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短編

もぐらがっこう

小学校中学年あたりを対象とした作品です。

 その夜もいつものように、

「もう寝なさーい」

 と言いながらお母さんが部屋に入ってきて、パチンと電気を消した。ちっちゃな豆電球があたりをオレンジ色に暗く照らす。

 一つだけ違うのは、今夜は隣にあっくんがいることだ。あっくんはぼくのいとこの二つ上の兄ちゃん。田舎に住んでるあっくんの家にぼくは毎年夏休みのたびに遊びに行っていたんだけど、今年はお母さんが入院して大変だからって、いつもとは逆にあっくんがぼくん家に泊まりにきている。

「ケンの家クーラーつけっぱで何かさみぃな、窓開けようぜー」

 そう言って、あっくんが窓を開けた。

「ダメだよ、窓を開けっぱなしで寝ると、どろぼうが入ってくるよ」

 あわててぼくが止めると、あっくんは馬鹿にしたように笑った。

「はぁ?ここ、マンションの9階だぜ」

「『階数なんて関係ない』ってお母さん言ってたもん。それに……」

 と言いかけて止めたぼくを、あっくんは不満そうに見た。

「なんだよ、最後まで言えよ」

「それに……ふくろうが、来るから……」

「は?」

「だって、あっくんのおじいちゃんいつも言ってたでしょ。 

 『遅くまで寝ない子の家にはふくろうがきて、もぐらにされて食べられる』って」

 あっくんは目を丸くした後、あっはっはと大笑いした。

「お前まだそんなこと信じてんの? バッカじゃねーの! そんなん、大人のうそに決まってんだろ!」

「で、でも」

「あのさあ、お前、そんないい子ちゃんだから『もやし』みてえにひょろっこいんだよ」

 あっくんはベッドの脇の窓ガラスを開けた。

「うわっ、生ぬりぃ。夜なのに外あっちいなあ」

「いつもこんなだよ」

「へぇ。おれんとこは夜中と明け方は寒いくらいあるけどな。ま、いいや、しばらく開けてようぜ」

「窓を閉めてクーラー消してれば?」

「ばっか。風が入るかどうかで全然違うじゃんか」

「じゃ、お母さんにせんぷう機を持ってき……」

「ケン、そんなに窓開けるの怖えのか」

 にやにやしながらあっくんは網戸も開けると身を乗り出した。手すりにつかまって、

「おーい、ふくろーう。こっちに悪い子どもがいるぞー!」

 と叫んだ。

「止めてよ、止めて!」

 ぼくが叫んでいると、バッサバッサと羽ばたくような音が上から聞こえてきた。見上げると、ぼくの部屋と同じくらい大きな大きなふくろうが、ぼく達のすぐ上で羽を広げていた。

「うわあああああああっ」

 先に叫んだのはあっくんの方だった。どしん、と尻もちをつくと、走ってドアに向かっていった。けれど、あっくんがどんなにドアノブを回そうとしても、ノブはうんともすんとも動かなかった。

「た、助け……」

 泣きそうな声であっくんが呟いたのと同時に、その身体が一気にぐぅんと小さくなった。茶色の毛が生え、鼻がとがり、手に肌色の根っこのような長い指が生えた。初めて見たけれど、たぶん、これは『もぐら』だ。あっくんはもぐらにされてしまったのだ。

 逃げなきゃ、と思ったけれど身体が動かない。

「おかあ……」

 助けを呼ぼうとしたけれど、最後まで言えなかった。あっという間に身体が縮み、ベッドの上でジタバタするぼくの身体を、大きな爪がぐうっとつかんだ。

(いやだ! 食べられたくない!)

 とがった爪の先っぽがお腹に食い込んで、ぼくはキューッと悲鳴を上げた。横を見ると、もう片方の爪にはあっくんだったもぐらがつかまっていて、キィキィと悲鳴を上げていた。

 ふくろうの影はとても大きかった。ぶおっと羽を広げる音がすると、バッサバッサと風を切って飛んでいった。ビルのたくさん並ぶ中をぐんぐん飛んでいく。いつ落とされるかわからなくて、ぼくは目を回しながらガタガタとふるえていた。


 大きな森の木のウロの中に、ぼく達は放りこまれた。がつんがつん、といく度か身体を打ち付けながら、ぼく達は重なり合って転げ落ちた。しばらくしてこわごわと目を開けると、そこはあたたかな土壁のトンネルだった。

「いらっしゃい」

 耳元で声がした。飛び上がってふり向くと、ぼく達よりもずっと大きなもぐらがそばに立っていた。

「もぐら学校へようこそ。新入生は二人だね、私が校長だ。かんげいするよ」

「う、うちに、帰して」

「元にもどせよー!」

 ぼくとあっくんは口々に叫んだけれど、校長もぐらは聞こえていないようにスタスタと先を歩き出した。

「この先は迷路になっているから、ついてこないと迷うぞ。ずっとそこにいるつもりかね」

 ぼく達は顔を見合わせると、あわててあとに付いていった。

 土のトンネルは校長が言ったように、とてもふくざつな迷路になっていた。何度も何度も分かれ道をくねくねと曲がり、同じような景色に飽きてきたころに、ようやっと大きな広間にたどり着いた。


『← もぐら学校』


 広間のかべにはそう書かれた大きなかんばんがかけてあった。矢印の先には丈夫そうな木のとびらが付いている。

 広間にはたくさんのもぐら達が遊んでいた。おにごっこをしたり、鉄ぼうをしたり、ブランコをしたり。みなぼく達と同じくらいの小さな子どものもぐらばかりだ。

「みなさん、お聞きなさい」

 ぱんぱん、と大きな手を打ち鳴らしながら校長が叫んだ。とたんに、もぐら達は静かになっていっせいにぼくらの方をじっと見た。

「えー、今日からこちらの二人が新しいお友達となります。みなさん、仲良くできますかー?」

「はーい」

 ちびもぐら達は一斉に手を上げて返事をした。校長は満足そうにうなずくと、「では、これで」と後ろに腕を組み、扉を開けると去っていった。

 ぽつんと取り残されたぼくとあっくんの周りを、たくさんのもぐら達が取りかこむ。

「大変だったねー」

「どちらが先だろうね」

「でも良かったー。ぼく、さか上がりまだだったから、今日の体育のテスト、どうしようかと思ってたもん」

「うん、こいつらがいればとりあえずは安心だね」

「よかったね」

「よかったね」

 にこにこしながら互いにうなずき合うのを見て、ぼくは不安になった。

「ねえ、一体何の話してるの」

 一ぴきのもぐらの手をつかんでたずねると、

「あのね、成績の悪いもぐらから、一ぴきずつ順に毎日大ふくろうのえさになるの」

 と、教えてくれた。

「だから、みんな一生けん命勉強してるんだよ」

「人間の時は悪い子だったから、その分いい子にならなきゃダメなの」

 ぼく達はこわくなって、がたがたとふるえた。

「だいじょうぶ?でも、仕方ないよ、悪い子だったんでしょ?」

「今日はどちらか一ぴきは助かるから、がんばろうよ!」

「……お、お前ら、にげようって思わねえのかよぉ!」

 あっくんの言葉に、子もぐら達はきょとんとした。

「どうして? だって、がんばっていい子でいれば、いいんだよ?」

「食べられるのは、悪くておろかな子だけだもの」

「大ふくろうは毎日悪い子だったもぐらを連れてくるから」

「だから、残ったぼく達ががんばれば大丈夫だよ」

「ね、だから」

「だから、いっしょに遊ぼうよ」

「い、いやだあ!」

 あっくんは泣きながらさけんだ。

「おれ、頭悪いし、こいつの方がいい子にしてるし、おれが食べられるに決まってる! いやだあ、食われたくないよう!」

「大丈夫だよ、今日は体育のテストだもん」

「そうそう、さか上がりのテスト」

 それを聞いた瞬間、ぼくののどがゴクリと鳴った。ぼくはさか上がりができない。何度も練習したけれど、どうしても足が高く上がらなかったのだ。付き合ってくれた先生やお母さんも終いにはあきれた顔でためいきをつかれたくらいなのだ。

(ぼくが、食べられる……)

 じっとりと手のひらに汗がにじむ。

 こわい。

 いやだ、こわいよ。

「ふざけんな!」

 あっくんがどなった。

「なにが大丈夫だ! どっちにしろだれかが食われちまうんだろ! こんなとこにいられるか、にげるぞケン!」

 ぽかんとした顔の子もぐら達を後にして、ぼく達は今来た道をもどり始めた。

「ねえ……」

 ぐいぐいと引っぱられながらぼくはあっくんに話しかけた。

「あっくん、元の道って知っているの?」

「うっせーな!んなわけねーだろっ」

 イライラしたように叫んだあっくんの手は、少しふるえていた。


 分かれ道をどう選んでも、進んでも、進んでも、土のトンネルが続くだけだった。

『この先は迷路になっているから、ついてこないと迷うぞ』

 校長先生の言葉を思い出して、ぼくはぶるんと身ぶるいした。

「ハラ、へったなあああ」

 ためいきをつきながらあっくんがつぶやいた。

「もぐらはミミズも食べるんだよ」

 何度か見かけていたミミズのすがたを思い出して、ぼくは言ってみた。

「ばかやろう! そんな気持ち悪いもん食えるかよ!」

 あっくんはどなり、手をはなすとむすっとしたふうに早足で歩いた。ぼくもあわててあとを走る。人間の時と同じように二本足で歩いていたけれど、本当は四つんばいの方が楽だろうなと思っていた。けれど、そんなことを言うと、ますますあっくんの機嫌が悪くなる気がして、黙っていた。

 歩いても歩いても、歩いても歩いても、どこにも出ない。

 いいかげん、へとへとだ。

 ぼくもあっくんもつかれきってしまい、動けなくなってしまった。ぺたりと座りこんだまま、ふうふうと息をはく。

(このまま、出られなくなって死んじゃうのかな)

 ぼくがそう考えていると、あっくんが「かあちゃん……」とつぶやいた。見ると、小さな小さな目玉から、ぽろぽろと涙がこぼれていた。

「かあちゃああん、いやだあ、こわいよう、かあちゃあああん」

 わああっと顔をおおって泣き出したあっくんに、ぼくはびっくりした。あっくんがお母さんのことを呼ぶのも、こんなふうに泣くのも見たことがなかったから。

「だいじょうぶ?」

 おそるおそるきいても、あっくんはただわあわあと大声で泣くばかりだった。

 ぼくがとほうにくれていると、

「――どうしたの?」

 って、どこからか、とても小さな声が聞こえてきたんだ。


  始めは、どこから声が聞こえてきたのか分からなかった。

 あたりをきょろきょろ見回しても、だれもいない。

 それでも聞き間ちがいなんかじゃない、って分かったのは、

「――ないてる の?」

 って、またすぐそばで声が聞こえたからだった。

 声は、ぼくの頭のあたりから聞こえてきた。首を上げると、小さな昆虫が土から顔を出していた。黒いつぶらな瞳とギザギザが付いた前足は、どこかで見たことのある姿だ。

「あたし、あな、ほってた。

 そしたら、こえ、きこえた。

 どうしたの?」

「ぼく達……迷子になったんだ。外に出たいんだ」

「なあんだ」

 虫はひょうしぬけしたみたいだった。

「じゃあ、でたらいい」

「だって道が分かんないもん」

「あんた、もぐら。

 あな、ほれば、いい」

 そう言われて、初めてぼくは自分の手をじっと見てみた。ひょろりと長い根っこのような肌色の指の先には、かたくてとがったつめが付いている。

 そっか、もぐらは土をほって移動するんだった。

「おい。ケン、やるぞ」

 あっくんはもう泣いていなかった。ぐい、と目を手でぬぐって、土かべを見上げた。

「あんたたち、あたし、たべる?」

 虫がたずねてきたので、ぼくは首をふった。

「食べないよ」

「ほんと? ほんとに?」

「うん」

「じゃ、あたし、てつだう」

 虫はそう言って前足をふりあげた。

「あたし、いまから、おとな、なる。

 ろくねん、つちの、なか。そと、でるとこ。

 いっしょ、ほる」

 「ああ、セミの幼虫かぁ……」

 あっくんがつぶやいた。そうだ、この子はセミの幼虫なんだ。マンションの前の木の下なんかに、毎年セミのぬけがらが落ちている。

「そっか……動いていると、こんな感じなんだ……」

 じっと観察していると、セミの幼虫は「いく。うえ、こっち」と、出てきた穴の中にもぐりこんだ。

 あわてて、ぼく達ものびあがると、けんめいに手で土をかき出した。

「ぼく、ケン。あと、こっちはあっくん」

「もぐら、ちがった。

 『けん』。『あっくん』」

 セミの幼虫は、ゆっくりと名前をくり返した。


 それは想像していたよりも、ずっと大変な作業だった。

 土って、とても固くて冷たいのだ。

 ほって、ほって、ほって、ほり続けて。

 もうどれだけ経ったのか分からないくらい、長い時間が過ぎた。けれど二人と一匹の力を合わせても、まだちっとも進んでいなかった。うんざりしながら下を向くと、さっきのトンネルの穴がまだ近くに見えていた。

 やみくもに手を動かし続けているせいで、手が痛かった。じんじんとしびれるような感覚を何度もふってごまかしてはほり進めていた。

 けれど、もう限界だった。

「ねえ……ぼく、のどかわいた。あと、おなか空いた……」

 いったんつぶやいてしまうと、とたんにお腹が合わせたようにキュルキュルと鳴り出す。あっくんはおこったようにぼくをにらんだ。

「うっせえなあ。んなもん、オレも一緒だよ。けど、食うもんなんてどこにもねーだろ」

「あっくん。あたし、たべない で」

「食わねーよ!」

 あっくんはどなった。

「もぐら は、あたし や、みみず、たべる」

(ミミズ……)

 あっくんとぼくののどが、ごくりと鳴った。

 本当はミミズなんて、絶対に食べたくない。けれど、今はお腹もだけど、何よりものどがかわいていた。

 水が飲みたい。けれど、どこにもそんなものはないのだ。

「ミミズかぁ……」

 あっくんがイヤそうにつぶやいた。

 今までも何度かミミズは出てきていた。

 ――ぬるぬると動くその身体は、きっと水気たっぷりなのにちがいない。

 しばらくだまっていたけれど、二人で同時に

「ねえ」

「なあ」

 と、声をかけ合ってしまった。

「何、あっくん」

「おまえこそ何だよ、言えよ」

「…………あのさ……ミミズって、おいしいのかな……」

 あっくんは答えなかった。黙ってそばで動いていたミミズを一匹つまむと、いきなりぱくっと口に入れてしまった。

「――っ……お、思ったよりは……大丈夫だ」

「あっくんすごい」

「てか! これしか食うもんねーんだ! しょうがねーだろ!」

 あっくんはやけくそに叫んだ後、もう一匹ミミズをつまむと、もう一度口を開けて飲みこんだ。

 おそるおそる、ぼくも一匹、ミミズをつまみ上げた。ころころと太ったミミズはおどろいたようにもがいている。

(だ、大丈夫。もぐらは、ミミズをえさにしているんだもの)

 何度もそういい聞かせ、ぼくは深呼吸をすると目を閉じててミミズを口に入れた。

 飲み込んだ瞬間、ぶるっと身体がふるえた。けれど、思っていたよりはずっとましだった。どろの匂いと生臭さが気持ち悪かったけれど。

 一匹、二匹、と飲み込んでしまえば、あとはもう夢中だった。ぼく達は土をほりながらミミズを探した。見つけるたびにぱくぱくと飲みこんでいった。

 飲みこむたびに、何だか少しずつ頭の奥がぼうっとしてくる。


 ――あれぇ……ぼく、どうして穴をほっているんだっけ……。

 ――横にいるもぐら……なかま、なのかな……。


 見ると、となりのもぐらもひたすら手を動かして土をかいていた。ミミズが頭を出すと、とがった鼻をつき出ぅようにしながら、あわててむさぼっている。

 キィ。

 となりのもぐらが鳴いた。つられてぼくも返事をキィキィ、と返す。

 キィ。

 キィキィ。

 会話をして、再び作業にもどる。

 もっと、もっとトンネルをほらなければ――。


「『けん』、『あっくん』。

 どうしたの」

 

「――あれ?」

 ぼくは、セミの幼虫を見た。幼虫は「けん?」と首をかしげてこちらを見ている。

「あ、ううん、なんでもない」

 あわててそう言うと、

「あっくん、あっくん!」

 と、ぼくは大声で名前を呼びながらあっくんの身体をゆすった。

「――ん? んん? あれ」

 あっくんは頭をふって、目をぱちくりさせるとぼくを見た。

「あっくん。もう、ミミズ食べない方がいいと思う」

 ぼくが言うと、あっくんもしぶしぶうなずいた。

「あ……ああ。そうかもな」

「みみず、たべるの、もぐら。

 けん、あっくん。もぐら、ちがう」

「うん、ぼく、今はもぐらだけど、もぐらじゃないよ。人間だよ」

「にんげん?」

「ちっくしょう、あとどんくらいか知らないけど、絶対に地上に出てやるからなー!」

 ミミズを食べたおかげで、さっきよりもぐんと力がわいているのが分かる。

 ぼく達ははげまし合いながら、ガリガリと土をひっかいていった――。



「出た!」

「出たぞー!」

 ガラッと最後の土がなくなり、まぶしい光がぼく達の顔にふりそそいだ。

「つき。ほし。

 はじめて、みた」

 セミの幼虫がうれしそうに声を上げた。

「あれ、まだ夜なのか」

 あっくんが穴の端をよじ登った、その瞬間。


 ぐううううううううぅん!


 あっという間に、あっくんは元の人間のすがたに戻っていた。

「や、やった……」

 泥だらけの両手をながめながら、あっくんがつぶやいた。

「やった、やったーッ!」

 手を握りしめてほえるように叫ぶと、

「ほら、ケンも来い!」

 大きな手が、もぐらのぼくの身体をつかむ。どきっとしたけれど、あっくんはそっとぼくを持ち上げてくれた。

 とたんに、ぼくの視界が一気にぐうっと高くなった。

 気づけば、人間の身体に戻っていた。

「あ……」

 立ち上がって、身体を確認する。どこもかしこも泥だらけだったけど、元の自分の姿だ。ひょろっとしたもやしみたいな、人間のぼくの身体。

 すうっと冷たい風が気持ちいい。

 ぼく達は顔を見合わせてくつくつと笑った。

「やったー!」

「地上、最高ーッ!」

 大声で笑いながらひとしきり叫んで、そういえば、とぼく達は穴を見た。

 小さなセミの幼虫が、ゆっくりと穴をはい出してくるところだった。

「――ありがとうな」

 あっくんはそう言いながら、しんちょうに手を差しのべると、セミの幼虫を持ち上げた。

 そうしてすぐ近くの木に持っていくと、その幹にそっとくっつけた。

「なあ、ケン」

「なに? あっくん」

「ごめんな……」

 ぽつり、と言ったあっくんの言葉が何を指すかは分からなかったけれど、ぼくは大きくうなずいた。


 だんだんと、空が明るくなっていく。


 ぼく達はだまって、セミが羽化していく姿を見守っていた。



                              <おしまい>


もぐらには、幼少時に凄まじいトラウマがあります。

けれど、妙に惹かれてしまうのは何故。

クルテクの世界が好きですし、UKシルバニアのもぐら一家も欲しい。

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