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異世界ダンジョンウォーズ  作者: watausagi
どうしようもなくエンペラー
33/85

白王 帝のあの時の

よし、次話から本編進めよう。


◆前書き◆

◇◇◇◇◇


初めて王人と出会った時


◇◇◇◇◇


狐人族。それも炎を見事に扱える狐人族のルナール。旅の目的は姉を見つける事。理由は聞いてないが、別に興味がない。


そんなルナールは今、蜂のような魔物 (ただし1分の100スケール)を焼き尽くしていた。


蜂が炎に抗う術もなく、全ては地に落ち死に絶える。



「お疲れさん」

「ふー……そう思うなら、少しは手伝ってくれてもいいじゃないかしら」

「1度、お前がどれだけ戦えるか見てみたくてな。今までは全て俺が対処してきただろう」

「ああ、貴方みたいな規格外に見られるなんて恥ずかしい恥ずかしい」


規格外……確かに、身体能力は規格外だと自分も思う。魔法も……この世界の平均が分からないが、ルナールよりは上手く扱える自身がある。流石に本人の目の前では使わないでおこう。


「——で、ロードの中継地点としてクロイヌという町に着くと思ってたんだが……まだなのか?」

「私も初めてだから何とも言えないけど、あと10キロってとこかしら。

あ、魔石取ってくるわ」

「頼んだ」


10キロ。遠からず近からず、だな。何のトラブルも無ければ今日のうちに着けるが、そんなのは望まないし、世界は俺に優しかった。


「ハク!」


魔石を取っていたはずのルナールが、半ば叫び声に近く俺の名を呼ぶ。

俺がそちらを向く頃にはもう、ルナールは隣まで戻ってきた。


「グリズリーマグナムよ!」

「ほお、運がいいな」


グリズリーマグナム。

クロイヌの町まで行く途中に丁度良かったので、受付嬢に呆れと哀れな目で見られながらも依頼を受けた甲斐があったというものだ。


何せ俺はまだ周りからすれば新人。ピーピーのひよこだ。

早く手柄を立てて、そうだな、冒険者という中で1番になるのも悪くない。道場破りみたいに強者が戦いを望んできたり、夢が広がる。


「なにボーッとしてるの。今までのような雑魚とは違うわよ。

グリズリーマグナム。あの腕の一撃をもらったら、貴方でもたたじゃ済まないかも」


脅す口調で俺に話しかけるルナールが、前方を見てピクリと身体を強張らせた。


俺もそちらを見る。やがて、のっそのっそと視界に入ってきたのは、異世界で初めての敵である熊の魔物よりも数段大きい、腕が妙に膨らんだグリズリーマグナム。確かに、普通なら体なんて一瞬で引き千切れそうな威力があるだろう。


なおさら、面白いじゃないか。


「俺が殺る。後ろにいてくれ」

「……分かったわ」


俺はまず、腹部を両断している線、仮に攻撃線と名ずけたそれを、爪でなぞって紅蓮の鎧に変える。

これは、自身の身体能力をさらに底上げする鎧だ。全体的にトゲトゲゴツゴツしている。思い浮かぶはロブスター。


「グルルゥ……」


臆する事なく近づく。そんな俺にグリズリーマグナムは警戒しているのか、迂闊に飛び込んできたりはしない。


賢いと判断しながら、ならばと至近距離まで近づく。ついに、俺とグリズリーマグナムは2メートルもない距離で睨み合った。


「グゥゥッ」

「ほら、来いよ」

「……ゥガアアッッ!」


明らかに大瓶よりはデカイその腕が、俺を潰そうと挟み撃ちに迫ってくる。

とりあえずしゃがむと、上で花火が鳴る音がした。そして休む暇なく、グリズリーマグナムはみっしりと握り合った両手で、今度は俺をミンチにしようと叩き潰してきた。


……もういい。


大したことはないと判断して、左手でそれを受け止める。


「ガァッ!?」


大きすぎる手なので握れない。しょうがないので鉄よりも固いその手を、俺の鎧の爪が食い込む。

これでいいと、まずは後方へ叩きつける。巨大な熊が空を浮かぶ様子は、見ててとても滑稽だった。

まだ元気そうなグリズリーマグナムを、さらに前方へ投げ飛ばした。痛覚を4倍にしておいたので、さっきよりも叫び声が酷い気がする。


「ルラッ……ァガッ! ラッ!」


悶えるグリズリーマグナムは、見ててとても哀れだった。

ギルドでは恐ろしい恐ろしいと言われた魔物だったから、余計悲しくなってくる。この魔物を中堅がパーティでやっとのレベルな事に、幻滅してもいいだろう。


「アグッ……グゥ……」


やっと落ち着いてきたグリズリーマグナムは、俺を親の仇のように睨む。充血した目がギラギラと俺に殺気をぶつけて……しかし次の瞬間グリズリーマグナムは、メタルなスライムも真っ青の逃げ足ぶりを見せた。

クラウチングスタートで、俺とは真逆に走り去る。


なるほど、奴は今までこうして生き残ってきたのだろう。しかし、それも今日でおしまいだ。


「これでいいか」


手元にあった拳程度の石を拾い、サイドスローで飛ばした。


石は吸い込まれるようにグリズリーマグナムの後頭部へ——当たり、頭を吹き飛ばす。体だけがそのまま走っていたが、それも徐々にスピードを落としていき……ズシンと、呆気なく地に伏せた。


俺は変形線を爪でなぞり、デフォルトの漆黒鎧に戻りながら、ルナールのところへ戻る。彼女は俺ではなく死体のグリズリーマグナムを同情の目で見ていた。


「アレも、貴方みたいなのを敵にして、運が悪いったらないわね。

魔法の効きにくい体してるから厄介なのに、まさかそのまま力比べなんて……呆れる」

「奴も今まで幾度となく命を奪ってきたんだ。自分もいつかそうなる事くらい、覚悟の上だろう」

「……貴方もそうなの?」

「無論、死ぬつもりはないが、死ぬ覚悟も持っている」

「ふーん、貴方が強い訳ね」


……世の中には、俺より強い奴など少しはいるだろう。そんな奴らと対峙した時、俺だって死ぬかもしれない。

何かを殺すという事は、何かに殺されるかもしれないという事だと、俺は思う。


「あ、魔石魔石。毛皮はあれね、貴方のポケットにでも入れましょう」

「そういえばそうだっな」


魔石を集めるのは、どうも慣れていない。そんな生き物が今までいなかったものだから、仕方ないといえば仕方ない……が。


「この調子じゃあ、今日中にってのは無理な話だったか……」


俺はテントをダンジョンポイントで出したあの時の自分を褒めながら、今日の夜食は何をするか悩んだ。


——残り2キロでも3キロでも、真夜中に態々進む事はない。俺は夜になると、さっさとテントを取り出して中に入る。ルナールも目をキラキラさせながら後からついてくる。


「わぁー……何度見てもすごい」


確かに。俺は頷いた。

ここがテントの中だとは信じられない。普通に家だ。家の中だ。不自由なく過ごせるこれがあるので、わざわざ宿に入る必要もない。


「先に風呂でも入ってこい。俺は夜食の準備をする」

「お言葉に甘えるわ」


嬉しいらしく、狐耳をピクピク震わせる。彼女も今まで普通に旅を……つまり風呂もない、食事も携帯食料、寝床でさえ木の上など、とても不自由だったのだ。

俺もこのテントには感動しているが、彼女の感動は俺より遥かに超えるだろう。


……さて、じゃあ取り掛かるか。


コップ2つ。片方には俺の麦茶。片方にはルナールのメロンソーダ。

そしてレンジでチン、今日の夜食は親子丼にしよう。


「親子丼2つ」


チンと音が鳴って開けると、ホカホカの親子丼があった。食べ終われば皿を地面にでも投げて壊すと、皿は自動的に消えてくれるので後処理も便利な事この上ない。


『コ〜ン、コンコン。コ〜ン、コンコン』


水の流れる音と共に、ルナールの鼻歌が聞こえてくる。耳が良いというのも考えものだな。彼女に悪いし、出来るだけ意識をしないように気をつけよう。

入浴時の女性の声を聞いてるなんて、家族にバレたら幻滅されそうで怖い。


……俺が無心になっていると、いつの間にかルナールは風呂から上がり、火照った体を尻尾でパタパタと煽っていた。


いつもはローブ姿を徹底しているので分かりにくいが、かなり大きな尻尾だ。今の彼女は寝間着姿なので、普段より体が小さく見える。


「待たせちゃったかしら」

「早い方だと思うぞ。

さあ、今日のは鶏肉を煮て卵汁でとじた料理だ。玉ねぎと長ねぎも入ってるが……まあ、大丈夫だろう」

「よく分からないけど、今日も美味しそうね! 親子丼、凄い名前だけど良いわ!」


相変わらず、料理になると興奮するルナール。「いただきます」と言って、がっつかない程度に勢いよく食べ始めた。


「いただきます」


俺もルナールを見ているとお腹が減ってきたので、木製のスプーンを手に取り、食べる。


……肉はしっかりとした多少固め、鶏肉自体に滋味があるな。柔らかいだけじゃダメなのだ。肉質も固くしっかりとした噛みごたえのある旨みのあるもの、これがいい。

味付けは濃くないが、鶏肉と卵のうまみを最大限に出す演出をしているレンジでチン。


ご飯も食べてみると、凛とした味だ。


あっという間に食べ終わった。まだお腹は空いてるが、まあいいだろう。


「ふうー……ごちそうさまです」


ルナールも食べ終わっていた。幸せそうな顔は、見てるだけで微笑ましい。

料理のお金は一括払いで貰ってある。使い道が思い当たらないし、本当はいらないんだけどな……そこは向こうが譲らなかった。


互いに腹が膨れると機嫌もよくなる。雰囲気も然り。この時間帯は自然と会話が弾み、ルナールは姉のことを話し始めた。


「そんなにルナールの姉は凄いのか」

「それはもう、私の姉さんはアホでおバカなところがある真っ赤なもの好きだけど、その腕だかは確かよ。

姉さんに溶かせないものは無いと断言出来るわ。私も、あの人の背中しかまだ見えていない……」

「……で、その姉さんとやらは何故、村を出たりしたのだ?」


チリーーッ

と、火の粉がルナールから溢れ出す。


「燃やすなよ」

「っ……ご、ごめんなさい。

えっと、そうね……姉さんはさっきも言った通りアホでおバカなの。

姉さん、というか私もそれなりの家系でね、年頃の姉さんは政略結婚……は大袈裟か。要は決められた男と契りを結ばされそうになったの。

そしたら姉さん、次の日には置き手紙を残して村を出て行ったわ」


母上に初めて絶望しました。バーカバーカ。こんな村、いや国からも出て行きます。

探さないでください。


「それはまた……行動力のある」

「アホなんです。おかげで、おかげで私が代わりに契りを結ばされそうに!

解決方法はただひとつ。私が姉さんを連れて帰る事」

「……ま、頑張れよ」


いっそこのまま、村に帰らなければいいのに、なんてもちろん言わない。


「ハクこそ、どこかの貴族だったりするの? こんな道具、聞いたことも無いわ」


ルナールは周りを見渡す。確かに、こんな道具は他と無いだろう。


「俺はただの旅人だ」

「ただの旅人はそんな格好をしないわ。その鎧も、色々とおかしいし」

「火傷してると言っただろう?」

「……言いたくないのなら、言わなくていいのよ。まだ私を、信用してるわけじゃないんでしょう?」

「それだ。そこなんだよルナール。

俺は仮にも男だ。お前、俺と同棲している事になってるがそれはいいのか?

まさかもう、俺を信用してるなんて言うんじゃないだろうな」

「それは……貴方が私を襲うかもって事? それならしょうがないと、諦めるしかないわね。抵抗しても無駄でしょうし」


襲いはしない。そんな事をすれば家族に会わせる顔がない。

しかし、強制的に契りを結ばされるのが嫌で姉を探しに村を出た女性が、あまりにも不用心だと思う。


俺の表情を見て言いたい事を察したのか、ルナールはジッと俺を見据えて、コホンッと咳払いをした後、言った。


「貴方、鏡を見た事はあるかしら」

「……あるぞ」

「自分の容姿に理解は?」

「……まあ、している。流石にあれだけ騒がれてはな、気づかないほうがおかしいだろうよ。個人的に言わせてもらえば上辺は上辺。それまでにしかならないんだがな。

で、それが何か関係あるのか? まさかルナールが見た目だけを気にする人間じゃあるまい」

「そう、ね。私だって女だから自分の隣に立つ男には多少見た目も気にして欲しいけど、何より中身が大事だと思ってるわ。

けれどそんな私でも、まあいいかもしれない、って思わせるほど凶悪なのも理解してほしいわね」

「仮面で半分は隠れてるんだがな」

「それが逆にいいかも。それを取ってしまえば、それこそ色々とダメな気がするわ。

——でも安心して。もしも襲うならその時は、私も本気で抵抗するから」


何を安心すればいいのか。

まあ、確かにホッとした。緋子にも言ったことはあるが (その時は死ねと言われた)、容姿だけで選ぶ人間を信用できなくなってしまった。なんだか薄っぺらい気がして、それより俺に興味を抱いていない者、敵意がある者の方がよっぽど俺を見ていてくれる気がする。


……緋子で思い出したが、そういえば。既に2人も死んだらしい。チャットでは両方小指をぶつけた理論と階段から落ちた理論で派閥が出来ているとかなんとか。


果たして事故なのかそうでないのか。もしも事故でないとしたら、殺されたのだとしたら生徒の中で、1人だけだが心当たりのある人間がいる。


生徒会に入っており、何かと有名な人間。へたすれば生徒会長よりも知名度はある。嘘か誠か、真偽の怪しい噂も。


……まあ、それを知っているのは俺だけではないし、まさか副会長を自分のダンジョンに引き入れようとする人間はいないだろう。やはり、関係ないか。疑ってかかるのはよくないし、例えそうだったとしても理由があるはず。あの人は、そういう人間だ。

殺人は良くないことだと、一概に否定するつもりもない。既に俺も、賊なら何人か仕留めているしな。


「ん、そろそろ寝るか」

「お休みなさいハク。今日も色々と助かったわ。ありがとう」

「気にするな」


……ちなみに俺は、まだ自分の種族を明かせないでいた。


◇◇◇◇◇


噂をすればなんとやら。


次の日俺たちは、クロイヌに着く。そこで現地の料理を楽しむルナール。確かに、レンジでチンから屋台の商品を取り出しても興ざめだからな。雰囲気も料理には大切だ。


既に食い道楽といったイメージが俺の中で出来つつあるルナールをおいて、俺は先にギルドへ入った。そしていた。あの人が。


「むっ……」


向こうも俺に気づき、こちらへ見る。敵意がないことを示しながら俺は、その人へ近づいた。


「あー……久しぶり?」


久しぶり?

俺は首をかしげる。


「久しぶり、ではないような気もする。少なくとも俺は、先輩……貴方と直接な関係はないのだからな」

「あれ、なのに俺の事知ってるのか」

「生徒会副会長、犬 王人。貴方の噂は、良くも悪くも耳に入る」


そう、なんと副会長……王人先輩がいた。こんな偶然があっていいのか。

まさか、異世界で初めて会う人間が王人先輩など思いもしなかった。


一応敵意は向こうにないようだが……俺を見ての感想が薄いな。もしかすると、既に同じ学生には会ったことがあるのかもしれない。


「じゃあ、初めまして、かな?」

「そうなるだろうな、王人先輩。

……王人先輩とお呼びしても?」

「あ、ああ全然構わないが……悪い、そっちの名前を思い出せないんだ」

「むっ……名乗るのが遅れた。

俺の名前は白王 帝。親しい者はハクと呼ぶ。王人先輩は親しい間柄とは言えないが、遠慮なくハクと言ってくれ」


——そうして、俺はこの日出会った,

高校では『王様』と呼ばれた存在、犬 王人に。

因みに俺は、『皇帝』と呼ばれていた。名前を縦にするとそうなるし、他にもまあ理由はある。



王人先輩は王様と呼ばれるのを嫌がっていると聞いている。俺も皇帝などアホらしいから嫌がる。


……何だか、仲良くなれそうな気がした。自然と俺たちは、握手を交わしていた。


「ところでさハク君、あっ、ハク君って呼ぶな。ハク君は何でその……仮面、をつけてたりするのかな?

あれか、火傷してますみたいな?」


やはり、仮面は普通じゃないか。いっそ全身鎧の方が普通なのかもしれない。


「一応そういう設定です」

「えっと、じゃあ実際には?」

「火傷はしてませんよ。ただ、事情というものがありまして。

こんな世界に来てから、少々自分の顔……というか目に異常が出来たから、しょうがなくです」


片方が赤目。それは魔人の証拠。異世界に来て日の浅い王人先輩が知っているかどうかはともかく、俺は一応仮面の内側を誰にも見せないつもりでいる。


「そういえば、ハク君は何でこんなところにいるんだ?

まさか、冒険者になったのか?」

「俺はダン……例のあれから必要な道具を取り出してすぐに外へ出ましたから。どうも束縛されてるみたいで合わなくて、俺は適当にこの世界を探索するつもりです。

——そろそろ換金したいんですが、いいでしょうか?」

「ああ悪い」


俺の分、グリズリーマグナムの魔石を金に換えたい。魔導列車とやらに乗る為に必要だったとは迂闊だった。足りないことはないがこれからの為、一応金は持っていた方がいいと判断した。


…….王人先輩は、素直に横へずれる。そこには全身真っ赤な姿をしている(恐らく)女性がいた。

まさか、な。

考え過ぎだろうと思い、魔石とギルドカードを取り出す。それを見て目の前の受付嬢が声を上げた。


「嘘っ、これって……!」


ハッとした受付嬢は、口を抑える。確かこういうのマナー違反だったかな。無闇に情報をひけらかすのは。

受付嬢、今度は声を潜めて喋り出した。


「貴方、まだギルドカードが緑なのに、どうしてこんな魔石を」


緑……はぁ、緑。

早く変わらないかな。一応、最前線と呼ばれるゼルガノドで底上げするつもりだ。


「おかしな話だ。別に、ギルドカードの色イコール強さというわけでもあるまい。引退した騎士団長とらやがギルドに入っても、そいつだって緑なのだからな」

「でもっ、貴方はまだそんなに若いじゃない」

「これはまた異な事。歳と強さが必ずしも比例はしないだろう。

詮索は無用だ。早く換金してくれ」

「……分かったわ」


渋々といった感じで、受付嬢は手続きを済ませようとする。ここにもグリズリーマグナムの依頼はあったらしいな。俺の功績が、ギルドが保有する魔導具とやらでギルドカードへと蓄積される。


ようやく終わりそうだ——と思っていたら、2階から嫌な感情を感じた。見ると図体のでかい、白髪の老人が嫌な目つきで現れ、舐めるように周りを見渡す。


受付嬢。緑のギルドカード。魔石。そして次に、俺。


「チッ……何だなんだぁ、いつからギルドはこんな腑抜けになっちまったんだぁ?

おいフィーナ!」


フィーナと呼ばれた受付嬢は、嫌々という顔をしながら、手に持ってた魔石をカウンターに置く。力が入りすぎて、大きな音がした。

別にいいが、ちゃんと適正価格で換金してくれるんだろうな?


「なんの事でしょう、ギルドマスター」


ギルドマスターっていうからには、1番ギルドで偉いんだろう。

……聞いていたのと違う。

幼女でもないじゃないか。


「すっとぼけんじゃねえよフィーナ。その魔石、グリズリーマグナムだろ。あいつには俺でさえ手こずるんだ」 そして、俺を見て鼻で笑う。「そんな若造が討伐できる筈がねえ」

「本人は討伐したと言ってます」

「だから腑抜けだって言ってんだよ。

討伐した本人以外が魔石を売るのはいいが、功績を奪うのは禁止事項。さっさとそんな嘘つき野郎ギルドから放り出しとけ」


おいおい、このギルドマスター言いがかりもいいところだ。この世界には5歳の子供でも大の大人に腕相撲で勝てる人がいたりするというのに。


「証拠がありませんギルドマスター」

「証拠もなにも、そんなヒョロッヒョロした奴が倒せるかってんだ」

「身体能力系のスキルを取っている可能性があります」

「グダクダうるせえぞ!」


フィーナが舌打ちしをする。俺も、頭のゆるいギルドマスターにびっくりだ。正論をうるせえと一蹴、ただの反抗期か。

早く終わらないかなと、この茶番に思わず欠伸。俺の現状を理解してもらおうと、ギルドマスターに見せつけるようにした。


「そんな奴がスキル持ってるわけねえだろう! いいから俺の言うこと聞きやがれ!

そこの……そこ……の」


おや? ギルドマスターが怒鳴るのをやめて、口がピクピクしだした。

俺が飽き飽きしている事に気付いたんじゃないのか? なら、どうしてボーッしているんだ。


「ん? 終わったか?

なら早く金をくれ。ギルドカードの手続きもあるだろう。早く済ませてくれるとこちらも助かるんだが」

「……て、てんめぇ俺の話を聞いてやがったのか?」


それはもちろん。


「さっきの幼稚なガキがする話の事を言っているのか?

それならば結構面白かったと言っておこう。思わず欠伸をするくらい、な」

「こんのぉガキ……!」


訳がわからない!

面白いとお世辞まで言ってやったのに、あろう事かギルドマスターが俺に殴りかかろうとした。これは俺も正当防衛が成り立つな。しかし……王人先輩がしっかりと見ている。


——スキルは使えない。


これから敵になるのかもしれない王人先輩に能力の一端でも見せる訳にはいかず、俺は純粋な身体能力で迫り来るパンチを片手で掴んだ。


「なっ……」

「弱いな。弱い……ギルドマスターとは名ばかりか。確か緋子は、ギルドマスターは大体あり得ないくらい強いから気をつけろと言ってたが……ふむ、意外とあてにならないなあいつも」

「こんの舐めやがって!」


ギルドマスターは蹴りを繰り出す。それは俺の横腹へ綺麗に入ろうとして、実際ギルドマスターも勝利を確信したのだろう。


だが、そうはいかない。


俺はギルドマスターの手を放し、軽くジャンプして体を上下逆さまにすると、足を土台にして手を置き、ギルドマスターの顔めがけて連続で蹴りをお見舞いしてやった。


まだグリズリーマグナムの方が手応えがある。ギルドマスターは呆気なく壁まで吹っ飛んだ。


「ぐぁぁっ!?」




「さてギルドマスター、俺が不正をしてないのはこれで分かっただろう。

何か文句はあるか?」

「ぎ、ぎさまぁ!」


おや、鼻の骨が折れている。口も切れてるな。言葉にならない声を喚き散らしながら、血とヨダレを飛ばしている。ギルドも掃除が大変そうだ。


「俺にでをだじて、ただでずむと思っでんのか!? 」

「ふむ、冒険者を止めさせるつもりか?」

「よぐ分かっでるじゃねえか」

「……それは参ったな」


どうする……いや、いいか。この国は実力主義だという。なら何故こんな男がギルドマスターなのかは知らないが、こいつ以上の実力者に力の一端でも見せれば、冒険者など楽に続けられるはず。


——こいつ、いらない子じゃないか。


どうしようか迷っていたら、フィーナという者が存外優秀だった。


「無理ですよギルドマスター。いえ違いますね。たった今、貴方はギルドマスターではありません」

「な、何を言っでる!?」

「貴方も……いや、アンタも分かってるでしょう。何の理由もなく人に暴行を加えるなんて、ギルドマスター以前の問題よ。

ああ、逃れようとしたってそうはいかないわ。今度こそ、ちゃーんと録っておいたから」


そう言って、フィーナは真四角の水晶のような物をちらつかせる。きっとあれで、映像か音声かを残しておけるんだろう。

ギルドマスターの顔が真っ青になった。


「これを本部に提出すれば、アンタは終わりよ。今まで散々お世話になったわね」

「……さぜるか」


グッと、ギルドマスターの手に力が入る。


まだやるか、そう思っていたがこのギルドマスター、最後にいい働きぶりだったと言っておこう。


王人先輩に力を使わせたのだ。


……あれはスライムだな。そうか、王人先輩も俺に全部見せるつもりでもないらしい。

隠し隠されつつ、面白い関係だな。俺と王人先輩は。


「んなもん、提出させなきゃいいんだ。

寄越せ。それを寄越せフィーむぐっ!?」


今すぐにでも突撃しそうだったギルドマスターに、スライムの伸ばされた腕が顔にひっつく。引っ掻いたりしてもがいているが、全然通用していない。


はて、スライムはあんな事も出来たのか? いや、あれこそ王人先輩の力の一部。魔物を使役、または召喚なのか。使役だとしたら育てる能力もあるらしい。召喚だとしたら既存の魔物とは別種の個体か……まだなんとも言えない。


——ギルドマスターにどんどん触手が顔を覆い、呼吸がおぼつかなくなったギルドマスターは、ブクブクと気絶した。


哀れかな。


まるでゴミのように床へ転がされる。


「貴方達……」


フィーナが俺と王人先輩を交互に見ながら、本当にごめんなさいね、みたいな表情をしたのだった。


——お詫びとか何とかで、俺は別室へ連れて行かれた。俺は面倒くさくて嫌だったが、フィーナが王人先輩も来るというので、仕方なくだ。王人先輩とは、これから仲良くしていきたい。……つまり、色々な理由で敵にはしたくないから。


ギルドから申し訳程度の謝罪金を貰ったのは、まあ嬉しかった。


「御免なさいね、迷惑だったでしょ?」

「ああ」「全くだ」「ねむねむ……」


ギルドマスターの理不尽な対応は、流石の俺も迷惑だった。しかしフィーナとやら、ギルドマスターが全て悪いというのに自ら誠意ある謝罪とは、例え仕事だとしてもその行為、俺には真似出来ない。


「アイツはさ、普段から問題ばかり起こしてたのよ。問題といっても小さい事だけど、数がね。金で成り上がった物だから、全てのギルドマスターがああじゃないの。

アイツだけが悪くて……だから今回は助かったわ。きっと、私以外の職員も冒険者も、今回の事は貴方達に感謝していると思う」

「興味無いな」「ラピス、昼寝は大丈夫か?」「ねむねむぅ」


きっとフィーナは、俺たちが気にしていると思ってここまで謝っているのだな。

ならば良し。

俺は彼女に気を使わせないよう、そっけない言葉を言った。

伝わればいいのだが、そう心配していると王人先輩に話しかけられる。


「ハクはやっぱり相当強かったな。それに、根性もある。

欠伸は思わず笑ってしまったぞ」


……これは、褒めてると見せかけて貶すという高等テクニック?


「……生意気だったでしょうか? どうも俺は無意識で人をイラつかせるらしく、友人からは気をつけるよう言われてるんですが……難しいですね」

「いや、無理に直そうとしなくてもいいだろう。ハク君の言動にイラつく奴は、きっとさっきのギルドマスターみたいな奴だ。

悪いのは向こうでこっちじゃない」

「そう言ってもらえると気が楽になります」


何だ、やはり王人先輩は悪い人ではない。俺にとっては、という前提が必要だが。


……王人先輩がフィーナを訝しげに見た。なるほど、これ以上ここにいても迷惑をかけるということか。


「フィーナ、俺たちはもう帰ってもいいよな?」

「あ、そうね……今回の事は本当に御免なさい。今度のギルドマスターはマシなのが送られる事を、私達も祈ってるわ」


あんなギルドマスターのしたで働いてたんだ。きっと、苦労したんだろう。

今度はまともな人間が就くことを祈ってギルドを出る。今日はなんだが、久しぶりに前へと進んだ実感が湧いた。王人先輩には感謝だ。


——俺はルナールを探すため王人先輩と別れたが、また会えるような気がする。何の理由もなく、そう確信した。


〜〜〜〜〜


「何やってるんだお前は」


休憩所みたいな場所のベンチの上にいた。それも、倒れるようにして仰向けになったルナールを。


「う、食べ、ずきたぁ……」


お腹をおさえながら、息も絶え絶えといった感じにかすれた呼吸。

おバカでアホというのは、姉に限った事ではない。どうやら遺伝だったらしいと、今ここで確実に判明した。


「ほら、行くぞ」

「むりぃ、動けないよぉ。おんぶおんぶ」

「……俺にはまだお前のキャラが良く分からん」


せめて口調を統一してくれれば。

水一滴すら飲めそうにないルナールを見て、そう思った。


「しょうがないな」


ルナールが望んだ事だ。俺は、言われた通りにおんぶをする。


「うっ、お腹が、お腹がぁ!」

「それはすまない。ああ念のため言っておくが、俺の服にオボロオボロはしないでくれよ」

「頑張るっ。

——あっ、左が痛い」


おっとそうだった。俺は左肩を覆ってる鎧を寄せて、ルナールに当たらないよう配慮する。


「ああ……うぅ、ごめんなさいハク」

「構わん。実はギルドカードも茶になってな、機嫌がいい」


そう、茶。つまり初心者から脱退したのだ。まだまだ上はあるそうだが、早いとこ最高ランクを目指したい。

目指すはゼルガノド、渓谷の異界地。そこへ辿り着くための魔導列車に乗るため、ロードへ行く事。


ルナールはルナールの、俺は俺の目的のため、勇み足な気もするがこの町から出る——


「えっ、ルナール!?」


——のは、まだ少し後の事らしい。


〜〜〜〜〜


「えっ、ルナール!?」


俺が負ぶっている者を驚きの表情で見ながらそう言ったのは、先ほど王人先輩と共にいた赤ローブの女性。まさかとは思ったが、本当にルナールの目的はこんな所で果たされてしまったらしい。


「うそ、姉さ……うっぷ」

「おい止めろよ」

「わがってる……でも……本当に姉さんなの、まさか、ここで?」


確かに同感だ。俺は、情報なしで見つけ出す事は不可能に近いと思っていた。それがこんなにも簡単に事が終わるとは、どんなリアクションを取ればいいのか分からない。


そしてそれは、向こうも同じらしい。


「どうしてルナールが?」

「そ、それはこっちのセリフよ! 急に出てって、妹の私を巻き込まないでうっぷ」

「だって、私も知らない男なんかと契りを結びたくはない! 急にあんな事言われても、同意しかねる」

「だ、か、ら……せめて私を巻き込まないでうぅ……姉さんと契りを結ぶはずの男が、今度は私のところにきたんだからぁ……」


怒ろうとして怒声を浴びせようとするルナールだが、いかせんお腹が苦しいらしく、なんとも締まらない。しかも俺に背負われた状態だしな。


「もういいわ、つべこべ言わずに姉さんを連れ戻せば、私の生活は安泰なの!」

「い、嫌だ! 絶対に嫌だ!」

「どうしてよ。どうせ姉さん好きな人いないじゃない! あと2年もすれば歳が20にもなるんだし……うぅぷ」

「本当に嫌なんだ。私は、だって……好きな人、いるかもしれないのだ」

「えっ……」


別に急展開はいいんだがな、俺はルナールの容態が気になって気になって仕方がない。

どうせルナールの姉が好きな人間というのは王人先輩なのだろう。チラチラと見ていたし、あからさまな態度だったからすぐ分かる。


「姉さん、好きな人って嘘でしょ?」

「本当なんだ。う、運命だから!」

「……」


変な空気になったここで、ルナールが声を潜めて喋りかけてくる。


「どうしよう」

「連れて帰ればいい」

「でも、好きな人いるっていうし、それなのに連れて帰るなんて出来ないわ。姉さんにはいつまでたってもそういう人が出来ないからってこういう話になったのに……」

「なら連れて帰らなければいいだろう」

「そうなれば契りを結ばさせられるのは私。私は知らない男となんて嫌なの」

「だったら、お前も帰らなければいい」

「……え?」


何を素っ頓狂な顔してるのか。そもそも、簡単な話だろう。


「そこまで村に執着がないなら、このまま姉妹仲良く旅でも続けたらどうだ。里帰りなど数年に1度でいいだろう。もう子供でもないんだ。自立するには今回の件、丁度良い事だと思えばいい」

「自立? 自立……自立」


ルナールは何かを考え考え込んでいる。吐かないよな? ハクの上で吐くなんて、シャレにもならないぞ。


「そうよ、自立。私も自立すればいいじゃない! 姉さん!」

「えっ、え?」

「帰らなければいいのよ! そうよ! なんでこんな簡単な話を思いつかなかったのかし——ダメ、もうムリ」


とうとう、きてしまった。

ルナールを瞬時に地面へ下ろす。足で掘った土に顔を入れさせ、そこへ胃の中の物をリバースさせた。

でもあれだ、自分の嘔吐シーンを公の場で見せてしまうというのは、女性的にどうなのだろう。これからは腹八分という言葉を大事にしてほしい。


——吐瀉物が満たされた穴に土を埋め直し、ルナールには水の入ったコップを渡した。スッキリしたルナールは満足そうにそれで口をすすぐ。


「プフー……ありがとうハク」

「今度から気をつけてくれればいい。それよりも姉の事をどうにかしろ。お前の急な態度の変わりようにびっくりしている」

「そうね——姉さん」


ピクリ、と赤色のローブが震えた。そうか、ルナールと同じ種族という事は耳がある。尻尾もある。

髪も目も赤色だという事に違和感を感じるが、態度がよく現れるのは耳と尻尾だという事に変わりはないらしい。


「姉さん、私と一緒に旅をしない?」

「それはつまり、もう村には戻らないという事か? それはいいのか?」

「何言ってるのよ。私たちはもう大人なの。自立しないと自立。

どうせ行くあてもないのなら、私とこの——」ルナールが俺を見る。断る理由もないので、アイコンタクトで了解した。「——ハクと一緒にね、きっとゼルガノドに行く事だろうし、姉さんも行こうよ」


しばらく、ルナールの姉は何も言わなかった。しかし、何かを決心した目で俺を見る。


「ハク殿は、王人殿の知り合いなのか?」

「まあ、そうなるな」

「……分かった」


恋する乙女が、そこにいた。


「ハク殿といれば、いずれ王人殿にも会えるかもしれない!

ハク殿! 迷惑をかけるかもしれないが、これからよろしく頼む!」

「あ、ああ、よろしく」


こうして俺たちは、3人で行動を共にする事となった。狐人族のルナールとその姉、フォークス。そして魔人である俺。


目指すはゼルガノド、渓谷の異界地。そこへ辿り着くための魔導列車へ乗るため、ロードへ行く。


「……というか、ルナールは俺についてくる事前提なんだな」

「だって、アレを経験したら、もう忘れられないわ」

「ア、アレ!? なんと破廉恥なルナール! そうか、そうなのか。我が妹はすでに生涯を共にする伴侶を見つけたのだな!」

「いや違うから姉さん」

「なんとっ、遊びの関係はお姉ちゃんが許さんぞ!」

「だから違うって」


どうやらフォークス、妄想の激しい子らしい。元気もあるし、道中暇をせずにすみそうだ。




◇◇◇◇◇


ゼルガノドで王人と出会った時


◇◇◇◇◇




この断続的な衝撃。ああ、懐かしい。地球じゃ毎日と体験した乗り物の揺れ。電車。

俺は今、魔導列車に乗っていた。


「はい姉さん、あーん」

「うむ」


魔導列車に乗る前に買っておいたお菓子を、ルナールはフォークスと一緒に食べている。クッキーみたいな見た目のそれを、フォークスは一口で食べると、ザックザック音を鳴らしながら咀嚼する。



「はいハク、どうぞ」

「ありがとう」


そこまで甘い物は好きじゃないんだが、別段言う必要はない。食べられない事もないので、素直に頂いた。


——数は1枚。


……近くにいるちびっ子達、クッキーを物欲しそうに見つめるのは3人。


これならギリギリ大丈夫。俺はクッキーを4枚にふやし、そのうち3枚をちびっ子達にやると、お礼を言いながら美味しそうに食べていた。


確かにクッキーは安くなかった気がする。おいそれと毎日食べられる物でもないので、それはそれは嬉しいのだろう。純粋な笑みは、見てるこっちを温かい気持ちにしてくれる。


「ハク……貴方意外とそういうところあるわよね」

「何がだ?」

「子供に優しいって事よ」

「なら逆に言うが、子供に優しくしなくてどうする」


未来を担うのはこの子達だ。出来れば他人に優しくできる人間になってほしい。俺がそうであるという自信はないので尚更。

俺が本当に思いやれるのは、家族だけだ。……いかんな。感傷的になっている。


俺は自身の感情を誤魔化すために、外を見た。ここは橋の上らしい。遠くに城のようなものが微かに見える。もうすぐゼルガノドらしい。


『おい聞いたか、今度も出たらしいぜ。平和を望みし者なんていう裏切り者が』


俺の耳は、遠くの声も捉える。聖徳太子は同時に何人もの声を聞き分けたらしいが、魔人となった俺もそれくらい容易い。1000人もどんとこいだ。


「なあルナール、平和を望みし者とはなんなんだ? 」

「あのねハク、私たちは言ったはずよ。この国の人間じゃないって」


それもそうだった。

聞けばルナールとフォークスはクルルギ王国の出。ここパワーティス帝国の隣国が出身らしい。

フォークスは逃げるために他国へ逃亡。ルナールも当選追いかけるためについていく。狐人族はクルルギ王国にしかいないらしく、いつもローブを被っているというのはそこが原因との事。


「私も姉さんも、この国の事情なんてそんなに知らないわよ」

「いや、私は知ってるぞ?」

「……そう。流石姉さん」


微妙な顔をして姉を褒めるルナール。まあ、気まずいな。


「教えてくれるか?」

「むう、そこまで私も詳しいわけではないのだがな。

——この国の人間は多くの者が戦いを好んでいる。子供から老人まで、ケンカを吹っかければ大概応えてくれるほどに。

しかし少数派も確かに存在する。戦いを好まないという、“平和を望みし者達”が」


マイノリティーとマジョリティー。そりゃあ全国民が同じ思想をしてたら恐ろしい。


「平和を望みし者達は、このパワーティス帝国の帝国、ゼルガンムンド皇帝を目の敵にしているという。いつか戦争を仕掛けると言われているし、目的のためにも邪魔なのだろうな。

……しかし、あまり私は平和を望みし者、というのが好きになれん。その目的は大いに理解できるが、手段には納得がしかねる。

武器工場を爆破したりと、やる事といったら暴力的な解決だ。

最近妙に活発化していると言われている」


暴力的な解決、ね。平和を望みし者が、1番平和とは外れた行動をしている。

もしかしたら真に平和を望んでないのは、案外そいつらだったりしてな。事実上この国は他国を攻めずに一応は平和といえるし、そこまでする意味が分からない。


……ここを侵略したい他国が裏でそいつらを操っていたりして。

よくある話だ。


「今から行くところは最前線、だっけか」


ゼルガンムンド皇帝が住むゼルガノド城があり、シント法国と接した首都。それに加え未開地とも接している。

未開地とは、その名の通り未開の地。確かダンジョンの機能にあったダンジョンマップ。何故あの大きさなのかと疑問に思っていたが、どうやらあれはこの世界の人間が明確に認識している領域。


未開地には過酷な環境や強大な魔物が住んでいるらしく、人が住む事は無理だろうとされている。事実、ゼルガノドには時々未開地からやってくる魔物がいるらしいが、それは実力ある冒険者が束になって殺らないとダメだとか。

未開地入ってギリギリは冒険者達も比較的倒せるレベル。魔石も良質で命をベットに仕事をしているのだ。


「貴方の好きそうな場所ね」


全くだ。いずれ未開地とやらを制覇したい。とまでは流石に言わないが、行けるところまで行きたいと思う。


「となると、少し武器が心許ないか」

「え、ハクって武器持ってたの? いつも拳でドンだから見たことないわ」


ああ、確かに1度も使った事がない。一応〈オリハルコン製の短剣〉と〈オリハルコン製の長剣〉は2つ持っている。


「短剣1つに長剣2つなんだが、それでは足りないだろう? 俺にはこのポーチもあるから、早いうちに多ければ多いほど質の良い武器も手に入れたいところだ」

「それもそうね……一応、この魔導列車も武器はたくさん運んであるし、後でそれとなく見てみればどうかしら?」

「この魔導列車に?」

「後ろ2つくらいだったかしら……そこの車両は、各地で作られた武器を最前線であるゼルガノドに運んでるわ。

そして、ゼルガノドで取れた魔石を、今度は各地に配るって流れよ」

「なるほど……」


なら平和を望みし者達に、この魔導列車はいい獲物だなと、そう思った。

しかし、それを口に出す暇もなく、一面に広がる異界の景色が目に飛び込む。吸い込まれるようにしてルナールもフォークスも、窓の外に目をやった。


——息をのむ。


エメラルドグリーンに輝く、雲のかかった巨大な城。透き通る宝石のような川を動とするなら、あれは不動の静。いかなる敵をものともしない迫力があった。

崖に同化するよう建てられた建物は、物理法則を超えた魔法で支えられている。あそこから見える景色はさぞ格別だろう。

……いや、ここから見える景色こそ他の追随を許さないのか。全体を見渡せるここだからこそ、渓谷の異界地たるその所以を全て知る事が出来る。


——しばらく俺たち3人は呼吸すら忘れて言葉も発する事ができない。再び動き出したのは、景色が壁に遮られた時だった。俺が最後に見たのは、崖の端で立ち竦む、白と青のワンピースを着た女の子。


それからすぐに魔導列車は止まり、とりあえず冒険者ギルドへ行こうという事になる。


「いやー、凄かったわね」

「うむ、凄かったな」

「ああ凄かった」


馬鹿みたいに同じ言葉を繰り返す。それほどさっきの感動は、忘れる事ができない。


「私、思わず身を投げ出しそうになったわ」

「それはまた、最後の最期にいい景色が見えるのだろうな。ルナールが行くのなら、姉である私も行こう。いや逝こう」


若干危ない言葉を発しながら、ギルドへ向かう。場所は分かっている。何しろ目立つ看板があるしな、俺の視力ならこのゼルガノドのどこからでも見えそうだ。


「——ここか」


意外と大きい。少なくともクロイヌの町にあるのよりは、断然。


「入るぞ。ルナール達はどうする?」

「もちろん行くわよ。そうよね姉さん?」

「うむ、私達もまだギルドカードのランクが上がるはずだ」


それもそうか。まだフォークスとルナールも冒険者になったばかりという。フォークスはあのクロイヌという危険の少ない町で過ごしていたらしいし、ルナールに限っては転々と移動してクエストもろくにこなしていない。俺と似たような状況だ。単純に言って、実力とカードが見合ってない。


——まず、中は……2階があるな。酒を飲んでる人間、これからについて話し合っている人間、その他もろもろがが俺を睨んでくる。まあこんな見た目だし、連れの二人は全身ローブ姿だし、話のネタにはなりそうだ。

とりあえず俺は、受付に向かう。丁度暇そうな人間は……女か。まあいい。髪は天然パーマでくるくると、明るい雰囲気と性格をしてそうな女性だ。


「換金をお願いしていいか?」

「はいニャ〜、これまた凄い人ニャね」

「ん? ……まあいい」


俺を見て目を見開く受付嬢。どこでそう判断したのか分からないが、俺はギルドカードと魔石を出す。

隣の受付ではルナールとフォークスが俺と同じ事をしていた。


「ニャー、これはこれは……ふむふむ、ランクは当然上がるから……おめでとうニャ〜。ギルドカードが青、ようやく中堅になったって事だニャ。青になると未開地からの未開魔物が来た時には強制的に戦ってもらうんニャけど、そこんところ了解してるかニャ?」

「もちろんだ。問題ない」

「そうかそうか、それは良かったニャ。見た目通り(・・・・・)有望そうニャよ。とりあえず握手でもするかニャ?」


そう言って向こうは手を差し伸べてくる。断る理由もないので手を握ると、お前はグリズリーマグナムかと言うくらい力を込めてきた。

……面白い。

逆に握り返してやる。


「痛っ! ニャニャッ、ストップストップニャよ〜。レディーに対してもっと紳士的な対応を期待してたのにニャぁ」


そこらの魔物を握りつぶせそうなレディーに紳士的な対応。俺には思いつきそうにもなかった。

とりあえず俺は、依頼があるという2階へ行く事にする。途中体のデカイ大男が俺を見たが、何も言わずに去っていった。他にも足を引っ掛けてくる野郎もいたので踏み返してやったり、治安がいいとは言えない。


実力主義。


ここでは力ある者が偉い。


「ふむ……」


たくさんの依頼が貼られている。報酬が高い依頼ばかり目立つ所に貼られていて、それ以外も一応見るが……分かるはずもない。魔物討伐をしろと言われても、どれがそうなのか分からないのだ。

そこらの問題を解決するべく、俺はこの階にいる暇な受付嬢、本読んでいる白髪の女性に話しかけた。こいつ、魔力も豊富で制御も一流。ただ者じゃないことは確かだ。


「少しいいか」


パタンーーと、気怠そうに俺を見た。なんだが悪い事をしてしまった気分になる。


「なに」

「此処ら一帯の魔物の姿が載っている本なんてあるか?」

「……はい」


おお、あるらしい。白髪の受付嬢が足元にある巨大な本を渡してくる。


「終わったら返して」

「分かった」


1度見たら忘れない。じっくりと丁寧に読むと、3分間で読み終えた。


「ありがとう。助かった」

「もう終わったの?」

「まあな」

「……そう」


白髪の受付嬢は必要最低限の事しか言わない。こちらとしては接しやすいタイプだ。

魔物の姿も覚えた事だし、一気に5枚ほど角やら爪の剥ぎ取り、こんな魔物の魔石が欲しいといった依頼を受ける。


「……こんなに」

「問題ない」

「そう、頑張って」


依頼を受ける条件にギルドカードのランクが含まれてなくてよかった。これはただ格を示す物で、依頼条件に含まれてさえいなければ例え俺が青色だとしても関係ないのだ。


——準備が完了した俺は、ルナールとフォークスを待つ。柄の悪い奴に絡まれたりしていたが、狙った相手が悪い。服を燃やされ裸になって、その者たちは醜態を晒すこととなった。


「待っててくれたの」

「いや、言わなければなない事があるからな。いいか?」

「……なに?」

「今日は全力でいく。つまり、単独行動をしようと思う」

「ああ、そういう事ね。いいわ、じゃあこうしましょ。今日はどちらが1番功績をあげられるか勝負ってね」

「ほう、いいだろう。負けないぞ」

「私だって簡単に負けるつもりもないわ」


期限は夜の6時。

さて、全力を出した自分自身の力も確認したかったし、いい機会だ。


手加減はしない。


◇◇◇◇◇


——2日後。


『おい見ろよあれ、半鎧じゃねえか』

『あれが……確かに半分鎧の奇妙な格好してるな。そうか、あいつがたった1日で最高ランクのギルドカードアダマンタイトに達したっていう化け物か。

今までなにしてたって話だよな』

『それだけじゃねえ。あっち双燐だ』

『あの双燐か! 全身ローブ姿、いつも2人で行動してる炎の使い手。あっちも確かギルドカードを1日で銀くらいまでいったっていう……マジ今まで何やってたんだよ』

『トゥルキス・ワンダーとはどっちが強いんだろうな』

『歴代最強の主席卒業者、転移魔法の使い手か。流石にあいつには誰も勝てないだろう』


宿を出る……最近、こんな話題ばっかだ。やり過ぎたとは思ってないが、こう鬱陶しすぎるのは考えものだ。


「というか、いつも2人で行動してるんだな。どれだけ仲がいいんだ」

「姉妹だもの」


そうか、としか言えない。俺は兄妹だったから理解出来ないが、そうか姉妹はいつも2人で行動するのか。

俺は今日、また新たな事を学んだ。


「それにしても、まさか1日でなんて、貴方こそどれだけおかしいのよ」

「偶々夕方近く、未開魔物がやってくる途中だったからな。あれを1人で倒した功績が大きかったのだろう」

「もうムチャクチャよ」

「うむ、王人殿も凄かったからなぁ。ハク殿も例外はないという事か」


……ん? そうか。


「フォークス、王人先輩はどんな戦い方をしていた? 少し気になってな。」

「どんな、とは……何か不可解なスキルを持っていた気がする。

どこからともなく武器を取り出したり、背中から炎の翼を生やして空を飛んだり。とにかく王人殿は凄かったぞ」


……武器を取り出す? やはり召喚系のスキルを持ってるのか。しかし炎の翼を生やすというのは……召喚した魔物の能力を一部自分のものに出来るのかもしれない。


しかし王人先輩、やはり面白い。この世界で1番敵にしたくない人物だと思っていたが、逆に1番戦いたい人物でもある。


——そんな事を思っていたからだろうか? 俺はこの次の日早速、王人先輩と出くわす事になる。


皆ゴロゴロし亭の四人部屋、そこで俺とルナールとフォークスは寝泊まりをしている。まあ部屋でテントを広げて中に入ってるんだがな。なにせこちらの方が寝心地はいい。それにいつもはレンジでチンから出した料理を食べている。


……1度、ここの世界の料理を食べたくなった。何でも出せるレンジでチンを目の前にすると、そんなワガママが出る。


俺は2人を残して部屋から出ると、夜食を食べに下までおりていった。今日はカワブタの肉の料理が食べれるらしい。

フグかと最初は思ったがそんな事ない。普通に豚だ。


——しばらく待つ。あまりにも鬱陶しいのでルナール達を見習ってローブを着ているが、それでも俺が“半鎧”と知っているのか誰も寄ってこない。

しかしここへ、ある1人の人間が近づいてくる。似た魔力の動きだと思って顔を見るとご本人、王人先輩だった。


「悪い、ここいいか」

「……お久しぶりですね」


俺がそう言うと、ローブ姿なので王人先輩は一瞬怪訝そうな顔をするが、声で思いあったのか嬉しそうな顔をした。


「ハク君か!」

「当たりです。王人先輩も元気そうで」


俺はローブを脱ぐ。と、ここで王人先輩が不思議そうに俺の仮面を見つめた。


「勘違いだったら悪いけど、仮面が変わってないか?」


勘違いではない。この前は漆黒の鎧だったが今は左胸の、仮に魔法線と名付けたそこをなぞった純白の鎧に変わってある。

実は魔法を習得しようと考えており、ここ最近はこの魔力感知やら魔法関係に適したこの鎧にしてあるのだ。


「ああ、これですか。そうですね。確かに変わってます。

状況によって何種類かに変えれるんですよ。例えば水中用だったり、戦闘用だったり」

「へぇ……」


素直に羨ましそうな表情を浮かべる王人先輩。……すまない。これは脱いだり出来ないんだ。消すか装着するかのふた通り。

何だか申し訳ない気分になる。


「ハク君もここに来てたんだな」

「ええ、まあ。ここは最前線なので。色々と暇じゃないんですから」

「……もしかして、バトルジャンキー? ハク君って戦闘狂?」


別に俺は、戦闘だけに関してのイベントを求めているわけではないから、本当にバトルジャンキーとは違ってくると自己分析している。


「別にそういう訳じゃありません。理由の一つとしては、ここが言葉を失うほどの絶景だとか聞いたから、興味を持ったんです」

「おおっ! で、どうだった? 」

「……俺の知る言語では、とてもじゃないけど言い表せませんね。月並みな言葉になりますが、素晴らしかったです」



……王人先輩もあの景色を見たらしい。口には出さずとも、あの時の光景を俺と王人先輩は共感している。

そんな気持ちの中、筋肉男が料理を届けにきた。王人先輩のと俺、同時に2つ分だ。

香ばし匂いが鼻腔をくすぐる。


「ビーフストロガノフに似てますね」


俺も食べた事はないが。見た目が。


「いただきます」

「いただきます……そういえば王人先輩はどうしてここへ?

観光、だけじゃないような気もしますが」

「ああ、まあね。ギルドに依頼を出したくてさ。ここなら良い結果になるんじゃないかと思った訳——あむ」


依頼……?


「何の依頼を、と聞くのは野暮ですかね」

「別に構やしない。簡単に言うなら、家政婦が欲しいってところだ」


家政婦……


「そうですか……あっ、王人先輩はもう図書館へ行きましたか? もちろんこのゼルガノドのですが」

「図書館?」

「えぇ、ここから少し離れてますが、雰囲気出てましたよ。本はまだ読んでいませんが、窓から見る景色が最高で」


そういえばと思い出す。ふと中に入った事があるだけだが、あそこも異世界らしいといえば異世界らしい図書館だった。


「ありがとうハク君。この恩は一生忘れない。図書館だっけか。是非行かせてもらう」


何故か王人先輩、凄い熱気が見える。王人先輩の中ではそれだけあの景色に感動を覚えたという事なのだろう。


「は、はぁ……場所を教えましょうか?」

「それは大丈夫」


やけに自信満々の王人先輩。これは情報を取得するスキルを持ってる……というのは考えすぎかな。


「っと、やばい時間だ。悪いハク君。俺はもう行くな」

「はい、また会いましょう」


見ると王人先輩は既に食べ終わっていた。俺は早食いが苦手なので、ゆっくりと食べ終える。


今の時間は7時00分。


……さて、冒険者ギルドへ行こうか。



◇◇◇◇◇


昨日は冒険者ギルドで、王人先輩とトゥルキス・ワンダーという者の関係を色々と聞けた。盗み聞きとは趣味が悪い。しかしどうしても知らなければならない。


……分かった事がある。


まず、トゥルキス・ワンダーの使った転移魔法の独特な魔力の流れ。これは俺も真似できそうにない。

次に王人先輩のスキル。恐らく、看破系の能力を防いだという事は、隠蔽系のスキルを持っていると考えていいだろう。


《わぁ魔人さんだー》


今は王人先輩とトゥルキス・ワンダーが、なんの因果か隣の部屋にいる。ルナールとフォークスは酒でも飲んだか顔を赤くさせて眠りこけているので、心置きなく話を聞ける……そう思っていたのだが、何かうるさい。


《ほんとだー》《魔人さんがいるー》


ポヤポヤした光のもや、まさか喋るとは思っていなかった。魔人になった頃から見えているので、てっきり魔力だと思っていたが違うらしい。


「お前らがなんなのか知らないが静かにしてくれ。気が散る」

《わたしたちしらないのー?》《精霊だよねー》《ねー》

「精霊でも何でもいいから静かにしてろよ」

《はーい》《ねーどうするどうするー》《私たちの秘密だよねこれ》《ねー》


精霊には魔人かどうか分かるらしい。気になるが今はそれどころじゃない。


っ……転移した。2人とも。


トゥルキス・ワンダーの魔力を感知しようとしても、実はそうはいかない。上手く制御されていて、他の誰よりも難しい。

しかし王人先輩は、魔力こそ少ないものの、言っちゃ悪いが魔力制御は素人。時間はかかるが確実に居場所が分かる。


……見つけた、図書館だ。


俺は置き手紙を残して、出掛ける。


俺の聞いた情報から推測した事が正しければ、今日この日、平和を望みし者が動き出す。丁度王人先輩がそれと出くわせば、もしかしたら……


「さあ、視させてもらうぞ王人先輩。貴方の力を……!」


〜〜〜〜〜


結論、俺の推測は正しかった。ゼルガノド中が謎の煙に包まれる。この隙を狙って魔導列車で運ばれてある魔石を奪還する訳だ。


……俺はというと、地形の悪い崖を駆けていた。


魔導列車は速い。少しでもスピードを緩めればすぐに置いていかれる。気づかれないようこの距離を維持しつつ、時に漆黒の鎧 (魔導列車を見つけた時点でこれにした)で足場を作りながら、王人先輩の能力を確かめる。景色をあれだけ感動していた王人先輩が、まさか何もしない筈がない。


——まずは視力を4倍。


微かにだが見える。


ほとんどはトゥルキス・ワンダーが仕留めたな。王人先輩は……確かに刀をどこからともなくだす。そして、その腕は一流だ。いやそれを超えている。


……視線上で線路が爆破。奇跡的に免れたが、遠くでも爆破。


どうするかと思っていたら、トゥルキス・ワンダーが炎の翼を羽ばたかせながら氷で線路を補修。


一瞬トゥルキス・ワンダーの魔法かと勘違いしそうになったが、違う。あの翼こそ王人先輩の能力。もしくはその一端。


まあ何が1番恐ろしいかと言われれば、男の急所を躊躇いなく潰す王人先輩自身なんだがな。


——結局分かったのは、王人先輩が刀を自由に取り出せる事。炎の翼を自分だけではなく他者にもつけられる事。俺と似たように鎧を身につけられる事。


まだまだありそうだ王人先輩のスキルは。


「ふっ……1度で知ろうなどと、甘すぎる話だったか」


王人先輩とはいずれ……

俺はそう思い、ゼルガノドへと戻った。全力を出すと言っておきながら、まだ自分の試していない力がある。それでは宝の持ち腐れ。

驕らず、常に鍛えておこう。

ピリリと感じる時代の流れは、すぐにそこまで来ている。そんな感じがした。



「あっ、王人先輩の事、フォークスに話すの忘れてたな……まあ本人も眠りこけていたし、知らせないでおいても大丈夫か」

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