表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/85

ゼルガンムンド皇帝はお怒りのようです

◇◇◇◇◇


前回までのあらすじ。

ついカッとなってなんやかんやしたものの、騒動は無事に収まる。線路は壊れたまま、不思議ちゃんがやったのは一時凌ぎなので、「しばらく戻れねぇ」とおっさんがボヤいていた。そんな簡単に直るかが問題だが、この世界には魔法がある。人はそれなりに必要だが、1日もかからないらしい。

それからとある町、アイベルフォンの故郷の駅に止まり、平和何ちゃらは兵士に突き出した。ついでにアイベルフォンも証言としてついていくことに……


「……お別れね」

「そうだな。色々あったが、うーん、お菓子は美味しかった」

「それ、何だか喜べないわ」


窓の外で、アイベルフォンは苦笑い。お別れを惜しんでいるようだが、それは俺にではなく、大半は不思議ちゃんが関わっているだろう。

ウトウトしている不思議ちゃんを、チラチラ見ているのがその証拠。


『おら、もうすぐ出発だ。座っておけよ。怪我しても知んねぇぞ!』


沈黙が続きそうになる頃、タイミング良くおっさんの声がする。

……少しピリピリしてるな。


「また会えるかしら?」

「生てればもしかしたら……な」


俺は会えるとも、会えないとも言わない。アイベルフォンはただジッとして、それで——魔導列車が動き出した。


「っ……じゃあねヤブカラスティック!」


……


「あ、ああ、じゃあな」

「うんっ! ……トゥルキス・ワンダー、アンタもじゃあね!」


魔導列車はスピードを増していく。不思議ちゃんはそこでハッと起きた。1度だけ可愛く欠伸をすると、ボーッとした目でアイベルフォンを見る。


見て、言った。


「じゃあねアイちゃん」

「えっ?」


遂に、アイベルフォンが足を止めるほど魔導列車は走り出す。

……足を止めた理由は、別にあったかもしれない。俺は窓を閉めて、腰を下ろした。目の前では不思議ちゃんが、また小さく可愛く欠伸をしている。


「なあ不思議ちゃん、何で名前を覚えてないなんて言ったんだ?」

「ふぁ〜……んぅ、そうだっけ?」

「そうだろ。だってさっきの1回だけだぞ。アイベルフォンの名前を言ったの。てか、あだ名だったし」

「えーと、だって向こうが私の名前を言わなかったから、いいのかなーと。

ダメだったかな?」


ううんダメじゃない。だから首をコテンと傾けるなよな可愛い。


「つまり何だ、お前もしかしてアイベルフォンの事は覚えているのか?」

「おかしな質問。毎日毎日会ってたのに、覚えてない訳がない。それに、私と本当の意味で話し合ったのは、話し合ってくれたのは、アイちゃんだけだから」


……そりゃそうだよな! 覚えてない訳がないよな! どんな若年性アルツハイマーだって話だ。


「先生の名前は覚えているか?」

「……あやふや?」

「そっか。ならいい。

でもアイちゃんって何だよ。ビックリだよ」

「親しい人は、そうでしょ?」


当たり前のようにそんな事を言っているものだから、あんなに悩んでいたアイベルフォンが可哀想になった。まあ、最後の最後にサプライズみたいでハッピーエンドかな。

終わり良ければすべて良し。今頃、顔がにやけているアイベルフォンが容易く想像出来る。


「貴方はヤブちゃんなのかな」

「いや待て、待ってください。ヤブカラスティックは記憶から消してくれ。頼む」

「分かってる。でも、オオト……オオちゃん? 言いにくいような気がする。

嫌がらせは良くない」


嫌がらせって……

でも確かにオオちゃんって言いにくい。オーちゃんと同じだ。

だったら言わなければいいか。丁度良いあだ名も俺は持っている事だし。


「俺はオトーさんとか呼ばれているな」

「オトーさん? ……お父さん……オトーさん……ふふ」

「笑うなよ。急に恥ずかしくなってくる」

「ふふ、ごめんなさい。でもおかしくて。オトーさんか……うん、オトーさん。良いね。これは良いよオトーさん。私もこれからそう呼ぶ」


ほとんど同じ歳、もしくは年上からオトーさん(お父さん)と呼ばれるこの気持ち。小さなラピスにオトーさん呼ばわりされるのとはまた違う犯罪臭がする。俺は一体何を目指しているのだろうか。

……不思議ちゃんだからいいや。気にしないでおこう。


「そういえばまだ言ってなかったな。今回不思議ちゃんが働く場所は、ダンジョンだ」

「ダンジョン? 」

「多分、今思い浮かべてるであろう、そのダンジョンだ。危険はゼロだから心配しないでくれ。

……あ、いや、攻め込まれればそりゃ危険はでてくるが、良い景色はちゃんとあるぞ」

「ならいいやー」

「……これはどっちでもいいんだけど、俺のダンジョンで暮らしてほしいんだよな。もちろん無理にとはいわないが」

「別にいいよー」


うん、そう言ってくれると思っていたよ。露天風呂は気に入ってくれるかな。最高の接待をしよう。


……窓の外を見ると、森を通り過ぎ、周りに何もない草原に出た。

これ以上は魔導列車に乗る利点はもう無いな。払った金の分までは乗ろうと思ったが、飽きてきた。


「不思議ちゃんの転移魔法は、特別な紙がいるんだろ?」

「うん。私が描いた魔法陣。特別な場所には、これを置いておく。だからビューンとひとっ飛び」

「じゃあそれを今ここで空高く飛ばして、転移する事はできるか?」

「楽チン」


不思議ちゃんは服の内側から、1枚の紙を取り出すと、窓の外へ放り投げた。

風魔法を使うのかな。くそっ、羨ましすぎる。何で俺は異世界に来て魔法が使えないんだよ。


「それじゃあ行くね」


そう言うと、不思議ちゃんは急に抱きついてきた。胸の感触が良く分かる。

そういえばそうだったな。転移する時はこうだった……異世界グッジョブ。魔法使えなくてもいいや。


——フワリと、次の瞬間足場がなくなった。俺はすかさず不思議ちゃんに“不死鳥の翼”を換装。俺自身はカオスドラゴンを呼び出し、頭の上に乗る。


「しっかり付いて来いよ!」


不思議ちゃんは手で丸を作ると、次に翼から光を出したりして遊びだした。軌跡に炎の光がチラついている訳だ。他には風で火の粉を撒き散らしながらのローリングだったり、俺よりも翼を使いこなしている気がする。


……やっぱりいいなぁ魔法。


「グルルラァ」


真下で恐ろしい唸り声がした。本人はこんな感じで

『元気だせよなご主人』

と、慰めてくれているのだが、とても怖い。見た目もな……凛々しすぎる。フェニックスみたいに声とのギャップもないから、普通に怖い。


——ラピス、良い子にしているだろうか。


◇◇◇◇◇


ここはゼルガノド城。

その中でも鉄やそれ以上の硬い鉱物などによって作られた部屋で、1人の男が腕立て伏せをしていた。上に重りを軽く1トン以上は乗せて。小指で。


「980……981!」


汗をポタポタ垂らしながら、されど動きを止める事は無い。


「982……983!」


熱気が身体中から漏れ出し、やはり動きを止める事は無い。

と、ここで重く冷たい扉が、耳障りな金属音を出しながら開いた。

入ってきたのはウサギの耳をした女性。所謂兎人族という種族である。細くしまった足から繰り出される蹴りは、岩石をも粉砕する。


「失礼します陛下。ご報告したい事が」

「983……984……言え!」

「はっ、アクリルポリスからの報告で、賊を捉えたとの事。例の平和派でございます。本日ゼルガノド全体で起きた迷惑行為の原因は、こいつらにあったそうです」

「989……990……それだけか!」

「いえ、賊に一部線路を破壊されたようです。直ちに修理が必要かと」

「993……994……だからそれだけか! そんなもの、お前が勝手にやってればよい!」


とても重要な事なのだが、本人は本気で言っているらしく、兎人族の女性の口が怒りを抑える為にピクピク痙攣する。

だが、仮にも上司と言っていい存在。深呼吸をして自分を落ち着かせた。


……そして、実はここからが本番。目の前の人物がアホみたいに驚くかと思うと、気分も良くなるものだ。


「そうそう、これは他愛もない、ちょっとした世間話みたいに聞けた事なのですが、とある情報を聞きました。

——トゥルキス・ワンダーがここを離れた、と」

「999……って、なにぃぃ!?」


ここで集中力を切らしてしまい、上の重りがガラガラと崩れ、陛下と呼ばれた男性に降り注ぐ。

1000はいかなかったなと、小さく兎人族の女性は微笑んだ。

あわよくばこのまま一生体を動かせなくなればいいと思っていたが、世の中そんなに上手くなく、重りの山からそれは這い出てきた。


「ゲホッゲホッ……詳しく言え!」

「詳しくも何も、先ほど言った通り世間話でして、詳細は不明です」

「そんな事はいい。お前がここにいるのだ。既に調べは付いているであろう」


それはまあ、その通りだった。

崖の番人とまで言われたトゥルキス・ワンダーがいなくなったのは、仕事を抜きにして調べたいと思えるほど好奇心を刺激する内容なのだから。


「トゥルキス・ワンダーがこの地を去った原因は、雇われた……からでしょうね」

「雇われた? まさか、他国にか!?」

「これは勘ですが、違いますよきっと。

一応言いますが、雇われたその内容は、子守りだそうです」

「……コモリ?」


言われた事が頭で理解できないのか、言葉になっていない。

兎人族自身も、初めは耳を疑った。まさか「最強」の体現者であるトゥルキス・ワンダーを、あろう事か子守りとは。理解するともう笑うしかない。


「だから大丈夫ですよ。これが引き抜きなどであれば、もっとマシな嘘がつかれますし、それに弟のジョンがその場にはいたそうです。ならばこそ、陛下の予想は外れています」

「ぐぬぬぬ、しかし……いや……なぁ……雇われたというのは、ギルドでなのだろう? 依頼者を案内したのは誰だ」

「例のギルド公認悪女でございます。それと、前々回の首席卒業者の白髪受付嬢ですよ」

「ぐあっ、新人ならば首をはねていた所だ」

「いえ、そんな理不尽な事は許されませんからね?」


脳まで筋肉で出来ているのか、兎人族は本気でそう思った。


「しかしトゥルキス・ワンダーだぞ! あれほどの才を持つものに出会った事がない。必要だ。我が国に最も必要不可欠だった存在。

惜しいなぁ……惜しいなぁ!」


確かに、この陛下には必要だろう。

力がありすぎるが故に、国はトゥルキス・ワンダーに下手な事は出来なかったが、それが裏目に出てしまった。

もっと積極的になればよかったと、後悔しても今更遅い。


「トゥルキス・ワンダーの居場所は掴めません。これはもう、こちらから探すのは不可能でしょう。

話によると何度かこの地へ帰ってくる可能性があるそうですし、崖とワンダー宅は24時間見張ります」

「……それしかないな」


陛下は完全に重りから脱出すると、今度は器用に積み上げだした。


「片付けならば兵にやらせますが」

「馬鹿者。1000回いかなかったのだ。やり直しに決まっておる」


結論、陛下の脳は筋肉が詰まっている。

新たな真理を発見した兎人族は、呆れて部屋から出る。勝手にやれという事だ。

とうの本人はそれを気にすることなく、重りを全部積み上げると、先ほどのように背中へ乗せて、腕立て伏せを始まる。


「1……2……待っていろよ依頼者め。いずれ会った時に半殺しにしてやる!

3……4……」


◇◇◇◇◇


「くしゅっ!」


嗚呼……風邪か? そういえば異世界に来て病気ってどうなんだろうな。変な病原菌とかあったら困る。現実的に考えて、そんな訳ないとも思っているが。

何せあの美人さんだ。異世界に適応できず生徒全員死亡だなんてつまらない事、望みはしないだろう。


「大丈夫? まさか、死ぬ? 半死に?」

「くしゃみで人が死ぬかよ。目ん玉は飛び出るかもしれないが……どうせ誰か噂でもしたんだろう。

さっ、そんな事はともかく、ここが俺のダンジョンだ」

「んー、中途半端な大きさだよ」

「ダンジョン自体を、そんなにどうこうしてないからだよ」

「だよだよ」

「……ん、だよだよ」


この前までははダンジョンの見た目、隠密を使って初期と変わらないよう見せていたが、もういいかなと、今は見た目もちゃんと14階。


隠密だって万能じゃないのだし、これのせいで結構隠密を使える範囲が減っていたのだ。もしもかけっぱなしにしていたら、さっきのカオスドラゴン旅も出来なかった。ドラゴン1匹見えなくさせるのも、案外思っているよりキツイのだから。


「よし、中に入るぞ」

「ワクワク、ピカピカ」


……ピカピカ?


「……ピカピカ」

「おおー私、感動だわさ」

「だわさだわさ」


ちょっと楽しくなってきた所でストップ。俺と不思議ちゃんは、真っ暗闇の空間に足を踏み込む。

自分のダンジョンに帰って来た……と同時に、ドンッと体へ衝撃。


何これデジャブ。というか、懐かしさを覚えた。


「おかえりー! おかえりー!」


やけに元気の良いラピスが、俺の胸の中にはいた。


「おかえりー! おか、えりー!」


本当に元気がいいなぁと思っていたら、ラピスは少し泣いていた。それは収まるどころか、どんどんひどくなっていく。



「お、おかえりー! ……オトーざんっ、おかえりっ、なさい!」


何だよこれ……目頭が熱くなる。あれ、俺ってこんなに涙脆かったっけ? バカみたいだ。かっこ悪い。


《貴方も変わってきている、という事なのかもしれませんね》

(変わる? 俺が?)

《はい。例えば今あの武蔵という男に助けを求められていたら、殺すという結果は変わっていたのかもしれません》


……


(いや、それはないな)

《……まあ、今後の成長を楽しみにしてますよ》


よく分からない事を言った異世界知識さん。俺が変わる? まさか、とも言えないが、どうでもいい。

変わりたいとも変わりたくないとも思ってないし、どっちに転んでも気にしない。


それより今は、ラピスだ。我が娘だ。


「オトーざんっ! オドーざぁん!」

「……ただいまラピス」

「ゔんっ! うん!」


出来るだけ、自分の思いを伝えるようラピスの頭を撫でる。後ろから「感動だわさ」と不思議ちゃんの声が聞こえた。

視線を前に移すと、そこには狩人殿が。まるで聖母のような表情をしながら俺とラピスを見ていた。


「お帰りなさいです王人」

「ああ、ただいま」


狩人殿はニッコリと微笑み、「それと……」と言って、不思議ちゃんを見た。


「どうしたの? もしかして、くしゃみ?」

「……」


狩人殿は不思議ちゃんを見つめたまま……いや、ある一点、仮にそれを桃と名付けるとして、狩人殿は不思議ちゃんの桃を見て、次に自分のある一点、名付けるとしたら大きめのミカンを見て——うな垂れた。


「負けたです……」

「んー、なら私の勝ち? くしゃみ?」


くしゃみではないと思う。ただ、女には色々とあるのだろう。


……今更気づいた事だが、このダンジョン女性の割合が増えてきている。そりゃあハーレム万歳な気持ちも少なからずないが、これは正真正銘偶然の産物と言っておこう。


実際、俺って学校にいる大体の男は嫌いだし。というか嫌われているし。まあ、最近のピーチクパーチク言う女も同じ事だ。


前に言っていた健太ではないが、大和撫子なんてもう、女性の突然変異でしかなくなった。純情ラピスには、このまま成長してもらいたい。


………………

…………

……


「マ、マジカヨ」

「マジカルだよ?」

「確かに魔法が関係しているが、これは……不思議ちゃんの事を見くびっていた」


俺は玉座さんにいた。疲れて寝てしまったラピスを膝の上に乗せて、どれだけダンジョンポイントが増えたか確かめに来たのだ。

ゼロという可能性も考えていた。不思議ちゃんはダンジョンに住んでくれると言ったけれど、それが本当に通用するのかどうか……結果、通用してくれた。


回りくどいな。


はっきり言おう。今回増えたダンジョンポイントは、384万ポイント。


——384万ポイント……

——384万ポイントォォオ!!


……384万ポイントだ。これは約、カオスドラゴン3体分に相当する。

3体って少なく思えるかもしれないが、カオスドラゴン凄いんだぞ? これでもレベル10の魔物だからな。魔法に特化してないとはいえ、それでも異常な魔力。


だというのに不思議ちゃんは、それを軽々超えた。面白いくらいに。正直本当に人間かと思ってしまう。


だが、ウハウハが止まらない。正直に言えば、俺がここに1人だったら奇声を上げていたかもしれん。踊り出していたかもしれん。


残りのダンジョンポイントと合わせると、雑破に四捨五入して今は通算386万5200ポイント。


——386万5200ポイント……

——386万5200ポイントォオ!!


大事に残しておこう。と、思っていました。でも、これだけあればな……なんて、弱い心が俺にもいた。

今回の功績者である不思議ちゃんのささやかなお礼として、各エリアの格を上げることに。つまりは良い景色を作る事に。


ひとつのエリアを贅沢にも2万ポイント使い、それが8つなので計16万ポイント。残りは、370万5200ポイントとなった。



「なんかもう、ありがとな不思議ちゃん」

「よく分からないけど、褒められるのはいいよね。たくさん褒めて褒められて、精霊も喜ぶ。始まりは無けれど、終わりも無し。あるのはただ生命の輪、だね」

「そっか……」


意味は半分も分からなかったが、一応頷いておいた。本当に、感謝してもしきれん。あとはラピスと仲良くなってくれる事を祈るばかりだ。


……あぁ、というかラピスの髪の毛気持ちいい。おっとロリコンではない。純粋な感想だ。今日だけは一緒にお風呂入ってもいいよね、なんて思っているが、ロリコンではない。


〜〜〜〜〜


夜……何故か、みんなでお風呂へ入る事となった。俺がラピスとお風呂へ入ると言った所為? そこで狩人殿は当然のようにラピスと一緒だからと入ってきて、不思議ちゃんも「仲間外れは氷漬け」というセリフと共に入ってきて……みんなの湯浴み姿は俺の理性をことごとく揺さぶってくる。


……だが、ここからが最大の問題だ。せっかくラピスと2人っきりの予定だったのに、女3人で意気投合しだした。

俺は仲間外れですか。氷漬けになっとけコンチクショウ。しょうがないから1人寂しく聞き耳立ててるよ。


「それからそれから、ラピスはシュピンッが出来るようになった」

「凄いねー、私もジュワッとなら出来るけどなぁ……シュピンッは無理かなぁ」

「安心。ジュワッも凄い」


なんの話をしてるんだよ。会話文で擬音語を使うなよな。


「今日はオトーさんと寝るの」

「それはそれは〜、子供作っちゃうのかなぁ? ピカピカだね」

「2人がベスト。うん、ピカピカ」

「それで明日にはカピカピなのですね。ですが安心をしていいのですよラピス。メイドの私が掃除をしっかりとするですから」


ぶっ……何喋ってんだよ。もっとこう、女性なら気品溢れる振る舞いも出来ないのか。少なくとも下関係から離れてほしい。

というか、ラピスにはコウノトリキャラで突き進んでほしかった。


「初めては痛いって聞いた事あるから〜、羊を数えるといいんだよ?」

「羊……メーメー」

「羊……メーメーですか」

「あれ、豚さんだったかな?」

「「ブッブー」」


もうやだこの3人。


——俺は、自分の娘によって貞操の危機を感じるという、稀有な体験をしたのだった。


もちろん、実際に俺とラピスが子作りをするはずがない。世の中にはロリに対してノータッチという言葉があるのだ。


しかし、ラピスの言っていたオトーさんと寝るという部分は間違ってなく、同じベッドにいるのだが……


「暑い……!!」


同じベッドに、4人もいれば暑い。


「狩人殿はまだ分かる。ああ、メイド仲間だもんな。でも何で不思議ちゃんまで」

「仲間外れは氷漬け」


不犬ラ狩

思王ピ人

議人ス殿



こんな感じ。しかもラピスは密着しているものだから、暑い。こうなったら奥の手だ。俺はラピスラを召喚。


抱き枕にした。


「おぉ……冷んやり」


プルン、と震えるラピスラ。最近は空中に一文字書けるくらい触手を自由自在に操れるようになった。

まあ、何にせよこれでグッスリと眠れる。たった1日空けておいただけなのに、我が家とでも言おうか、不思議な安心感があった。俺はきっと、すぐに眠れたと思う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ