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みんな違ってみんな良い

◇◇◇◇◇


兄は、大丈夫。

そう信じて私は、目の前の障害を排除するだけ。名前は……知らない。確か、風紀委員長。そう、名前は風紀委員長。名字がどれかも分からない。


「風紀委員長だなんて、変な名前」

「待ちなさい。貴女は絶対に何かを勘違いしているわ」

「?」


何を言っているのだろう?


……っ!


まさか、私の油断を誘う巧妙な罠!

迂闊。

ここに兄がいれば、ため息の一つつかれていたかもしれない程の失態。おかしなことを言って私の気を紛らすという、諸葛孔明もビックリの作戦。


危なかった。


普段から兄に、『人は信用するな。例えそれが血の繋がった家族でも』と言われていたおかげで、早く気付けた。


ふー……私は騙されない。


「風紀委員長、私は貴女を少し見誤ってたのかもしれない。

……それにしても変な名前」

「ストップ。やっぱり勘違いしてるわね」


ふっ、同じ手はくらわない。


「私はもう、騙されない」

「だから……はぁ、何を言っても無駄みたいね。まあいいわ。それによく考えれば、話をする暇なんてないものね。

早く貴女を倒して、王人の所へいかないと」

「行かせない。何故なら——」


直感で分かった。

いや、直感じゃなくても、兄に迷惑をかけるのなら結果は決まった事。


「——貴女は私に勝てないから」

「へーぇ言ってくれるわね。その遠慮のなさ、流石兄妹だわ。

でもどうかしら。貴女は、私のスピードについてこれる?」


そう言った後、風紀委員長は消えた。消えたというよりぶれた。

あれは高スピードで動いている証拠。私の知覚じゃ判断が追いつかない速さで動いたという事。


ありきたりの上か……

右の不意打ちか……

左のフェイントか……

効果的な背後か……


——下からのアッパー。


後ろへ飛び退く。


思った通り、風紀委員長の拳がさっきまでの場所をえぐり取った。


「っ……勘はいいようね。だけど、ラッキーって続かないものよ。

私はお菓子のアレ、チョコ何ちゃらとかいうやつで、たった1度、銀の天使ちゃんしか出た事ないんだから」


そう言った後、また風紀委員長はぶれる。今度は死角からの右ストレート。

左に避ける。

すかさず後ろからの飛び膝蹴り。

右に避ける。

今度は前に現れて、それはフェイント。上からのかかと落としが本命。

前に移動する。混凝土が後ろの方で爆ぜた。少し土が飛んできたので、右手でキャッチする。目に当たったら痛いから。



「くっ、なんで、なんで当たらないの!? 私の方が圧倒的にスピードは速いはず!」

「どうだろう。

もしかしたら私は、銀の天使ちゃんを5回連続で当てた事があるからかもしれない」


嘘だけど。

金の天使ちゃんなら、1度だけ当てた事がある。あの時の喜びは、近くにあったゴミ箱にポイした。


「まるで私の攻撃が分かっているみたいに、ギリギリ……そう、あと少し遅ければ当たるのに、ギリギリを避ける。

最小限の動きで、私の攻撃をことごとく……貴女もしかして、未来が見えているの?」

「未来なんて概念でしかない。私は、今だけを生きている」

「……そう、確かに私も、未来なんて信じないけど。

過去はあるわ。確定している。私の攻撃を貴女が避けたという過去は変えられない。

そして現在(いま)も、あやふやだけどある。この攻撃を貴女が避けるかもしれないという——」


手元の石を投げつけてくる。丁度頭にくると思ったので、首を横に倒した。

思った通り、石は後ろを通り過ぎた。


「——現在もある。そしてそれは、過去になった。

確定した過去。あやふやな現在。だったら未来なんて、私は信じない。そんな不確定なものに頼るなんて、出来っこないわ」


……なんの話?


っ! も、もしかして、また私の気を紛らわす作戦!


犬 燈華もなめられたものだ。そんなズルいマネには、もう引っかからない。


あやふやな現在?


違う。私は負けない。風紀委員長が負ける。私はそう、直感した。


「風紀委員長は自分の速すぎるスピードを持て余している。所々の地面が擦れているのがその証拠。

次、私に近づいたその時、貴女の負けは確定する」

「……確かに、まだ自分の力をうまく発揮できていない事は認めてあげる。

でも、近づく?

いいえ、そんな必要はないわ。そんな事するまでもなく、貴女を殺す事ができる。

気づかなかったかしら。私がなんの意味もなく動き回っていたと思う?

甘いわ。チョコ何ちゃらキャラメル味のように甘い。速さだけが、私のスキルじゃないのっ!」


キラリと、風紀委員長の手から伸びる何かが、太陽の光を反射した。

風紀委員長はニヤリと笑って、それを引っ張る。なるほど、ワイヤーみたいな物だった。さっきの動きで私の周りに仕掛けた細い糸が、今まさに私を縛ろうと……


「だけどその攻撃、私は分かっていた」


直感。

私は右手に持つ砂や石を、自分の周りにばら撒いた。


【肥大】


それが私の、もう一つのスキル。


砂や石は私が触れた物。そして、効果範囲内。大きさを軽く、100倍程度にする。


「肥大せよ」


岩となったそれらが、ワイヤーを下敷きにして地面に落ちる。

急な重さに耐えきれなかった風紀委員長が、さながらペットにリードを振り回される飼い主のごとく、ワイヤーと繋がった腕がガクンと引きずられた。


「なにっ……くっ!」


プチンとワイヤーが切れる。

……ワイヤーではないのかもしれない。そう思ったけど、どうでもいいや。


「チョコ何ちゃらキャラメル味?

残念。私は、ピーナッツ味しか食さない」

「何……ですって。この外道!」


おかしな事を言う。

キャラメル味など、歯にくっつく虫歯製造機みたいなもの。

ピーナッツの風味とチョコのハーモニーこそ、あれは輝ける。


「風紀委員長、これで貴女は私に近づくしかなくなった。

その身をもって分からせてあげる。兄に刃向かうのが、どういう事なのかを」

「くっ……しょうがない。

なら、行くわよ!」


風紀委員長は消える。さて……


ありきたりの上か……

右の不意打ちか……

左のフェイントか……

効果的な背後か……


——素早い逃走。


「……え?」


風紀委員長は何処にもいなくなった。少なくとも、私の周りにはいないと、直感で分かる。


……不戦勝。


確かに勝ちはしたけど、負けはしなかったけど……うーん。今から走っても、どうやってたって追いつけない。それに私は、走るのが嫌い。


……っ!


まさか、始めっからこれが狙い!?


チョコ何ちゃらとやらで私の意識を誤魔化し、本気で攻撃してくる事によって、確実に逃げないという思い込みを作らせる。


うぅ、ここまでの策略、改めて思う。風紀委員長は只者じゃない。

虚をつく作戦。これは私の完敗だ。


……どうせ兄が勝つだろうから、戻ったその時は、土下座して謝ろう。それでも許してくれないのなら仕方がない。背中を洗ってあげよう。

これで許してくれない兄はいないと、ひなたが本で学んだと言っていた。


「頑張って、兄」


◇◇◇◇◇


「秘技 一刀閃」


飛ばされた斬撃は一直線に霰へ——しかし、凍らされる。このやり取りは、既に3回ほど、その全てを防がれた。


おかしいな……氷だけじゃ防ぎきる事は不可能なはず。そんなに威力は弱くない。


——動きそれ自体を凍らせているのか? それだったら本来の威力は失われ、十分氷の盾で防ぐ事は可能。


霰の射程範囲に入らないよう気をつけているが、このままじゃジリ貧だな。風紀委員長がこっちを向かってきてるらしいし、2対1で勝てると思ってるほど自惚れてはいない。


まあ、何としてでも勝つんだけど。

いや、殺すんだけど。


「霰のスキル、ちょっとズルイな」


斬撃に隠密をかけても、向こうは周りに氷の粒を展開しているから、見えないだけじゃ意味がない。というか、意味が無かった。過去形だ。

存在そのものを消してもいいが、何らかの……例えば自動的に防ぐ術を向こうが持っていたとして、それは警戒させるだけに終わってしまう。

決定打が必要だ。

ちょっと、油断してくれねえかなあ……


「副会長も随分と便利なスキルをお持ちで。チャットじゃ魔物使役と魔物召喚、それに異世界知識でしたか……最初から警戒心の高い副会長が本当の事を言ってないと分かっていましたが、やはり別のスキルを持ってますね。

さっきの翼は魔物に似てましたから……魔物使役、あるいは魔物召喚。

だけどさっきの見えない攻撃、威力はその刀から出る斬撃と同じもの……なんらかの方法で、攻撃を見えなく出来るスキルですね」

「ご丁寧な説明どうも」

「いえいえ、次は——私の番です」


霰から波紋が広がるように、氷がピキピキと生み出されていく。なるほど、辺りを氷のステージに変えるわけだ。


——させねーよ。


「出でよ、フェニックス」



向こうが氷のステージに変えるというのなら、こっちは火のステージだ。


……と、思っていたが、世の中そううまくはいかないらしい。確かに進行は遅らせれるが、それまでだ。フェニックスと向こうじゃ、こっちの方が分が悪い。


キュゥゥ……(すいませんご主人様ぁ、私に力が無いばかりにぃ……)


いいんだよフェニックスちゃん。ちょっと向こうがズルイだけだから。


「……鳴き声が可愛いですね。見た目とのギャップで、更に良いです」


そうだろう、そうだろう。実はフェニックスちゃん結構可愛いんだ……って!


ま、まさか、これは霰の策略か!?

同じ感性を持つ同士、手加減してくだいよという無意識な考えを引き出そうと……ふー、危ない危ない。諸葛孔明すら度肝を抜く大胆かつ繊細な策略に、もう少しで騙されるところだったぜ。


「もう騙されないからな」

「……何か盛大に勘違いなされているようですが、まあいいです。

そのフェニックスは確かに可愛いですが、邪魔です。消させてもらいます」


氷の弓が幾つも出現し、一斉にフェニックスへ放たれる。フェニックスはそれ自体に戦闘力を求めてはならないので、必然的に俺が防がなければならない。


可愛いと言いながら無表情で消す発言。霰には血も涙もないのか?


……そういえば、今はないんだな。


正直、冷たすぎる人間は嫌いだぞ。

今の霰は好きじゃない。


「秘技 九九孔雀(くくくじゃく)


全ての氷の弓を切り刻む。傷ひとつフェニックスにはつけさせん。


——だが、このまま根比べをする時間はない。俺は、次なる一手を繰り出した。


「出でよ、サンダーフィッシュ」


こいつは魔力の中を自由に動く魚。そして、敵となるものに自爆覚悟の爆発攻撃を行う魔物。さながら魚雷。

神風特攻隊と呼ばせてもらおう。


パクパク(俺たち、行ってくるよ兄貴)


あぁ、ああ! 行ってこい弟たちよ! 今、この地には魔力が漂っている。お前たちの本気を見せてこい!


——神風特攻隊、その数10体は臆すことなく霰へ向かっていく。氷の弓を果敢に避け、役目を果たすべく、死地へも赴くその姿は——凛々しいその姿は、そのままかたまった。


氷の中へ閉じ込められた。


……そういえばそうだった。あれじゃあ爆発できねえよ。


神風特攻隊の心の声(ごめんよ兄貴、俺……役立たずだった。ごめんよ……ごめん)


魔物召喚の能力で、心の声が分かる。俺は神風特攻隊のそれを聞いてしまった。


神風特攻隊の覚悟を無下にする行い。なんて非道! なんて無情!


今の霰には、いかなる言葉も無意味なのかもしれない。


「俺はお前を許さないぞ、霰!」

「……なんで勝手に燃えているのです。私が冷やしてあげましょうか?」



霰の手のひらに、氷の風がとぐろを巻いている。冷やすって物理的にかよ。


……しかし、このままじゃ勝てるビジョンが見えやしねえ。


霰は俺を本気で殺しにきている、でもないのが救いだ。どちらかというと、まだ迷っている気がする。

あいつが本気ならば今頃、俺は氷の彫像と化しているんじゃなかろうか。それ程までに凶悪なスキル。美人さん、俺にもこんなスキル欲しかったよ。


「なんて、弱音ばかり吐いていられねえよな。さーて、どう殺すか……」

「殺す殺す、酷いですよ副会長。私のガラスのハートにヒビが入っています」

「お前は氷の心だよ。少なくとも、今はな。いつもの霰はまだ優しい。

優しい霰は、本来のお前は……後輩の中じゃ一番好きなんだがな」

「……関係ないです。副会長に首輪をつければ、それで済む話」


だからなんでその結論に至るんだよ。みんなの脳内はどうなってんだ。


…………

………

……


王人に話しかけたいので→首輪をつけて大人しくさせる。

王人に勉強を教えてもらいたいから→首輪をつけて大人しくさせる。

王人に頼みごとを聞かせるためには→首輪をつけて大人しくさせる。


……まさかな。


とと、時間になった。俺は刀を鞘に戻す。ただし! 手はそのまま、刀を握り締めた状態で。


「何ですかそれ、笑えませんよ。まさか諦めたのですか? らしくないですよ副会長。貴方はそんな人間じゃない。

手足をもがれても、首ひとつになっても、相手を殺す覚悟があるはずです! 貴方は、それだけの心を持っているはずです! 」


何故か副会長は怒っていた。


何だよ俺は何処ぞの山犬か。手足もがれるなんてやだよ。首ひとつなんて死ぬよ。というか諦めた訳じゃない。


……もうすぐだ。


もう少しなんだ。だから落ち着けよ霰。お前が燃えてどうする。自分の心を凍らしたんだ。頭もついでに冷やせよな。


「ダメです!それじゃあダメです副会長! 私は……私は!」


遂に、霰が動き出す。あれは弓を構えるポーズ。ここにきて霰は、弓道部らしい事をした。


さっきまでとは威力が桁違いであろう氷の弓。冷気が迸り、殺気と一緒にピリピリと俺を射抜く。


……だが、その弓が俺に飛ばされる事はなかった。その前に俺は、丁度心臓の部分へ、別の何かが撃たれる。




パンっと軽い音がした。


仰向けに倒れて崩れゆく視界の端、壊れているのか低すぎる建物の上に、風紀委員長が見える。


その手には——魔銃があった。


◇◇◇◇◇


……当たった。


悔しいけど射撃スキルの恩恵ね。私がハワイで父様に習った時よりも正確に、銃を撃てることができた。何でこんな物が落ちてたのかよく分からないけど、よしとしましょう。


的確に心臓、きっと即死ね。後ろの不死の鳥みたいなのも消えたし。


「風ちゃんさん……」


それにしてもここ冷えるわね。やっぱり会計の仕業かしら。

早くこんな所出たい……っ!?


「貴女、何よ……その目?」

「え? ああ、すいません」


ゾッとするほど冷たい目。周りの氷なんて気にならないほど、もっともっと冷えた、非道く冷淡な感情が見えた。

しかし、それは錯覚だと思ってしまってもいいのか。会計はいつも通りに戻っていた。


「すいません風ちゃんさん。気を悪くさせましたか?」

「……い、いえ、何でもないわ。敢えて言うなら、風ちゃんさんの呼び方がよく分からないって事かしら」


全く、これだから生徒会執行部は油断ならない。これだけの変人を、よくもあの生徒会長は揃えてくれたものだわ。

……類は友を呼ぶってやつね。

王人に首輪をつけたいなんて言ったけど、本音を言えば、生徒会執行部全員に首輪をつけたいわ。


「——副会長」

「なに、散々殺そうとしていたくせに、いざ死んで後悔した?

ここはゲームなんだから、気にすることないわ。どうせ誰か殺らなきゃいけなかったの。私を恨まないでよね」


そうじゃありませんよ、と会計は言った。それでも確かにその顔は悲しみで埋め尽くされて、ゆっくりとした足取りで犬 王人へ近づく。


私だって、いくらゲームといえど、死の感触がない銃を使えて良かったと思うわ。


心臓を一発。血が出ないのも良かった——あれ? ちょっと待って、その代わりに出るのは確か、青白い光。


ちょっと待って。

ちょっと待って。


あの王人の体からは、もっと言うなら心臓からは、青白い光など見えやしない。


血が……青白い光が出てないとするならば、それはつまり王人は無傷という事で! そういえばさっきのアナウンスもまだない!


「止まりなさい会計!」


え、と会計が私を振り向いたその時、確かに聞こえたあいつの声。


——秘技 居合斬り


流石といった所か、会計は氷の盾を体の横に……しかし、意味はなかった。

ピシャリと、会計のお腹あたりに細く青白い光が滲み出し、周りには意外にも遠くへそれが飛び散らされる。


もう一度会計があいつの方へ向く。いつの間にかあいつは、刀を振った状態でいた。

私が驚いている間に、ゆっくりと立ち上がり……会計と目があった——と思う。後ろ姿の会計だから、確かとは言い切れない。


「し、死んでなかったんですね副会長」

「ああ……風紀委員長が来て、俺にあの銃をぶっ放す事くらい分かってたからな。

まあ、俺のラピスラって魔物を体に仕込ませて防がせてもらった。

悪く思うなよ。卑怯だとは思うなよ。それ程までにお前が強かったって事だ。強かったから、不意をつかなきゃならなかったんだからな」

「……悪いだなんて……卑怯、だなんて、思うはずないじゃないですか」


もうすぐ死ぬというのに、不意打ちで完全に負けてしまったというのに、会計の声は嬉しそうだった。見えないその顔はもしかしたら……笑顔なのかもしれない。



「それでこそ、副会長です」


ズルリ——なんとグロテスクな光景か。会計のお腹あたりに細く青白い光が滲み出してたそこから、体がずれる。上半身と下半身が別れを告げる。


完全に真っ二つとなるその前、ガラスの割れたようなパリリンとした音とともに、会計の体からは一層青白い光をばら撒き、消えた。



『霧氷 霰選手が死亡しました。霧氷 霰選手が、犬 王人選手に敗れ、死亡しました』



これがゲーム内の死。


……確かにここはゲームで、会計はそこまで好きな人間でもないし、むしろ敵だとすら思ってはいる。

それでも今回は仲間だし、仲間の死を目の前にして、良い気持ちになる筈が無かった。


「王人!」

「ちっ……」


横に、前に、後ろに、認識できないスピードで動き回り、完全に見失った隙をついて、下から殴る。


——だけど何なの。完全に躱された。


今度は4回ものフェイントを仕掛けたのに、4回とも向こうにはフェイントだと分かっているのかピクリとも動かず、本命の最後だけしっかりと避ける。


「ったく、何なのよあんたら兄妹は!」

「知らん」


途中で石を投げた。スピードに乗った石は、相当な破壊力を持っているというのに、綺麗に避けられる。

魔糸も使った。それも斬られる。

私も危うく、体をバラバラにさせてしまうところだった。


「無駄だ風紀委員長。

俺は結果だけを見ている。

幾らフェイントをしようが意味はない。当たらない攻撃を仕掛けても、そもそも動く必要がない。

もう一度言うぞ風紀委員長。俺は結果だけを見ている。聞いている。

どんな攻撃も等しく意味がない」


くっ、無駄にカッコつけちゃって。何もカッコよくないわよ!

だったらこれは、銃の弾なら!


——淡い希望は打ち砕かれる。いや、斬られる。真っ二つ。

その刀、もしかしてコンニャクだけは斬れないんじゃないかしら。


「そもそも結果すら聞かなくても、今の風紀委員長なら俺だけで殺れるんだがな」

「何をっ……」

「最後に言ってやるぞ風紀委員長。俺は結果を知っている。

何もここに来たのはお前だけじゃない。お前の跡をしっかりとついてきてくれた者がいる」

「何ですって!?」


慌てて辺りを見渡すが、壊れた建物もあって、もし隠れられたら見つけ出せる筈がない。


「ど、何処に」

「まあ、嘘だけどな」

「っ……貴方ねぇ!」


文句を言おうとして、胸に違和感が。咳が詰まったみたいなのと同じ感触。

……私の心臓から、矢が生えていた。

さっきの王人とは違い、青白い光は、確かに出てくる。止めようとして、無理だと悟った。これが血の代わりだとするなら、見た目は綺麗でも、死を表す不吉な証。止まる筈が無かった。


「嘘っていうのが、嘘だったよ」

「くぅっ、何処までも馬鹿にして……」

「おい、気をつけろよ。下着が少し見えてるぞ。良かったなここがゲームの中で。度を過ぎたことは起こらない」


全くだわ。

もしも現実なら、もっとひどい目にあった筈。ゲーム内で設定した下着が見られたってどうって事ない。


「じゃあな、風紀委員長。残念だけど、俺だって首輪はつけられたくないんだよ」

「……いいえ、まだよ。まだあの会長がいるわ。私達はまだ終わってない」


苦し紛れかしら?

でも、確かに終わってない。まだよ……まだ、貴女に首輪をつけたいという気持ちは、少しだって薄れちゃあいない。


……任せるっていうのは、意外にも心配する行為だけど、それでも……確かに任せたわよ、生徒会長。


『風紀委員長が死亡しました。風紀委員長が、狩人殿に敗れ、死亡しました』

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