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Distinct Memory〜過去〜

 夏になれば思い出す。

 木々の生い茂る山々と、冷ややかな清水。そしていつも一緒だったみんなの笑顔…。


 季節外れの白詰草、その1枚目が風に揺れる。


 窓の向こうでは、もう蝉が鳴き始めていた。

 外はもう暑くて、この部屋も冷房が利いている。

 机が規則正しく並べられた教室の中はざわつき、その前の教卓に立つ先生は上品に微笑みながら、しかし手に私たちの運命を手に、それを一人一人に配布していた。

 私は先生に呼ばれると立ち上がり、前に歩み寄る。先生は「もう少し頑張りましょうね」と、小学生にでも言うような言葉を言いながら、私にそれを渡した。顔がゆがむ。

 その言葉に、まだ見ぬ結果に落胆しながら席に着いた。

 辺りを見渡し、安全なことを確認して、それ―1学期末考査の成績表をゆっくりと開く。


 ・・・


 私は机に突っ伏し、大きくため息をついた。・・・案の定、悪い結果だったのだ。各教科の順位は3桁が多く、偏差値も45がほとんど。頭の悪いことは自分が一番分かっているが、それでもこの学校の下のほうにいると思うと、気が沈んでしまう。

「ねぇ、どうだった?」

「うわっ!」

 耳元で聞こえた弾んだ声に私は肩をビクンと震わせて起き上がった。

 彼女は両手を私の机にちょこんと置き、顔の上半分だけをのぞかせている。くりくりの瞳はどこまでも透き通り、純粋そのものであった。

「ま、まぁそりゃ、悪かったよ」

「とかいってー。本当はいいんでしょ?」

「いや、本当に悪かったんだって」

「そっかー。でも美鈴(みすず)のうそ、絶対見破ってやるからね!」

 そう言い捨てると、彼女―この()はうさぎのようにぴょんぴょんと教室を飛び跳ねて、千菜の元へ着地していった。

 「うそ」って・・・本当なんだけどな。

 これならきっと、一つぐらいは補修確定だ。また気が重くなる。まさか私がこんなに頭が悪いなんて、つい数ヶ月前は知らなかった。

 前いたあの村は、良いとか悪いとか、そんな争いごとは全く無くて、成績とかもあんまり関係なくて、都会はこんなはっきり良し悪しが決められるって知って、なんか・・・怖いと思った。

 あぁ、私、何でここにいるのだろう。

 ・・・帰りたい。

 木々の生い茂る、あの村へ・・・


 ふと、まぶたを閉じてみる。すると私の足もとをすり抜けるように、触れたことのある冷ややかな風が吹いてきた。

 サワサワ・・・

 木々が静かに合唱をする。

 前へ一歩踏み出す。すると右から左へ、あの川の、あの水が、私の裸足を包んだ気がした・・・。




 私は生まれてから数ヶ月前まで、山に囲まれた田舎で育った。

 のどかで、緑が濃くて、風が気持ちよくて、村全体が家族のようなものだったから、隣同士助け合うのが当たり前、そんな村。

 この村を通る一車線の電車は1・2時間に1本しか通らなかったり、天気が変わりやすかったり、そのせいで道路が寸断されたりもするけど、自動車で30分ぐらいしたところに市街と呼べるほどの町があったから、それほどまで不便ではなかった。

 人口が少なかったため、学校の生徒も少なかった。急な坂の上にそびえる小中学校の生徒は合わせて50人弱くらいで、もちろんクラスは一クラス。私たちの学年は、私も合わせて4人だった。

 健太、威、舞子、そしてわたし美鈴。私たちは幼なじみで、同級生で、まるで兄弟だった。4人での話し声は、大きすぎる教室に響き、少し話せば先生に怒られる始末だった。

 私たちはよく、村の近くにある小川で遊んだ。学校帰り、黒と赤のランドセルと、無造作に脱いだ靴下を放り投げ、ズボンをめくって、ごつごつした石が散らばる川岸を数歩で駆け抜けて、川に飛び込むのが、毎夏の楽しみだった。水底まではっきり見えるくらいに透き通った川の水は、毎年冷たくて、じりじりと照りつける太陽と反比例して気持ちよかった。

 中学校になっても、小学生のときより頻度は減ったけど、時々暑くなると、その川へ通った。清水は日光を跳ね返し、きらきらと輝く。木々が川に木陰を作り、その隙間から照らす差し込む光が、なお綺麗だった。

 こんな毎日が、十年も、二十年も続いて、4人で成人を向かえて、4人で仲良く、自然たっぷりのこの村で老いていくんだと、そうずっと思っていた。


「引っ越すことに、なった」

 中学3年の時、父の転勤が決まり、私たちはその近くの―この村からはずっと遠いところへ引っ越さなくてはならなくなった。 それを告げられた日、私は子どものように泣きじゃくって、部屋に鍵をかけて籠もった。

 でも、3人にそのことを先生や村の人に告げられるよりは、私が言ったほうがいいと思って、いつもより早くに学校に来て、朝のSHR前に告白した。

 広い教室の空気が、私の一言で変わったのが分かった。

「・・・うそ」

「本当だよ。みんなと一緒の高校には行けない」

「意味わかんねーよ・・・」

 反応は、私が思ったよりも冷たかった。でも、それで安心したようにも思った。

 その日の授業は、いつもに比べて静かで、先生も「どうかしたか?」と首をかしげていた。


 その日の放課後。

 窓を見ると、昨日まで降っていた雪が解けきっていなくて、村はまだ雪化粧をしている様だった。ストーブをつけたこの教室も、曇った窓側へと行くと、ひゅうひゅうと隙間風の入る音が聞こえ、体が震える。

 バッグに荷物をつめ、ふかふかのコートを羽織り、皆が帰ろうとしたとき、舞子が突然、教壇に上がった。

「川、行こうよ!」

 両手で教卓を叩き、身を乗り出して発した声は、4人しかいない教室中に響いた。

 急な提案に、誰も理解できず、私を含めた3人ともがきょとんとした目で舞子を見つめる。

「だからさ、このままじゃ嫌なの!!普通にお別れとか、そんなの絶対にイヤだから!!!」

 必死に発言する舞子の目には、涙が潤んでいた。

 広い教室に、静寂が満ちた・・・。

「・・・そうだな」

「おう!行こうぜ!!」

 あの時の私たちに、冬とか雪とか、そんなことは関係のないことだった。ただ、もうあの川にみんなで毎日入れないのが悔しくて、そんな運命を壊そうとしたのだ。

 教室のドアを力強く開け、私たちは廊下を駆けて、学校を飛び出した。路面が凍り、滑りそうな道路を無我夢中で走る。顔にひんやりとした風が打ち付け、息を吐くたび、白い息が空中に広がる。

 4人の脚は、あの場所に向かっていた。

 透き通って、ひんやりとした、私たちの思い出を含んだ、あの場所へ・・・。



 その後、みんなが夏以上に冷え切った川に裸足で入った結果、風邪を引いたのは言うまでもない。でもそんな、白く染まった木や岩に囲まれながら遊ぶ水遊びは、あの村で十数年も過ごした中で、最高の思い出になった。

 この都会に引っ越してきてから、遠くの場所になってしまったあの村へは、まだ一度も行っていない。今頃きっと、みんなはまた、あの川で裸足になりながら遊んでいるのだろう。大人気ない、とでも言われながら。

 あぁ、あのひやっとする清水が恋しい。

 3ヶ月くらいしか離れていないのに、そう思ってしまう。

 でも、もう私は都会の住民だ。この区別される生活に慣れなければいけない。なのに、やはりあの村を思ってしまう。夏に近づけば近づくほど、なおさらだ。

「・・・聞いてる、美鈴?」

 いつの間にか、またこの花が、今度は前の席に座って、私を覗き込んでいた。

「え、えっと・・・何?」

「だーかーらー、この夏休み、4人でどこか行かない??せっかくの高校生なんだし、行こうよ!!ね、どこ行きたい??」

 前を見ると、目の前の席に私を見つめるこの花、斜め前の席に読書をする千菜、千菜の前の席で笑顔を見せる明里がいた。これが今の、私にとって新しい4人組。

 知り合いが誰もいない、新しい学校で、声をかけてもらって、仲良くなったクラスメート。3人といることで、私は必死でこの生活に慣れようとしている。

 でも・・・

「・・・田舎に行きたいな」

 私はやっぱり、過去に囚われたままだ。


 どーも、玉梓さんです。

 最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました。


 簡単に言いますと、この作品は短編であり、長編でもあり・・・。個々としてでも、1つの作品としてでも楽しんでいただければ幸いです。


 これ以上深々と話すると長くなる未来が見えるので、全ては最終話へ持っていきます。


 つまり今伝えたかったのはそれだけです。


 ちなみに全5話構成です。

 文は全部出来てます。と、いうか、pixivで投稿したものを二重投稿しているだけなので、そちらに続きはあるんですがね。



 さて、こんな短編がどのように話を進めていくのか、あまり期待せずに、

 そして次回の投稿は作者の気分次第です。

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