12.甲子園ってどんな所
折角の春休みやというのに、連日礼華に呼び出される。
少し黄色くなった本は古本屋さんで見つけたらしい。
ブルジョワのクセにそんな本読むな。
「いい、求める物は”感動”よ人生の中で今しかできない事をやり、
達成する事よ。この本の主人公は甲子園に行けなかった。
つまり達成していない。
マネージャーの責任は努力ではなく成果、つまり”野球部を甲子園に連れていく”
という結果を出せないなんて駄目ストーリーよ。」
礼華が一人で盛り上がっている。
「質問、マネージャーって具体的に何するんや?
時間があったら手伝うけど、私なんも知らんで?」
私が質問すると、礼華は顎に手をあて考える。
「一言では難しいわね。私の考えるマネージャーの仕事は
正しく考える事。
野球ってひとりひとりの強みを最大限に活かして
弱点を補いあえば弱くても勝てるの。
自分でピースを集め、その力で目標を達成したいの。
具体的方策も考えているわ。
野球に関しては数値化、理論化されている論文が沢山あって、
一気読みしたんだけど、まとめるのはもう少し時間がかかりそう。」
「礼華の頭脳暴走は毎回理解不能よね。
とりあえず乗るわ。
具体策はバラバラに言われても混乱しそうだから
まとめてからまた話して。」
汐里がお手上げのポーズを取りながら話し出す。
「私は礼華の計画なら何でも乗るから。」
乙羽が聞こえない程小さな声で答える。
「という事は全員協力してくれるのね、有難う!」
「ちょっと待ってや、計画に乗るとまでは言ってないで。」
「さっき手伝うっていったじゃん」
「時間があったら少し位、補助的に手伝わん事もない、
って言ただけや!」
「時間と仕事は調整するから大丈夫よ。お手伝いありがとう。」
礼華と言い合いして勝とうと考えるのが間違いかもしれん。
「大丈夫、上手くいくわ。一番重要な確固たるニーズがあるもん。」
「ニーズ?何やそれ?」
「美月は引っ越して来たから知らないかな?
汐里、多摩近場高校のイメージは?」
「ガリ勉、不健康、厚い眼鏡、ダサい、暗い、元気がない・・・」
「その辺でやめて。学力以外ネガティブイメージしかないのよ。」
「そこまでとは知らんかった。近所の人は良い学校だって言ってたのに。」
「学力の高さは認めざるを得ないし、真面目ってイメージもあるから
保護者受けはよいのよ。多摩近場高校は」
「イメージ悪くてもしっかり勉強できたらそれでええやん。」
「そうだけどね、生徒として3年間、ただひたすら勉強って面白い?
感動する? 保護者の方々も、自分の子供が、勉強しかしないネクラみたいに
思われたくないでしょ?OBの方々も母校を紹介するとき偏差値しか
誇る所がなかったら悲しいでしょ。」
確かにそれはそうかもしれん。
「勉強以外の、スポーツとか文化活動でも目立って欲しいってニーズは
確実にあるのよ。やれば絶対盛り上がるわ。特に甲子園という具体名があれば」
礼華の場合、ダメでも無理やり盛り上げそうやな。
「3年間、受験の為だけに過ごすなんて退屈じゃない、
あんな結果の見えてる物だけについやすなんて時間の無駄じゃない。」
高校入学時点で大学入試模試合格圏内、
なんて化け物は礼華お前だけや私らは勉強せんといかんのや。
「幸い、多摩近場高校には有効なピースが揃ってるわ。」
「ピース?要素とか部品っていう事か?」
「そう、野球部はあるし、古いとはいえ野球のグランドもあるわ。」
野球部作る所からやる訳やない、というだけやん。
「幽霊部員以外の、野球の練習をしてる部員が7人も居るのや。」
それは凄い、7人もっ、ておい!
「野球は9人でやるんと違うの?野球部やったら9人でも足らんと思うで。」
「凄い、美月詳しい。やっぱ大阪は地元だから甲子園詳しいんだ。」
何から言うたらええんやろ。甲子園は大阪にないし、地元やから
全員野球に詳しいとかないから。
「美月は甲子園に行きたくないの?ドラマみたいだし、
全国放送に登場しまくるよ、学校名言ったら感心してくれるよ。
思い出として一生残るよ?」
「そんな簡単とちゃうと思う。」
「悲観的な事言うのやめてよ。行きたくない理由でもあるの?」
・・・それは、複雑やな。
甲子園大会に出た、は父の自慢だった。
機会あるたびに言って自分に酔っとった。
その意味では嫌いやな。
けど、母は好きらしい。
同じ学校の先輩だった父を応援しに行ったそうだ。
『カッコ良かったんやで、眩しい陽光の中白いユニフォームで
ビューと走ってな。
あの頃に戻りたいな、戻れんでも良いからもう一回甲子園行ってみたいな。
クソっ暑いんやけど、気分がス―っとすんねん。』
母の気持ちは解らんわ。
私女子やから甲子園には連れていけんでと思ったけど
出来たら連れて行ってやりたい気もする。
野球はテレビで見た事ある。見せられた。
父がテレビにかじりついて見とった。
なんやキラキラした世界があるなと。
私は揉め事の絶えん近所の人が寄り付かん家で痣作ってたから、
縁のない世界やと思ってた。
「甲子園、行ってみたい。」
そんな事思ってない、考えても無かったのに口から言葉が出てしもた。
違うねん。父の顔が頭に浮かんだだけや。
父のエラそうな態度、お前なんか一生縁ないやろ、
甲子園行くような学校入れんわな、という言葉を思い出しただけや。
自分で出れんでも野球部で出て、あの父の
プライドへし折ってやりたい。
お前なんかアカンタレや言うてやりたい。
私の心の内がわからない礼華は一瞬目を丸くした後
私の手を握ってきた。
「そうよね。一緒に頑張ろう!」
げ、父なんて変なもん思い浮かべたばっかりに
抜き差しきかん様になってしもた。




