チャット機能
◇◇◇◇◇
まずは、チャット機能を表示させて、【全員】をタッチする。そもそも【女性】は表示されなかった。
既に幾つかのお題が表示されていて、まずは【頑張ろう!】というありきたりなのを選んだ。
◇◇◇◇◇
【頑張ろう!】投稿日 : 2016/06/03 (金)14:25:06
1 名前 : 名無し
このスレは異世界へ来たみんなが一丸となって生き残る為のスレだ!
まずは異世界で生きるにあたって最低限のルールを決めた
・他の人のダンジョンにはいかない事
・フレンドについてはよく考える事
・むやみやたらとコールしない
ざっとこんなもんだ。まだこれから増えていくかもしれないが、とりあえず頑張ろう!
2 名前 名無し
>>1乙
3 名前 名無し
>>1乙
4 名前 名無し
乙ってのは、お疲れって事?
5 名前 名無し
>>1乙
6 名前 名無し
>>1乙
>>4
そんな感じ
7 名前 名無し
初めてこういうのやって少しドキドキ。よく分からないけど
>>1乙
8 名前 名無し
>>4
>>7
なるほど……俺みたいな人間は少ないって事か。よくて半々かな?
もっと少ないかも
9 名前 名無し
俺はこのチャット機能で、異世界を生きれる自身が湧いてきた
あの美人さんマジ感謝
10 名前 名無し
>>9
同じくwww
そして美人さんは何者www
11 名前 名無し
>>1乙
とりあえず美人さんは神だとマジレス
だがそんな事はどうでもいい
美人さんは美人さん
12 名前 名無し
>>11
お前が正しい
13 名前 名無し
じゃあ今からあの人の事は美人さんと呼ぶ事にしよう
これ、次スレのルール確定
14 名前 名無し
みんなスキル何とった?
15 名前 名無し
>>14
おい止めとけ
16 名前 名無し
これはスキルについてもルールに加えないとな……とりあえず14は頭働かせろ
詳細は、美人さんがくれた冊子の最後
17 名前 名無し
>>16
おおっふ……
なるほどルールで他のダンジョンにはいかない事って、保険の意味合いも兼ねてか
ギクシャクするのは嫌だもんな
でもこれスキルに関しては誰が誰か分からないんだから、ギリギリセーフなんじゃね
18 名前 名無しの長
美人さん美人さん皆は言うが、殺意を抱いているのは私だけか?
19 名前 名無し
スキルはとりあえず自己責任かな
因みに俺は【炎魔法】
さっきやろうとしたが、魔力少なすぎてしょぼっwww
20 名前 名無し
>>19
お前勇者だ
19に敬意を称して俺も宣告しよう
【雷魔法】だ
さっきやろうとしたが、魔力少なすぎてしょぼっwww
21 名前 名無し
>>19
>>20
お前らバカすぎ。
俺みたいに【魔力促進】とっとけよ
……【魔力促進】、これ鍛錬で魔力を増やすスキルだった
しかもレベル低くて上昇度が微々たるものだから、今は魔法しょぼっwww
22 名前 名無し
正解は俺の【魔力倍増】だったか……
……しかし倍増したところで、今のところしょぼっwww
23 名前 名無し
スキルはこれ以上言わないでおこうよ。何だか怖いし。
それよりも私のダンジョンって殺風景で寂しい所なんだけど、みんなはどう?
24 名前 名無し
>>23
きっとみんな同じ。
25 名前 名無しのカキカキ
おい聞けお前ら
フレンドじゃなくても、プレゼント機能で指名した相手に何かを贈れるらしいぞ
もちろん相手が了承する事を前提だが、とりあえず友人に靴下送ったったwww
26 名前 名無しの雑用
>>25
冊子には書いてなかったな……他にも隠れ機能があるかもしれない
俺は、友人から靴下送られてきたので、拒否した
アイツいつかぶっ飛ばす
27 名前 名無し
まだサポートキャラについて何も書かれてないのが不思議
聞いて驚け、俺の前には今美女が立っている。言ってる事分かるな?
それに、こいつは俺に従順だ。やりたい事……分かるな?
28 名前 名無し
>>27
お前神だ
29 名前 名無し
>>27
クズ、最低。
30 名前 名無し
……俺、卒業してくる
31 名前 名無し
男ってこれだから……
32 名前 名無し
>>31
あんな奴らと一緒にするな
モフモフこそ至高
33 名前 名無し
私、32の名無しさんとは仲良くなれる気がする……!
34 名前 名無し
>>32
>>33
【モフモフこそ至高】
スレ立てちゃいました
35 名前 名無し
34優秀
36 名前 名無し
>>34乙
◇◇◇◇◇
——ここで終了している。いや、現在進行形でどんどんと増えているが……意外とみんな楽観的?
そもそもチャット機能を使っているからこそなのか。まだ現実逃避をしている人間も少なくないだろう。ショックで寝込んでいる奴もいるかもしれない。18みたいに、彼女……いや美人さんの理不尽さを恨んでいる人間だって同じ事だ。
「サポートキャラ……か」
実は気になっていた。
さっきのゲスじゃなくて、成長するというところがだ。
もちろん性別は女にする。いや、本当にゲスじゃなくて……何故むさ苦しい男なんぞ作らないといけないんだ。字面だけで恐ろしい。
キーボードからサポートキャラ作成を選択。ディスプレイにずらりと項目が表示された。その中でも最初に【女性】をタッチ。
—————
顔の形:
目、鼻、口:
髪型:
声:
服装:
身長:
体重:
座高:
スリーサイズ:
口癖:
性格:
—————
……ふむ、特技なんかはないと思ったが、性格はあるみたいだな。成長というものだからずっと同じ性格な筈はないと予想するが。
顔の形をタッチすると、またずらりと数え切れないほど表示される。何なのかね、スキル選びといい、見るのが嫌になってくる。
目、鼻、口。髪型や服装なんかも言わずもがな。
——だが、これは神の仕業か。神であったとしても決して美人さんじゃないなと確信しながら、便利なボタンに目がつく。
【ランダム】
……非常に賭けだ。これは、もしかしたらゴリラみたいな筋肉女になる可能性だってある。逆に赤ん坊みたいな……流石にそれはなかった。限度というものはちゃんと存在しているらしい。
「ふぅー……信じるか」
前にも言ったような気がする。俺は、自分の直感を疑いたくない。それは自分自身を否定しているようで嫌になるから。
つまり——ランダム決定!!
一直線にタッチして、軽く太鼓を叩いたようなマヌケな音がすると、次の瞬間にはディスプレイが消えた。その代わりに前方へと光の粒子が現れて、それは絶えず収束を繰り返している。
過度な演出だと思いながら、最後に光の柱が立ったそこを見つめる。
——徐々に光の粒子が離れていき、サポートキャラの全貌をあらわにした。
顔はまだ見えないが、服装はメイド服。身長は小さい方……150いってるかいってないか? 体重は知らん。スリーサイズも……いや胸は大きくないようだ。
「……」
サポートキャラは何も喋らず、こちらをじっと見ている。やっと光が完全に散って容姿が確認できたが、なんと青色の髪をしている。すごく驚いた。俺が知っている青色の髪と言ったらカツラだ。コスプレイヤー共のカツラだ。
だが、こいつは違う。
もう、青こそ考えられないくらい、それが自然体。不自然の欠片もなく、違和感なんて微粒子ほども存在していない。
「……」
そして、サポートキャラは……まだ何も喋らない。あれ、指示待ち?
そういえばと、もう一度ディスプレイを表示させてサポートキャラの画面を見ると、ランダムで出来た情報が開示されていた。
—————
【個体名称: ラピス】
顔の形: 美女
目、鼻、口: 美少女
髪型: ミセス 群青色2:スカイブルー8
声: 美少女
服装:メイド服
身長:149.1
体重:39.0
座高:71.5
スリーサイズ:秘密
口癖:無
性格:若干、無
—————
……順番にいこう。
——まずラピス。これはさっきまで無かったはずなので、個体名称もランダムされちゃった?
ラピスってラピスラズリの事かな……まあ、名前が決まっているのならありがたい。自分のネーミングセンスがいい方とは思えないから。
——次は顔の形と、目と鼻と口。
何だこれ? ざっくばらんとしすぎじゃないですか?
美女と美少女って……え? いや、文句はないけど……ないけど!
——髪型と服装はいい。次にスリーサイズ……いや、いいけどな? 別にそこまで知りたいとは思ってないよ。ただ、秘密ってなんだよ秘密って。これはランダム故の弊害か?
——最後に口癖と性格。
無って! 無って!
さっきからラピスがこちらをじっと見るだけしかしない理由がやっと分かったよ。
それと口癖が無ってことはなに、無口キャラでよろしいんでしょうか。
性格が無ってことはなに、まだ感情のないお人形さんみたいな感じ?
「あー……ラピス、お手」
「……」
してくれましたよ。
こちらへ歩いてきて、ポンって。少し罪悪感が生まれてしまった。
だが、従順なのは理解した。きっと死ねと言っても死ぬんじゃないだろうか。勿体無いのでそんな事はしないけど。
——次に俺は、ジャンケンをした。
結果は俺が2回勝って、最後にラピスの一勝。つまり、自分で考える力はあるというわけだ。
とりあえずこんな所か。サポートキャラは一旦無視しよう。さっき試しに歩き回ったが、俺の後ろをパーティキャラのようについてくる。勝手に行動する事は、今の所なさそうだ。
——と、ひと段落がついたところで、玉座からは離れているはずなのに、俺の前方へディスプレイが表れた。
そこには、ココの名前が表示されていて、同時に【拒否】か【承認】の2つが。
俺は、コールされたのだ。
◇◇◇◇◇
何故か汗が出る。
言い知れぬ緊張感に包まれながら、しかし断るという選択肢は存在しない。
……俺は、【承認】をタッチした。
『……お、王人?』
耳元で声がする。携帯の電話と何も変わらないな。
「大丈夫かココ?」
『っ……よ、良かったぁ。本当に良かった。無事なんだね王人。
うん、ボクは大丈夫だよ。ちょっと怖いけど……今は王人の声がして安心だ』
ぐふっ、こいつ、ココはこんなところが怖いんだ。何で同性にドキドキせにゃならん。
だが同時に、ココにならドキドキしてもしょうがないと思う気持ちが……コホンッ、この思考はやめとこう。イロイロと誤解される。
「俺もココが無事で安心だ。
まずはこちらの近況を報告しようか。とりあえず玉座の機能はあらかた確認した。今は丁度サポートキャラを作り終えたところで……ココ、お前サポートキャラは作ったか?」
『え、うん、ボクもさっき』
「男だよな?」
『うん? 確かに男の子だね……ちっちゃくて可愛いよ。王子様って感じ。
——女性にするのは何だか恥ずかしくて』
天使だ。天使がいる。
お前はそのままでいてくれココ。チャット機能にいたクズ共にはなるなよ。
「他にも色々聞きたい事はあるんだが……今はよしておこう。じっくりと考えたい事があるしな。
例えば、同郷の奴を殺してスキルをゲットしたりだが、それについても相手の意図を理解したい」
『……そっか、そうだよね。
ボクは王人とフレンドになりたいと思ってたんだけど……ダメだよね』
——これだ。これが、俺の感じていた緊張感。フレンド申請されるという、恐怖。
フレンドになると、互いのダンジョンの位置が分かる。そして、互いのダンジョンを行き来できる……ここで考えなければいけないのは、ダンジョンの主を俺たちが殺した場合、その者のスキルを自分のものに出来るという事。
ココなら大丈夫だ、ココなら。あいつはそんな事しない。蟻んこ1匹にさえ気を使うような奴だ。人を殺すなんて事、出来るはずがない。
……だが、そういう問題じゃない。そんな理屈を並べたって、本能が拒否している。
——行くなと。行ってはダメだと。
これは保険だ。
ココは俺を殺さないが、例えば洗脳でもされていたら? 脅されても友達を売らない筈のココだが、スキルか何かで洗脳されてたら話は違う。俺の隠密じゃ、どう考えても勝てない。逃げるしかないのに、ワープゲートを抑えられたら終わりだ。
……殺されるという前提条件で動かなければならない。じゃないとこの異世界、すぐに死んでしまう。
——1つ分かったよ。
美人さんは、やっぱり性格が悪い。あいつが俺たちを異世界に連れてきたのは、決して善意からじゃない。むしろこちらからすれば悪意の塊。
美人さんは、楽しんでやがる。
「……さっきも言った通り、まずは状況を整理したいから。フレンドになるのは、もう少し先でいいか?」
『う、うん。問題ないよ。
待ってる……ボク、ずっと待ってるから』
ぐふっ……やっぱりお前ずるいぞ。
——きっと、ココは俺の考えを分かっている。何年間も一緒に居たんだ。あいつの考えている事が俺に分かるように、俺が考えている事もココには分かる。
その上でココは、待ってると言ってくれた。
だったら俺は強くならないと。死なないために強く生きないといけない。
「じゃあなココ」
『うん、またね』
……とりあえず、スキルを試すか。
◇◇◇◇◇
まずは【異世界知識】
レベル10なんだから、期待していいはず。おかしな話だが、使った事はないのに何となく使い方は分かるので、美人さんについてでも聞いてみようか。
(美人さんは何者?)
《他者を超越した存在。この異世界を創った存在》
ふむ……神と思ってもいいだろう。正直正体についてはどうでもいい。そんな事知ったって、どうにかなる訳でもないんだし。
地球に帰れるか、という質問も同じ。きっと帰させてはくれないと確信している。
(俺の【隠密レベル10】は、どこまで通用する?)
《全てに——とは、断言できない。美人さんはもちろん、他のスキルレベル10には怪しいところ。だが、『通用しない』という事はあり得ない。
レベル10とはそういうもの。レベル9とは隔絶している。つまり2つともレベル10をとった貴方は、この異世界でもかなり楽な方》
(……異世界知識も?)
《もちろん、レベル9なんかと一緒にしないでほしい》
(何だか会話できてる気が……)
《それは私が、レベル10だから。レベル10の異世界知識には感情がある。
例えば貴方がサポートキャラのスリーサイズを私に聞いても、答えない》
それは……レベル9より劣ってるんじゃ? 聞くつもりはないので、スルーするが。
(これから俺が強くなる為には、どうすれば手っ取り早い?)
《強さの定義があやふや。
だけど、その答えは簡単。他のダンジョンの主を殺せばいい。
……これは既に、貴方が考えている事だから、意味はないけど》
(あれ、俺の考えが分かるんです?)
《ただの推測》
本当だろうか……いや、まあいい。
異世界知識がどれだけ通用するか調べてみよう。
(ココが取得したスキルは分かるか?)
《答えれる》
(言わなくてもいい……そうだな、じゃあ俺の妹はこの異世界に来てるのか? 300人も確かめるのはキツくて……いたとしてダンジョンの位置は分かるか?)
《貴方の妹は来ている。それと、異世界から来た全てのダンジョンの位置も分かる……けど、これは教えられるのと教えられないのに分けられる。恐らく、美人さんの妨害》
妨害してくるのかよ、美人さん。何だそれ、俺が自由に他人のダンジョンを知るのは不満って事か。
まあ、知ったところでフレンドではないんだし、ワープゲートは使えない。自身の足で行く事になるが……これはキツイ。遠すぎる。今のところ歩きは選択肢にない。
(最大魔力値を増やす為には?)
《魔法を使えばいい。だけどこれは才能が依存しているし、貴方は魔法を知らない。
もちろん異世界知識である私なら生活魔法から古代魔法でさえ教える事も出来るけど、貴方自身が使えるかは厳しいところ。
地道に増やしたいのなら、最初は生活魔法から》
ふむ……やっぱり厳しいな、魔法は。普通に憧れてたんだが、世の中そう上手くはいかないらしい。
いつか、エクスペクなんちゃらで守護霊なんか呼び出したいところだ。
(これは聞き流してもいいが……異世界知識さんって、もしかすると擬人化したりするんです?)
《……えっちぃ》
(お前何を考えた。
ただの疑問だからな?)
《答えは、何らかの道具を使えばいいかもしれない……何らかの魔法やスキルを使えばいいかもしれない……それとも、終わりこそなるもの……かも》
(かも?)
《教えたくない》
そうきたか。ここで感情が邪魔をしてくる。いや、擬人化するから何だ。自分で聞いておいてアレだが、どうでもいいや。
(ひとまず、隠密を試してみるかな)
《なら、私は寝る。ぐぅぅ……》
異世界知識さんは寝るんですね。本当、レベル10だ。
異世界知識さんだけじゃなくて、今度からあり得ない事は、全てレベル10のせいに任せよう。
『あ、あいつまさかレベル10!?』
『くっ……これだからレベル10は』
うん、容易く想像出来る。
〜〜〜〜〜
——隠密は、すごい。
殺気なんて感じない、気配なんて分からない俺からしても、自分の存在が消えていくのを実感した。このまま本当に消えるんじゃないかと思えるほど、怖いくらいにすごい。
だが面白いものも発見できた。
俺が隠密を軽く使うだけで、すぐそばに居たラピスがアタフタしだした。俺が見えなくなったのだ。
新鮮だと思ってしばらく見ていると、いじけて体操座りをするもんだから笑ってしまい、だけどバレないのはどういう原理だよ。
……そろそろかなぁと思って、隠密をとくと——ラピス泣いていた。いじけてたというか、寂しかったらしい。
流石に泣くのは予想外で、こっちが困る。慰めるために赤ん坊をあやすが如く頭を撫でて、今は寝ている。
女性とはいえ、ひと1人を抱えて下の階のベッドまで運ぶのは骨が折れると思ったから、膝に頭を乗せて休ませている。ほんの少しドキっとなるのはしょうがない。俺も男なんだ。
——一応だが、隠密の効果は確かめれた。親切で応用編を教えてくれた異世界知識さん——寝る意味あったのか?——に感謝する。効果を知って天狗になりそうだが、俺だけが特別じゃないんだ。自重しよう。
ああそれと、妹からコールされたんだった。内容は簡単で、『無事?』と聞かれたから、『無事』とだけ答えておいた。俺はシスコンじゃないし、妹はブラコンじゃないし……こんなもんだろ。
『フレンド申請する?』とも言われて、『まだ止めとこう』と……向こうも了承してくれて助かった。
他に報告は——生徒会スレに俺が入ったことくらいか。一応副会長に入っていたので、何となくで。
パスワードがあったが、お題が【生徒会執行部スレ 俺たちの生徒会長は?】だったので、生徒会メンバーならすぐに分かる。
お決まりのアレだから。
……答えは
【マジ怖い】
膝の上にいるラピスを起こすような真似は出来ないので、移動しようにも動けない。俺は異世界知識さんを起こして、生活魔法を練習する事に……
——結果、1時間かけて魔力最大値は1増えた。
……本当に難しい。異世界知識さんの話では、こちらの世界で5歳児くらいでも使える者は使えるというのに……俺はチョロチョロと水を出すのが精一杯。
異世界知識さんに分かりやすく教えられた俺がこれなんだから、魔法のスキルを取っていないとは異世界転移組の奴らは、魔法を使うなんて絶望的なんじゃなかろうか。
とりあえずダンジョン保有魔力が1になったが、保留だ。
——ラピスは食事が必要じゃないらしい。助かった。
やっとラピスが起きて、俺たちは食堂に行く。3食は朝の6時と昼の12時、夜の6時で……今がその夜6時だから。
しかしここで、とんでもない落とし穴が。
1日3食出ると思いきや——1日3食(分の食料)だったのだ。自分で作れという事。本当、クソッタレだ。
米と味噌、プラス鮭の切り身。
元々俺は料理が『不味くはないよ、でも美味しくもないかな』なのに、食料でさえレベルの低いものだから、今日一番異世界に来た事を後悔した。
〜〜〜〜〜
シャワーを浴びながら、今日を振り返る。ラピスは今だけ部屋から出てもらっている。流石に恥ずかしいから。
———さっきのチャットで、1は優秀だ。短時間でこれから起こる揉め事を回避している。
例えば友人にフレンド申請を送って拒否された場合、「何で拒否したのか」となる。俺のような理由を言えば、普通は「お前俺のこと信用してねーのかよ」となる。
だから1は、「フレンドについてはよく考えること」をルールにした。さらに言えば、例えフレンドになったとしても、「他の人のダンジョンには行かないこと」を付け加え、ひとまずの平和を約束した。
——このまま行けば、同郷の人間を殺すような事態には陥らない。
しかしそれを、美人さんは許してくれるか? 面白くないからと言って俺たちにスキルを与えた美人さんが、この状況を見逃すと?
断言する。そんな事はあり得ない。
いつか……その日はくる。俺はその日の為に、強くならないといけない。
まあだから、今は安心していいだろう。とんだバカじゃなければ、同郷の人間に会おうとする人間はいないはず……ん?
——俺はコールされていた。
名は、音蔵 武蔵。不思議に思いながらシャワーを止めて、了承をタッチする。
『——お、おお王人君かい?』
「そうだが……どうしたんだ?」
『ぼ、ぼく、何をすればいいか分かんなくって、だか、だから王人君に……』
しどろもどろで聞きづらい。そうだ、音蔵 武蔵という人間は、こういう性格をしていた。
俺と武蔵の接点はただ一つだけだと、俺は思う。しょうもないガキ(高校1年生)に虐められていた武蔵を、俺が助けたんだ。
理由なんて、『助けれたから』助けた。逆に『助けられないなら』助けないに決まっている。
……助ける助けないなんて言ってるが、実際は虐めの最中に行為を咎めて、教師を呼び出しただけ。虐めっ子も特に理由は無かったんだろう。穏便に済んだ事もあり、俺の知る限り虐めはそれから起こっていない。
「何をすればいいか分かんないって……今まで何してた?」
『だ、だってぼく怖かったから……こんな所来たくないし……夢だと思いたかったから……その、今まで寝てたんだよ』
ふん……流石に武蔵は極端だとして、やっぱりこういう同郷の奴もいるんだよな。不安で怖くて仕方がないってか。
武蔵にチャットを教えたら、全て解決しそうな気がする。
「じゃあ本当に何もしていないのか?」
『う、うん……だってスキルを使うのだって怖いんだし、何も出来ないよ』
「そうか……」
考える。
今、武蔵は困っている。そして今の武蔵を俺は助けられるか?
……助けられるだろう。簡単だ、とっても簡単ですぐに解決する。
「——フレンド申請を送るから、了承してくれ」
『え、何だって?』
「だから、俺がフレンド申請を送るから了承してくれ。そしたら俺は今から、お前に会いに行ける」
『本当かい! ありがとう王人君! やっぱり、王人君は優しいなぁ』
バカがいた。
「そんなんじゃないって。じゃ、一旦切るぞ——」
ふぅー……あっ、どうやって体を乾かそう。