13.作戦会議
「タンマ。礼華ちょっ、待って!巻き上げすぎだよ、ストップストップ! 」
「どうせ下に何かはいてるんでしょ?減るもんじゃなし、ガバッと足見せなさい。
アンタには他に武器がないんだから。」
「人のスカート巻き上げるんやない変態!
それに今シレっと悪口言うたやろ。」
私はまだ入学式前だというのに野球部の部室に呼び出されていた。
横にはシャツのボタンを限界以上に開けた汐里が疲れた顔で座り、
小学生のようなお下げ髪にリボンや髪飾りを付けた乙羽が
涙目になっとる。
「えーっと。我々は何を見せられてるんだい?
目のやり場に困るんだけど。」
部室に居た男の人、礼華の1こ上のお兄さんが
見かねた様子で話しかけてきた。
「部員募集の時のリハーサルよ。使える武器は使わなくちゃ。」
礼華の手が離れたすきにスカートを戻す。
太短い頑丈な足は私のコンプレックスやのに。
「部員募集とその仮装?の繋がりがわからない。
野球部の募集がしたいんだろ?それじゃダメだと思うぞ。」
礼華のお兄さん、家に遊びに行った時挨拶位はしたけど
こんな人やったんや。
えらい穏やかな話し方をしてはる。
年子の兄妹なのに礼華とエライ違いや。
「とにかく野球をする人が居るの、出来るだけ大勢
男子を集めると言ったら色仕掛けでしょ。」
「君は素晴らしく頭が良い所と、
とんでもなく常識が欠落している所があるから
先に相談しろといつも言ってるだろ。
その作戦の元はいったい何なんだ?」
お兄さん、頭を抱えてしまったで。
厚化粧した礼華の顔見たら、この間見とった薄い本が
原因やと思うけど、可哀そうやから黙っといたろ。
礼華に一つ貸しやな。
「僕ら男子は一旦部室を出るから、服装を整えてくれ。
10分後で良いか?戻ってくるから」
お兄さん達が出て行くと
礼華が口を尖らせて化粧を落とし始めた。
化粧せんでも十分濃いのに無茶なメイクするもんや。
「いくら見せブラだってここまで見せるのは問題外だって。
親バレしたら大変よ」汐里は胸の凶器をしまいながら
プンプンしている。
「子供みたいで恥ずかしかった。」小さな声で言いながら
乙羽が髪飾りをとっている。
アンタは普通にしとっても子供っぽく見えるけどな。
10分ちょっとして部室の扉がノックされた。
礼華が答えるとさっき出て行った3人の男子が
入ってきた。
「さっきから言っているように、妹さんに
マネージャーになってもらえたんだ。
今日は作戦会議と言われていたんだけど・・・。」
「変な恰好してくれと頼んだ訳ではないんだ。
僕らは何もしていない。信じて欲しい。」
「わかってる。どうやら君たちも巻き込まれただけみたいだ。」
礼華のお兄さん少し怒っているみたいや。
「顔は見た事ある、程度の知り合いばかりだな。
とりあえず、自己紹介しあおう。
僕は 北村安仁2年生、理工進学クラスだ。
そこに居る北村礼華の兄だ。
何故ここに居るかは礼華が説明してくれるだろう。」
「五十嵐修平2年生、政経進学クラスです。
野球部主将です。
部員募集方法の感想を聞きたいと言われてきたら
さっきの状況で・・・。」
「丸山裕之2年生、僕も政経進学クラスです。
野球部の副将です。
北村君の噂は聞いてます。よろしくお願いします。」
礼華のお兄さんは色が白くて背が高くて、眼鏡かけて。
シュっとしたイケメン、冷たい感じはするけど中々や。
五十嵐さんは、壁みたい。背は高い方けど、他の二人程でもない。
その代わり厚みと幅がデカい。
顔は、色黒やしどっかのおっちゃんみたいやな。
丸山さんも色黒いけど優しそうな人や。
この人も背が高い180位あるんちゃうか?
他の二人よりひょろっとした感じがする。
上級生の男子3人観察してたら、自己紹介の順番が回ってきたから。
名前とクラスだけ言うた。
女子は全員1年医療系進学クラスや。
自己紹介が終わると礼華が口を尖らせたまま、お兄さんに話しかけた。
「アニー、野球部に入ってくれるって言ったじゃん。」
え、アニーって呼んどるん?しかも皆の前でもそう呼ぶか?
「野球部に人数が居るのはわかったし、他の幽霊部員と同じように
名前を使っても構わないよ。
でも親父とキャッチボールやった事がある程度で
練習なんか出たら他の部員の迷惑だよ。」
「あら、迷惑じゃないわよね。修平さん?」
「迷惑という事は全くないですが。・・・」
五十嵐さん、目が泳いどる。
私は小声で礼華を注意した。
「礼華、あって数日でもう名前呼びは失礼ちゃうか。」
「あれ、美月覚えてない?同じ中学の一年上だったじゃない。」
「見覚えはあるような気もするけど、なんで名前呼び?」
「あの人、私が転校してきたその日にコクってきたの。
信じられないでしょ。」
うん、信じられん。ライオンの檻に飛び込むより無謀やと思う。
礼華が声を高くする。
「アニーは合気道で全国大会出たじゃない。
野球でも出れるに決まってるわ。」
どんな理屈やねん、そんな訳あるか。
「それに、今年の新入生には野球の才能がある男子が多いのよ。」
なんでそんなんわかるんや。
「まず、この3人、中学の野球部で地区優勝して
他校にスカウトされてたけど、それを蹴って多摩近場に
進学してきたわ。」
それは良いニュースやな。なんでスカウト蹴ったのか知らんけど。
なんか優勝旗持った全体写真がある。
「この3人は私、汐里、乙羽で担当して入部させる。
美月はこの男子を担当して。」
いきなり、声をかけられた。
「射和翔太ある意味最も重要なピースよ。」
「最も重要って?」
「野球の実力もさる事ながら、ショータのお祖父さんは
甲子園で優勝していて、野球界に顔が効くのよ。
資金面、技術面、人材面で一気に問題解決!・・・」
「そんな大事な男子やったら、武器の無い私やなくて
あんたらが相手した方がええやろ?」
私は短髪の女子にしか見えないその写真を礼華に押し返した。
礼華、汐里、乙羽の3人が顔を見合わせた。
「ダメなの。」
「何がダメなんや?」
「苦手なの、私たちがというか、その子がというか。」
「物凄く変わっとるとか、嫌な奴とかか?」
「変わってるけど、嫌な奴ではないわ。むしろ良い人過ぎて」
「あんまり女子を感じさせない方が上手くいきそうというか」
何か物凄ーい事を言われてる気がする。
「とりあえず、お願い。いい奴なのは保障するから。
私も搦め手の方から攻めるから、ね?」
礼華に手を合わされてもうた。
でも礼華、上級生男子3人が魂抜けた顔でこっち見とるぞ。
こっから甲子園なんか絶対むりやろ。




