不条理である。理不尽である。けれどとても……お前らしい。
◇◇◇◇◇
生徒会執行部チームVS風紀委員チーム
◇◇◇◇◇
ワーワーワーワー……ワーワーワーワーワーワー……なんだろうなぁ、これは。ギャラリー1人1人ならハッキリとした言葉が聞こえるのに、こうして数が多くなると意味をなさなくなり、ただの叫び声にしか聞こえない。
まあ、それでもいいんだろうけど。例えば好きな子がいたりして? 応援されているのに? 周りの声でかき消される。
もったい無い、もったい無いな……協力という素敵な言葉はあるが、有象無象や烏合の衆などというのも同時に存在する。やっぱりどんな事でも度が行き過ぎるのはダメだ。
……と、なんで俺がこんな事を言ってるのかというと、やっぱりさっきのひねくれボーイ戦は色々と考えるものがあったのだ。
勝つだけが全てじゃないと、俺はスポーツ漫画の主人公みたいな結論に至った。そう、楽しむのだ! このドッジボール大会を!
という事で
「頑張れ健太! 」
俺は外野からチームを信じる。信じるという考えも、スポーツ漫画には必要だ。多分。
「待て王人、誠が怖い! 誠がへぶしっ!?」
あーあ、よそ見するからだ。副風紀委員のボールを顔にくらってしまった。
「気安く俺の名を呼ぶな。俺の名を呼んでいいのは……」
そう言って副風紀委員は風紀委員長を期待の目で見る。風紀委員長はなんの事か分かっていないようだったが、それでも結果的に期待に応えた事をした。
「いいわよ誠。この調子でどんどんいきましょう!」
「はっ!」
愛しの風紀委員長に褒められてパアッと笑顔になる副風紀委員。だからか、こちらのチーム……忍がボールを投げた事に気付かず、そのまま風紀委員長を見続けたまま——バシンーーツとボールを打ち上げた。
副風紀委員の手には、鉤爪が装着されていた。ギラリと凶暴に光を反射する3本の爪を空に掲げ、重力に従い落ちてきたボールをそれで掴む。
「当てられると思ったのか? 言ったはずだぞ。完膚なきまでに叩きのめす、とな」
うー怖い怖い。
俺は、青白い光の粒子を漏れ出す鼻をおさえた健太に、ニヤリと笑いかける。
「信じてたのになぁ」
「いちちっ、よく言うぜ。やっこさん、お前の事睨みつけてるぞ」
「俺を?」
まさか、と思いつつ敵の方に向き直ると、副風紀委員はこちらを睨んでいた。健太ではなく、確かに俺だ。
「お前にも言っているのだぞ犬 王人!」
「俺も?」
「くっ、馬鹿にしおって。俺はお前にも言ったはずだぞ。むしろ、お前に言ったのだ!
それが何故外野にいるのだ!」
いや、平和主義者だし? ボールは友達だし? 俺はそれを蹴る、ましてや知り合いにぶつけるなんて!
理解不能だ。うん、お前ら怖い。
「……いいのか犬 王人。 後悔しても知らんぞ。俺は、口に出した言葉は確実に実行する男だ!」
スキルを直接、俺のチームに叩きつけるのは禁止。つまり忍が相手チームの地形を泥沼に変える事は出来ないということだ。即退場される。
……副風紀委員、長いな、いい加減。副風紀委員改めしゃかりきボーイはボールを自分のチームの外野へ投げる。あれ、まんまドッジボールだ。俺のチームがボールから距離を取らないところ以外は。
「あ、あんた達ねぇ……」
名前は知らない。風紀委員に属する背のちびっこい女が、全く動じない会長と霰を見て手握ってあるボールを震わせる。
忍はちゃんと離れているぞ。自陣の行動に呆れている。
「……ん? どうした、投げんのか?」
「会長、もしかすると、ボールが思いの外重たくて投げられないのかもしれません。しかしそれを馬鹿正直に言うのは自尊心が崩れ、今はどうすることも出来ない……と、私から言ってなんですが、やっぱりないですね」
「ふむ、ならばこういう事か。私たちに恐れをなした!」
「こ、こんのぉ〜……」
明らかに挑発している2人。女はまんまとそれに乗っかって、ボールを投げる。
「後悔しなさい!」
女から離れたボールは、ヒョロヒョロと会長へ向かう。後悔? と首を傾げた会長はボールを掴もうとして——スルリと掴み損ねてしまう。
「むっ」
今度は蹴りで取ろうとして、やはりスルリと蹴り損ねる。
「引っかかったわね! 私のスキルは摩擦を減らす力! 油断したのが運の尽きっ……って、あれ?」
勝利を確信して会長を見た女は、口をポカンと開けて呆ける。ボールは床に落ちることなく、霰の手から伸びた氷に囚われていた。摩擦がどうこう言っても、な。こうなってしまえば意味はない。
《セーフだよ〜》
美人さの間延びした声が聞こえた。
「すまんな霰、助かった」
「いえ、私が何をしなくても大丈夫な気がしましたけど」
「まあ、幾らか手はあったが」
「くぅー! 悔しい!」
足をジタバタ震わせる女が可哀想に思えてきた。会長は気にすることなく、何故か、霰の氷を掴むと煙を出しながら溶かし、ボールを取り出す。
スキルは【体温調節】
特殊な環境で生き残るために、未開の地に生きる魔物がほとんど修得している。自身の通常時の体温プラスマイナスを、スキルレベルに応じて変更できる。もちろんスキル所持者の体に害はない。
……会長は既に、未開の地へ入ったことがあるのかもしれない。
全く、危険だというのに。
「それじゃあ、私の番だな」
ボールは決して壊れない。何が起きようとも、何をされようとも。そしてボール自体にスキルをかけられないが、スキルを使ったことによってボールに生じた結果まではその通りだ。
会長の手からボールには熱が伝わり、煙を出す。100度以上はありそうだ。
「いくぞ……王人、ちゃんと掴むんだぞ!」
んな馬鹿な!
反論する暇もなく、会長は他にも【怪力】などを使って追い討ちをかけた。俺がこうやって分かっているのは、逐一異世界知識さんに聞いているおかげだ。
「誠!」
「はっ、弐倍速!」
阿吽の呼吸。風紀委員長から伸びた糸を素早い動きでしゃかりきボーイが掴むと、端に移動してピンっと張った。
これは安全だ。普通ならば、自分に当たるというリスクを極力まで下げた確実にボールを取れる方法。
しかし、会長の投げたボールはそんな事では止まらない。糸を焼き千切り、真っ直ぐに俺へと向かってくる。むしろ糸は、俺がボールを取りやすくしてくれる要因となった。
スピードが随分と下がってくれた為、俺も冷静な判断が可能となる!
「秘技、肉壁!」
「なっ! 王人おまギャァアーー!?」
近くにいた健太の体を崩し、すかさず俺の防御にする。ボールは健太の腹に直撃。その威力に俺も少し後ずさりした。
「うぼぼぼぼっ」
「耐えろ、耐えてくれ健太! ここで耐えてこそ主人公だ!」
「うぼぼぼボォーボォボ、ぜっだいにぼぼノロッデヤルルルル」
なんて言ってるのか分からないが、きっとこうだろう。
『お前を守れて、良かった』みたいな。
ここで健太は、腹を貫通して死んでしまったらしい。美人さんから強制退場された。
ボールが俺の目の前でポツポツ跳ねる。これは、俺の為に健太が残してくれたこのボール、俺も流石に……燃えてきた。
「気をつけてください委員長。 俺の後ろに下がって!」
「私の事は気にしないで。大丈夫よ誠。絶対に勝つ、そうでしょ?」
「……はっ!」
何だが俺には眩しすぎる絆や信頼といったものが目に飛びこんでくる。
……何か形あるものは、壊れるべきだよな。それが自然の摂理だ。
俺はボールをチラつかせて行動範囲めいいっぱい移動する。その度に警戒する風紀委員チームが愉快でたまらないが、潮時だと足を止めた。
すぐ近くには会長と霰がいる。味方にパスをしたければ1番安全なのがここだ。そして、会長と霰がいるという事は、ついでにあいつもいるというわけだ。
——俺が毎日ドリアードのしぼりたてジュースを飲む事によって強化される身体能力、それに刀術スキルの恩恵、異世界知識さんによって教えられた最適な力の使い方、ボールの投げ方。
俺が今使えるスキル全てを統合した一撃を、全力でお見舞いする。
「……っ、逃げろ杏!」
「え?」
外野にいる女、名前を杏というらしい。杏はまさか俺にボールをぶつけられるとは思わなかったのか、スキルを使えなかった。使う時間も与えずに、胸の部分を爆散させる。青白いエフェクトを撒き散らしながら、この子もまた美人さんに強制退場された。
……ふぅ、心が痛むぜ。だが
——俺は悪くない!
「犬 王人、貴様何をっ」
「別に、外野へボールを渡してはならないというルールはない、そうだろ美人さん?」
《セーフセ〜フ》
「だ、そうだ」
「そう……だが、そういう問題ではない! お前には、何かが欠けている! 」
おいおい、ひどい言いがかりだ。そんな事ないだろうと仲間を見渡すと、これまた冷たい視線を浴びる。霰以外。観客からも盛大なブーイング。
……今回のドッジボール大会さぁ、俺の好感度だだ下がりじゃないか。やってる事——殺ってる事は会長と変わらないはずなんだがなぁ。
——またまた俺の所へ転がってきたボール。次は一体、誰に投げればいいのか。……決まってるな。
「副風紀委員、次はお前だ」
「……ほぉ」
しゃかりきボーイの目が、怪しく光った。
「いいだろう。徹底的に負かすいいチャンスなのかもしれない。
お前とは1度、本気で戦いたかったんだ」
「奇遇だな、俺もだよ」
……え? いや、全くの嘘ですよもちろん。狙うはあいつ、隅でボソッといる男。まさか俺が馬鹿正直にしゃかりきボーイとやりあうわけがない。
——俺が毎日ドリアードのしぼりたてジュースを飲む事によって強化される身体能力、それに刀術スキルの恩恵、異世界知識さんによって教えられた最適な力の使い方、ボールの投げ方。
俺が今使えるスキル全てを統合した一撃を、全力でお見舞いする。
しゃかりきボーイなど目にもくれず、あの男へと飛び出したボール。かなりのスピードだったそれはしかし、まるで分かっていたかのように飛び出したしゃかりきボーイの鉤爪によって弾かれる。弾かれたボールは床に落ちず、そのまま俺が狙おうとした男が難なく取った。
「ふんっ……貴様の言葉など、とうに信じてなどおらん。所詮こんな事だろうと思ったぞ犬 王人。
さて、次は貴様がやられる番だ。完膚なきまでに叩きのめす。反則でなければ……ふっ、確かにこれが正しいのかもしれん」
え、俺?
まさかまさかと思いつつも、男からボールを受け取ったしゃかりきボーイは真っ直ぐ俺に向かってそれを投げた。
しかもボールには、明らかに硫酸っぽいジュンジュワー的な物がオマケとしてついてきた。
刀術スキルは近距離ならば!
その毒っぽい所は触れずに、しっかりとボールをキャッチ。ボールからポタポタたれるそれは、床を溶かしていた。
……触れなくて良かったぜ。
「何だよ今のは。お前の鉤爪から出てきたように見えたんだけど」
「ほお、目がいいな。俺のこれは、名をカワードバイオレンス。触れなくて良かったな。皮膚から侵入する細胞毒によって、今頃腕が壊死してたかもしれんぞ」
怖ぇ。なに細胞毒って。おっかねえよしゃかりきボーイ。
俺はこんなボール早々に離したくて、霰に任せようと内野に投げる。
……ここで油断した。
「——伍倍速」
そんな声が聞こえたかと思うと、しゃかりきボーイはすぐ目の前にまで現れる。そしてボールを取り、「——伍倍力」
嫌な予感がした。明らかにさっきまでとは違う威力のボールが、俺に向かって飛んでくるはず。
慌てて距離を取ろうと後ろへ行こうとし——よろけてしまう。理由なきミスではない。腕が、俺の両腕に違和感……動かないのだ。そのせいでバランスを崩し、よろけた。
「王人ーー!!」
チームの声が、した。悲鳴と怒声、どっちつかずのそれを耳にしながら、俺はそれを気にする暇もない。
手は使えない。そして、目の前にはボールが迫ってきている。更に俺は、空中でバランスを崩した状態。
ボール越しに副風紀委員長が見えた。奴の口元がニヤリと歪むのが見えた。
「……勝ち誇っているな?」
さっきの優に5倍の速さで飛んでくるボールを、冷静に見る。俺がこのまま対処しなければ、相当のダメージをくらうだろう。
……刀術スキルには、10もの技がある。一刀閃や九九孔雀、そしてその中には、刀を失った時を想定した技が1つだけ存在する。
——三日月!
簡単に説明すればサマーソルトキック。ボールを辛うじて空に打ち上げることに成功する。ボールは俺の側に落ちてきたが、それを気にする暇もない。
自分の手を確認すると、ビー玉サイズの白いウスバカゲロウのような虫が食らいついていた。
「気持ち悪っ!?」
潰さないよう遠心力で取り除くと、それはあの男……俺が狙った名も知らない男の方へ戻っていった。なるほどな。
「よく防いだな犬 王人。貴様の性根が腐っているとはいえ、その判断力は褒めてやる」
俺をピンチにしたしゃかりきボーイは、観客からの盛大な歓声を浴びなが言った。
お前ら、俺の時と反応違くね?
「さっきの虫、あいつか?」
「ああ、そうだ」
しゃかりきボーイが頷き、丁度虫野郎君がこちらへ近づいてきた。
「やあ、僕の愛すべき蟲はどうだった?」
「悪いな。俺は虫が大嫌いなんだよ」
「……そう。まあいいよ。
僕の蟲は怖がりなんだ。だから、知らない人に近づくと防衛手段の為に噛み付いてしまう。噛みつかれれば最後、毒が巡るよ」
ここで俺は、足を見る。ボールを蹴り上げた足を。そこからタイミング良く、先ほどと同じ虫が出てきて、男に戻るところだった。
俺は足に力が入らず、膝小僧を地に擦り付けたものの、なんとか這いつくばる事だけは耐えた。
「どうだい。足も噛まれたようだね?」
余裕そうに近づいてくるが、その余裕は決して油断ではない。勝利の確信……!
「……副風紀委員が出した毒は囮。そこを避けるように俺はボールを取ったが、全て作戦通り。その虫が居たってわけか」
「概ね正解だ犬 王人。無論、俺は毒のある場所を掴んだ。俺が出した毒だ。俺に効くわけがなかろう」
「あはっ、手も足も出ないとはこの事だね! おやおや、そこにまだいる僕の蟲が、わざわざボールをこちらへ届けに来てくれたようだよ。僕が命令しているわけでもないし、これはルール違反じゃない!
無様だね君。まあ、先輩方に迷惑をかけているようだし、当然の報いなのかな」
……参った。スキルを制限された状態とはいえ、これは完全に、俺の負けだ。ロクに体を動かせず、見えるのは虫野郎がボールを手にした場面。
「終わりだよ」
そう言って虫野郎は……終わった。氷を胸に貫かれ。残ったのは、ボールだけ。
「なっ……」
しゃかりきボーイが振り向くと、そこには霰が氷を生み出し、それを会長が蹴ろうとしている場面。
「は、反則ではないか!」
「いいえ違います。私は、自陣の中で氷を生み出しているだけです。そして会長が、偶々蹴りの練習をしているだけです。
直接貴方のチームにスキルを行使しているわけではありません。つまり、アリです!」
「そんな馬鹿なっ」
会長によって蹴られた氷を弾きながら、しゃかりきボーイは吠える。不本意ながら俺も同意見だよ。
「そんな事が成立されるのならば、これは既にドッジボールでもなんでもない!
おい審判! どうなんだ!」
《え、え〜……》
美人さんが、困ったように頬をかく。
《確かに相手チームには直接スキルを使ってないけど……》
「ならばこそ、アリですよ!」
《そ、そうなのかなぁ……うーん、ルールってなにぃ〜私もう分かんないよ》
「くっ、使えないヤツめ」
その呟きは誰にも聞こえないくらい小さかったが、近くにいた俺と、美人さんが自分の悪口を聞き逃さなかった。
《カッチーン。アリだよアリ! 》
明らかに審判には向いていない美人さんだが、これは助かった。
ルールとは破るもの。ここに今、それが実証される。
「委員長気をつけてください!」
氷ラッシュを、風紀委員長はその素早い足で避ける。しゃかりきボーイも弾く。周りの人間も防ごうとする。徐々に会長の攻撃が素早くなってきた。もう何でもありだ。
ドッジボール大会? なにそれ。
激しい戦いはさらに熱をあげる。
俺は動けずに観察。ココと忍と妹は、邪魔にならないよう、被害にあわないよう、コッソリと隅にいた。
「ど、どうしよう忍君」
「それは簡単な事」
「俺たちはここでジッとしていればいい。ああいうのには、関わらないのが最善だ」
忍の視線の先には、氷を5つも同時に生み出す霰。氷を5つも同時に蹴る会長がいた。
「関わらないほうが……いいんだ」
しみじみと語る忍の言葉は、とても説得力があった。
……1人、また1人。後手に回った風紀委員チームは、刻々とその数を減らしていく。ブーイングがくるかと思ったが、美人2人の舞いのような美しい攻撃は、むしろ男どもの士気をあげていた。
氷は溶けると水になる。床がびしょ濡れ。しゃかりきボーイも足をとられて、肩に負傷をおった。自分だけではなく風紀委員長のサポートまでしているから当然だろう。
「大丈夫、誠!?」
「ご心配なく、まだ……まだやれます」
敵チームの輝かしい友情。
一方こちらは……
「あと何発で殺れると思う?」
「そうですね……30ほど、でしょうか」
「よし、20で終わらせるぞ」
「いえ10で終わらせましょう」
「霰、お前……分かった。私が間違っていたな。お前がそこまで言うなら……むしろ、次で最後だ!」
なんかいい事いってる風に聞こえるが、俺にはどうも生徒会執行部チームが悪役にしか見えない。嘘だろ。生徒会執行部ってどんな漫画でも正義っぽいキャラじゃないのか。
「おっ、俺はぁ……口に出した言葉だけは、必ず実行を——」
しゃかりきボーイは、俺に手を向ける。
「するっ男だ!!」
爪が3つ、飛んできた。
かっこいいなぁしゃかりきボーイ。だが、俺も何もせずにしゃがみ込んでたわけじゃない!
左腕だけが、ほんの少し、僅かにだが動く。近くにあったボールを、移動させた。このボールはいかなる事があろうとも壊れない絶体防御!
——爪3本のうち、2本はボールの曲線によって軌道をそらし、残りの1本だけがど真ん中を直撃。俺は衝撃でボールごと後ろに引きずられるが、死にはしなかった。
「はぁ……はぁ……口に出した言葉は、必ず実行する男だと? はっ、それは俺たち、会長の事だろうが」
準備は終えたらしい。霰は同時に氷を5つ展開。会長もダメ押しとばかりに、【豪脚】に加えて【思考加速】も追加。
会長の目には見えていた。いや、頭の中で見えていた。その予測を実現するために、実行する。
まず1つ目、風紀委員長を狙ったそれは、近くにいたしゃかりきボーイが身を呈して防いだ。続いて2発目も、その身へ直撃。
しゃかりきボーイの身を案じた風紀委員長が油断をして、3発目を防ぎにれずに肩をかする。
4発目は最後の気力を振り絞って守ろうとしたしゃかりきボーイに当たり、守りきれずにそのまま貫通。風紀委員長にもダメージが響き、それが致命傷。最後のボールをくらい、2人は死亡した。
……ドッジボール大会でこんな事を言うのも変だが、「敵は全滅した!」だな。
◇◇◇◇◇
俺たち生徒会執行部チームは、風紀委員チームに負けた。 ん? となるが、まあ当然なのかもしれない。
……風紀委員が全滅したあと、俺たち……主に会長と霰が喜び合っていると、ここで冷静になった美人さんが一言。
《やっぱりこれ、ナシじゃない?》
誰からも異論はなかった。ギャラリーも、それに俺たちからも。やりすぎたという自覚くらいあるのだ。
この試合から学び、次からの試合は故意にスキルを相手チームに危害を加える事に使ったら、即退場。決勝戦の風紀委員チーム 対 ブラッドデッドはドッジボール大会らしいドッジボールとなった。
ちなみに優勝は風紀委員チーム。まあ、ブラッドデッドは1度も目に見えるスキルを使わず、それなのに風紀委員チームは残り人数2人 (誰かは分かるだろう)という異例の結果。風紀委員チームも、あまり価値を喜ぶシーンではなかった。
兎にも角にも、これでドッジボール大会は終了した。後に残るは、結果発表だけだ。
『それではハチャメチャ☆☆ドッジボール大会♡の、結果発表を行いたいと思います』
ホームの中心地点にある噴水の上空に映し出されたBG3が言った。隣には美人さんが、まるで姉妹のように居座っている。どちからといえば親子なのだろうが。
『まずは優勝チームから、ポイント獲得の決定された6位までを発表です』
美女はそう言って結果を淀みなく発表していく。1位と2位は別として、その下はどうやって詳しく決めたかというと、試合終了時点の残機で決めたらしい。もちろん公平に。チームの元の人数が多ければ多いほど有利、なんてことはない。
俺たちは3位に入れた。つまり、みんなに1万ポイントが入ったということだ。意外にも1番喜んでいたのは忍。どうやら、使い道がちゃんとあるらしい。
——続いての結果発表が行われる。
『MVP賞。最優秀の活躍をこなしたものにだけ与えられる称号ですが、これは皆様とても優秀で甲乙つけがたい。
しかし、最も敵を外野送りにした選手であると同時に、仲間を守った回数が2桁を軽々と超えた、柊 誠さんに決定させていただきました。誠さんには5万ポイントが贈呈されます』
へえ、しゃかりきボーイか。俺個人としては面白くない結果だが、まあ妥当なのかな。本人は風紀委員長に褒められ、感極まっていた。
『ねちっこ賞。最優先に外野の復帰を促し成功した選手の称号ですが、これはサッカーチームの英雄選手がぶっちぎりの功績を納めました。英雄選手には、1万ポイントが贈呈されます』
うおっと、これはサッカー部主将じゃありませんか。サッカーチームは4位。どんな試合をしていたのかは、妹に聞いた。
まず、英雄が外野にボールを渡す。外野は敵チームにボールを当てる事に成功し、復帰する。しかし、誰もが英雄にボールを貰いたいと、わざとぶつかる。そして英雄は必ず外野にしか渡さないので、以下延々と繰り返し。
ほとんど、やらせだ。
英雄としては、仲間を助けたいという一心で行動しているので、反則じゃない。
『続いては嫌われ賞。最も敵の顔にボールをぶつけた称号ですが、これは大神 龍騎さんが10回以上もの数を記録しました。大神龍騎さんには、1万ポイントが贈呈されます』
大神 龍騎……なんと、1人で試合を出た人間。ただの1度もスキルを使わなかったが、ただの1度も顔以外には当てようとしなかった人間。
学校では、所謂不良のレッテルを貼られている人間。
『ナルがクルガな賞。最も華麗にボールを避けた者に与えられる称号。これは残念ながら、該当者がいませんでした』
『そうそう! みんな頑張ってよね。甘口コメントでも〈ドスでランなポス〉が関の山だったよ!
次こそはって、応援してるから、ね?』
ウォォーー
と男共が騒ぐ。中には女も、頰を上気させ、ウットリとした目で美人さんを見ている人間もいる。ああ、怪しい宗教でも作りそうだ。
『次に、ユニークな試合を見せてくれた者を表彰しようと思います。
最初はベスト殺戮賞、個人部門。合計10人も強制退場させた生徒会執行部チームの生徒会長さんには、4万ポイントが贈呈されます。
類似でベスト殺戮賞、チーム部門。勝ちイコール殺すという結果を作り上げたブラッドデッドチームには、1人2万ポイントが贈呈されます』
あまり、反応がよろしいとは言えなかった。殺戮賞だからな、みんな苦笑い。褒めていいのか笑いとばせばいいのか。
健太だけは会長を褒めていた。
次にベストはちゃめちゃ賞を生徒会執行部が受賞して、それぞれが1000ポイント。
その他いくつもの賞が発表される。
ツンデレだったで賞。
絶対防御賞。
してやったり賞。
『最後に、ベスト盛り上がり賞として、風紀委員チームとブラッドデッドチームには、1人2万ポイントが贈呈されます。
——これにて、ハチャメチャ☆☆ドッジボール大会は終了とさせていただきます。皆様たくさんのご利用、本当にありがとうございます』
『うんうん、でもね、ダンジョンの方も忘れてあげないでよね。これはあくまで、ダンジョンポイントを増やすための救済処置なんだから、みんな張り切ってダンジョンマスターを目指そうよ!』
グッと拳を胸の前で握る美人さんに、誰かが声をかける。
「ってか、ダンジョンマスターってなに? ダンジョンの主とはまた違うわけ」
『オーウノー、全然違うよ。私の中でマスターとは、とある集団の中で最も優れた人の事。それを踏まえて言うなら、君たちはまだダンジョンの主。
いっぱいるから、マスターとは呼べないね』
ここで聡いものは、気づいた。いっぱいる? ならばダンジョンマスターとは。
「ダンジョンマスターなって何かいいことあんのー?」
『モッチモッチのロン! ダンジョンマスターになると、私が何でも1つだけ、願い事を叶えてあげるよ』
「うっわ、マジ!?」「スゲー!」「なんかテンション上がってきたぽくね!?」
『うんうん、君たち学生がダンジョンマスターになる為には、他の学生のダンジョンの主が1人でもいる限りなれないんだけど、応援してるよ』
美人さんは、オブラートで包みあげた爆弾を最後に投入してくれた。周りを見渡すと、それなりにテンションの高い者はいたが、そのほとんどは驚愕をあらわにしていた。
……俺がもしも、後々戦争の始まりはいつだったかと聞かれれば、間違いなくこの日を指す。小さな火種は、確かに爆弾へ着火されようとしていた。




