LL.6
電車は尚も走り続けていた。
昼に近くなった陽は冷たく人々を照らしている。
U太は、先程の出来事をずっと反芻していた。あれは夢だったのだろうか。明ら
かに違う駅で、同じカップルを観た。まるでパラレルワールドの様なその風景を。
自分は、何を観ているのだろう。寝不足で頭がおかしくなっているのか?
だが、同時にU太は自分の中に別の自分も感じていた。「これは面白い」…これ
は、話になるな。こういう白昼夢の話、いつか書けるなぁ。U太はそんな自分を度
し難いとも思うが、同時にどうしようもなく好きでもあった。
前に付き合ったーーと言うか少しだけ一緒にいた彼女は、U太のそう言う部分を
少し距離を置いて観ていた。人前では止めてね、的なニュアンスを時々出していた
と思う。まだ若い自分はそれに抗するでも無くかといって捨てるでも無く、「ふ〜
ん」みたいな態度を取っていたと思う。やがて彼女は離れていったっけ。それを自
分はまた冷めた目で見ていたっけ。
『Lonely Life(孤独)』。その単語が浮かんだ。昔は、K一みたいになりたかった。
A児みたいには絶対なりたくなかった。歳を取っても、E田みたいにはならない。
そう思っていた。でも今、その自信は揺らぎ始めていた。小説を書いているときは
楽しい。でもそれだけでは生きてはいけない。それが職業になるとも思えない。…
と言いつつそれに期待してしまっている自分もいる。あぁ、どんどんループしてい
く。堕ちていく。それは、ここ最近の思考パターンだった。
電車は、いつの間にかF野に差し掛かりつつあった。
流れて来るホームを、電車の行く方からU太はジッと見つめた。今度は、何が見
えるのだろう。また、彼らに出会えるのではないか?
「!」
そして見つけた。あの革ジャンとヒラヒラの服のカップルだ。またケンカしてい
る。今度は女性もかなり言い返している。まだスピードのついている電車の向こう
は、あっという間に流れて行く。電車の継ぎ目で二人の姿が見えなくなる刹那、そ
のひらひらの女の子の姿が一瞬I美に見えた。
「え?」
U太は乗り出したが、それ以上二人の姿は見えなかった。…ということは、あの
革ジャンの後ろ姿は、K一だったか?いやーーそもそも、ヒラヒラの女の子も今ま
ではI美とは違っていた筈。
「………」
U太はしばし目をシバシバさせたが、眠気が重くのしかかった視界はすっきりと
はしなかった。
あれはーー二人の別れ話の現場だったのだろうか。あのK一も、たった一人の女
性の前では、ああ大人げない姿を見せる事もあるのだろうか。
U太はその先を、知りたいと思った。
* *