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第7話 おみくじ引きますか? 


 翌日。朝も早くからヤオヨロズさんがいる神社へ行くことになった。だって今日はもう帰らなくちゃならないんだもの。

 おかげさまで、昨日はグーッスリとお昼寝したあと、美味しい料理をいっぱい堪能したので、体調はバッチリ。それは秋渡くんも同じだったようだ。

 それで、早々に荷造りを終えた私たちは、揃ってホテルのロビーへと降りていき、チェックアウトを済ませる。


「おはようございます」

 今日もロビーの玄関前には、シフォがお迎えに来てくれていた。

「おはよ」

 と軽く返したのが冬里。

「おはようございます」

 と丁寧なのが鞍馬くん。

「おはよっす! あ、椿、彼は今日俺たちを案内してくれるシフォっていうんだ。そいでシフォ、こっちが椿」

 夏樹は早々に2人の紹介をしている。

「あ、初めまして、秋渡 椿です」

「はじめまして、シフォです」

 2人が握手など交わすのを、夏樹はにこにこ笑いながら頷いて見ている。


 私もその光景をほほえましく見ていたんだけど。

 ちょっと待って、シフォがお迎えって事は…。

 まさかと思うんだけど、またあの内装金ピカリンの車じゃないわよね。と言う願いもむなしく、やっぱりあのときと同じ車、しかも今日は玄関前にすでに止まってる! 

 私は心の中で、どうするのよー、と1人焦る。秋渡くんにあの車内見せちゃってもいいの? そんな思いを察したのかどうか、シフォがニッコリとまた少年のような微笑みで言った。

「では、レディファーストで、由利香さんからお乗り下さい」

「え? ええ」

 私は少し躊躇しながら車内へと入る。そこは絢爛豪華で金ピカの、じゃなくて。

 あ、普通になってる。良かったー。と、ホッとしていると、聞き覚えのある声がした。

「よう」

「ヤオ…さん? 」

 1番奥の席から手を振るのは、ヤオヨロズさんだった。

「由利香さーん、入り口で止まらないで下さいよ。あっ、ヤオさん! 迎えに来てくれたんすかー? 」

 続いて入ってきた夏樹が、私の後ろから伸び上がって車内を見て、嬉しそうに言った。

「じゃあ、椿から先に入れよ。でさ、あの奥に座ってるのが、昨日話したヤオさん」

「ああ。わかった」

 夏樹と順番を入れ替わった秋渡くんが入ってきて、私の背中を優しく押す。

 ふたりしてヤオヨロズさんの1つ手前の席に到着すると、秋渡くんが立ったまま挨拶する。

「初めまして、秋渡 椿と言います」

 軽く頭を下げる秋渡くんを、「ほーお」と興味深そうに眺めていたヤオヨロズさんは、ニカッと笑って言った。

「あんたがこの子の伴侶か。お似合いだな」

「なっ! 」

 私はいきなりすごいことを言うヤオヨロズさんに、口をパクパクしながら言葉も出なかったけど、秋渡くんは少し上気して、

「はい、ありがとうございます」

 なんて言うんだもの。

 ビックリして2人を交互に見る私の肩をポンポン叩いて、豪快に笑い出すヤオヨロズさんだった。



 全員が乗り込んだところで、車が滑るように動き出す。

 またどこをどう走っているのかさっぱりわからないまま、前よりも短い時間で車は目的地へと到着したようだ。

 降りてみると、そこは広い駐車場だった。へえー、ヤオヨロズさんの神社って、けっこう大きな神社なんだ。

「じゃあ、俺はこの辺でな。シフォ、後はよろしく頼むぜー」

 ヤオヨロズさんは車を降りてすぐ、そんな風に言いながら奥の建物へと消えてしまう。あら、このあとも中をしてくれるとばかり思っていたのに。

「何しに来たのかしら、ヤオさん」

 つぶやく私の横へ来て、小声でシフォが言う。

「由利香の旦那を見極めに行くんだー! と、張り切っておられましたね」

「! また! ホントにー。伴侶だ旦那だって気が早すぎるわよ」

「それはある意味仕方がないかも、です。時間の進み具合が人とは違いますから」

 今度は目を細めるようにキュッと笑って、シフォは皆を案内すべく、私のそばから離れて行った。


 境内には出店が軒を並べ、神殿の前には行列が出来ていた。

 やっぱりまだ2日だから人が多いわねー。

 お祭りみたいで楽しそうなんだけど、今日は時間に制限があるから、出店を楽しんでいる暇はなさそう。だからまず手洗いをして、お参りの列へと並んだ。

 ようやく神殿の前まで来ると、鈴っていうのかしら、それがちょうど5つあいたので、5人で横並びになって参拝することが出来た。

 千年人もやっぱり何か願い事するのかしら。私は、特に、特に、(2回言ったわよ)、鞍馬くんに聞いてみたいんだけど、きっと答えてくれないわよねー。


 列から外れると、お札やお守りを売るコーナーは大勢の人だかりだ。

 その横に目をやると、大きく「おみくじ」と書いたコーナーがある。

「おみくじがあるわよ。ねえ、皆で引いてみましょうよ」

 私は有無を言わさず、みんなを引っ張ってそちらへと移動した。


「おみくじかあー、久しぶりだな」

 秋渡くんは何だか楽しそう。

 夏樹は初めてだったかしら? 目をキラキラさせている。

「へえー、おみくじ、俺、初めてっすよー。あ! こんなのがある! 」

 夏樹が指し示す先には、変わったおみくじがあった。

 そこには、シフォに似たキツネがずらっと並んでいる。その子たちが、おみくじをひとつずつくわえているのだ。その中から好きな子を選んで買うようになっている。

「わあ、可愛いー。シフォみたい」

 と言ってから、しまった! と慌てて口に手を当てたけど、秋渡くんも夏樹も、おみくじを選ぶのに夢中で気がつかなかったみたい。

「俺は、これにしようかな」

「お! 椿、いいの選んだな。よし、俺はこれ! 」

 私はホッと肩をなで下ろしたあと、どれにしようかなーとか言いながら、おみくじ選びに躍起になった。うーん、どの子も可愛くて、迷っちゃうー。

「ゆーりか。あんまり選びすぎるのは良くないんじゃない? 」

 すると、冬里がすかさず指摘を入れてくれる。

「わかってるわよー。でもねーどの子も可愛いんだもの」

「はいはい、じゃあ、心ゆくまで悩んでいいよ。えっと、僕はこれねー」

 冬里が、今私がちょうど、これに決めた! っていうのを持って行ってしまう。そして、次に決まったのを取ろうとすると。

 ひょいと手が伸びてきて、その子が連れて行かれてしまう。

 鞍馬くんだった。

「わあー! 鞍馬くんに持って行かれたー」

「お譲りしましょうか? 」

 親切に言ってくれるけど、人が決めたものを横取りしちゃいけないわよね。

「いえいえ、大丈夫。うーん、じゃあ…」

 と、また目をやると、こちらを見ている目がキラッと光った子がいた。

「あ。この子にするわ」

 そうして、ようやく私の手にもおみくじがやって来たのだった。


「じゃあ、開いて見ましょうよ。……えーっと、あ、私は吉だったわ」

「えーと、どこに? あ、俺も同じ吉って書いてあります」

「お、俺も吉だ」

「僕も吉だね」

「私も吉です」


 なんと! 選んだおみくじは、すべて吉だった。

「ええー? 全員が吉? これってもしかして吉しかないってこと? 」

 私は思わず大きな声で言ってしまった。すると、横で同じようにキツネおみくじを引いていた人が何人か、親切に教えてくれる。

「私のは中吉ですよ」

「えーと、こっちは大吉です! えへへー」

「末吉」

 私はわざわざ足を止めて下さったその人たちに、丁寧にお礼を言ってその場を離れる。


「でも、ホントに偶然ね。えっと、それでも同じ吉でも書いてあることは皆違うわよね。あ、私は待ち人来たる、で、旅行よし、ですって。ねえ、皆はどう? 」

「俺は、病気は早く治る、とか。結構いいこと書いてあるよ」

 秋渡くんはすぐに答えてくれたんだけど、他の3人はなぜかおとなしい。いつもはうるさい夏樹ですら、何だかおみくじをまじまじと見つめて感慨深げだ。


「どうしたの? 3人ともずいぶん熱心だけど」

 私が声をかけると、3人は夢から覚めたみたいな様子で顔を上げる。

「ええ、なかなか奥深いおみくじですね」

「ええーっと、そうっすね。あれ? あ、由利香さんと椿は、そうか…」

「まあ、これはこれで、いいんじゃない? 」

 何だか意味深なセリフを言う3人だったが、その謎が解けたのは、京都から帰った後だったの。



 結局、ヤオヨロズさんはそのあと、最後まで神殿から出てくることはなかった。

 お見送りに出てきたシフォが、チョッピリ恐縮してたんだけど、それは私たちって言うより、秋渡くんに対してだろうと言うことは、容易に想像できた。

「神社のオーナーさんなんて初めて知りましたが、本当にお忙しいんですね。よろしくお伝え下さい」

 けど、そんなふうに秋渡くんが言ってた所をみると、昨晩、夏樹との男同士の語り合いの中で、夏樹がヤオヨロズさんについては、上手く説明してくれたみたいね。

 残念だわ、もう一度くらいヤオヨロズさんに会いたかったのに。

 そんなこんなで、心残りはあるものの、それはまた次回へのお楽しみとして取っておけばいいのよね。年越しの京都旅行は無事に楽しく終えることが出来たのだった。




 京都から帰ったその日の夜。

 仕事は明日までお休みだけど、私は早々に部屋へと引き上げさせてもらう。

 荷物の整理をしていると、あのおみくじが目に入ってきた。

「ふふ。ホントにこのキツネちゃん、シフォに似てるわね」

 チョン、とその子の頭をつついて、くわえていたおみくじをもう一度開いて見る。

 すると――。

「よう、やっと出られたぜ」

 声が聞こえて来たと思うと、なんと、ミニサイズのヤオヨロズさんがおみくじキツネの横に立っていた。隣にはシフォもいる。

「え? ! なになになに! 」

 私は本当にビックリして悲鳴を上げそうになったんだけど、何とかこらえると、出てきた2人を見る。

 すると、シフォが深くお辞儀をして言う。

「今日はお疲れ様でした。実はあなたたちにお渡ししたおみくじは、通常のものとは少し違っているのです」

「そうなの? あ、だから鞍馬くんたちがあのとき、放心状態だったのね」

「おう、物わかりがいいな」

「あ、ありがとうございます。それで、なにが違うんですか? 」

「それはだな…」


 説明によると、私たちへの特別おみくじは、ヤオヨロズさんからの大事なメッセージが受け取れる、って言うものだったの。私には今みたいに起きてる時だけど、彼らの正体を知らない秋渡くんには夢の形でね。

 私はそのあと、ヤオヨロズさんにしては真面目に話す言葉に、吸い込まれるように耳を傾けたのだった。


 で、そのメッセージは何だったかって? 

 それはね……、やっぱり私だけの、秘密。





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