around
「それじゃぁ、俺そろそろ帰らなきゃ」
そう言って去っていく彼。
私にはその後ろ姿がとても大きく見えた。
私を守ってくれる??
あなたは私のことをどう思ってる??
そして何より…
私はあなたのことをどう思ってる??
自分で自分がよく分からなかったあの日。
私は大切なものを全て守ろうとしてそして…全てを失いました。
あのときの私には、私の周りの全てが大切で尊くて愛しくて…
何も手放したくなかった。
でも、
そんな風に欲張るあまり、こんな結末を迎えてしまうなんて。
あの時の私は思ってもみなかったのです。
大切なものは大切で。
必要のないものなんて決してなかったというのに。
「今日も一日が、終わるんだね…」
お気に入りのPCを開いてチャットのページを開く。
【オンライン】
その文字が見えた瞬間に、私の胸は弾む。
((あれ、さっき帰ったばっかりだよね??早いんだね))
チャットを送ると返ってくる返事。
((そっちこそ早いね))
素っ気ないけど、返事が遅いということが、まだPCになれていない事を告げている。
((うん))
そんな一言には返事なんてこないって分かってるのに。
どうしてそんな気の利かない返事しかできないんだろう。
そんな自分が酷くもどかしかった。
((好きな人、誰?))
返事なんてないって思ったのに。
不意をつかれたその一言。
私はなんて答えるべきなのだろうか??
そもそも私に好きな人なんているの??
だれを想っているっていうの??
自分自身を理解しきっていない今の私に他人の事を考える余裕なんて存在しない。
((秘密。それより、そっちは?))
秘密??
笑っちゃうよね。
第一いないんだよ?そんな人。
((そっちが教えてくれたら教えてあげるよ))
さっき見た広い背中を思い出す。
貴方なら私を守ってくれる…?
((え~じゃぁ、教えられないな))
今日の会話はここまで。
私、どうしていいか未だに分からない。
そんな私は優柔不断なんだって、この時分かってなかった。
・・・本当は分かっていたのかもしれない。
でも、認めたくなかった。
それだけなのかもしれない。
~=~=~=~=~=~=~=~=~=~
「お前さ、なんか…いや、なんでもねぇ」
「え!?言ってよ!!何!?めっちゃ気になるじゃん!!」
比較的仲良しな男子。
彼は夏休み、私の全てを知ったと言っても過言じゃない。
そしてまた、私も彼の事をよく知っている。
「言わねーし」
「何でー!?」
でも、私が気になっていたのはそんなコトじゃない。
きっと。
はっきりしない気持ちの中で、私が気にしていたのは、
彼が言おうとしていたことなんかじゃない。
仲良く話している私たちの事を見ている
-彼の目-
そっと視線を右へずらすと、彼は笑っていた。
そんなことに少し安心して気づく。
ー私は彼の事が好きなんだ、とー
私は…
何もかもを守りたくて、何もかもを失いたくなくて、何もかもが大切だったのです。
大切な友達も、大切な家族も、大切な…あの人も。
~=~=~=~=~=~=~=~=~=~
「仲…いいんだね」
彼が発した一言で私は確信しました。
…私の、本当の気持ち。
私は…彼が好きなんです。
だから、そんな事を言われて、傷ついてしまう自分がいます。
「…そんなことないけど」
素っ気ない返事。
可愛くないなぁなんて自分で思うくらい。
最低な返事。
「好きな相手は、アイツか」
彼の目は少し悲しそうに見えました。
何故だか分からないけれど、彼はどこか遠い目をしていて…
「…返事なしかよ」
そんな彼の一言で我にかえります。
「ごめん…でも、違うからね!?」
必死な私。
気付いてほしい。
願わくば、察してほしい。
私は、あなたのことが好きなんです。