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異世界ダンジョンウォーズ  作者: watausagi
どうしようもなくエンペラー
31/85

仲良く ☆ 現地ダンジョン制覇!

◇◇◇◇◇


果たして、夜と朝の線引きは何時からなのか、これは多くの者が違った答えを言うだろう。午前1時など、例え午前であっても真夜中に違いないし、だったら朝とは一体何時からなんだ。


俺は個人的に、3時までは夜とする。丁度今が3時過ぎ、俺はそんな朝になったばかりの頃からベッドを抜けていた。



「……それで、わざわざこんな時間に俺を起こしやがって、お前自殺願望でもあったか?」

『お、怒んなって王人、な? もちろん俺はまだ死にたくねえよ。お前寝起きほんと怖えんだからよぉ、参っちゃうぜ』

「……要件は?」

『実はな、忍が夜の2時にダンジョンの外で散歩してたんだとよ』


馬鹿なのか。夜の2時に散歩とか、一体何がどうしてそうなった。


「それで?」

『見つけたんだよ、すぐ近くに。ダンジョンマップには存在しないダンジョン。つまり異世界産のダンジョンってやつがよ!』


興奮した健太の声が、頭にガンガン響いてくる。マジ止めろよな。

俺は黒板を爪で引っ掻く音を想像しただけで得体のしれない悪寒が体を駆け巡るという体質。

まあそれは関係ないとして、朝のコールで大声はシャレにならない。


「異世界のダンジョンなど、そんなに珍しくもない」

『参考にするのも良いだろう? 忍は度々ダンジョンから出て近くの町に行ったりしてたんらしいが、情報が正しければそのダンジョンは古参、俺たちの大先輩だ。

完全制覇は無理として、どこまで行けるかは知りたくねえか?』



……全力出せば、隠密使ってボスの部屋まで一直線だからなぁ。どこまで行けるとか言われても。


『なあ頼むよ王人。俺たちゃ生徒会の仲間、同じリーダーを持つ仲間、共に今まで行動してきた仲間じゃないか。

そして友!

お前がいると安心すんだよ、な? な? 一緒に行こうぜダンジョン』

「……6時までには帰るぞ」

『了解っ! じゃあ、今すぐ忍のダンジョンに来てくれ。頼んだぞ!』


忍のダンジョン、か。ラブース王国、マップでいうなら左上。

しょうがない。現地ダンジョンなど、サクッと終わらせよう。


◇◇◇◇◇


忍のダンジョンに来ると、急かされ急かされ外に出た。


「では、しゅっぱーつ!」


健太が意気揚々と先頭を歩く。

お前は場所を知らないだろ?

思った通り反対側。少しだけしゅんとした健太をつれて、俺たちは早速現地ダンジョンへ向かった。


「……へぇ、草原っぽいな」


ここは、俺のように森ではなく草原。背後で不気味にそびえ立つ忍のダンジョンがよく目立つ。


「ここら一帯に危険な魔物はいない事は俺がもう調べてある。今はリラックスしてもいいかもな」

「マジかよ忍? つまんねーの。ドラゴンでも降ってこねえのかよおい」

「ドラゴンなんて、この世界の住人にとって死活問題だぞ。迂闊に口に出すな」


忍はよく外に出ている甲斐あって、中々異世界に詳しいな。

健太は警戒心のかけらもない。スキルを使わずとも、今の俺なら殺せそうだ。


……もちろん例えだけど?


「……そういえば……はぁ、聞いてなかった。……なんだっけ、ダンジョンってのは近いのか?」

「歩いて5分。俺の家から駅までよりは確実に近い距離だ」

「なあなあ、やっぱり殲滅か? 殲滅だよな。レベルアップがないのは寂しいが、我の愛剣が血を求めておるわ」


健太は長剣を振り回す。結構、様になっていたのは意外だ。……剣と魔法、もっぱら攻撃専門の魔法剣士タイプ。


忍は逆に支援タイプ。直接的な力のスキルが無い為、1人じゃ敵に勝つことは厳しい。雑魚敵には泥沼と鉄壁で無双できるが。


俺は斥候タイプ。だったけど、プラスの召喚士に侍的ポジション。この中では一番の戦力だと自負している。そりゃあ実質3人分のスキルだし。


「ほら、着いたぞ。巷ではこう言われている。“ヘンリエッタ草原 地下大迷宮”と」


忍が前方を指差した。

目の前には大岩。しかし、その一部は闇。先が見えない謎の空間。

確かにこの特徴はダンジョンだ。忍の予測では古参のダンジョン。精々殺されないよう頑張ろう。


「みんな遺書は書いてきたか?

じゃあ配置を決める。健太は前。後ろと言ってもどうせ前に出たがるだろうからな。

我らが副会長は真ん中、俺が1番後ろ。これは何かトラブルが起きた時に、状況判断の早い王人が対処してくれという事。

前と後ろには肉の壁があるから、落ち着き冷静にしていてくれ」

「さりげなく俺を肉扱いしたなこら。まあいい。遺書ならばっちしだ。

先頭が俺って、みんな付いて来いってか! よっしゃ、作戦はガンガン行こうぜ!」

「……俺は遺書を書き忘れたからな……健太……精々肉壁よろしく」


あー、朝だから頭がまだボーッとしてやがる。炭酸でも飲んでおけば良かった。


ダンジョンにあればいいな、なんて寝ぼけた事を思いながら、俺は大岩の中へ入る。


——いかにも、って感じだ。


不慣れな足元。

ゴツゴツした壁。

薄暗い。

そよ風。

松明。


そこの曲がり角からゴブリンが急に出てきたって、そりゃそうだよなってくらい違和感の無いダンジョン。


「うっひょー!!」


だから何でそんなに興奮できる? 時間、今何時か知ってるんだろうに。徹夜はテンション上がるタイプだったのかこいつ。


……健太はいつも高いか。



「宝箱、宝箱はどこだー!?」

「おい健太、あまり先へ行くな」

「うっひょー!!」


混乱なんていう状態異常でもかかっているのか? うっひょーとしか叫ばない健太は、忍の言う事を聞かずに前へ前へ進んでいき……カチッと音がした。


「あっ」


健太は一部色の違う足元の床を見るが、もう遅い。トラップは作動した。


——俺と忍の横にある壁が狭まってくる。


……ふっざけんな!


「はぁ……はぁ……おい健太」

「マジすんまそん忍」

「……ケンタ」

「すいません副会長!」


思わぬところで被害をくらってしまった。だが、ここまで来ても健太は自重をしないのである。


ある時は竹の矢、もちろん俺と忍だけ狙ってくるという悪質な罠。

時に落とし穴。

何故かたらい。

1番危なかったのは、閉じ込められそうになった時だ。水もチョロチョロ出ていたし、溺死は御免である。


「くっそ健太お前、これが俺らじゃなかったら後ろから刺されても文句言えねーぞ!」

「わ、悪い悪い」

「……いや……さぁ、もう刺していいだろ?」

「もうしません!」


殺意が芽生えた。

しかし、ここで本当に、健太は落ち着きを見せる——そんな時、初めての宝箱が見えた。あからさまに横へ伸びた一本通行の道の先に……


俺と忍は、これから何が起こるのか大体予想が出来ていた。


「た、たた宝箱!!」


興奮が戻った健太は、宝箱一直線に走り、途中に引っ掛けてあったワイヤーに引っ掛かりこける。罠が作動。


——健太に箱が降ってきた。こけて地にへばりついていた健太はそれへ気づかずに、抵抗なく閉じ込められる。


ようやく俺たちと忍は難を逃れ、健太だけが被害にあったとさ。


俺と忍はホッとしてそれに近づく。


いかん、テンション上がってきたぞ。


「ただの箱か?」


忍がコンコンと叩く。

持ち上げようとしたみたいだが、断念。そこそこ重たいらしい。


「おーい健太死んでないかー?」


忍に返ってくる返事は、無かった。

もしかしたら本当に……死んでるのかも!


「ど、どうする王人?」

「……この箱の中には、もしかしたら毒が充満してあるのかもしれない。もしくは針が生えてたりして、串刺しになってるのかもしれない」

「おいおい、じゃあ健太は」

「まー待て落ち着け。

いいか? 毒に侵された、または針山となった健太が箱の中。普通なら死んでるよな。うん、死んでる。

だがよ、だったらこれを開けなければいい」

「いや、早くどかしてあげた方がいいと俺は思うぞ」

「違う違う、冷静になれ。

これを開けなけれさえすれば、俺たちは真相を分からずじまい。死んでるのか、死んでいないのか?

強引に言えば、この状態は生きている健太と、死んでいる健太が同時に存在している事になる。

蓋を開けてみればあら死んでる。よりは、生き死に半々のヒフティーヒフティー健太。の方が幸せだとは思わないか?」


完璧な理論である。これには忍も、俺の考えにぐうの音さえ出ない。



「言われてみれば……」

「そうだろ? これは、このままそっとしておくのが1番なんだ」


2人の結論が一致したところで、これ以上罠は無い事を知った俺たちは、安心して宝箱に向かう。

と、背後で健太を閉じ込めていた箱がバラバラになった。


「何で誰も助けてくれないの!?」


振り向いて見ると、健太が剣を振り抜いた状態で半泣きになっている。

おや生きていたか。


「良かった、無事そうだな健太」

「良かったなんて思ってくれるのか忍は。ああ、いい奴だなぁ。

それに比べて横のお方はっ、とても不満そうな顔をしてるけど!」

「死んでる健太はいないのか……」

「いない! どこにもいないから探そうとするな! 俺は今度こそちゃんとするから!」


……はぁ、いなくなった方が、サクサクダンジョンは進めるのに。しかも案の定、宝箱は空だった。


今、ここを見ているかもしれないダンジョンの主は、いったいどんな気持ちで俺たちを見ているのか?

いい餌が来た、くらいかな。


◇◇◇◇◇


ジュルリっーー


「いい餌だぁ」


◇◇◇◇◇


「サンダースラァァッシュ!」


変な叫び声と共に、健太がゴブリンの体を斜めに切り裂く。

焦げ臭い匂いの元はすぐに消えて、後に残ったのは小石程度の燻んだ色をした魔石。誰も必要としないので、一応俺がポケットに入れておく。


「おい健太、もうちょっとそのネーミングセンスどうにかしてくれよな」

「忍ちゃんよぉ、シンプルがベストなんだよこういうのは。無駄にライトニングバーチカルスラッシュ! なんて興醒めだろ?」

「……雷斬りとかはどうだ?」

「いい線だな」


目の前で2人がこんな下らないやり取りをしているのは、このダンジョン、もっと言えば階層が浅いここは脅威にならないからだろう。さっき健太が能天気だったのもそれが原因だと思いたい。


つまり危機感が無いわけだな。


ゴブリンなんかが敵なら、それもまた仕方のない事だとは思うが。


「グルルゥ」


いや、チビな狼君でもそれは変わらないよ? もっと何か特徴があれば、使役しても良かったんだけど。


「来たぞ敵だ! 忍、フォーメーションD!」

「フォ、フォーメーション?」


戸惑いながらも忍は、チビ狼君にスキルを行使する。その名も重力操作。

チビ狼君はキャインと犬みたいに吠えながら、動く事も出来ずに健太のサンダースラッシュをくらってしまい、ゴブリン同様小さな魔石を残して逝った。


「健太はレベルアーップ! てててて〜て〜て〜てっ」「いや、てれれれっての方だろ」「はぁ? あんなんガキンチョのやるもんだろ」「お前ちょっと地球にいるであろう全国のファンに謝れ」


ほう、最後そうな物語と、ドラゴンなゲームか。健太と似た思考で嫌な感じだが、俺は前者の方が好きだった。まあ、やった事のあるのは7と9だけどなぁウヘヘヘヘ。興味ないか。


「ガルルルゥ」


おや、今度は少し大きめ、ドーベルマンみたいな見た目をした4足歩行の魔物だ。


「また来たぞ! 忍、目標捕捉、作戦をフェイズツーへ移行する! 」

「フェ、フェイズツー?」


またもや意味の分からない言葉に疑問を覚えながら、忍は重力操作を使う。危険察知でもなければ不可視のこの攻撃を初見で避けろとは酷な話。


俺は今度も後ろで休めた。戦闘時に健太が罠を作動して飛んできた矢なんか対処してるが、それまでだ。


……というかこの2人、よくも躊躇なく動物を殺せるな。平和主義の俺にとっては、理解しがたい。少し引く。


やっぱり世の中正当防衛と緊急避難でしか、人を殺したらダメだよ。


「いやー無敵! 俺たち無双!」

「いや、こんな敵で喜べねえよ」

「分かってねーぜ。こういうコツコツとした積み重ねが大事なんだよ。プレイヤースキルっていうの? それ鍛えないと、主人公体質には負けるから」

「だからそのプレイヤースキルがこんな敵じゃ鍛えれないと言ってるんだがな」

「お? なら俺とやるか、お?」

「こいつだりぃ……」


げんなりする忍。それでも今のところ無敵無双という事実に変わりはないので、その足取りは軽い。

既に地下3階。大迷宮と呼ばれくらいだからそれはもう広いんだろうけど、今日中に完全制覇は無理かな。


「よっし次のエリアボスは何かなー?」


エリアボス、と健太が言ったのは、これまで地下へ向かう階段前の、露骨に大きな部屋に入ると例外なく強めの魔物がいたから勝手に名付けた。強めといっても健太が瞬殺して終わるが、本人に言わせてもらえば達成感があるらしい。是非制覇したいとの事。


「あった部屋だ!」


扉もなにもないので、部屋の中を遠くからでも見る事ができる。今見えるのは二足歩行のドーベルマンみたいた見た目の魔物。さっきのが巨大化した感じの、大きな爪と垂れるヨダレが特徴的だ。

目をキラキラと輝かせた健太は、そそくさと部屋へ向かって走る。

俺と忍は顔を合わせて苦笑しながら、遅れてその部屋にはいった。



「健太は勝利した!」


もう戦闘は終わっていたみたいで、少しは大きいかもしれない魔石を健太は天井に向かって掲げている。


達成感を得ているらしい健太が、ニヤニヤとした笑みを浮かべたままこちらへ向き……不思議そうな顔をして言った。


「忍はどこだ?」と、俺は慌てて横を見るが誰もいない。後ろを見ても誰もいない。


「迷子になったらしい」


んな訳あるかと、自分で言ってバカらしくなる。ただ、本当に消えてしまった忍。

何だか嫌な予感がした。


◇◇◇◇◇


「——ん……ここは」


あれ、俺は確か王人と一緒に部屋へ足を踏み入れ、そこから……そこから一気にこんな所へ来たのか。

所々草の生えて、自然が感じ取れる部屋。水場も端にあった。

何より目に入るのは、いやらしい笑みを浮かべたリザードマン、ってのがいるくらいかね。


「俺は罠に引っかかったのか?」

「その通りだ」


喋れるらしい。しかも律儀。

友好的では無さそうだが、言葉が通じるっていうのは幸いだ。


「罠には十分気をつけてたつもりだったんだけどな……甘かったか」

「ケッケッケ、気付けねえのも無理はねえ。いや、気づく方がおかしな話だぜ。

通路と部屋の境界線。ただ、そこなんだ。今までワザとらしくパネルの色を変えたり、スイッチつけたりなんざぁしてねえんだ。

高かった、って言ってもお前にゃ分からねえだろうがよ」


やっぱり律儀か。


「健太は大丈夫そうだったが?」

「俺はずーっとお前らの事を見てたさ。よーくな。んでよう、あの健太とかいうのは厳しい。俺でも勝てるかどうかってくらい、雷の魔法を使う奴は面倒くさい。まあ勝てるけどよ。絶対じゃねえんだこれが。

で、後ろでボーッとしてた奴はおっかねえ。雰囲気がよぉ、敵にはしたくねえもんだ」

「つまり、ここへ転移させられた罠は、対象を指定出来るって訳なんだ」

「ちぇっ、面白くねえ奴。

まあそういうこった。お前は全然だもんな。罠もビクビクしてるしよぉ、立ち振る舞いもど素人。

ここへ来させるのは、俺が完全に安全に勝てると決めた弱者だけ!

選ばれておめでとう! 自己紹介だ、聞いて驚け俺はここのダンジョンの主!」


フシューと鼻息を荒くして、こちらへ近づいてくるリザードマン。

ダンジョンの主? いや知ってた。背後には玉座があるし、俺たちとダンジョンの仕組みが同じだとしたら、ファンタジーをぶっ壊してくれるもんだぜ。


「大人しくポイントになりな」


これは説明するというよりも、何の気なしに喋ったみたいだな。

ポイントとはつまり……同じらしい。


「1つ勘違いしているぞ」

「ああ? ——って、うぉぉ!?」


スキル泥沼。ペラペラと喋ってくれたお陰で準備は整った。

俺が最大で出せる泥沼は、精々が学校にある砂場程度の広さ。しかもそれを作るのに30秒はかかる。


「くっ、こんなもの……!」

「まだだよ——沈め」


スキル重力操作。

俺だって、この異世界に来て何もしなかった訳じゃない。必死に強くなろうとして、スキルを十全に扱えるよう努力してるんだ。


「か、身体がっ!」

「動きづらいか? だろうな。足場が泥沼じゃ意味ねえもんな」

「くっ……そぉ!」


リザードマンが尻尾だけ出して、ヒュッと一振り、付け根にある棘が俺へ飛んできた。

甘い。こんなもの、手で弾き返す、。


「なっ……こんのっ」

「いくらやっても無駄だ」


今ので分かった。

小さな棘が、今度は無差別に俺の身体へ突き刺さろうとしてくる。しかしその全ては、何も身体を動かす事なく弾く。


「鉄壁スキルは平等だ。頭から手まで、全てにおいて硬さは同じ。手で防げたって事は、他のどこにもきかない。

鉄壁スキルに急所はないんだよ」


内蔵とかまでは知らんけど。一応、大事な場所も硬いので、男としての弱点を俺は1つ消した事になる。

スキル自体の弱点はそりゃあ、防御を超える攻撃には全く意味がないというところだ。


「お前は1つ勘違いをしている。俺の立ち振る舞いが素人? ああ正しい。

俺が罠にビクビクしていた? それは違うね。確かにビクビク怖かったさ。震えたぜ心の底から。

だけどそれは罠じゃない。ましてや魔物なんかでもない。

俺が1番怖かったのは、副会長だ」

「ふく……かいちょうだと?」

「アンタがおっかないと評価した王人さ。

いやーマジ怖い。寝起きだけでも怖いのによ……健太が馬鹿なことばっかりするからさあ! 罠とかっ、いつキレてもおかしくねえじゃねえか!

ああ怖いぜクソッタレめ。

お前さっき何て言ってたっけよ? 選ばれておめでとうだと?

調子に乗ってんなあ蜥蜴野郎が!? その憎たらしい顔を切り刻んでやろうか!!」

「お、お前口調が……」

「おっと」


いかんいかん。落ち着け。頭を冷やして静かに、冷静にだ。


……まあそういうこった。


俺は、健太が罠を作動させて、とばっちりを俺たちがくらう度に、いつ健太がお払い箱になるのか不安で不安で仕方がなかった。いつキレるのか怖くて怖くて、もう本当怖かった。


「しくじったなリザードマン。俺を呼び出したことは、少し早計だったようだ」

「……はっ!」


リザードマンが吠えた。

俺の言葉を嘲笑うかのように、身体を大きく膨張させる。身体系のスキルまで持ってたとは。

……膨れ上がった筋肉、それによって振るわれた爪は、奴の近くにある泥を強引に弾き飛ばした。


「こんな泥沼、出れねえ道理はねえ。ダンジョンの主、舐めるなよ!」

「……なめてねえよ」


リザードマンは必死に周りの泥を弾き飛ばしていく。泥沼スキルに強引だ。

俺が泥沼を形成していくより、奴の安全地帯が増えるのが先だ。


「完全に勝てると言っただろ! こんなドロドロ、すぐに出てやるぜ!」


有言実行とはいい言葉だ。

リザードマンは確実に、俺へと近づいてくる。牙をキラリと輝かせ、俺を殺す想像でもしているかもしれない。


「鬱陶しいから沈めよな!」

「ぐぅぅっ!」


本気の重量操作。しかしこれも耐え切れるリザードマン。さっきより歩みは遅くなったものの、ゆっくりとゆっくりと……だから、それがなんだと言うんだ。



「お前、また1つ勘違いしてるわ」

「なにぃい!」


怪訝そうな顔をしたリザードマンは、顔をしかめながら泥を弾いていく。

もう、遅いというのに。


「俺は、はなっからお前を倒そうなんざ、これっぽっちも考えてなんかいねえんだよ。ただこうして時間稼ぎをするだけで良かった。そうすばあいつらが、来てくれる。

悪いな。俺はサポート役なんだ。

——半減せよ」


スキル半減なんて言ってるが実際のところ、レベル10に対しては1や2くらいしかレベルを下げられねえ。まあ良い方なのかな。

まさかリザードマンがレベル10だった訳ないし、スキルレベルは3くらい減ってあるかな?


——更に動きが遅くなったリザードマンは、もしかしたら俺でも倒せるのかもしれないが、そういう役回りはあいつらに任せるんだ。

ほら、後ろで声がする。


「ど、どいてくれぇしのぶぅぅ!」

「っ!?」


慌ててしゃがむ。頭上を何かが横切った。辛うじて見えたがそれは、半泣きの健太。

それでもやるべき事はやったらしく、リザードマンに雷をくらわせる。そのまま自分自身を止める方法は思いつかなかったのか、リザードマンの——顔にぶつかった。


確実に見えたわけではないのだが、ぶちゅうと効果音が聞こえてきたかもしれないそれを、俺はきっと誰にも話さない。


「おいおい殺すなよ。

あっ忍、首輪持ってきてくれ首輪。ダンジョンにあるだろ」


遅れてやってきたのは王人。きっとさっきの健太は、王人が投げ飛ばしてくれたんだろう。

……もう安心だ。もう、大丈夫だ。

この2人がいれば俺は、頑張れる。


◇◇◇◇◇


いやー見つかった見つかった。結構無事そうで何より。というかダンジョンの主が弱すぎな気もする。まだ途中にいた化け物の方が強そうだったぜ。


「くっ、この、なんだこれは!」


目の前では人型蜥蜴が、隷属の首輪を外そうと躍起になっている。俺たちには危害を加えるなと命令してあるから、それくらいの事しか出来ないのだろう。


「何でっ、ありえねえだろ! ここまで一体どれだけの道があったと思ってやがる! ありえねえありえねえ、早すぎる!」

「それはすまないな。こちとら優秀なナビがいるもんだから最短距離で来てしまった」


しかも、隠密をフルに使う。全ての罠は作動せず、全てのボスを素通り。

ちゃんとダンジョン運営出来ていたんだけどなここは。罪悪感の1つでも湧いてくるってもんだ。


——この人型蜥蜴が直接殺そうとした原因は、どうやらダンジョンの主が直接殺しを行うと、入るポイントが3倍も5倍も増えるらしい。これは良い事を聞いた。俺たちに適用されるかどうかはともかくとして。


「なあ王人、なんで殺さねえんだ?」

「このダンジョンを俺たちの支配下に置くんだよ。マップには表示されない新勢力。奇襲にはもってこいだ。

この際、全ての現地ダンジョンを制覇していくのもいいかもしれない」


ダンジョンの中身はそのまま任せるから、現地人も気づかない。

完璧な考えだと思った。が、ここで人型蜥蜴が吠える。


「馬鹿なっ、さっきから聞いてりゃお前らがダンジョンの主だと!?

嘘つけ! ダンジョンの主は、自分のダンジョンから出れねえだろうが!」

「お前と俺たちは違うんだよ。こちとら神様っぽいやつに連れてこられてな、特別なんだ特別」

「なっ!!」


健太が得意そうに言ったデタラメ、人型蜥蜴は信じたらしく、目を見開き驚愕を露にする。

嘘とも言い切れないが……現実はただの暇つぶしに連れてこられただけだからな?


「あ、貴方様たちは神によって連れてこられたお方……ならばその驚くべき力の数々も不思議ではない」


おや、何だか人型蜥蜴の様子がおかしいぞ。


「このサーティワン、先程までの無礼をお許しください。

既に奴隷としての身分ですが、何なりとご命令ください」


……ま、いっか。本人の言う通りどうせ首輪つけてるし。

このサーティワン、詐欺に引っかかりやすいとみた。


——こうして俺たちは、初ダンジョンを完全に制覇する。俺はズルしかしてないけど、確かに少し達成感が湧いた。


当分はこのダンジョンとサーティワンは忍が預かる事になるのだった。

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