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生徒会長マジ凄い

◇◇◇◇◇


ふっ、残りは1匹……じゃなくて1人、会長だけだ。本体はゆっくりと歩いて来ているから、俺ことドッペル王人は100パーセントの稼働率で身体を動かせる。


会長が何処にいるかなんて、きっと俺は、異世界知識さんに聞くなくったって分かってただろう。何せ、ずっと付き合わされてるんだ。会長がこんな時にどうするか、何処に行くかなんて、容易く予想できる。


……例えばそう、今回の場合、会長は1番高い所へ行く。だからビルの屋上。そして、仁王立ちだ。


馬鹿なんじゃないかと思ってしまうが、それが会長だ。


……………

………

……


——ほら、やっぱり。


風に髪をたなびかせ、会長は堂々と逃げも隠れもしていない。


ドッペル王人、隠密をフルに使っております。刀を出して、近づいてから一気に心臓へひと突き。


なんだ、意外と早く決着が着くんだな……そう思ってきた時が俺にもありました。


決して油断をしていなかったからこそ避けられた。ドッペル王人である俺が会長へ近づくと、なんと会長は左手から半透明の何か……スキル【剛爪】を纏い、俺に攻撃を仕掛けてきたのだ。お陰で、服が少し破けた。


冷静に状況を伝えてみたものの、正直心臓がバクバクしている。こんなにも隠密が効かないなんて、自身が折れそうだ。


会長は化け物。


改めて認識する。


「んー、当たったのか? 感触はない……おかしいな。あいつの行動は全て容易く予想できるつもりだった。

もうすぐ私の背後に迫るかと思ってたんだがなぁ」


何てこと言いやがるんだ。

俺が会長の動きを予想したように、会長も俺の動きを予想していた。それは分かる。しかしこんなにも的確に予測されてたまるか。もはや予知だ。


会長に俺の動きを読まれている……まるで蜘蛛に睨まれているようだぜ。周りには、粘着質な糸が張り巡らされている。


「もしも王人がいるなら、次はこっちか」

「なにっ……!?」


俺が避けた場所へ、会長が走ってきて、左手で殴りかかる。

避けられた。そう思ったのは甘かった。


「そして王人はこう避ける」


しゃがんだ頭に、会長の足が一直線に吸い込まれようと——俺は左手で辛うじてガードしたものの、会長のスキル【豪脚】の威力によって、骨が折れた。


幸いな事に、会長はまだ気づいていない。攻撃の感触と会長が感じる筈の足の違和感に隠密をかけておいたから。


……まあ、気づいてなくても、これじゃあ意味がない。


「ふむ、次はどこかな?」


コール。

コール。

コール……


『こちら健太、なんだ王人。どうぞ』

「生徒会長マジ怖い」

『なっ、お前まさかもう殺りあってんのか!? 待ってろ。お前が死んで体力の失った会長へ俺たちがトドメを刺す。どうぞ』


……こっちが死ぬ確定なのかよ。ってか、どうぞって何だ。何の影響を受けている。健太だからあれか、メタルな歯車か。こちらHQとか言い出すんじゃなかろうな。


「冗談抜きでさっさとこい。3人がかりで殺るぞ」

『んな事言ってもよぉ、忍の野郎が遅いんだよ。

——ほれ、もっと走れ! 王人様のお怒りだ。お前絶対に塩水風呂の刑だぞ!

……ってなわけだが、もうすぐ着くはずだ。どうぞ』


もうすぐか。なら、そこまで頑張ろう。塩水風呂は何のこっちゃ。


……見ると会長は思案している。ここを攻撃すれば勝つんじゃないか?

そんな訳ないな。自分の考えをすぐに否定する。きっと、避けられるに違いないから。体力は断然に俺の方が消費している。持久戦に持ち込むというのなら、無駄な動きはできない。


「やはり王人は何らかの方法で隠れているはず。つまり、いるにはいるという事だな。

性格。状況。時間。

……次は、そこか」

「勘弁してくれよな、全く!」


秘技 一刀閃


飛ばされた斬撃は、しかし「そろそろここを攻撃だな」とか意味不明な事を言って避けられた。何なのこいつ。



——よくよく考えてみれば、俺が隠密をかけようがかけまいが、そう変わらないのかもしれない。


会長のスキル【剛爪】を避けながら、そんな事を思う。いや【豪脚】もだな。【威圧】もかけられている。【空歩】使って三次元の攻撃を繰り出してきやがった。


俺はその全てを、避ける。時々際どいながらも、今のところ避けられている。

刀術スキルをなめてもらっちゃ困るぜ。さっきは不意打ちとも言ってよかったからあれだが、例え片手を損傷して予想以上にバランスが崩れていようとも、しっかりと警戒さえしていれば、避けきれない道理はない。


——と、ここでひとつ、会長が何故あんなにスキルを取っているのか説明した方がいいのかもしれない。


言わずもがな、【天衣無縫】の所為だが。


天衣無縫というこのスキルは、他人のスキルを奪う……いや、違うな。奪いはしない。例えるなら、見稽古の類。見るだけで会長は、スキルを自分のものにできる。


見た対象のスキルを習得し、自然の様でそれを使いこなす。元々自分のものだったかのように違和感はなく、ぎこちなさも感じられない。


【剛爪】とは、結構な比率で大体の魔物が使えるスキル。自身の爪を強固にし、其れそのものを武器とする。会長とはいえど人間の爪はそれに適合しなかったので、あくまでも自然に、会長は魔力で爪に見立てる事で剛爪を使いこなす事が可能となった。


【豪脚】はオークとか大型の魔物が大体は持っているスキル。一言で言えば、足スゲェ。これは普通に会長も使えていた。


【威圧】はリーダー格の魔物が持っている。会長はこれを、殺気と魔力の放出を組み合わせて、もっと凶悪なものにしている。


【空歩】はまあ、ちよっとした魔物が持っていたりするんだが、空を歩けるスキル。原理? わからん。出来るから出来るのだ。


……ちょっとズルい気もする【天衣無縫】といえど、それなりのリスクはある。

相手のスキルは見ないととれない。俺のように存在くらいを隠していると、会長も俺を認識できていないからスキルはとれない。

そして例えスキルを取った場合でも、その取った時に、酷い頭痛がする。

表現が生やさしかった。精神が強くない者なら、いっそ自害したいと思わせるほどの激痛が頭を駆け巡る。


自然に、という事で、相手の今まで戦闘経験なんかも一瞬で自分の糧にするものだから、情報量が半端なく多いのだ。


——結論。


だから、まだまだ他にもスキルを持っている会長は、やはりおかしい。


「こんのっ化け物め!」


刀で千切りにしようと試みて、


ヒュンーーッ


と、俺ではない攻撃。そして、会長でもない攻撃。1本の矢が、会長の太ももをかすめた。

会長はその出処を探ろうとし……俺と同時に見つけた。独特な形状をした弓を持つ狩人殿を、遥か遠く、4つも5つも先の建物の屋上で。


「あれは確か、王人の……」


会長が意識に隙を作ったその一瞬。俺は、刀術最速の技、秘技 居合斬りを発動した。


……服の切れ端。


俺が初めて会長に傷をつけた瞬間である。「多分そろそろくるか」と思ったのか、一応会長は避けていたが、服の異変には気づいていない。俺との戦闘で会長は学習を出来ない。反省するといった事が出来ない。今のがもっと射程の長い攻撃だったら……


——いける。


確実に殺れる。

いや、殺るんだ! 何を臆病になっていた。何故全力を出していない。相手はあの会長だ。何で俺は、異世界に来てまだ早いんだから本気は見せたくないなぁなんて甘っちょろい事を考えていた!


確実に殺る。出し惜しみはしなくていい。



「出でよ、デュラハン」



魔物使役の能力、換装。


“死の鎧”



この前、狩人殿を運ぶ時は足だけだったが、今回は全員分。2体は両足。1体は右上半身、1体は左上半身。そして最後に頭。死の鎧の副作用みたいなものとして、今だけ首は取り外し可能となった。あと一つ副作用的なものはあるのだが、今は関係ない。

この鎧は俺の身体能力を底上げしてくれる。防御力はさほどないが、あるとなしでは全然違う。


「俺のこの姿を見たもので、生きていた奴はいない」


言ってみた。

初めて見せるというのに。そして、どっちみち会長には見えていないのに。


……そして、まだだ。


「出でよ、カオスドラゴン」




魔物使役の能力、換装。


“黒刀”



本来刀になるスキルだが、俺は既に一つ持っているので、右手にある刀へ強化、カオスドラゴンの力が上書きされる感覚がする。



刀身は禍々しく、やがて純粋な黒に変わった。闇を飲み込む漆黒。会長の【威圧】より、遥かな存在感を感じた。

見えないはずの会長も何かを感じ取ったのか、眉をピクリとさせる。


……だが、さらに!


「出でよ、スライム。マジックスライム」


これらは換装させるまでもない。物理において最強の防御力を誇るスライム。魔法においえ最強の防御力を誇るマジックスライム。魔法において紙装甲のスライム。物理において紙装甲のマジックスライム。


実は最近、マジックスライムも覚醒済み。同じスライムだからやりやすかった。マジックスライムはオレンジゼリーみたいだから、いずれ食したいと思う。


……黒と少しの白が混じった“死の鎧”に、スライム達が付け加えられる。右手の甲に青い宝石のようなものがついたり、関節部分に邪魔にならないよう入り込んで、動きを滑らかにしたり、この子達優秀だわ。従順で可愛すぎる。


「さて、準備万端……ん?」

「む?」


俺も会長も、ここで異変に気付く。


暗闇。


太陽が雲に隠されたとかのレベルじゃなく、辺り一面が真っ暗になる。慌てて上を見上げると、これまた巨大な何かが、俺たちを潰さんと迫ってきていた。


ちょっと怖くなって斬撃を飛ばしてみたが、ちゃんと斬れた。黒刀を馬鹿にしてはいけない。……しかしこれは、巨人に爪楊枝を刺すようなもの。大したダメージにはなってないはず。


「……これ、無理じゃね?」

「これは……無理だな」


会長と俺の意見が被った。


——デウス・エクス・マキナ。


そんな言葉がふと浮かんだ俺は、次の瞬間、青白いエフェクトをガラスの割れる音と共に撒き散らした。


〜〜〜〜〜




『生徒会長、副会長、狩人殿、生徒会書記、生徒庶務が死亡しました。生徒会長、副会長、狩人殿、生徒会書記、生徒庶務が、犬 燈華に敗れ、死亡しました』




いぇーい。ピースピース。

地平線の遥か彼方まで、このミスリ……ミスル……ミスなんちゃらで埋めてやった。

もっと上、大気圏くらいからやっていれば、恐竜絶滅威力を出せたかも。


でも、十分。これで兄は首輪をつけなくていいのだ。


「……だけど、やっぱり兄に土下座はしておこうかな?」


◇◇◇◇◇


「……で、つまり、健太……お前は先に妹と合流出来て、お空へ飛ばしておくれというお願いを聞いたんだな?」


これは質問ではない。

尋問だ。


「は、はい、間違いないっす。俺も何言うかと思ってたんすっけど、燈華ちゃんに上目遣いで頼まれたら断りきれねぇっす。はい」


まあ、そうだろうけど……俺もきっと断りきれなかっただろうけど……


俺が燈華をみると、ピースされた。いや、あれはブイか。勝利のV。


「……それで、実際に剣闘術かなんかと魔法の組み合わせで空高く妹を舞い上がらせる事に成功した、という訳だな」

「間違いないっす。自分深く、ふかーーっく反省してるっす。はい」

「ふむ……」


今度は妹には質問する。

これは尋問ではない。お願いだ。


「何をしたか教えてくれないか?」

「私のスキルで、ココさんに貰っておいたミスなんちゃらを極限まで大きくさせて、プチッと」

「プチッと?」

「いつの間にかアリを踏んでたみたいに、プチっと」

「プチっと……」


大きくさせる、ねぇ。

俺は昔、妹に対して『ははは、お前って周りに比べて胸小さいなぁ』と言ったことがある。胸の大きさなんてどうでもいいが、大きすぎるのは嫌な俺にとって、褒め言葉のつもりだった。

しかし妹、次の日からマジにヘコんだ。受験に落ちてもあれほど落ち込みやしないんじゃないかと思うほど、マジに。俺はあの日デリカシーというものを学んだ気がする。


……今の妹に、胸の変化はない。


(妹のスキル、人体にまで効果はあるか?)

《無理です。例えば、指を大きくしようとも出来ませんし、胸を大きくしようとも、同じです》


なるほど……まあ、別に胸の話は関係ないだろうと思い込む事にした。


「兄、私……頑張った?」

「まあ、頑張ったな。釈然としないが、これでこちらの勝ち。そうだろ美人さん?」


俺たちは、最初のクイズ番組らしい場所へと戻っていた。大きな画面には、残念そうにしている美人さんがいる。何故残念そうにしているかは、言わなくても分かるだろう。


『そうだねー。最後は意外だったけど、勝ちは勝ち。王人君に首輪はつけられない。

そして、今後一切王人君にバーチャルウォーズで敵にならない事を、こっちの3人は約束してもらう。絶対にね』


3人を見る。

会長はいつも通りだった。ふむふむと頷いて、きっとさっきの戦いを反省しているに違いない。あれは反省以前の問題だったが。

風紀委員長は残念そうにしていた。ぐぬぬぬと拳を握りしめ、そんなに俺へ首輪をつけたいのかと思う。

一方、霰は顔を赤らめて俯いていた。自分がやり過ぎたと分かっているらしい。今回の一件をダシにすれば、むこう1年くらい従順になってくれる気がする。


「ま、なんにしても勝ちは勝ちだな」

『うんうん、それじゃあ最後に忘れない内に言っておこう。

犬 燈華ちゃんにはベスト殺戮賞として、バーチャルポイント5000追加ね。バーチャル内で使っても良し。ダンジョンポイントに換算しても良し。

自由に使いなよ』


グッとガッツポーズしていた妹。いいなぁ、俺も欲しい。この頃、無駄遣いしすぎてダンジョンポイントが寂しくなってきたんだよ……はぁ。


美人さんはそんな俺を見る。少し期待したがベーっと意地悪く舌を出すだけで、次にクルリとその場で回った。

……ケチ。


『それじゃあ今回はこれで終了。ちゃーんとVRDG実装されるのは、1週間後くらいになるかなあー? またのご利用をお待ちしているね』


プツンーーッ

画面から何もかもが消えた。そして俺たちも、段々と姿を消えていく。


戻るのだ。随分と久しぶりな気がする、自分のダンジョンへ……


◇◇◇◇◇


足を一歩だけ前に出す。

ああ、これだ。カチコチのコンクリートではない、自分のダンジョンの床。俺にはすでに、こっちの方が懐かしく感じた。


「いやぁー面白かったぜ」


俺以外にも、バーチャルゲートから続々とみんなが出てくる。

健太はググッと肩を伸ばして、はぁーと息を出した。


「早くやりてぇーなこれ。他にも色んな遊びが出来るんだろう?」

「まだ1週間はかかると言っていただろ。なんだ、書記の癖に記録もしていないのか」

「うるせぇーよ、こういう些細なのは庶務の仕事なんだボケ」


こいつらはいつもこんな感じだ。喧嘩というより、ジャレあいだな。


「って、こんな事してる暇はねえんだ。俺には女が待っている!」

「サポートキャラだろ」

「へんっ、それがどうした。俺は今、あの子と真面目に恋を育んでんだ邪魔するな」

「どうだか……ん?」


忍が、部屋の出口を見て何かに気付く。俺もそちらへ向くと……ラピスが走ってきた。ボルトなんて目じゃない、本気でそう思った。


「っと、ただいまラピス」

「んっ!」


子供ってのは頬をこすり合わせたいものなのかねぇ。俺のワガママで寂しい思いをさせてしまったのだから、好きにさせる。

そんな俺とラピスを見て、健太と忍は目尻に涙を浮かべていた。何、純情?


「ううっ、見たかよ忍。あれだ、俺はああいうのを望んでいるんだ。

待ってろよ凛子ちゃん! 俺もすぐに帰ってくるからな!」

「……いいな。可愛い。くそっ俺も早く会いに行きたくなってきた。

じゃあな王人。俺は帰らせてもらう! 待ってろよロザリーちゃん! パパは今帰るぞ!」

「おう、今日はサンキューな」


おうおう、そんなに急いじゃって、よっぽど自分のサポートキャラに会いに行きたくなったらしい。

……あれなら、大丈夫そうだな。サポートキャラは、ダンジョンの主と成長していく。間違った成長をすれば、とんでもないサポートキャラまで出来てしまうという事だ。

場合によっては、ダンジョンの主に刃向かったり、な。


「ラピスは大丈夫だよな?」


ラピスはなんの事か分かっていなく、「ん?」 となり、きっと分からないまま、「ラピス、大丈夫」と自信満々に言い放った。

何の根拠も説得力もない言葉に、しかし俺は安心したのだった。


「さて、じゃあ今日は夜までずっと遊ぼうか、ラピス?」

「っ……夜まで!」


11階にあるアスレチック広場には、まだまだ遊んでない遊具や道具がたくさんあるし、それに、いつの日かラピスに構えなくなる時間が増えてくるはず。

だったら今くらいは、一緒にいる時間は大事にしないとな。


「妹はどうする? 何ならそっちのサポートキャラも連れてきていいが」

「私はサポートキャラ作ってない。得体の知れないものだったから」

「なるほど」


確かに、この件に関しては妹の方がよく考えている。監視役的な可能性もあった訳だし。警戒するのは間違ってない判断だ。


「あっ、なら王人、ボクのところのキングジュニアも連れてきて……だから何でそんなに嫌そうな顔をするのさ!?」


だって……なぁ。どう接すればいいのか分からないから、連れてこられても困る。どマゾの取り扱い説明書があれば別だけど。


——結局、キングジュニアは無理という事で、ココは自分のダンジョンへ戻る事に。いつの日かキングジュニアとも接する日が来るのだろうか……俺はその日が来ない事を祈る。


ラピスとは妹共々、しばらく一緒に遊んだ。高校生にもなると本気で鬼ごっこなんて苦痛でしかないのだが、実際に足の速さじゃ俺とラピスは似たようなレベル。本気で逃げないと追いつけないし、逃げきれない。妹も高校生レベル。

しかし、狩人殿が半端じゃなかった。狩人殿は本気を出さずとも、誰も追いつけないし、逃げきれない。最後に俺とラピスと妹3人が鬼になって一斉に襲いかかり……あともう少しという結果で終わる。いかに地球が平和だったかを実感した。

まあ、狩人殿が結構特別なんだろうけど。


……今はだるまさんが転んだをしている。動いても首は吹っ飛んだりしないから安心してほしい。


動きを止めるなんて、簡単そうで難しい事をやりながら、俺は今日の会長戦を思い出していた。最後は何とも締まらなかったが、どうせなら戦いたかった。全力で、殺りたかった。


実力でなら、きっと俺が勝てていたと思う。向こうはどちらかというと成長型。まだまだ発展途上。俺が本気を出せば、簡単に勝てていたのかもしれない。

だが思うじゃダメなのだ。俺は、勝ちたかった。実感が欲しかった。これから敵にならないであろう会長と俺が全力で戦う日は、もう2度とこないかもしれないから。


……しかし、文句もあろうはずがない。むしろ感謝感激雨霰。

ラピスの3回目の「だるまさんが転んだ」を聞きながら、そういえば……と気付く。

そういえばまだ、ちゃんとお礼を言っていなかった気がする。

思い立ったが吉日。

目の前でお釈迦様の格好をした妹の側に行く。俺は、対抗するようにキリスト教のイメージで佇んだ。


「どうしたの、兄」

「いや、今日はありがとうって。頑張ったとかじゃなく、純粋な感謝の気持ちだ。お前がいてくれてよかった」


俺がそう言うと、妹は顔を赤く……してくれれば可愛げがあったものの、無表情でドヤ顔をした。

何を言ってるか分からないだろうが、自分でも何を言っているか分からない。

とにかく、「ふっふ、当然」と妹は言った。嫌味じゃなく爽やかな雰囲気は、きっと妹だから出来るのだ。


「これからも兄がそう思えるよう、私は頑張る。絶対に……生きる」

「そりゃ、死んだら困るぞ」

「うん、とりあえず今日のは貸し1」


抜かりねぇ。しかし、妹にいい様にされるのは兄としての立つ瀬が……


「だーるまーーー……さん……がぁぁ」


いい事を思いついた。

妹に更に近づく。向こうは俺を横目で見て訝しんだが、もう遅い。


——妹は耳に弱い。俺は弱いそこへ、優しく息を吹きかけた。


「ひゃうっ!?」「コロンだ! ……そこの人、動いた。まけ」


妹は涙目で俺を睨みながら、渋々ラピスの方へ行き、手を繋いだ(・・・・・)


……そっか。


俺は更に更に、いい事を思いついた。


「だーるま、さんっがー、こぉーーー……ろんだ!」「おっとと、あちゃー動いてしまったー」「……オトーさん、まけ」


敗者のするべき事はただ一つ。俺は、妹とは反対側にいき、ラピスの手を握る。


「あっ」

「どうしたラピス」

「……ううん、何でもない」


口ではそう言いながらも、笑顔を隠しきれないラピス。

しばらくこのまま、俺はラピスと手を繋いで——しかしこの後、本気を出した狩人殿によってすぐに勝負はつけられる。


「何だかイラっとしたです」とか訳の分からんことを言いながら、大人気ない狩人殿。


……今日の遊びは、狩人殿の身体能力スゲェで終わったのだった。

明日は冒険者ギルドへ行こう。あそこは魔物退治やダンジョン探索だけじゃなく、何でも屋みたいに依頼が貼り出されている。

俺も、何でも屋に依頼したい事があるのだから……

◆後書き◆

すいません、作者風邪で更新遅れました。というか、現在進行形で熱が……


本当はもっと会長戦を詳しく殺る予定だったんですけどね。やっぱり作者は戦闘が苦手らしいです。ほのぼのがいいなぁ。

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