このキング・ジュニアにはプライドがある
◇◇◇◇◇
「フッフッフッ……作戦通り」
誰もいないワープゲートで僕様は、1人確信の勝利に酔いしれる。
忘れもしないあの屈辱、今日果たさずしていつ為すか。ほおに残る手の感触は、今の今まで忘れていない。
このキング・ジュニアにはプライドがある! それが例え自分より格下の存在であろうとも! 女の子にやられっぱなしじゃ終わらない! 子供のやる事だからと見過ごすのではなく、然るべき報いを行わねば。
……オオトとか言う奴は知らない。ああいうのは無視するに限る。
——さて、そろそろかな。
時間は昼過ぎ。今はもう、ココ様とぐみんどもがお昼ご飯を食べているところ。
何故知ってるのか。それはもちろん、僕様の頭脳があればこそ。それとなくココ様に聞いていたのだ。
『ねーねえ、いつもはみんなで何してるのココ様〜?』
『そうだね、まずは……』
といった具合に、ココ様を騙しているようで気は引けるが、全ては今日この為。あのラピスラズリに復讐を誓った。
準備はいいかもう1度確認しよう。
まずはあのラピスラズリの、徹底的に女性としての価値を失わせる。そう、辱めてやるのだ。許してくれと懇願してももう遅い。僕様を怒らせたのが運の尽きだ。
このズボンを使って!!
容赦なく、罰を執行する。
そう、男装だ!
一体ラピスラズリはどんな無様な格好を見せてくれるのかな?
ズボンを履くと、女として見られなくなるはず。その時、奴の屈辱を想像するだけで、僕様はウハウハなのだ。
男装姿をカメラに収めて、その後逆らえないよう脅しの材料として使いたかったが、ココ様にもカメラはまだ作れず、ダンジョンポイントで取ろうなどとなんと恐れ多い。
男装作戦はこれでひと段落でいいか。
次の復讐はデコピン!
この前はビンタを思わずくらってしまったからな、そこは絶対にお返しをしないといけないだろう。女だからまあ大目に見てやっても、デコピンくらいはしないと気が済まない。
しかも中指!!
外道、とは言わせない。僕様の中で最も威力のでる中指、一切の躊躇なく使わせてもらう。痛みで震える姿はさぞ、荒ぶった僕様の心に安寧をもたらしてくれる事だろう。
——我らサポートキャラは本来、最初こそ創作者の意のままに動くが、いずれは自主的に行動しだす。
何故なら成長するからだ。
創作者の知識を、創作者の害にならない程度取り込み、普段の生活によって新たな人格を形成する。新たな、とは言ったもののそんなに大袈裟じゃない。精々チョコレート好きがココア好きになったくらい。
元の性格を残しつつ、成長。
実は僕、作られて直後に成長している。今でこそ考えられないが、ココ様など知らんぷりのはずだった。邪険に扱い、罰をもらおゴホンッ、言うことを聞かないはずだった。ランダムとは恐ろしい。項目にない選択肢が選ばれ、時にとんでもないサポートキャラを生み出す。
だが、ココ様の目を見た途端、僕の中は何かが変わり、以後この人の言う事は絶対だと思うようになった。
ココ様は素晴らしい。料理の腕もさる事ながら、家事全般をそつなくこなす。今頃の地球とやらでは大人気間違いない。
……しかし、すみませんココ様。僕様にはやるべき事があるのです。
——サポートキャラがワープゲートを使えない道理はない!
「ふぅー……Wの3」
昼ごはん、運が良ければラピスラズリ、早めに食べ終わり暇を持て余すとの事。
その隙を狙う。
なーに、今日上手くいかなくても、また次の機会があるのだから。
……僕様はこの時まだ、そう思っていた。
〜〜〜〜〜
着いたと思って目を開けると、目の前にはラピスラズリがいた。
「あっ」
「あっ」
一瞬時が止まる。僕様も、ラピスラズリも、互いは目を合わせたまま。
しかしそれは一緒。この都合の良い機会を逃す僕様じゃない。僕様はラピスラズリに詰め寄ろうとして……
「おい、そこを動く」
最後まで言えなかった。
その次に続く言葉を僕様は発する事ができず、カエルの潰れたような呻き声を出した。
ラピスラズリの方が早く、こちらへ近づいてきたのだ。僕様の首根っこを掴んだかと思うと、壁の方まで寄せる。
背中に壁がついた。
そしてラピスラズリは言った。
「Eの10」
ここはまだワープゲートの中。ワープゲートの中でフレンドのダンジョンの位置を呟くと、さっき僕様が来たようにそのダンジョンへ移動される。
僕様は、自分のダンジョンに戻ってきた。
「おいお前! 何をっ」
「動かないで」
今度も最後まで言えなかった。僕様の言葉を遮るように、頬の横へ何かが突き刺さる。
どこから取り出した?
ラピスラズリは手ぶらだったはず。ただメイド服を着て、その手には何も無かった。一体どこから……
いや、それよりもこれ。
僕様は背筋がぞわりとした。本能が動くなと言っている。恐る恐る目だけでそれを見ると、黒曜石で作られた鋏があった。片方の刃の部分が、僕様の右頬に軽く当たっている。
そこまで丈夫でも鋭さでも、鉄などに比べて劣るはずなのに、そんな事より恐怖する。黒曜石という存在感は、意外にも大きかった。
「こ、こんな事をして許されるとでも思ってるのか?」
返事は、新たな武器で返ってきた。またどこから取り出したのか分からないクナイを、僕様の左頬の真横へ突き刺す。
ラピスラズリは左手で握った鋏を僕様の右頬。右手で握ったクナイを僕様の左頬に。
これでは動けない。
つうーっと汗が垂れた。ココ様はまだ帰ってこない時間帯。それを知ってるからこそ、この状況に危機感を覚える。
以前見たラピスラズリは、こんなんだったか? いや違う。ラピスラズリもまた、成長している。あのオオトとか言う奴の下で、なんらかの変化をしているのだ。
「こんにちは、嫌なやつ」
「なっ……嫌なやつって何だ!」
失礼な。礼儀がなってない礼儀が。嫌なやつなんて、そんなの……悲しくなるだけなのに。
へんっ、やっぱりラピスラズリはお子ちゃまだ。幾ら変わろうが根っこの部分は変わらない。
「お、お前は、僕様を傷つけられないはずだ。バレたら、お前が怒られるだけだもんな」
「……だいじょぶ」
「いっつ!」
クナイが僕様の頬を撫でる。それだけで肌は切れ、冷や汗と一緒に血が垂れていくのが分かった。
痛みこそ少ないものの、分かってしまう。ラピスラズリは本気なのだと。
——ここで、頬に優しい感触がした。そういえば……ラピスラズリの手には、以前僕様が紐をちぎってしまった例のアレがある。紐と紐を結び直した形跡が見えた。
この前聞いた話だけど、それは回復アイテム。ココ様がお作りになられた物。
「こうやって傷を無くせば、バレない。かんぺき。オトーさんに迷惑かけない」
つまりこう言いたいのか。
ラピスラズリは僕様を傷つけ、その度に回復させる無限ループ。
……僕様は痛みとこれから起こるであろう事態を妄想、じゃなくて想像し、心臓がドキドキ、じゃなくてバクバクと音を鳴らす。
怖い。
怖い怖い怖い。
僕様が敵に回した者、実は思っているよりも強で、凶で、狂なんじゃないか。
純粋無垢な瞳が、今は感情を持たない人形のように恐ろしい。
「僕様をどうするつもりだ」
「イロイロ。まずはこれを、着てもらう」
「何っ……そ、それは!」
ラピスラズリが、今度もまたどこから取り出したのか、スカートを手にしていた。
そ、そのフリッフリのスカートを僕様が着る……だって? そんな、嘘だ。嘘だと言ってくれ。
「カメラもある」
「この人でなし!」
痛っ——頬をクナイが斬りつけ、また暖かい光に包まれる。
気持ちいい……もちろん、光がだ。
——というか、これはあまりにも都合が良すぎる。まるで僕様が来るのを分かってたみたいじゃないか。
「動いたら、痛いよ」
「くっ……くっそー!!」
僕様はこの後、男としての尊厳を失った。カメラにも収められた。
……なんで、こうなったんだ?
◇◇◇◇◇
ふぅーお腹いっぱいだ。不思議ちゃんもココの食事に満足してくれたらしい。ダンジョンにあるエリア類も気に入ってくれていた。
俺もダンジョンポイントが増えて、これが俗に言うウィンウィンという関係なんだな。
(……それより異世界知識さん。さっきのどういう意味だったんだ?)
《何がですか?》
(ラピスだよ。何でカメラとスカートなんて持たせて、玉座の部屋に行かせたんだ? 俺もついていかなくていいのか?)
《大丈夫ですよ。なんの問題もありません》
(……異世界知識さんが、そう言うならそれでいいんだが)
正直気になる。
やっぱり俺も行こうかとした時、不思議ちゃんが服の裾をつかんできた。
その目はキラキラしている。
「今日は水水エリア。水の中に行く」
「なっ……み、水の中だと!? いや、確かにそれは行きたいが、人間はえら呼吸が出来なくてな」
「私がいる」
「っ!」
なんと、なんと頼もしきか不思議ちゃん。そうだな、お前には魔法があった。水の中で呼吸をするくらい、なんの造作もないことだ。
やっぱりお前最高だぜ。
「俺も連れてってくれるか?」
「もちろん」
水水エリア。グレードアップした事により、広さも深さも倍以上。深海といった言葉が似合うエリア。
水の中など、さぞ魅力的な景色に違いない。魚の生態系や自然の蒼さ。
ああっ楽しみだ!
◇◇◇◇◇
「グスッ……こんな、こんな仕打ちはひどすぎる。僕は未遂じゃないか。
——ラピスラズリ! お前にはサポートキャラとしての誇りはないのか! そのカメラやズボン、ダンジョンポイントから取り出したな?
いけないぞ、無駄遣いだぞ!」
「……オトーさん、ダンジョン運営してないから」
あぅ……そ、そうだったな。そういえば、ココ様も似たようなものだ。ランダムを選ぶ人間は、等しくそうなのかもしれない。
サポートキャラは、ダンジョン運営でこそ本領を発揮出来るというのに、そこは悲しいものがある。
「もういい。僕様の王子服返してくれ」
「うん」
何だやけに素直だな。そう思って服を取りに行くが——ビンタされた。
不意打ちだったので、こけてしまう。
「な、何をするんだっーー!!」
「……えへ」
全然気持ちよくなんかないんだぞ! 全然、これっぽっちも……て、おい、ラピスラズリが何故か、頰を上気させてないか?
いやそんな、そんなはずないよな。
僕様をビンタして嬉しいなんて、まさかそんな事……
「もういっかいだけ」
「やめろバカ! やめっ……やめてください! 僕は、僕は——」
背中を向けて逃げようとしたら、ヒュッと横にクナイが刺さった。
僕様の髪の毛が数本、ハラリと落ちる。
「もういっかいだけ……ね」
「……はい」
全然、嬉しくなんかないんだからな。何だか友達みたいだなんて、嬉しいだなんて、思ってないんだからなー!!
——ダンジョン内に、バチンといい音が鳴った。続いて歓喜の叫び声が聞こえたそうな……
◇◇◇◇◇
何だかやけに機嫌の良いラピスを膝の上に乗せている。
今の時刻は夜の8時。特に何かをしようという訳でもない。毎日が濃い生活だった為か、今日みたいに何もない日が物足りなく感じた。
っ……いかんいかん。今日みたいな平和、こういう日こそ大事にしなければ。
——狩人殿は弓の手入れ。不思議ちゃんは (多分)宇宙人と交信しているのかボーッとしている。ラピスはラピスラという有能なスライムと一緒に遊んで……殴っているように見えるのは気のせいだと思いたい。
そうだ、こいう時のチャットだと、久しぶりに【全員】の設定がされているのを覗いていた。そこで偶々気になるもの、というか自分の名前を見つける。
題名からして俺だからな。こいつら名無しだからって強気になっているようだ。
◇◇◇◇◇
【生徒会副会長は今?】2016/06/11(土)09:25:06
1 名前 名無し
あの副会長は今? さあ、ジャンジャン聞かせてくれ
予想でいいんだ予想で
ほーら何書いてもいいんだぞ。異世界のチャットは自由だ!
チョメチョメな事も自由に書けるんだって俺が実証済みだ!
2 名前 名無し
とりあえず1がクズだという事は分かったが、正直俺もあのお方は木になる
3 名前 名無し
根掘り葉掘り聞きたいところだが、あのお方も見ているという前提で書いてるんだよなもちろん?
何しろ題名からして隠すつもり皆無な1のバカ。頭が草ってるとしか思えん
4 名前 名無し
いやいや、逆に考えるんだ。1はきっとあのお方に見せたくてこのスレを立てたんだ。
恐らくだがあのお方のヘイトを溜める行為。万死に値する
5 名前 名無し
>>4
いやいや、逆に考えるんだ。1はきっとあのお方に見せたくてこのスレを立てたんだ。
恐らくだがあのお方を思っての好意。1、グッショブ
6 名前 名無し
つまり、5が言いたいのはこういう事か
①副会長は誰もが認める心優しい少年なので、森で襲われていた少女を助けたに違いない。
②奴隷なんて許すはずがない。きっと、理不尽な目にあってる者、男女問わず助けているに違いない。
7 名前 名無し
葉っ葉っ葉、ちゃんちゃら可笑しいぜ。あの副会長が?
実際はこうだろう
①森で襲われていた少女、いい的だとスキルを試したに違いない。
②奴隷の媚びへつらう態度が木にいらない。男女問わずいい的だとスキルを試したに違いない。
8 名前 名無し
>>7
スキル試しすぎて草生えた
9 名前 名無し
>>7
死んだなこいつ
きっと今頃、謎の情報ルートでお前の居場所を特定したに違いない
10 名前 名無し
副会長「いい的だ。スキルを試そう」
11 名前 名無し
待て待ておまいら。
ここはサポートキャラが有能な件についてのスレだと思った俺はどうすればいい
12 名前 名無し
>>11
木にしない木にしない
ツリーでも何でもないんだから、勝手に勘違いしたのが悪い
13 名前 名無し
とりあえず植物関係の言葉を入れておけばいいと思った俺がマジレス。
2人死んだのは、あのお方の犠牲者
14 名前 名無し
>>13
おい
15 名前 名無し
あちゃー
16 名前 名無し
冗談でもマジ止めろよなそういうの。とりあえず1はただあのお方が嫌いだと確信。
2人亡くなってるのは、階段から落ちた説、あるいは小指のつま先をドアにぶつけた説が有力だと幾つものスレで分かっただろう。
17 名前 名無し
普通に魔物に殺されたか、現地人に殺された場合もあるんだよなぁ
実際俺の友達、現地人に殺されそうになったし。どうもダンジョンの主ってのは敵みたいだよ。
まあ分かってた事だが。
18 名前 名無し
逆にダンジョンの罠で現地人を殺した俺が通ります。
詳細はこう!
ポイントウハウハ、とはなれずに、二日寝込んだ後本格的に現地人のファンタジー的集団が攻め込んできての踏んだり蹴ったり。
絶望したよ。あいつら容赦ないんだもの。
19 名前 名無し
キツイよなぁ。確かに。
まあそこは慣れろとしか言えん。俺も最初はキツかったが、サポートキャラの献身さで持ちこたえれた。
今は順調にダンジョンを大きくしています。そんな自分は、正直頭のネジが取れたと思ってる。
20 名前 名無し
>>19
なんか元気出た。
頑張れよ。
21 名前 名無し
おっと、ここらで本題に戻ろう。19はこのチャット行け。
【私の日記】
自然と涙でるから
22 名前 名無し
>>13みたいなのは抜きにして、各自の良心に任せた想像を言っていこう。
①副会長は今、必死に鍛えている。守るべき者のため、他人の屍を越えて行き、強者の道へと突き進む。
②仲間はアマゾン系女子。ひょんな事から共に行動し、最初こそ言葉の通じ合わない関係に苛立っていたものの、アマゾンちゃんの言葉を必要としない心温まる気遣い。アマゾンちゃんの必死なジェスチャーなどに心を開いていき、最後は……
23 名前 名無し
③ 殺した。
24 名前 名無し
④しかしそれは、理不尽な現実を見据えた行動。アマゾンちゃんは実は言葉を知らないのではなく、知っていても喋れないのだ。
これはアマゾンちゃんが住んでいた環境での不治の病の1つ、徐々に身体機能が壊れていく事に関係している。
⑤足も動かなくなり、遂に代謝機能まで失われる直前、アマゾンちゃんは副会長に伝えた。
25 名前 名無し
⑥私を……的にしてください
26 名前 名無し
⑦泣きながら副会長は、アマゾンちゃんの望みを叶えてあげることに。
「……」
⑧最後、何も言わない副会長。しかし長年一緒に行動してきたアマゾンちゃんは副会長の考える事が分かっていた。
だから、アマゾンちゃんも最後のジェスチャーをする。
27 名前 名無し
⑨「ありがとう」
言葉にならない想いは、確かに副会長へ伝わった。泣きながらスキルをアマゾンちゃんに試す副会長。
そのスキルとは、物質転換。
28 名前 名無し
⑩ 1つの樹へと転換されたアマゾンちゃんは、雨にも負けず風にも負けず、副会長に感謝を伝えるが如く、大きく育つ。
やがて彼女は、世界樹と呼ばれるようになったのだった。
29 名前 名無し
ここが何のスレだったか分からなくなった俺でした
30 名前 名無し
いい話やなぁ。
不覚にもアマゾンちゃんに涙した。
31 名前 名無し
23の言葉はこの最後までを分かっての事だったか。脱帽だ。
空気読めバカ、なんて思ってた俺を許してほしい。
32 名前 名無し
実際にあの副会長がこんな感動的な事するわけないだろ、と
33 名前 名無し
アマゾンちゃんを娘にしたい
34 名前 名無し
>>32
心の中ではみんな分かってる、と
35 名前 名無し
>>32
導管、と
◇◇◇◇◇
おいおい、随分と好き勝手書いてくれてるなぁ。まあ思ってたより良心的か。
◇◇◇◇◇
36 名前 名無し
俺、聞き耳系のスキル持ち。
あのお方なら見た事あるぜ。
37名前 名無し
キタコレ。
詳細よろ。
38名前 名無し
まあ、詳しく言うのは避ける。
……これは俺がいつもお世話になってる町で本当にあった出来事なんだが、ある女の子が腹を空かせてたんだ。見るだけで孤児? そんな女の子。
紳士な俺としては、感謝という見返りを求めるだけで、女の子にパンの1つでも提供しようとしたわけ。
と、ここであのお方が先に女の子に話しかけたもんだから、俺は慌てて近くの物陰に隠れて、聞き耳をたてる事に。
『ほら、これいるか?』
『え、っと……でも』
『実は腹一杯なんだ。お前が食べなきゃ、これは捨てないといけないなぁ』
『っ……い、いえ、捨てるくらいなら私が食べます』
『ほう、良かった良かった。ありがとな』
なんて、多少間違ってるかもしれんが大体あってるはず。
この後副会長は少女のお礼の言葉さえ聞かずに、少女が見えなくなったところで俺の聞き耳スキルが捉えた小さな一言。「腹減ったなぁ」と言いながら去っていった。
39名前 名無し
誰それイケメン
40名前 名無し
惚れるわ
41名前 名無し
ないな
42名前 名無し
ないない
43名前 名無し
……ありじゃね?
44名前 名無し
……あり、か。うん、ありかもな。ありあり、案外ありかも。
45名前 名無し
だったら38と俺も、もしかしたら会ってるかもしれん。
46名前 名無し
>>45
詳細よろ。
47名前 名無し
俺も副会長を見たんだよ。町でな。
俺の場合はまた違ったシチュだった。俺の場合は聞き耳系スキルも無いから、多少おかしいところは見逃してくれ。
……副会長が酔っ払った男に絡まれた
48名前 名無し
終わったな
49名前 名無し
酒臭い。
イコール、スキルの的。
酔っ払っい死亡。
50名前 名無し
続き言うな?
副会長が絡まれた時、俺もああ終わったと思った。異世界だから人死にも出るんじゃないとまで思った。
しかし!
副会長が、あの副会長が穏便に事を進めていた。どうやったかは知らないが酔っ払っいの酔いを覚まして、うろたえていた酔っ払っいを見逃したんだ。
「アンタにも家族はいるんだろ?」
こんな事を聞いた気がする。そして酔っ払ってた男は、兵に捕まる事もなく次の日、家族と一緒に休日を過ごすのだった。
※最後は想像
51名前 名無し
多少盛ってる気もするが、なんだ良い奴じゃないか副会長。
噂をアテにし過ぎるのもよくないなと反省したぞ。
52名前 名無し
異世界に来て何かあったのだろうか……まあ、いい。
今度ぜひお友達になろう。
53 名前 名無し
ちょっwww 副会長何やってるんですかwww
◇◇◇◇◇
……さて、お気づきだろうか?
まさか俺が少女の腹を満たしてあげた事などあるはずもなく、酔っ払っいの面倒を見るわけもない。
全ては自分が書いた事。いやー出てくる出てくる嘘設定。
これで俺のイメージアップはクリアしたな。副会長は優しくて思いやりのある人間。
名無しだから悪いんだ。
まあ誰も損しない嘘だし、別に良いよな。53の名無しには何だかバレてる気もするが……とりあえずこれで俺の敵は少なくなったと思う。
明らかに俺を嫌いなセリフが所々にあるもんだからイライラしていた。まあ、実は1つだけ当たっていヒヤヒヤもしたが。
「ぅ、んー……」
膝の上にいたラピスが、ラピスラと遊ぶのを止めていた。
「なんだ、もう寝るか?」
「……うん」
瞼が半分閉じているラピスを抱っこして自室へ戻り、同じベッドに入る。
俺も実は少し眠たいので、一緒に寝る事にした。狩人殿は弓の手入れを今からが大事だと言っており、不思議ちゃんはぼーっしていたので声をかけていない。
……久しぶりにラピスと2人っきりになった気がした。かといって眠りこける女の子と何かあるわけでもないので、もう数分もしない内に俺とラピスは寝るであろう。
「お休みラピス」
「……うん、お休み」
互いの最低限な言葉のやり取りで、俺は満足していた。俺とラピスはジェスチャーなど無くても、心と心が通じ合ってる。アマゾンちゃんよりもすごい。
そんな気がして……俺は、意識を手放した。




