LL.7
F野を出ても、U太は先程起こった事をずっと考え続けていた。
この際、ずっとこの電車に乗ってあのカップルの姿を見続けてやろうか。そんな
事も思っていた。
U太が前に付き合っていた彼女。名前は既に朧げだ。それ自体が、別れた理由じ
ゃないの?と言ったのは誰だったか。返す言葉も無かった。結局本当に恋愛をした
ことは無いのかもね、と言われた事もある。結局、そのどれもが自分なのだ。U太
はそう思った。
その子とは違う、高校時代に好きだった子がいた。U太はずっと好きだったが、
その子には彼氏らしき人間が別クラスにいていつも一緒にいた。結局U太は何も出
来ないまま高校を卒業し、この街に出て来た。大学に入りたての六月、まだ映画の
サークルの中でもイマイチ打ち解けてなくて悶々としていた頃、U太は思い立って
その子に手紙を書いた。実は昔好きでした、だからといって今どうこうしようとい
うつもりはないです、という内容だった。それには「ありがとう」という真摯な返
事が来て、あぁ良い子に恋をしていたのだな、と少しだけU太は暖かい気持ちにな
った。だが、「もしあの時言ってくれていれば」という一行は、チクリとU太を刺
した。今は『Late Letter(遅かった手紙)』という言葉が浮かんで来る。U太はその
どちらの思いも抱え、この街で過ごすしか無かった。
今ではその傷も何となく塞がり、例の子とも少し恋愛めいた事もあった。それで
も、U太はまだ自分は何も知らないのだ、と思っていた。
恋愛だけじゃない。人間関係も、社会も、小説も、その他諸々も。
「あぁ…もう…」
U太はそっと呟いた。
だが、いずれ否応無しにリミットはやってくる。一番大きいのは大学卒業、そし
て就職。大学は一留しそうではあるが…それでも。そんなことは分かっている。な
のに、何となく過ごしている今。そしてその怠惰な時間が、ずっと続いてしまって
いるこの感覚。『Loose Limit(曖昧な期限)』…とU太は思ってみる。
そして、…『Laddish Logic(子供の理屈)』。分かっている。分かっているのに。
U太は突然拳を握って顔の前にやった。横に叩き付けようかと思ったが流石に止
めた。
目を開けると、正面の母親連れの子供が、特撮キャラクターの帽子の下から目を
パチクリさせてこちらを観ていた。
「………ダハ〜」
とU太はしばらく考えてから小声で笑いかけた。子供はニパッと笑った。
電車はG木に差し掛かりつつあった。もはや時間もよく分からなくなった日差し
の中、電車はホームへと入っていく。U太は子供から目を離して、シートにもたれ
ホームに目をやった。
「……!」
またあのケンカ別れカップルだ。K一とI美じゃない。革ジャンの男は、また別
の女性と立ち話をしていた。その二人はあっという間に風景の端に消えていった。
「あ」
次に、ヒラヒラ服の女性が別の男と会っている同じ様なシルエットが流れて来た。
「………」
その二人も窓の向こうであっさりと流れ消えていった。
U太は、何が起こっているのか分からなかった。
子供は少し腰を浮かしたU太をずっと観ていたがそれどころではなかった。
その次にはK一とI美が、その次にはまた別の誰かが二人、流れていく。
電車は一向に止まる気配がなかった。むしろスピードが速くなっている様に見え
た。
窓の向こうの二人は次々に流れては消え、また別の誰かがまた二人流れていく。
「あぁ………」
U太は思った。そう、ここは巡り巡る環状線。『Loop Line(堂々巡り)』。今の
自分と同じだ。
その刹那、流れて来た二人のシルエットは重なり、一人が一人を刺した様に見え
た。
「!!」
取り落とした鞄の中で、タブレットが割れた様な気がした。
* *




