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14.私より美人やん

診察室に置いたショータのフォトフレームを眺める。

幼い時から最近までの画像が次々出てくる。

たまらん、癒される、これでもう少し仕事が続けられる。


私の専門は耳鼻咽喉科医でも専攻が少し違うんだけど、

この季節は花粉症の患者さんが多い。

小規模な総合病院では文句は言えないだろう。

それどころか内科全般という乱暴な診察をしている。

33って臨床医としてはヒヨッコなんだよ。

指導医は風邪と腹痛を診りゃ良いだけなんていうけど、

患者さん診てて怖いんだよ。

花粉症って診断しても上手くいかないと本当に怖いんだよ。


こんな事考えてる場合じゃない、次の患者さん診ないと。


「今日は、よろしくお願いします。」

「お薬は効いてるみたいね。はい口開けて、調子はどう?」

「先生、口を開けてと、調子を答えるのは同時にできません。」

二人でクスクスと笑いあう。

北村礼華ちゃん。私の研修医時代からの患者さんで、

子供相手に大丈夫かと思いながらやった免疫療法が上手くいき

かつての鼻水垂れ流し少女がイケてる娘さんになっている。

定期的に診断と処方箋をもらいに来る、私からすると楽な患者さんだ。

他に異常がないか観察していると、別件で話しかけられた。


「今日は先生にお願いがあって来たんです。」

「私に?何のお願い?」

「ショータって多摩近場高校タマチカに入学するんでしょ?

野球部に入って欲しいな、って。」

「礼華ちゃんも多摩近場高校タマチカなんだ。

でもショータはもう少年野球辞めてるよ。知らなかった?」

「小学校の時からずっとやってて、クラスの子の中で一番上手かったのに

勿体ないじゃないですか。是非高校でもやって欲しいなって。」

多摩近場高校タマチカで野球ってあんまりイメージないな。

本人に直接言えば?」

ショータなら成績の問題はないだろうし、ストレス解消になる位の

部活ならした方が良いだろう。


「もう一つお願いなんですけど。

先生のお父様って、野球に詳しくって、知り合いが多いんでしょ?」

じじい?高校野球じゃ大スターだったらしいし、6大学出身だ。

製薬会社でそこそこ出世したのは野球好きの医者をアテンドしたせいだ。

「是非紹介して欲しいなっ、て。是非ご指導お願いしたいなって。」

「詳しいとは思うけど、昔の人だよ。」

「良いんです。ショータも入ってくれて、一緒にご指導してもらえたら

野球部のみんなも、学校のみんなも喜びます。」

「うーん。でも私、ちちとはあんまり話さないんだよね。

時間も考え方も合わなくて。」

「そこをお願いします。私、先生のお願いきいて上げたでしょ?

ショータにバレンタインのチョコ渡して、一緒に登校して。

先生に頼まれたからだって打ち明けたら傷つきますよ。」

「意外に鋭いから薄々気がついてはいたけどね・・・。」

登下校の電車で痴漢にあって落ち込んでいたショータを

励まそうと、同じ学校に通っていた彼女にチョコを渡して欲しいと

頼んだ事がある。

それが縁なのか知らないが中学で礼華ちゃんが転校するまで

礼華ちゃんのグループと一緒に登校していた。

借りといえば借りか。

「わかった。言うだけ言ってみる。

歳も歳だから期待しないでね。顔は広いみたいだから

良さそうな人の紹介位してくれるとは思うけど。」

「よろしくお願いします。」

手を振って帰っていく礼華ちゃんの鼻の下は少しだけ赤い。

まああれ位なら許容範囲だろう。

処方箋は前のままにしておこう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「美月、カッコええ。ベッピンさんや。」

心晴が私を見て手をたたく。

「まあ、こんなモンやろ。」

オカンが私の髪型を整えながら言う。

今日は多摩近場高校タマチカの入学式や。

制服他はオカンの人脈で集めて自分らでなおして

何とかした。

ダサいダサい言うから心配しとったけど、普通やん。

そこらでよう見た制服やん。勉強できそう、という制服。

くれた人は大事に着てはったみたいで、新品同様や。

家から歩いて行けるから交通費いらんし、ええ学校入ったわ。


「ほな、行ってくるわ。」

「ごめんな、後からすぐ行くさかいな。」

心晴は小学校に入学する歳やけど、PTSDと住所を隠して移転した関係で

少しややこしい事になってもうた。

昼間はオカンの店の休憩スペースで過ごし、学校終わりに私が店まで

迎えに行き、一緒に家で過ごす生活やったけど、礼華ママが動いてくれて

こっちの小学校で受け入れてくれる事になった。

間の悪い事に、手続き行かなあかん日が今日やねん!


「気にせんでええよ。すぐ近くやし、友達もおるし。」

「親が居てない子、他にもおるやろか。」

オカン、今更心配してもしゃーないで!


学校に近づくにつれて、オカンの心配が身に染みてきた。

保護者と一緒にいかにも新品!という制服の子が大勢おる。


1人で、ちょっと使った感じの制服なもんやから上級生と思われて

挨拶されてもうた。


慌てて探した汐里と乙羽はご両親と一緒におった。

一応合流したけど、私だけ一人、なんかハズい。

その時、校門の方から溜息が聞こえた。

なんやろと思ってみてみたらエライ美人さんが入ってきた。

横を通って行ったけど無茶苦茶背が高い180近いんちゃうか?

足長い、顔ちっちゃ、モデルさんか何かやろか。

不思議なんは男子の制服着てた。

?体は大きいけど、体つきは男やけど顔はどう見ても女子やで。

腹も立たん位私より美人やで。

これで男の子なんか!びっくりした。世の中広いわ。


その子は汐里と乙羽の知り合いらしく、二人が手を振ると

こっちに来た。

お互いに挨拶してるんやけど、その子だけ全然声を出さへん。

私の方にも頭を下げて挨拶してニコニコしてるけど変な子や。


最も私はそれどころやなかった。

オカンに着物の着付けの手伝いを仕込まれた私は多少

着物に目が効く。

その子の横のお祖母さんの着物が凄かった。

生地が良いとすぐ解る江戸小紋の着物もすごいけど、

見た事無い大きさの珊瑚の帯締めしてはる。

なんぼするんやろ?オカンに見せたりたいわ。


溜息をこらえてる間に、二人は先に会場へ向かっていった。

汐里家族と乙羽家族が後ろ姿を見て「変わらないよね。」と言い合ってる。

「知り合いなんか?」

汐里が答えてくれた。

「小中学校同じだった。びっくりしたでしょ。」

「昔はもっと可愛かったのよ。学校中の女子が傍に寄るの嫌がる位」

乙羽が小さい声でボソッと言う。

何となくわかる。あれは行き過ぎや。私も横に並ぶの嫌やもん。

誰がどう見ても向こうの方が美人やん。

「キレイなんだけどね、運動神経も良いんだけどねー。」

「頭も性格も良いんだけどねー。」

「ショータだもんね。」

汐里と乙羽が声を合わせて言う。


「ショータって最近聞いたような・・・?」

「何言ってんの美月、写真見せたじゃない。」

「美月の攻略対象じゃない。」


えっ、あれかいな。写真見た時も美人と思ったけど

生で見たらレベル振り切っとるやん。

あんなん私に攻略出来る訳ないやろ。

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