというと、たとえ虫けらでも、集団で来られると厄介なんだ。もしもサッカー部主将が変な気を起こして、『平和の為に、みんなへ首輪をつけて僕が管理しよう』とか、どこぞの誰かみたいな考えにたどり着くと四肢をもぎ取りたくなる。


「あ、そういえば俺、やる事があるんでした」ガンシューティング9体。「それではこれで」


ガシッと、歩き出そうとしたその時に肩を掴まれる。錆びれかけの歯車よろしく後ろを振り返ると、それはそれは嬉しくない会長のとびっきり満面な笑みがあった。


「このところ2人っきりの時間がとれていないのに気付いているか? さあ、少しは付き合え副会長」


本当に嬉しくない!

会長と2人っきりなんてどこの拷問だ恐ろしい。妹は、妹はどこですか!


「ちょっとだけだから、なあ? 」

「アンタはどこのナンパ野郎だ!」

「近くにいい店を知ってる。ん? ならこう言い換えたほうがいいのか」


何やってんだか。

本当に離してくれと頼もうとして……おや、本当に離してくれたと思ったら、今度は下顎をグイッと持ち上げられて顔を近づけられた。


「お茶でもどうかな?」

「……は、はい……喜んで」


〜〜〜〜〜


「……で? あそこまで空気読んであげたんです。どんな用があるっていうんですか」


おっ、何だこのジュース美味しい!


アルコールは入ってないが、ちょびっと辛味は感じ、甘味も強くてとっても飲みやすい。変に複雑な味わいはしてなくて、ストレートに口から鼻へと突き抜けるこの感じ!


飲料専門店スワロー。仮想空間だからって舐めちゃいけなかったぜ。


今これを他人から飲む事を邪魔されたらキレる自信がある。


「実はな、尾けられていた」

「おい黙れよ会長。俺はこれを飲むのに忙しいんだ」

「……」


ピンっと氷が飛んできたので、ストローで防ぎながら目の前の飲み物を空にする。ついでにもう1つ頼むことにした。このモモンスペシャルというのに興味がある。会員の奢りだから気が楽でしょうがない。


……少し周りを探ってみたが、俺の射程範囲にはいないな。


「顔は?」

「私もこのフワントファンタズムを頼もうかな……うん、そうしよう。見たことない(・・・・・・)が、美味しいに違いない」

「距離は?」

50(・・)……おや、フワントファンタズムは500コインか。しょうがない。今日くらい贅沢してもいいだろう」

「まだ?」

「副会長、お前が例え草食動物並みの視界を持っていたとしても、見えないものは見えないだろう」


なんか遠回しに伝えてきて鬱陶しいが、顔は見ていない。それに50メートル離れている。と、俺の真後ろにいるんだな。


1番の問題はどちらを、何で、尾けていたって事だが、思い当てる節が多すぎてこれは分からない。


「忍でも呼びます?」

「既に注文()頼んである」


「も」って事は、忍は今ここへ来ているのか……はさみうち? いや、ログアウトでもされたら終わりだ。

どうやってとっちめるんだろうか?


「任せたぞ副会長」


◇◇◇◇◇


おっと、俺らの副会長から連絡が来た。コールは使わないらしい。チャットだな。


《青い建物が見えるな? 次はそこを左、怪しい人影がないか慎重に確認してくれ》


青い建物はこれっと……で、怪しい人影ね。気分はまるでアンパンと牛乳……違うか。


ーーいた。


全身真っ黒だ。あんなに真っ黒だと怪しんでくれと言ってるようなもんだぜ。


《こちら忍、怪しい人影を確認》

《了解。相手に気づかれる恐れがある。それ以上は近づくな。

まず俺が動くから、こっそりと後ろからそいつを……》

《おいおい副会長。俺も、やる時はやるんだぜ? 手は打ってある》


会長から急に呼ばれたわけだが、1人で来たんじゃない。愛すべき信頼にたり得る仲間をお呼びしてある。


副会長もそれを確認したのか、リアルタイムのチャットで書き込まれた。


《……幼女がいるぞ忍。幼女が泣きじゃくっているぞ忍。まさかとは思うが、手は打ってあるってこの事じゃないだろうな?》

《もち、俺のサポートキャラのロザリーちゃんだぞ。うそ泣き頼んだんだ。どうだ、可愛いだろ? すこーしばかりキツイ時もあるが……》


だが……


『早く起きて下さいロリコンマスター。朝食の準備の時間を私から削るとはいい度胸ですね。

え、 眠い? ……昨日あんな遅くまで他の娘たちとキャッキャッしてるからです!』

『昼御飯ですよ。私が作ったのです美味しくないはずがありません。この出来栄えをマスターにあげるのは甚だ不本意ですが、仕方なくです、仕方なく』

『早く寝て下さいこの変態マスター。全く、ろくに一人で体調管理も出来ないとは……私がいないと……何もできないんですね』


だが……!


《それがいい!》


俺の素直な感想に対し、文字の羅列から、副会長からは呆れの感情がひしひしと伝わった。


《何でもいいや、もう。じゃあ頼んだぞ》


へいへい。

さーてと、黒づくめは……驚いた事に、オロオロしている。多分ロザリーちゃんの嘘泣きを見ているからと思うが、意外だなぁ。なんの理由かまでは分からないとはいえ、あの2人を尾行するくらいだ。もっとすげえ奴と思い込んでいた。


……これなら俺も大丈夫そうだな。


抜き足差し足、(しのぶ)の足。なんつって。


自分でも褒めたいくらいに上手くいき、黒づくめを倒す射程範囲まで来れた。俺はすかさず地面を沼に変えて——ここで黒づくめが振り返った——そいつの指が動こうとしたので、腕ごと重力魔法をかける。腕どころか肩まで沼に沈めることに成功した。


これで、気軽にログアウトってのも出来やしない。ギャラリーは皆、ロザリーちゃんに群がり、近づいてきたのは副会長と会長だけだった。


「よくやったぞ忍」


会長からお褒めのお言葉をもらった。まあ、嬉しくないはずがない。有名人から挨拶をされたとか、そんな気持ちだ。


「では……聞かせてもらうぞ。なぜ私たちを尾けてきたのか、ああもちろん、その悪趣味なローブも外させてもらう」


会長はそう言って黒づくめに近づくが、その時、自分の目が正常ならば確かに見た。そいつのローブが、ぞわりと蠢いたのを。


瞬間、黒づくめの周りの泥がゴッソリと失われる。こいつは初めからローブなんて着ていなかった事に気付いた。真っ黒は、靄だった。


奴の手がピクピクと動いているのを俺が止める前に、先に動いたのは会長。すかさず近づくと、気迫で大きく見える左足を黒づくめに伸ばした。


今度はハッキリと、黒い靄が出てきて会長の足を覆う。会長が怪訝そうな顔をして立ち止まり、次に動いたのは副会長。刀を手に持ち、辛うじて見えた軌跡が逆袈裟斬りだったことに気づく。


ただ、遅かった。黒づくめがバックステップをしてギリギリかわすと、副会長の刀は奴の頬から青いエフェクトを微かに出しただけで——ログアウトをしたのだろう。黒づくめは消えた。


「……黒い靄」


重苦しい雰囲気の中、呟いたのは副会長。会長同様に怪訝な顔をして、泥沼となった地形が徐々に元へ戻っていくのを眺めていた。


「おかしいな……」泥沼じゃないかもしれないと、俺は思った。副会長が見ているのは、頭の中に浮かぶさっきの光景なのだろう。「……おかしい」


「あのさ」俺はたまらなくなって、会長と副会長を交互に見た。


「何がおかしいのか、誰かいい加減俺に教えてくれると嬉しい」

「……私の場合」


会長は足を素振りさせていた。俺の見間違いではない。確かに、足の先がボヤけている。大きく見えたのは、これが原因なのだろう。


「スキルを使ったのだが明らかに……そう、消えた。吸い込まれるように、な。これが例の黒い靄か。

問題は、私たちを尾けていたのかが不明で理解ができない事だ。どうせ、この仮想空間では殺せないのだし、もしも……私たちのダンジョンの居場所を探ろうしていたのなら、少しマズイ。ついうっかり(・・・・・・)、副会長のおおよその場所を喋ってしまった。

普通は聞こえない距離だったが、スキルなんて異能がある限り確かなことは言えない」


足の素振りを止めて、会長は副会長を見た。俺も副会長を見たが、どうやら会長とは考えている事が違うらしい。まだブツブツと呟いている。


「何で、さっき防がなかった?」

「どういう事だ?」


会長が、俺の聞きたい事を聞いてくれた。副会長は刀を一振りして消すと、さっきまで黒づくめがいた場所まで来る。泥沼はもう消えていた。


「最後の攻撃、あいつ、黒い靄で消さなかった。おかしいだろ」

「それは……速すぎたから」


あながちそうなんじゃないかと自信のあった俺の意見は、「それは違う」とにべもなく否定される。さいですか。


「会長の攻撃を防いだ時の黒い靄は、確かに余裕があった。俺の攻撃も防げなかったはずがない。

……だが奇妙な事に、防がなかった。なんだ、物理攻撃だったから? ありえるな。無敵なスキルなどないはずだし……」


副会長の考察は徐々におさまり、場には沈黙が訪れる。それを破ったのは、意外というか予想外というか、それとも場外? 言葉遊びでいうなら場違いか。


背後からのチョップにより、俺は前のめりになった。


「いつまで私に馬鹿な真似をさせる気ですかこの、ノロマスター」


ロザリーちゃんだ。

うん、ごめんよ俺が悪かった。


「君がロザリーちゃんか。初めまして、俺の名前は……まあいい。王人って呼んでくれ。さっきの泣き真似、迫真の演技だった」

「私は会長だ」

「王人さんに会長さん、ですね。恥ずかしいところを見せてしまいました。

いつもダメーーすいません。いつもマスターがお世話になっております」


礼儀正しいロザリーちゃんは、いつもは慇懃無礼な態度の2人にお辞儀した。


……副会長には近づけさせないよう気をつけないと。100パーセントないとはいえ、もしも惚れられでもしたらショックで死ねる。


「良い子だなぁ。忍にはもったいない」

「そんな事……お上手ですね王人さん。私のバカ——すいません。私のマスターは1度も私の事をお褒めになりません。可愛いの一言もないんですよ」

「それは……おい忍。まさかお前、ロリコンに加えてサディストもなのか」

「違うからな? いや、それに勘違いしているようだがロリコンでもないからな?」

「……はんっ」


鼻で笑われた。


会長を見るが、「趣味は人それぞれ」なんてほざきながら、分かっているとでもいいたげに首を縦に振っている。


なんにも分かってないよ?


俺が好きなタイプは、思いやりがあって、人の悪口を平気で言えない子で、そこまで胸が大きくないやつだ。だから偶々、高校生にもなるとその枠に収まらないだけであって……俺はロリコンじゃない。そいつが20歳だとしても、好みに当てはまれば好きになるさ。


……小野木ちゃんが女だったらなぁ。料理できて性格良くて、いっそ俺が女で良かったかもしれない。俺自信は男であるところにそこまで誇りはないし、むしろ、ウザったい。「男の子ってエッチなことしか考えてないよね〜」なんて言う高校生。


黙れよビッチ、と。


もっと物事を純粋な目で見ることはできないのかと。 お前らあれか、迷子の子に話しかけただけで「(さか)ってる」とか、子猫を拾っただけで通報するんじゃないだろうな。


もう怖い。性の知識を知った時点で女はダメと思う。中学1年生がギリギリ、か。その点ロザリーちゃんは……


「む、何ですか。ジロジロ見ないでください妊娠します」


うあぁ……この子、性の知識多分あるよ。でもロザリーちゃんは清純だからいい!


「全く……それじゃあ王人さん、会長さん。私と変態——すいません。私とマスターはこれで失礼します。

もしもマスターのダンジョンに来たその日は、出来る限りのおもてなしをさせていただきます。では」


そう言うと一足先に、ロザリーちゃんは帰っていった。俺もヘブンへ帰ろうとして、これだけは言わなければならない事に気づく。


「来ても茶ひとつ出さねえからな。絶対、絶対に来るんじゃねえよ」


ヘブンの男は、俺ひとりだけでいい。

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