LL.8
「!!」
U太は目を覚ました。そこはかつて映画で見た様な、暗く薄汚れたNYっぽい地下
鉄の中だった。
「ーーーー!!」
狭い。蛍光灯がチカチカと点滅している。周りには顔を伏せた老夫婦と黒人の集
団がいて、チラチラとこちらを見ている。U太は思った。NYだとしても、今のNY
じゃない。もっと昔のーーまだ治安が非常に悪かった頃のそれだ。U太はそっと鞄
に手を添えた。金目のものは大して無い。だが、タブレットだけは守らなきゃ。タ
ブレットはーーー
「!」
U太はハッとして鞄の中に手をやった。先程、タブレットは割れたんじゃなかっ
たか?
タブレットは何故か無事だった。だがU太の目はタブレットに触れた自分の手に
釘付けになっていた。間違い無く、自分の腕の筈ーーだが、何故かその時のU太に
はまるで他人の手の様に見えた。人種すら違って見える様な。
「………?」
その手を、太く大きな黒人の手が掴んだ。
「えっ?」
顔を上げる暇もなくその手を強い力で引き上げられた。
「ぐっ…!」
U太の顔の前には横に広がったアフリカ特有の鼻と小さな無表情の目があった。
「×××?×××××!」
英語、ではあったと思うがスラングが強すぎて全く聞き取れなかった。
そのタブレットをーーいや何でもいいからよこせ、という意味ではあるのだろう。
「あ……」
U太は動けなかった。小学校や中学校で不良に絡まれた時などとは根本的に違う。
あまりにもあっさりと命が奪われる。その恐怖がU太を支配していた。目の前の黒
人はU太を軽々と放り投げた。
「がっ」
U太は通路の真ん中のポールに激突した。背中に鈍い痛みが走り、一時的に呼吸
が止まった。
更に蹴りが入る。U太は身体を折り曲げて声にならない声を上げた。
何度目かの蹴りで、目の前の鞄の中でバリッという乾いた音がした。
「あぁ……!」
割れた。
無くなったのだ。今までの全てが。
「ーーーーーー!!」
U太は絶叫した。
それでも次々に蹴りは飛んで来る。血を吐いた。
殴って来るそのイメージが、何故かA児のそれと重なった。
かつて地元で殴られ、自暴自棄になった自分も重なった。
そのとき、目の前の鞄が発光した様な気がした。
「!!」
自分の鞄じゃないーーU太がそう思った瞬間、その鞄は爆発した。
* *