11.海野家の事情
失敗やった。礼華と顔合わせて交渉したら全部飲まされるに決まっとる。
あんなん勝てる気せえへん。
まあ出来ん事は出来んと言うたら理解してくれる奴やから何とかなるやろ。
変な事に時間使ってもうたから晩作る時間ないわ。
お腹も中途半端な感じやし。
「晩御飯はオカンと外に食べに行こ。 何が食べたい?」
「美月のお稲荷さん!」
関東に一年以上おるし、だいぶ慣れたけどお稲荷さんはあかん。
心晴の大好物稲荷寿司やけど、こちらのスーパーの出来あい食べると
「ウェ?」という顔をする。
「あれは作るの手間かかるんや。また作ったるさかいに今日は堪忍してな。」
油揚げからちゃうさかいな困るわホンマ。
「ほんならゴリゴリウドン。」
心晴がこっちに来てから好きになった食べ物を答える。
知らんかったけど関東には冷たいウドンを暖かい汁につけて食べるウドンがある。
関東に来た日に「良くわからんけどうどん屋なら大丈夫やろ」と入った店で
初めてたべた。
あまり固ぅて、ゴリゴリで驚いている母と私が
面白かったらしく、心晴の好物になった。
店員さんも優しくて心晴も外に慣れてええこっちゃ。
ほんでも「何でも言うてみ?と言われてウドンやと安っい女って言われるで。
安っい女はあのクズ(実父やけどな)がオカンによう言うとった。
店で母を待つ間に色々思い出した。
父がオカンに金渡さんのが悪いんやけど
確かに私らあんまりエエモン食べてなかったよ。
オカンは粗末な材料でも美味しいごはん作るし、安
物の服でも上手に着まわしてオッシャレに見せる。
凄いやろ?同じような服でも友達の母親より全然良く見せるから自慢やった。
おい父、金も入れんとご飯食べながら
ヒジキの煮物見て安い安い好きなように言うとったな?
ヒジキの固い所とって柔こう上手に炊くの難しいんやぞ。
その後「何見とる」言うて私を叩いたのと合わせ絶対許さんぞ。
オカンのヒジキは世界一じゃ。
あいつ今頃ヒジキも食えんやろ。
何で知ってるかって?
口が滑って礼華に父の愚痴を言ったら、
礼華が私のお母さん弁護士やからって礼華ママに相談してくれた。
そしたら礼華のママが調べてくれて色々わかった。
オカンが抜けてから父の美容室はガタガタらしい。
オカンの腕と人柄、指導技術で流行ってたけど、父は技術も何もないもん。
オカンが居ないならと辞める美容師、離れる客で阿鼻叫喚らしい。
ザマミサラセ。
それでどうしても、オカンを連れ戻したいらしい。
礼華のママは結婚しとる間、給料もロクに貰ってない、
結婚してから店を開いて大きくした店やのに財産分与がない、
言うて離婚条件で揉めてるみたい。
お金か。
前に母に『中学出たら私も働くさかい、
金なんかいらん言うて早よ離かれたら?』
と言うた事がある。
母は『アンタは何も心配せんでええ、私にはこれがある。』
と自分の腕をたたいた。
『あんたも何があっても食べて行けるように資格をとりや。
薬剤師は良と思うで。そのための金は何とかする。』
母カッコええやろ。
『礼華ちゃんのお母さんにはあんたと心晴は絶対渡さん。
これさえできたら他は通らんでも良い。
逆にこれだけは絶対、死んでも譲らん。て言うてある』
『礼華ちゃんのお母さんは弁護士として出来るだけの
事はしてくれる言うてた。アンタと心晴の親権は絶対大丈夫って
言うてたから心配いらんで。』
母は私と心晴を抱きしめてくれた。




