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異世界ダンジョンウォーズ  作者: watausagi
早くココに会いたい
1/85

プロローグ

◇◇◇◇◇


突然だが、この世界——つまり地球で生まれた地球人の中に、異世界へと行く人間は果たして何人いるのだろうか。


一般的な意見として、だから論理的とか現実的とかいう言葉を並べた場合としては「そんなのありえない」が、ほとんどだろう。どれだけ望んでも異世界なんて存在しないと、誰もがちゃんと分かっている。


……実はそれが思い込みだとしたら?


「異世界なんてない」と現実を見てる人こそ、本当は現実から目を背けているのかもしれない。




——何故、俺がいきなりこんな悟りを開いたかのように、「異世界」なんて中学2年生のように語っているのかというと、単純で明快で簡単な話だ。

それが今——何時何分地球が何回まわった時かは知らないが——確かに今……異世界へ行こうとしているからだ。

出来るのなら、『もうすぐ異世界なう』とネットに呟きたいくらい。


「……それで、これがスキルか」


辞典のように厚い本を見て、げんなりする。彼女(・・)の言っていることが本当だというのなら、これにはスキルというよく分からないが異世界の力が記されているらしい。

チラリと中身を確認すると、五十音順でも何でもない。

この量、全部見終わるのに一体何時間かかるんだろう。速読術でもかじってればよかった。


——ここでいう彼女とは、俺たち(・・)を異世界に連れて行く張本人の事で……それは後にしよう。今は目の前のスキルとやらをやっつけなければいけない。


『20ポイント』


それが、俺たちに与えられたポイント。

このままじゃ少ないかどうか分からないので、例をあげる。


—————

魔物召喚レベル1

必要ポイント1

魔物召喚レベル10

必要ポイント10

—————

料理レベル1

必要ポイント1

料理レベル10

必要ポイント10

—————

万物創造レベル1

必要ポイント2

万物創造レベル10

必要ポイント20

—————


……お分かりだろうか。

大体がレベル1につき1ポイント。偶に名前だけで凄そうなのが分かるのはレベル1につき2ポイント。

レベルなんて言われてもピンとこない。主観では「20ポイント多いなわーいわーい」なんだが……どうなんだろう。ヌルヌルに育ってきた日本男児が、魔物の闊歩する異世界へ行く事を考えれば……いや、やっぱり分からない。彼女、魔物がいるとは言っていたがその強さまではピンからキリまでとしか言わなかった。


異世界は未知だ。つまり恐怖だ。


状況が分からない現時点では、料理スキルなんて取らないでおこう。

親友から「不味くはないよ、でも美味しくもないかな」なんてありがたーい感想をもらった俺は、後ろ髪が引っ張られる思いで、別のスキルに目を通す。


—————

フィギュア作成レベル1

必要ポイント2

—————


……えー? 万物創造とフィギュア作成が同じ必要ポイント?

もっと分かんなくなってきたぞこれ。フィギュアって俺が知らないだけで万物と同じくらいの価値を誇るのか? どこのオタ精神だよそれ。


——少し考えてみた。


1つはフィギュア作成がとんでもなくレアという可能性。名前だけで効果が分からないから、あり得る。


2つ目は万物創造が使えない、所謂死にスキル? の可能性。これも同じ理由で、十分あり得る。


そして最後は、そのどちらもが死にスキルだという可能性。面白半分で必要ポイントをゴッチャにするなんて事、面白いからという理由で異世界に送る彼女ならやりかねない。


結論として、どちらも選ぶのを躊躇われる。色々と言いたい事はあるが、大人しく他のスキルを見るとしよう。


—————

剣術レベル1

必要ポイント1

—————

剣闘術レベル1

必要ポイント1

—————

剣魔闘術レベル1

必要ポイント1

—————

剣聖魔法闘術レベル1

必要ポイント2

—————


……どうしろと?

そろそろ三人称を彼女からあいつに変えたくなってきた。

剣聖魔法闘術って! 剣聖魔法闘術って!

最早、日本語が正しく機能していないと思っていいかもしれない。剣聖って剣を極めた人の事を言うんじゃないのか? それがスキルって、つまり剣聖になれるって事で……確かに必要ポイントが高いのも納得はいくが、怖いので取れない。ぶっちゃければ全部怖くて取れなくなってきた。


——————

異世界知識レベル1

必要ポイント1

——————


「……決めた」


俺は迷わず、異世界知識レベル10のスキルを取得する。頭で思い浮かべればいいので簡単だ。


……無謀だったかな?


いや、後悔はしていない。だって異世界知識だ。これが無いと不便そうだし、思ったがレベル10ってだけでどれも使えるのは使えるはず。ファンタジーなんだからエリクサーや賢者の石の在り処まで教えてくれるかもしれない。

どうしよう、夢が広がってきた。


……本当にこれでいいのか?


何度も言うが後悔はしていない。それに後悔したって意味は無いのだ。確かやり直しなんて出来ないし、1度直感で決めたものを否定するのは、自分を否定しているようで嫌になる。


だから、次のスキルを考えよう。残りポイントは10。フィギュア作成レベル5でも取ってみるかとふざけるのは止めとく。


——俺、実は古武術やってるんだよね! なんて事も無いから、今のところ俺は攻撃手段が1つも無いわけだ。ケンカならとある理由でよくやった。その為に人体の構造を知らべたりもしたが……魔物に通用するとは到底思えない。心臓が2つあるかもしれないし、呼吸さえしているのか怪しい。


だったら次のスキルは剣術? 剣魔闘術?


……いや違う。


俺は目的のスキルを探し出す為、黙々とページをめくる。1度見逃しただけでもシャレにならないから、慎重に。

俺と同じ境遇で斜め読みなんて猛者がいるのなら、尊敬するから目の前に連れてきてくれ。ストレスの溜まった今なら思いっきりぶっ飛ばせる。


〜〜〜〜〜


見つけた。

ここではお腹も減らないし、それは時間の感覚が掴めないという事。時が止まってるんだからそれも可笑しいが。

望むスキルが最後のほうにあったお陰で、速読法 (もどき)なら習得出来たかもしれない。最初は1ページ30秒が、最後のほうでは2秒くらいでも余裕だったから。


……スキルという言葉にゲシュタルト崩壊が起きてくるくらい読み漁ったせいで、速読法 (もどき)というより、速読法レベル3の方が今はしっくりくる。


—————

隠密レベル10

必要ポイント10

—————


これが俺のとったスキルだ。攻撃を捨てて、ひたすら逃げにまわる所存です。

一応平和主義だからな。ケンカだって嫌々だったけど、しょうがなかった事だし。


それに、隠密が俺の思っている隠密なら、場合によって普通に戦えるんじゃないか? 気配を悟らせず、後ろから……グサっと。


おお、今になって結構いい感じのスキルを取ったと自覚してきたぞ。もうこれ以上のセットはないというくらいに。まあ、現実そう上手くはいかないんだろうけど。


「——決まったみたいだね」


異世界に期待と不安をしていると、どこからともなく声がした。

彼女だ。

彼女は姿を見せないまま、俺に話しかけてくる。


「君の所属エリアはもう決まってある。スキルも選んだみたいだし、頑張って。応援しているよ」


なんて、心にもない事を。

本当どうしてこんな事になるんだっけ?

俺はこの空間に来た時と同じような感覚に陥ると、ほんの少しの昔を思い出していた。


◇◇◇◇◇


空椎高校2年生。性別男。


それが俺なんだが、学校生活をダラダラと言うのは止めよう。つまらないと思うし。面白く言える自信はない。

普通にいつも通り朝早くの電車に乗って、学校に着いて、つまらない授業を聞いて……いつも通りじゃなくなったのは、昼食時だった。俺の親友こと、小野木(おののき) 虎狐(ここ)、あだ名ココがミニトマトを口に咥えようとしていた時、視界が暗転したのだ。




「ボクのトマトが!?」




……あの時俺が冷静でいられたのは、ココのこの発言のお陰だ。弁当が消えた状態で、俺とココは光の存在しない真っ暗闇にいた。だけどココの事は見えるという不思議。


どうしようも出来なくて、ひとまず寝ようかと思い——彼女は現れた。やっぱり光はないのに、見えるという不思議。


「こんにちは、王人(おおと)君と虎狐君」


ここで俺の名前が出た。犬 王人という少し変わった名前だ。父が言うには『シンメトリーって素敵だろ?』って理由もあるらしいが……じゃあ苗字は何だよと、ツッコミたかった。本当は『おうと』と読むのだが、それは別のアレを思い浮かべてしまうので、『おおと』になっている。


因みに目の前の彼女を、俺は知らない。ココもリアクションを見る限り知人という訳でもなさそうだ。

なら何でこいつは俺たちの名前を知ってるのか? この真っ暗闇はこいつの仕業なのか?


色々と聞きたい事はあったが、彼女が今から話す内容は、とてもそんなのと比べられないほど非常識なものだった。


「今から異世界に行ってもらうよ」


……もちろん、信じられるはずはない。だが同時にこの不可解な現象のせいで、もしかしたら——と思ってしまう自分もいた。

ココは目をパチクリさせている。まったく、可愛い奴だ。


「何で俺たちなんだ?」


異世界に行ける訳ない!

そんな話が進まない無意味な事は言わない。不毛だ。だったらまず、行ける事を仮定して俺は彼女と話す事に決めた。

彼女もこちらの考えを理解したらしい、律儀に全てを答えてくれる。


「先に言っておくけど、君たちだけじゃないよ。君たちの住む学校という教育施設……その中から適当に選んだ人が、異世界に行く事を決定された。もちろん私が決めた。

——……ふんふん、どうやら彼等、王人君と虎狐君みたいに賢い人間じゃない人もいるね」


彼女は、今まさにその彼等と話しているが如く、目をつぶっている。


「てめえ誰だよ! なんて、最低だよこの出席番号2番の大神 龍騎君。見た目中学生の私に問答無用で殴りかかってきた。

そんな事無駄なのにね……ほら」


彼女はこちらへ手を伸ばした。何事かと表情を伺えば、催促しているように見える。握手でもしろという事か?


戸惑いながら彼女の手を握ると——すり抜けた。見えているのに、触れない。ホログラムというのがあったらこんな感じか? 多少ビックリして、それが癪なのでこれから何が起こっても驚いたりしないと決意した。


なるほど、殴っても無駄な訳だ。


「このツインテールちゃん、渡辺 杏って子は面白いよ。異世界に餡子はあるのかって……かなりぶっ飛んでるね。

ああ、君たちも安心して。餡子に似たのなら異世界にもあるから」



どうでもいい。

いや、ちょっと嬉しいがどうでもいい。俺は渡辺 杏——あだ名が餡子ちゃんと呼ばれるくらい餡子好きでもないし。


……それにしても、彼女が話した2人は同じクラスだ。


大神は喧嘩っ早くてガタイのいい男。態度が悪いもんだから、周りからは嫌われている。


杏はさっきも言った通り、大の餡子好き。世界初の餡子中毒者。餡子ちゃんにこしあんと粒あんの違いを聞こうものなら、そいつは5時間後くらいに後悔するだろう。まだ終わらぬ餡子の違いを聞きながら。


「さて、まだ質問はあるんだろう?」

「……その異世界とやらで、何をするんだ?」

「特には何もない。……そっか、まずは基本から教えよう。

君たちは向こうで、ダンジョンの主として住んでもらう。これは強制だ。というより、ダンジョンは便利だから君たちも納得するさ」


彼女が言うには、今から異世界に行く総勢312人は、例外なくダンジョンの主となるらしい。

四角な地図があるとして、縦を1・2・3……。横をA・B・C……とする。

例えばある人物はAの1のダンジョンへ。ある人物はNの5へ。

ある程度、等間隔にダンジョンとやらは置かれるらしい。ダンジョンって何だよと思うが、説明では“進化する城”、らしい。もっと分からなくなったから、ひとまずダンジョンはスルーする。



「それと、君たちがこのまま異世界に行ったところで、すぐに死んじゃうから面白くない。そこでひとまずスキルを与えようと思う。

良かったね、上手くいけば最強の道へ進めるよ」

「——あ、あの」

「ん?」


隣にいるココが、初めて彼女へと疑問をぶつけた。


「ボクの……その、ダンジョン? ってどこになるのか今分からないんですか? 出来れば王人の場所も知りたいんですけど」

「ダメだね。それは、教えられない。

おっと落ち込まないで、方法はあるから。それについては異世界で教えるよ」

「よ、良かったぁ」

「うんうん、本当に良かったかどうかは、後でじっくりと考えてみな」


意味深なことを言った彼女は、俺たちが追求する前に、目の前から姿を消した。


『じゃあ次に移動してもらう場所からスキルを決めてもらうよ。そこでは時間が止まってるし、生理現象は存在しない。

たくさん本に載ってるから、何日間でも何週間でも調べてね』


そしてスキルの取り方を最後に教えられ、俺はエレベーターが動きを止める時の独特な浮遊感を感じたのだった。


◇◇◇◇◇


「——ん、ここは……?」


スキルを取って、次に目を覚ますと……見た事もない部屋にいた。周りを見渡すが、広さは図書館以上体育館未満。階段があるだけで他に何もない。壁は土? 苔が生えてる?


恐らくここがダンジョンなのだろうが、早くもリタイアしたい。お家のフローリングが懐かしい。


ココは大丈夫だろうか? 1人でいて寂しくないだろうか?

早く状況を知りたい。彼女はダンジョンの居場所を知る方法があると言っていた。勘になるが嘘()ついてないと思う。だったら、ちゃんとあるはずだ。


……階段、だよな。


2階に何かがあると信じて、何が起きてもいいよう警戒しながら、足を進めた。


——虫はいなかった。繰り返す、虫はいなかった。これは本当に大事だ。俺はあの節足動物が大嫌い。

サソリはカッコいい。クモも目さえ見なければ許容範囲内。ハチは分かる。むしろ、崇めたい。蝶もいいよな、素敵だ。蛾? あれは知らない。ハエは消えろ。蚊? マジ消えろ。G! あいつは悪魔だ。平謝りするからどうか視界から消えて欲しい。


このダンジョンは、引越し直前というくらい何もないので、隠れる場所はない。つまり本当に虫はいないという事。それに関しては彼女に感謝だ。Gが夏場にいないだけで、実家より住みやすい。


——2階3階と続き、何もない。4階でようやく扉があった。今までが空っぽだった為、期待しないよう扉を開ける。


「……んん?」


1度扉を閉めて、階段で深呼吸した後、もう1度扉を開けた。


「んんー……」


——リアクションが取りづらい。


結果から言うと、中は今までと違って、壁も床も白塗り。苔なぞもちろんない。

机もベッドもあって、中にはまだ扉がある。

だが……


——やはり、リアクションが取りづらい。


想像してみよう。

いきなりダンジョンというものに連れてこられて、殺風景な部屋が連続した最後、扉を開けるとそこは——なんかどっか宿の一室みたいだった。あまりにもリアクションが取りづらいせいで、感想もおかしくなっている。


しかし何度見ても、机は木で作られて、何の装飾も施されていないシンプルさ。ベッドは白で、掛け布団が畳んである。


……ふと、横を見ると、スイッチがあった。迷いなくそれを押すと、パチンと軽い音と共に部屋の天井から光が出る。


「なるほど、明るくなった」


今まで真っ暗という訳じゃなかったが、寂しさと相まって明かりが欲しかったんだ。

少しだけ、心が軽くなった気がする。ひかりってそういう作用があるもんな。


どうも頭に思い浮かべてたダンジョン像が崩れていく中、ひとまず部屋に入る。机とそれに椅子もあって、ベッドの他には何もない事が分かるから、次に部屋にある扉の所へいった。


今度も期待せずに開けると、中は——シャワー室。それだけ。異世界らしさゼロで、このシャワー室脱衣所がないから不便そうだ。


「……ふぅー……次行くか」


まだ階段はあったと思い、俺は部屋から出た。今度こそ何があると期待して。


〜〜〜〜〜


階段を登っている途中、何となくこれで最後だなと思った。

予想は当たって、もう階段はない。最後の部屋に向けて深呼吸を終えた後、気を引き締めて中を見る。


「お、おおっー!」


椅子だ。

いや、あれはただの椅子じゃない。親しみを込めて玉座さんとお呼びしよう。魔王臭の漂う玉座さんは、初めてここがダンジョンだと思わされる。


……おっと、玉座さんに目をとらわれていた。見落とさぬよう、次に視線を右のほうへ移動する。


そこには空間があった。円形にポツリとくり抜かれたみたいに。扉の開いたエレベーターのように。それが何なのかは今は置いといて、他には何もないみたいだ。


——大人しく玉座へ近づく。1〜3階よりも、ほんの少し上等な床を歩いて。


俺がダンジョンの主だという事は、この玉座は俺が座るんだ。そう、俺が座っても何の問題もない。ほら、玉座さんも俺に座ってくれと懇願しているじゃないか。


……後から思えば、黒歴史といえるほど子供っぽい感情で動いていた。変な言い訳をして、自然と玉座へ座る。足を組み、肘掛けに肘を置いて、それから——


「何をしてるの」

「ふわっ!?」


どこからともなく、彼女が現れた。


「……ねぇ、何をしてるの?」


ニヤニヤとした顔を殴りたい。段々と彼女の性格がわかってきたぞ。

だがこれに関しては、明らかに自分の落ち度。


「忘れろ。いや忘れてください」

「……ふーん、まあいいけど。それより時間になったから、これを持ってきたよ」

「時間?」


彼女は俺に、冊子のようなものを渡してきた。遊園地のパンフレットと似た大きさ。表紙には……


—————

異世界って良い世界! 目指せ、ダンジョンマスター!

—————


……そっか。

気づくと彼女はもういない。文字通り神出鬼没ってやつだ。


渡されたからには無視できないので、表紙から不安を覚えつつも、中を調べた。


—————


まず初めに、リラックス。落ち着いて周りを確認してみよう。……そうしないと、見えるもんも見えてこねーぜ?


深呼吸はすんだかい? なら、次に進もう。このダンジョンの何処かに椅子がある。大きな椅子だ。校長室のそれより上等だ。


見つけたらそれに座ってみよう。何故なら君は、ダンジョンの主だから。


おっと、座るだけじゃあこの玉座さん、ウンともスンとも言わない。


だから君はこう呟くんだ。


「プログラム起動」


……ってね。


—————


これを書いた人はイケメンな感じがする。勝手にそう思い込み、指示に従った。


「プログラム起動」


するとどういう訳か、ブゥゥン——と、玉座から駆動音が聞こえ出す。何事かと思えば、肘掛けは元々赤褐色だったのに、徐々にガラス色に変化していき、今度はガシャンッ——と金属音がした。


最後にはその肘掛けが動き出して、俺の前へキーボード。その上にはどんな理屈かわからないが、ディスプレイが浮き出した。


—————


ビックリしたか?


それはダンジョンを進化させるための物だ。広くするもよし。施設を増やすもよし。君だけのダンジョンを作りな。唯一無二……個性溢れるダンジョンを期待している。


因みに、それはダンジョンを進化させるだけではなく、他にも便利な機能が搭載されているぞ。


※プログラムを起動した時点で、ここは真の意味でダンジョンとなった。死ぬんじゃねえよ。


—————


ざっと目を通し、いざ実行。


どうやらこのダンジョン、魔力で進化させるらしい。たどたどしくキーボードを動かせば、必要魔力とそれを使った恩恵が表示されてある。


魔力で進化させる……と、言うがこの魔力、最大魔力値じゃないとダメなんだそうな。


今のダンジョン保有魔力は、俺しかいないので数字が10と表されている。この10を使ったとして、それ以降は俺が何とかして自身の魔力を増やさなければ、ダンジョン保有魔力はずっとゼロだという事。


他に方法としては、このダンジョンで生活する存在を増やすか、もしも暮らさないという存在はダンジョン内で殺してしまえばそいつの戦闘力に応じてポイントが増える。殺した場合だけ魔力だけじゃない戦闘力まで増えるという、いかにも物騒な仕組みだ。


魔力でダンジョン内の魔物を生み出せるが、ダンジョン内から生まれた魔物は、その勘定に含まれない。ズルはできないという事だな。


「とりあえず最低限の生活は必要だな……うん、食堂につぎ込もう」


1日3食。新しく階を増やすほど余裕はないので、3階に設置する。


やっちまた感は否めないが、10ポイント全て使った。これでダンジョン保有魔力は0。何とかしないと……

でも10は少なすぎる。他の取ろうたって、10ポイントじゃロクなもんはなかった。


……あのスキルがびっしりと詰まった本には、【魔力倍増】・【魔力増強】・【魔力促進】etc……があった。この中で最大魔力値を増やす(すべ)があったというのなら、現時点でダンジョンの差が大きく広がる。そいつらは十分なアドバンテージを得たという訳だ。


——って、そうだスキル!


意外と冷静じゃなかったらしい。今の今まで【隠密】と【異世界知識】忘れてた。


……いや、後にしよう。まずはダンジョンで使える便利な機能とやらを見ないとな。


—————


①チャット機能

大きく分けて、この異世界へ来た全員のチャット。女のチャット。男のチャット。それにフレンドのチャットがあるぞ。

みんなも異世界にきて不安はあるだろう。そんな時は、これを使おう。きっと気持ちが楽になるはずだ。


※フレンドになると、互いのダンジョンの位置が分かるぞ。


②コール機能

これはフレンドにならなくても、この異世界へ来た人間全員と話が出来るぞ。もちろんコールされた場合は了承せずに拒否してもいい、好きな子から拒否されたって落ち込むなよ?


③ダンジョン転移

これは玉座さんの機能というより、玉座の部屋にあるワーブゲートの機能だ。円形にポッカリと空いた空間が見えるだろ? そこからフレンドのダンジョンへと、転移が出来る。フレンドのダンジョンの位置を呟けば、ひとっ飛びさ。


ダンジョン(異世界)マップ

「異世界マップ起動」と呟けば、この玉座の部屋床一面に異世界+ダンジョンの位置が表示される。

誰が誰のダンジョンかは分からないが、ダンジョンの主が死んでしまった場合、映ってあるダンジョンは青色から赤色に表示されるぞ。


※君のダンジョンは、黄色で表示される。


④サポートキャラ創造

君だけの異世界お助けキャラ。ただし戦闘力期待するな。死にはしないが、攻撃力ゼロだと思ってもいい。

性格は君に合わせて成長する。戦闘力に期待するなと言ったのは最初の話だ。君自身が育てればあるいは……?


ぞんざいに扱わない事を願う。


——————


なるほど、彼女が言っていた方法というのは、フレンド機能の事か。

どうする……キーボードをちょっと動かせば異世界へ来た人間がずらりと表示されて、ココをタッチして向こうが了承してくれれば、すぐにでもフレンドへとなれる。そしてワープゲートの機能を使い——


だが俺は、彼女の意味深なセリフがどうも気になって、ひとまず別の事をした。


「異世界マップ起動」


そして今度は音もなく、本当に床一面がリアルな地図へと映り変わった。衛星から撮った映像という感じだ。……衛星から撮った映像なんて知らないが。


「——まだ死んでる奴はいないか」


体を動かすと自然にキーボードは離れて、地図へと近づく。

赤色のダンジョンは無かった。全てが青色のダンジョン、オールグリーン。全て青色なのに全て緑とはこれいかに。


ここで気づいたが、俺のダンジョンの位置は、地図でいう右下——Wの3だ。近くに海と川がある。他には何があるのだろうと視線を周りに移し。


——自分の目を疑った。


これは……これは非道すぎる。俺はWの3。横はアルファベットの終わり、Zまであるのだが、Zの1が非道い。つまり何が言いたいかというと、海の上(・・・)にダンジョンが表示されていた。


不利とかそういうレベルじゃない。仮にこいつらがフレンドを作れないとして、スキルが使えないものだったら一生を海の上で過ごさなければいけない事となる。

発狂ものだ。俺なら自殺する。ココがいるから、そんな事はあり得ないが。


Zの1に深く同情しながら、また玉座へと戻った。次はチャット機能を調べようと思ったから。


——玉座へ近づくと、目指せダンジョンマスターの冊子が床に落ちてある。さっき落としてしまったんだろうと思って拾おうとすると……今度は『自分の見間違いであってほしい』、そんな考えが思いつくほどとんでもない事が書かれていた。


—————


異世界からやって来たダンジョンの主を殺すと、その者が最初に本で手に入れたスキルを自分のものにできるぞ。

最強の道は、険しいな!


—————


ガツンと後頭部に衝撃が来たような感覚に陥り、空を……空はないから天井を見上げる。


「……お前は一体、何をさせたいんだ」


彼女の笑い声が、どこからか聞こえた気がした。

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