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十八話 それぞれの戦い

「エアブラスト!」


 頭上にかざしたスラ子の手元から突風が巻き起こった。


 妖精族は高い魔法力を持つ手ごわい存在だが、弱点はある。

 人間の子どもにも満たない小さな身体。軽い体重は肉弾戦にはとても向かないし、ちょっとした強風にも容易に吹き飛ばされてしまう。


「わー」


 どこか間の抜けた悲鳴――というにはずいぶんと楽しげに、吹き飛ばされる妖精たち。


「いくぞ、シィ」


 俺が差し出した手をしっかりとにぎって、シィは決意を秘めた顔でうなずいた。


「……はい」


 歩き出す。

 体勢を立て直した妖精たちが殺到する前に、


「エアブラスト!」


 再びスラ子の魔法が発動。


「わーわー」


 ころころと吹き飛んでいく表情は、吹き飛ばされながらにこにこと笑顔のままだ。


 妖精たちに殺意はない。――彼らに悪意はなかった。

 本当に、本心からいったとおり、妖精たちはこちらと遊ぼうとしているだけだ。


 きっと「戦闘」という意識さえないだろう。


 だが、死んでも生き返るという妖精と、一度死んでしまえばそれでおしまいのこちらでは、遊ぶということに対する感覚だって違ってくる。

 向こうはただじゃれついているつもりで、うっかり殺されてしまったら洒落にもならない。


 俺はシィを連れて、慎重にスラ子の魔法でひらけた道を歩き出す。


「風すごい! 風すごいよっ」

「くっそーやるなあ」

「こっちだって負けるかー」


 子どもそのもののきらきらした表情で、妖精たちが遠くから手をかざす。


「頭がおかしくなっちゃえ!」


 小さくひらかれた手のひらから強大な魔力が放出される。


 妖精族が得意とするのは間接、支援系の魔法だ。

 たいした魔法抵抗力のない俺や、むしろ弱点といえるスラ子にとって、それはほとんど致命的なものといえる。戦闘は、相手の血を流すことが全てではない。


 だが、


「アンチマジック」


 隣を歩くシィがささやいた。

 薄く伸びた羽が最大限に輝き、俺とスラ子に魔力抵抗の加護が与えられる。


 妖精たちから放たれた魔力の波動が身体を通過し、一瞬、ぐらりと足元が揺れるが――すんでのところで踏みとどまって、俺はまとわりつくものを払うように頭を振った。


「スラ子、平気か?」

「大丈夫です!」


 追撃の魔法を放ちながら、ちらりとこちらを振り返る。


「マスターが手を握ってくれたらもっと大丈夫です」


 俺はシィとスラ子の三人で手を握っているところを想像してみる。


「……そりゃちょっと間抜けすぎるだろ」


 まるでピクニックだ。

 スラ子が不満そうに口をとがらせる。


「ちぇー」

「我慢しろ。今度、みんなでピクニックにでもいこう。そのときにしてやる」

「わ、いいですねぇ」


 妖精たちの態度に感化されてというわけではないだろうが、緊張感のない様子で手をあわせて、


「私、マスター、シィ。ルクレティアさんに、それからもちろんカーラさんですねっ」


 言葉と、それから眼差しの意味。それを正確に理解して、俺は大きくうなずいた。


「当たり前だ。みんなでだからな」


 ふふ、とスラ子が微笑んだ。


「なんだよ」

「いいえ。なんでもありません、マスター」


 にこにこと機嫌のよさそうな顔色を伺う。


「……もちそうか?」


 魔法の連続使用には多大な魔力を消費する。


「平気です。昨日、シィにもらいましたか――らっ!」


 三度の突風。魔力の強風を間断なく食らい、妖精たちは一人として近づけない。

 転げるように地面に這いつくばり、幻惑や眠りの魔法もシィのアンチマジックによって防がれた連中が次にとる手段は、


「全員、とつげきじゅんびー!」


 自分たちに加護の魔法をかけたうえでの突撃になる。


「エアブラストっ」


 再度の暴風が襲うが、今までと違って誰一人として吹き飛ばされない。


「よーし。みんな、いっくぞー」

「ようせいぜんしん、ようせいすすめーっ」

「とりかこめー!」


 魔力の加護を受けてやわらいだ風に耐え、じりじりと妖精たちが包囲の輪を縮めてくる。


「ふふ、可愛いですね」


 無邪気な妖精たちに無垢な表情で応えるスラ子。

 ただしこちらの無垢は、ちょっと怖い。


「さあ、いらっしゃい。お姉さんが遊んであげますよ」


 半透明の美貌が怪しく微笑んだ。



 ――妖精たちの対処はスラ子に一任して、俺は歩きながら背後を振り返る。

 そこでは、まったく外見も立場も異なる二人が対峙していた。


「ルクレ……ティア」

「はい。カーラ」


 妖精の幻惑のなかで呼びかけるカーラに冷淡に応える。


「どいて――。ボクの邪魔、しないで……」

「邪魔? いったいなんのことでしょう」


 肩をすくめて、


「私は我儘で横暴な主の命を受けてここにいるだけですわ。まったく、この私を自分の女を引き止めるのに使うだなんて。ひどい屈辱です。貴女もそうお思いになりませんか」

「……ボクは。ここで。ここでなら」

「知りませんわ」


 暗示のように口にするカーラへ向けた眼差しはどこまでも冷ややかだった。


「貴女のご事情など私には関係ありません。我儘で横暴で下種なご主人様のご命令どおり、貴女を力ずくで止めます。それが嫌なら抗えばいいだけのことでしょう。――貴女には、その自由がおありなのですから」

「ボクは、」

「それとも」


 カーラの言葉をさえぎり、ルクレティアは続ける。


「いつも自らの置かれた境遇に悲劇ぶって、哀れみを請うというのが貴女の生き方であるというのなら。そんな輩と交わす言葉など、それこそ一言もありません。せいぜい卑しく吠えていればいいでしょう」


 挑発する台詞に、カーラの双眸が揺れた。鈍い逡巡の只中から活路を見出したように、眼差しに怒りの色が灯る。


「――ボクは……そんなんじゃ、ないっ」

「口でならなんとでもいえます」


 呼応するように手に持った杖の先端に魔力の輝きを灯し、ルクレティアが決定的な一言を告げた。


「おいでなさいな、犬っころ。今さらですけれど、私、前から貴女のことが大嫌いでしたの」

「ルクレティアぁ!」


 カーラが駆け出した。


 暴走していない状態のカーラも、その戦闘スタイルは変わらない。

 武器は己の拳。それをあてるためには、どうしても近寄らなければならない。


 そして相手をするルクレティアは魔法使い。

 近距離タイプと遠距離タイプの戦闘は、今までにもスラ子とカーラが繰り広げてきたように、間合いの戦いになることが多い。


 近寄る側と近寄らせまいとする側。


「ライトニングボウっ」


 挨拶とばかりに放たれた雷の矢を避けたカーラが一気に距離を詰めようとするが、


「アースシェイク!」


 続けて放たれた魔法に中断させられる。


 魔法には効果範囲として点、線、面など様々な違いがある。

 カーラのように目のいい相手には、ただ安直に点や線の攻撃を仕掛けても直撃は難しい。


 スラ子は面範囲の水流を使ってカーラに対抗した。

 それと同じようにルクレティアが用いたのは、土属性のそれ。


 一定範囲の地面が隆起して地面が攪拌される。人間が地に足をつけて行動する生き物である以上、それはどうしたって避けようがないものだった。

 極小規模の地震に体勢を崩し、手をついてバランスをとろうとするカーラに、


「サンダーボルト」


 呼び出された雷撃が苦もなくカーラに直撃し、打ち倒す。

 あっけなく着いたかに見えた決着だったが、ルクレティアは忌々しそうに眉をひそめて、


「……貴方達」


 底冷えのする声を発した。


 地に伏した身体に輝く淡い光。カーラにアンチマジックの加護をつけた妖精たちが、ルクレティアの眼光に射すくめられてびくりと身体を震わせる。


「女同士の争いにちょっかいを出すと、火傷しますわよ」


 抑揚のない淡々とした口調が逆に恐ろしい。

 ルクレティアはこちら――スラ子とスラ子にたわむれる妖精たちへと目を送って、


「これはお遊びではありませんの。わかりましたか? わかったなら向こうで遊んでおいでなさいな」


 無邪気にして奔放な妖精たちが、その迫力に思わず顔を見合わせて、


「てっしゅー!」


 すたこらさっさと駆け出していく。


 死への恐怖のないはずの妖精たちを一発で追い払って、ルクレティアはあらためて視線を戻す。

 その眼差しの先でカーラがゆっくりと身体を起こしていた。


「うう……! うううううっ」


 その表情にあるのは、暴走化する前兆の気配。


「またですか。相変わらず美しくありませんね。それに、腹立たしい」


 眉をつりあげて。

 はじめて言葉にはっきりとした怒気を込めたルクレティアが声を荒らげた。


「貴女が胸を張って人間だとおっしゃるのなら。いつまでも、そんなものに振り回されていてどうしますか!」

「がああああああああああ!」


 カーラの咆哮。

 闘争の衝動に身をゆだねた少女が突進した。


 ◇


「いっけー」


 一人の合図を受けて妖精たちが飛びかかる。


 四方八方。

 それだけの数に一斉に飛びかかられれば、もちろん多少の体格の差など関係なくなるが、


「ふふー」


 長く伸ばされた腕が一閃する。

 鞭のようにしなったスラ子の腕が妖精たちを絡めとり、弾き飛ばすのではなくて優しくくるめていった。


「ほーら、つかまえたー」

「つかまったー」


 楽しそうだな、お前ら。


「ああ、パラがつかまったー」

「みんなで助けにいくんだっ」

「でもあれちょっと面白そう……」


 スラ子の伸ばした腕に振り回されてきゃっきゃうふふと笑っている仲間の様子を見て、ぴたりと妖精たちの動きが止まる。


 そして次の瞬間、


「――ぼくもやってー!」

「わたしも、わたしも!」 

「ぼくだってー!」


 まったく違う意味で殺到した。


「ふふ。いいですよー。でも順番ですよー」


 スラ子が両腕を伸ばして、妖精たちがそれに我先にと捕まる。


「ほーら、自分で飛ぶのとはまた違うでしょう?」

「うん! ぜんぜんちがうー!」

「もっとはやくー!」

「かわって! はやく変わってよー!」 

「ほらほら、ケンカはだめですよー。お遊びは、みんなで仲良くするものですからねー」


 いつのまにか、妖精たちは俺とシィのことなんか忘れてしまってスラ子一人に群がっていた。


「はーい。回転スラ子ラウンドを楽しみたい子は、きちんと行儀よく並んでくださいねー。行儀が悪い子とは遊んであげませんよー」

「はーい!」


 妖精たちを右に左にあしらいながら、スラ子がちらりとこちらへ目配せを送ってくる。

 あまりに自然な手際にほとんど呆れながら、俺はスラ子の意を察して歩き始める。


 ……いったいどうしてあいつは、あのとんでもない悪戯連中をあんなに上手くあしらえるんだ。


 俺が洞窟で連中からあわされた数々の出来事を思い返して、まるで納得できない気分が心の底でふつふつと湧き上がりはしたが、そんな場合でもないのでぐっと堪えた。


 顔をあげれば、もうすぐそこに妖精の泉と、そこにたたずむ女王の姿が見える。

 そして、俺たちの背後でも、早々にもう一つの戦いが終わろうとしていた。



「ああああああああ!」


 地を駆けるカーラの両拳にあふれる魔力の輝き。

 あのトロルにさえ重傷を与えた一撃を、ただの人間が受けたらどうなるかなんて考えるまでもない。


 絶対に近づかせてはいけない相手に、しかしルクレティアは一歩もひかずに声を張り上げた。


「フレアウィップ!」


 右手に杖、左手に魔力の鞭。

 二つの得物をもって立ち向かうのは、どう考えたところで無茶としか思えない行為だった。


 暴走したカーラの戦闘能力は凄まじいものがある。


 拳から繰り出される一撃。

 どれだけダメージを受けても痛みを感じないような挙動。

 獣の野性としか思えないような天性。


 ルーキーどころか、一対一の力比べをしたらそこらへんのベテラン冒険にだって今のカーラに敵う相手はいないだろう。

 それに魔法使いのルクレティアが接近戦を挑むなんていうのは、ただ無謀の一言につきる。


「はっ!」


 繰り出した魔法の鞭が地を這ってカーラに迫る。

 熟練した動きを見せる先鞭を、しかしカーラは余裕のある動きで見切り、


「がああああ!」


 大振りな拳が宙を奔る。

 足を踏み込んで鞭を放ったばかりのルクレティアは、それをかわせる体勢にない。


「くっ……!」


 右手の杖を盾のように構えるが、


「あぅっ」


 一撃を受けて、決して安物ではないだろう杖があっさりと砕け散る。

 そのまま吹き飛ばされるルクレティアをカーラが追撃して、


「――まったく。美しくありませんわね、我ながら」


 それを待ち構えていたようにルクレティアがささやいた。


 左の手元が動く。

 先ほどカーラにかわされた鞭の先が微妙な動きでしなり、宙に散った杖の大きな残骸をからめとって――カーラの背後から襲いかかった。


「……がっ!」


 魔力の輝きを灯したままの杖の先端が、無防備な後頭部に直撃する。

 たまらず悲鳴をあげたカーラが、


「ぐ、あああああ!」


 そのまま直進。

 崩した体勢のまま、二人は重なって倒れこむ。


 ごろごろと草原を転がり――上になったのはカーラだった。

 馬乗りになった相手に、勝利を宣言するように右の拳を振り上げて、


「――どうして」


 震える声がいった。


「どうして。魔法で。遠くから、戦わなかったの……?」


 カーラの理性が戻っている。

 それは間違いなく、後頭部に受けた一撃の影響だろう。


 杖にはまだ魔力を灯したままだった。

 ルクレティアはそれをカーラに対する気付けにして。それを叩き込むために、カーラを誘いにかけた。自分自身を囮にした。


 ただ勝つためだけなら、そんな必要はない。

 前の洞窟の戦いでは地形条件で炎の魔法しか使っていなかったが、今日のルクレティアは雷に土属性の魔法まで容易く扱ってみせた。


 魔法の対応性では明らかにスラ子以上の腕前。

 そのルクレティアなら、恐らく遠距離からカーラをあらためて完封することも不可能ではなかったに違いなかった。


 組み伏せられたルクレティアは、ぴくりとも動きを見せないまま、


「いったでしょう、貴女の髪の毛を傷めたことだけは謝りますと。二回も同じことで貴女になんか謝罪したくありません」


 冗談のかけらもない口調に、カーラが肩をふるわせる。

 それが泣いているのか、笑っているのかはわからなかったが、


「ごめん。髪、ちょっと切っちゃって」


 倒れこむときに振り回した拳で、見事な金髪の一房が引きちぎられていた。

 謝罪の言葉に、ルクレティアは平然としたまま、


「別にかまいませんわ。所詮、見せる相手があの我儘で横暴で下種な相手だけですから。どうせ女が髪を短くしてもそれに気づきもしないことでしょうしね」

「ひどい言い方」

「あら。そうは思いませんか」

「思わない。マスターは、気づいてくれるよ」


 そうですかとルクレティアは肩をすくめて、いった。


「やっぱり貴女とは気があいませんわ。カーラ」

「……うん。そうだね、ルクレティア」


 立ち上がり、手を差し伸べる。

 嫌そうにそれを掴んだルクレティアが引っ張られて立ち上がり、立場も境遇もなにもかも違う二人が見つめあう。


 一瞬の間。視線を外したのは、カーラのほうだった。


 ◇


 俺とシィは、女王の前までやってきていた。

 さっきまでそばにいた妖精たちも遠くで楽しそうにはしゃぐスラ子たちに誘われるようにおもむいて、今は周囲に誰もいない。


 ぶすっとした表情の女王がいった。


「帰れといっただろう」

「はい」


 シィがうなずく。


「お前はもう、仲間じゃない」

「はい」

「羽を泉に返さなかった妖精は、生き返らない。シィ、お前はもう生き返らないんだ。死ぬんだ」

「……はい」 

「お前は馬鹿だ。愚か者だ。前から変なやつだったけれど、とびっきりだ。信じられない、ばか」


 いいながら、女王の瞳に透明なものが光っている。

 それは死を恐れない妖精たちに訪れる「終わり」への感情なのか、それともいつか将来、それを迎えることが決まってしまった同胞への哀れみかもしれない。


「はい、女王さま」

「はいばっかりいうな!」


 怒声をあげる女王に、シィは静かな眼差しのまま、


「女王さま」

「……なんだ」

「ありがとう、ございました」


 頭をさげた。


「ずっと、わたしのことを心配してくれて。誰とも仲良くなれないわたしに、かまってくれて。みんなの輪にとけこませようとしてくれて。女王さまのおかげで、わたし、頑張らないとって思えました」


 でも、と続ける。


「――ごめんなさい」


 シィの顔がゆがんだ。


「どうしても、できなくて。怖くて。みんなみたいになれなくて。……逃げちゃって。ごめんなさい。やっぱり、わたしはみんなみたいにはなれません」

「そんなこと……!」


 いいかける女王に首を振って、


「いいんです。それに、だいじょうぶです。悪いのはわたしで、だめなのもわたしで。でも、こんな自分を、家族だっていってくれる人がいるから」

「……家族?」

「はい。――少し、恥ずかしいですけど」


 シィの表情が染まる。


「ひどいこともされて。けど、その人たちは、優しかったり、情けなかったり。わたしと一緒で。だから、わたしも変わりたいって思いました」

「その男がか。それがお前の家族か」 


 じろりとした顔がこちらを見る。

 俺はなにもいえなかった。いたたまれてなくて逃げ出したいくらいだった。


 シィに優しいことなんかなにもできてない。

 ひどいことしかしていない。

 俺は、スラ子の魔力の補充のためにシィを飼うことにしただけの男なのだから。


 シィが変われたのは、シィの力だ。

 それをそんなふうにいわれてしまう――


 こんな俺でも、恥の感情くらいもっている。


 だが、今ここで変な態度をとればシィの言葉を汚してしまうことになる。

 俺がここでへたれてはシィに恥をかかせてしまう。


 だから。

 精一杯の表情をつくって見栄を張り、女王を見返した。


「……変な顔だ」


 おい。生まれつきのことに文句いうんじゃねえよ。


「これが、お前のマスターか。妖精の生をかけて、お前がすべて捧げるような相手なのか?」


 女王のうたがわしそうな言葉に、


「はい。わたしは、この人たちと一緒に生きていきます」


 シィは誇らしげに答えた。

 それをしばらく、じっと見つめてから、はあっと女王が息をはく。


「馬鹿らしい。好きにしろ」

「はい」

「もういい。殺し合いごっこにも飽きた」

「はい」

「お前たちも帰れ。ここは仲間以外が来るところじゃない」

「はい。あの、女王さま」

「なんだ」


 怒ったような顔に、シィはもう一度深く頭をさげて、


「――ありがとうございました」

「……うん。元気でな、シィ」

「……はい」


 頭をあげて泣き笑いの表情でうなずく。

 それが、シィにとっての「戦い」の終わりだった。




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