LL.5
「あぁ、A児も何かムシの居所が悪かったんだろ」
その後、K一はバイトで会った時に言っていた。例のチケットブースでの出来事
の話だ。そうかな、とU太は返した。
正直納得はいっていない。確かに少し救われた。でも余計に大事になった。自分
一人が悪者でもあの場は良かったのにーーと言うのはまた自分の独りよがりな考え
方だろうか。
U太はそう思ったが、それ以上は言わなかった。代わりにオズオズと尋ねた。
「その…I美さんは」
「知らない。もう会ってないし」
そうか、と言っただけでU太はそれ以上の言葉は持ち合わせていなかった。あん
ないい子がーーとは思ったがK一の事情も分かっている。また、自分には何も出来
ないのだ。
U太はそうしてまた一人、上階の売店を選んだ。
「だからぁ、寝ちゃったんだってば」
U太はハッと目を覚ました。
いつの間にか隣にはキャバ嬢風の女の子が座っていて、スマホに甲高い声を浴び
せていた。
「もうしょうがないじゃん、煩いって」
あなたの方が煩いよ、と恐らく周りの誰もが思っていただろう。U太はそっと視
線を周りにやる。先程よりも幾分少なくなった車内は皆一様に無表情のままだ。
「もういいって。勝手に遊ぶから」
露出の多い格好で相変わらずその女の子は喋っている。U太は思った。
『Loud Lady(煩い女)』。早く降りてくれないかな。U太は座席にそっと沈み込
んだ。
……そう言えばA児もこんな派手な女性を連れて歩いていたっけな。あれはいつ
のことだったか。いかにも、という感じがとても分かりやすかったのを覚えている。
そうだ、その後もまた別の子を連れていたがまた同じ様な格好で妙に納得したもの
だった。
K一の元カノ、I美との見事な対比。そしてそのどちらもが、今の自分には手に
入らないものだった。
「………」
U太はまたそっとため息を吐いた。
電車はB宿に入りつつあった。
「っさいなもうっ」
隣の女性が悪態をつきながら立ち上がった。やれやれ。U太は薄目でその姿をボ
ーッと見送った。……スタイルは良いのだな。そう思ったU太の視界の向こうで、
ケンカ別れした革ジャン&ヒラヒラスカートのカップルの女性の方が立ち尽くした
まま流れていった。
「!?」
U太は腰を浮かせて前にかがんだが、その女性はスピードを落としつつある電車
の窓を過ぎていった。
「………」
U太は一瞬、何が起こったのか分からなかった。狐に摘まれた様な気分、という
やつだろうか。あれ?本当にあの女性だったか?
と思う間もなく、一つ向こうのホームではその別れた革ジャンの男性の方が反対
方向に歩いているのが目に入った。
「あっ」
今度は声が出た。周りがチラリとU太に目をやる。距離がある分、今度はもう少
し視認する時間があった。間違い無いーーーだがその時にはもう電車は止まり、出
て行く人々でその男性の姿は見えなくなった。入れ替わりに車内にはドッと乗客が
なだれ込んで来る。
「………」
U太は周りを気にしながら腰を下ろした。U太が降りると思って近づいて来た女
性が「チッ」という顔をしたが、U太は気付かなかった。
今起きた出来事が、ボーッとした頭でリピートしていた。
* *